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人生は怒りのデスロード

どうもご機嫌よう、ゴミクズファックメンの人類共。

今日も今日とて酸素を無駄に消費して二酸化炭素吐出して、無駄に繁殖して無駄に死んで無駄に嘆いて、そんで学習もせずに争ってまあまあなんて忙しいのかしら。やることが沢山あっていいですね、目障りだからさっさと全員くたばれ。

そんなことを腹の底で思いながらも、私はお淑やかに銀の髪を揺らして天使のように微笑みながら廊下を軽い足取りで歩く。


私の出自は謎に包まれている。親の存在は全く知らない。
ある日孤児院と隣接している教会に捨てられていたことが、この家に来てしまった全ての元凶だ。
カトリックの思想の元で運営される孤児院にて10歳頃まで育てられた私は、日に日に強まる呪力と術式を制御出来ず「悪魔」と呼ばれるようになった。
お前は悪魔に取り憑かれている、お前は魂を悪魔に売ったんだ、お前の母親は悪魔だったのだ……などなどと呼ばれ、孤児院の地下にある狭く暗い倉庫に閉じ込められ続けたある日、私は今の養父によって救われた。

寒い冬の出来事だった。
暖を取るものは何も無く、凍傷によって足の指は二本壊死した。
食べるものは水と残飯のようなものばかりで、思考は淀み自我は崩壊寸前、祈りだけが唯一の寄る辺だった。

そんな中である日突然呪術師を名乗る男…禪院扇は私の噂を聞き付け孤児院までやって来た。
彼はすぐに私が悪魔に取り憑かれた子供などではなく、呪術を知らないだけの子供であることを見抜きそのまま屋敷に連れ帰った。

毛羽たちの無い温かな毛布を与えられ、胃に優しい栄養価の高い食べ物と呪術についての説明を施す養父を、私は救世主だと思った。
だから私は彼の全てに従った。
求められるがままに受け入れ、育ち、振る舞った。

けれどある日気付いたのだ、気付いてしまったのだ。


孤児院も孤児院で大概だったが、ここもここで大概なんじゃないか?と。

気付いてしまえば後はもう好感度は一直線に急降下。
どいつもこいつもお前もお前も、どうしようもない精神性ド底辺のゴミクズファックメンじゃねえか、何が女は三歩下がれだ愛想良くしろだ子供孕めだ、お前達みたいなカスに女扱いされるくらいならモロッコ行って性転換して来てやるよ下らねえ。おい男共、お前ら全員抱いて女に変えてやるからケツの穴よく洗って待っとけ有象無象が。

信用ゼロ、好意ゼロ、オマケに敵意はニ割増し。
救って貰った事実にゃ感謝しているし、恩を仇で返すような犬以下の畜生じみた真似などする気は無いが、それはそれとして私はこの上から下まで腐敗した家がだいっきらいだった。

それでも逃げもせずにこの家で聖人君子のように立ち振る舞い続けているのは、この家が権力も金もコネも人材も持つ大一族だからに他ならない。
逃げたって無駄、私一人が抗った所でどうにもならない。
というか抗うとか逃げるとか現実的ではないしコスパも悪い。だったら適当にのらりくらりとやり過ごして、適当にどっかの段階でまだマシだと思う家に嫁入りした方が良いってものだ。

という訳で私は今日も今日とて清純な乙女の面をして生きている。
ああ、めちゃくちゃダルい。肩凝りまくり。



「父上、ただいま参りました」
「…入れ」

とある部屋の障子の前に膝を付き、私は障子の向こうに居る養父に向かって声を掛けた。
入室の許可を貰い、静かに障子を開いて部屋に足を踏み入れる。
畳の節を踏まないように気を付けながら、何やら書き物をしている養父の側に腰を下ろした。

「何やらお呼びと聞いて、如何なされましたか?」
「…お前に縁談の話が来ている」

おっと、これはこれは。
言ってる側から願ってもないチャンスが舞い込んで来たではないか。
誰だか知らんがサンキューベリーマッチ。お前の性格如何によっては嫁いでやらんこともな……

「が、断っておいたぞ」
「………まあ!そうなのですね」
「お前にはまだ早い話だ」
「うん、そうよね。だって私、まだ15歳だものね」

この時、一寸の狂いもなくこう返せた私の凄さを誰か褒めて欲しい。
急な未来の話をされ、しかし父の言葉にまるで安心したかのように微笑み胸を撫で下ろしてみせた私の役者っぷりを讃えて欲しい。どう考えてもアカデミー賞ものだろ。

何勝手なことしてくれてんだ、ふざけんなせめて誰が申し込んで来たかくらいは教えろ私の人生をお前が管理すんなボケ!って言いたい。絶対言えないけど。言ったら殺されるので。解釈違いは闘いの火種に他ならない。

それに一応、恩は感じているので。

込み上げる怒りを腹のへと押し戻し、笑みを保って父の行動に喜んで見せた。
健気な娘、優しい子供。ああ、なんて馬鹿馬鹿しいやり取りなんだろうか。反吐が出そう。オエッ。


「お前には呪術師として大成して貰う」
「父上の望まれるように」


渇き飢える果ての無い叶わぬ夢への欲求に私を巻き込まんとする目から視線を外すように、私はしっかりと頭を下げて言葉を発した。

まあいいさ、貴方に救われなけりゃあの寒い冬に朽ちていた程度の命だ。
恩義には報いてやる。価値のあるかないか分からない夢にも付き合ってやる。
望まれた娘であり続けてやるよ。

その変わり、私をそうやって父親として守り庇い続けろ。

私はこの家じゃ正真正銘、よそから来たよそ者なんだ。立場が低い女なんだ。貴方の後ろ盾が無けりゃまともに生きられない程度の子供なんだ。
それが分かってるから付き合ってやる。

禪院扇、私の養父。
お前は私の盾として呪わずに居てやろう。
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