人生は怒りのデスロード
沖縄の暑さで浮かれていたのは何も高専一行だけでは無かった。
祈りを忘れた少女に呪いの魔の手は忍び寄る。
この時を待っていたと言わんばかりに瞼の裏から這い出たソレは、少女の魂を蝕み堕とし、恐怖と苦痛と悲嘆と災厄を持って羽ばたくために羽化をした。
堪えることの出来なくなった怒りは全方位に向けて放たれる。
これはそう、堕ちることしか許されなかった人間が、ハリボテの羽を必死に羽ばたかせ続けた物語の末路である。
…
甚爾さんが撃った弾丸は殺すはずだった中房…天内理子には当たらなかった。
変わりに勝手に動いた私の身体が呪力で防いで終わった。
まるで操り人形のように勝手に動き出した身体は、私の意識を置き去りにして甚爾さんに重く、温かで、狂おしい呪いを向ける。
逸し続けていたはずの呪いが瞳の表面に浮かび、星の粒を弾かせて爛々と輝き出した。それはまるで、恋する乙女のように。
「私の物になって下さい。」
「私の愛を受け止めて下さい。」
勝手に動く口がそんなことを言った瞬間、私は産まれてこの方ずっと抱えていた怒りの正体にやっと気付く。
いや、これは私にとっては怒りとして変換されていた感情だが、正しくは「愛」なのだ。
人類が人類を愛する思いから生まれた呪いだ。
しかし、その愛は優しさや赦しの籠もった美しい愛ではなく、「殺したいほどの」と頭に付くような狂気的なもの。
殺したい、愛してるから殺したい。
犯したい、嬲りたい、斬り刻みたい、呪いたい、愛しているから殺し尽くしてしまいたい。
『女仙、惑溺寵愛ノ乙女』
美と性による狂愛の呪い。
敵対対象はこの世全ての生命。
コレの愛は誰も受け入れられない、受け入れられなかった愛はただの暴力だ。おぞましく、憎らしい、不快で歪な醜行だ。
私が産まれてからずっと抱いてきた怒りは、愛を生み出さないための自己防衛の一貫だったのだ。
誰かを愛してしまえば私はとうとう呪いと同化する。そうすれば人としての生は儚くも終わりを迎えるだろう。
だから私の愛は性愛ではなく神への祈りで出来たアガペーだけだった。
対角線上にある自己犠牲的な愛を持ってして、私は長年コレを封じることが出来ていたのに。それなのに!!
なんと愚かなことだろう、たった一日…されど一日祈りを忘れた私は自らの中で機会を狙っていた呪いに身を乗っ取られた。
それはつまり…私の軽くて無意味な神への愛ではなく、呪いの真なる愛が勝ったということ。
その微笑みは愛に満ち、その瞳には恋が浮かぶ。
目が合ったが最後、全ての命に「私を愛せ」と訴える呪いは、私の身体を使ってその場に居た人間全ての意識を愛と快楽で暴力的に染め上げた。
それでもやはりまだ私の自我が残っているせいで不完全な覚醒なのか、ただ立ち止まってとにかく邪眼を発動し続けるだけだった。
わしゃ菩薩か何かか、いや今は私じゃ無いんだけど。それはそれとして立って微笑むだけで人類みなイチコロ♡とかヤベェだろ、つか私の顔使って愛とか恋とかやってんじゃねぇよ薄ら寒いんだよボケカスが。
ということを緊急事態にも関わらず思った瞬間、一瞬だが呪いが薄れた感覚がした。
……まさか、まさかもしかして、今ならまだワンチャンなんとかなる…?
これってもしや、キレ時だったりする?愛VS怒の展開?三流映画でも見ないクソ展開やめて貰っていいですか?
だがまあ、この呪いによる愚行を止めなきゃいけないことは流石に分かっている。
だってこのまま放置しといたら私という自我が消滅するだろうし、最悪国も傾くかもしれないし。いや別にこの国がどうなろうと構いやしないのだが、ポケモン映画が無くなるのは嫌なんで…今この世に唯一ある好きなものがそれくらいなんで…。
死にたくないから足掻くのは生命としてきっと正しいはずだ。
例え私がコイツにとってただの養分で、事情を知ってる他人からしたら人間の形をした害虫だったとしても、生きているのだから死にたくないと足掻いて何が悪い。
トカゲが自分の尻尾を切り落とすように、私は私を犠牲にしてでも尊厳を貫いて生きてやる。
こんな世界大っきらいだと声高々に言い続けてやる。
欠片だけ手に入った身体の自由を使って、私は薄笑いを浮かべながら引き摺るように甚爾さんの手から落ちた拳銃に向かって歩き出した。
時が止まったわけでもないのに皆揃って思考停止状態で立ち止まる中、私だけが息を乱して前に前にと足を進める。
愛を否定して一歩。
この世の人間全員が愛だ恋だを大事にしてると思うなよ馬鹿野郎。恋愛だけが唯一大切なことじゃない、怒りも嘆きも苦痛も生きる理由になる。病むことは間違いでもなんでもない、より良く生きるための模索なんだ。
喜びを否定して二歩。
喜びしか無い世界なんて真っ平らでつまらないだろボケカス。寂しさがあるから他人の存在を必要と思えるんだ、満たされ続けたら心も身体も醜く太るだけだろうが。
美を否定して三歩。
うるせえ美とか知らねぇし興味もねぇ!そもそも美しさの価値基準は人それぞれだろうが!クヌギダマだって誰にも愛され無さそうな見た目してるけど私は好きだぞ!!
拾い上げた拳銃を自分の片目に突き付け不敵に笑う。
愛も恋も無縁でいい。
どんなことだっていいんだ、人生は貫いたもんが勝ちだろ!!!
そして私は銃口を睨み付けながら引き金を引いた。
一発の銃声が辺りに響き渡る。
火薬の香り、飛び散る真紅の血飛沫。
燃えるような痛みを最後に、私の意識は途切れて散った。
怒りは星の彼方へ、愛は瞳の奥底へ。
残ったものは、天使の残骸だけだった。
祈りを忘れた少女に呪いの魔の手は忍び寄る。
この時を待っていたと言わんばかりに瞼の裏から這い出たソレは、少女の魂を蝕み堕とし、恐怖と苦痛と悲嘆と災厄を持って羽ばたくために羽化をした。
堪えることの出来なくなった怒りは全方位に向けて放たれる。
これはそう、堕ちることしか許されなかった人間が、ハリボテの羽を必死に羽ばたかせ続けた物語の末路である。
…
甚爾さんが撃った弾丸は殺すはずだった中房…天内理子には当たらなかった。
変わりに勝手に動いた私の身体が呪力で防いで終わった。
まるで操り人形のように勝手に動き出した身体は、私の意識を置き去りにして甚爾さんに重く、温かで、狂おしい呪いを向ける。
逸し続けていたはずの呪いが瞳の表面に浮かび、星の粒を弾かせて爛々と輝き出した。それはまるで、恋する乙女のように。
「私の物になって下さい。」
「私の愛を受け止めて下さい。」
勝手に動く口がそんなことを言った瞬間、私は産まれてこの方ずっと抱えていた怒りの正体にやっと気付く。
いや、これは私にとっては怒りとして変換されていた感情だが、正しくは「愛」なのだ。
人類が人類を愛する思いから生まれた呪いだ。
しかし、その愛は優しさや赦しの籠もった美しい愛ではなく、「殺したいほどの」と頭に付くような狂気的なもの。
殺したい、愛してるから殺したい。
犯したい、嬲りたい、斬り刻みたい、呪いたい、愛しているから殺し尽くしてしまいたい。
『女仙、惑溺寵愛ノ乙女』
美と性による狂愛の呪い。
敵対対象はこの世全ての生命。
コレの愛は誰も受け入れられない、受け入れられなかった愛はただの暴力だ。おぞましく、憎らしい、不快で歪な醜行だ。
私が産まれてからずっと抱いてきた怒りは、愛を生み出さないための自己防衛の一貫だったのだ。
誰かを愛してしまえば私はとうとう呪いと同化する。そうすれば人としての生は儚くも終わりを迎えるだろう。
だから私の愛は性愛ではなく神への祈りで出来たアガペーだけだった。
対角線上にある自己犠牲的な愛を持ってして、私は長年コレを封じることが出来ていたのに。それなのに!!
なんと愚かなことだろう、たった一日…されど一日祈りを忘れた私は自らの中で機会を狙っていた呪いに身を乗っ取られた。
それはつまり…私の軽くて無意味な神への愛ではなく、呪いの真なる愛が勝ったということ。
その微笑みは愛に満ち、その瞳には恋が浮かぶ。
目が合ったが最後、全ての命に「私を愛せ」と訴える呪いは、私の身体を使ってその場に居た人間全ての意識を愛と快楽で暴力的に染め上げた。
それでもやはりまだ私の自我が残っているせいで不完全な覚醒なのか、ただ立ち止まってとにかく邪眼を発動し続けるだけだった。
わしゃ菩薩か何かか、いや今は私じゃ無いんだけど。それはそれとして立って微笑むだけで人類みなイチコロ♡とかヤベェだろ、つか私の顔使って愛とか恋とかやってんじゃねぇよ薄ら寒いんだよボケカスが。
ということを緊急事態にも関わらず思った瞬間、一瞬だが呪いが薄れた感覚がした。
……まさか、まさかもしかして、今ならまだワンチャンなんとかなる…?
これってもしや、キレ時だったりする?愛VS怒の展開?三流映画でも見ないクソ展開やめて貰っていいですか?
だがまあ、この呪いによる愚行を止めなきゃいけないことは流石に分かっている。
だってこのまま放置しといたら私という自我が消滅するだろうし、最悪国も傾くかもしれないし。いや別にこの国がどうなろうと構いやしないのだが、ポケモン映画が無くなるのは嫌なんで…今この世に唯一ある好きなものがそれくらいなんで…。
死にたくないから足掻くのは生命としてきっと正しいはずだ。
例え私がコイツにとってただの養分で、事情を知ってる他人からしたら人間の形をした害虫だったとしても、生きているのだから死にたくないと足掻いて何が悪い。
トカゲが自分の尻尾を切り落とすように、私は私を犠牲にしてでも尊厳を貫いて生きてやる。
こんな世界大っきらいだと声高々に言い続けてやる。
欠片だけ手に入った身体の自由を使って、私は薄笑いを浮かべながら引き摺るように甚爾さんの手から落ちた拳銃に向かって歩き出した。
時が止まったわけでもないのに皆揃って思考停止状態で立ち止まる中、私だけが息を乱して前に前にと足を進める。
愛を否定して一歩。
この世の人間全員が愛だ恋だを大事にしてると思うなよ馬鹿野郎。恋愛だけが唯一大切なことじゃない、怒りも嘆きも苦痛も生きる理由になる。病むことは間違いでもなんでもない、より良く生きるための模索なんだ。
喜びを否定して二歩。
喜びしか無い世界なんて真っ平らでつまらないだろボケカス。寂しさがあるから他人の存在を必要と思えるんだ、満たされ続けたら心も身体も醜く太るだけだろうが。
美を否定して三歩。
うるせえ美とか知らねぇし興味もねぇ!そもそも美しさの価値基準は人それぞれだろうが!クヌギダマだって誰にも愛され無さそうな見た目してるけど私は好きだぞ!!
拾い上げた拳銃を自分の片目に突き付け不敵に笑う。
愛も恋も無縁でいい。
どんなことだっていいんだ、人生は貫いたもんが勝ちだろ!!!
そして私は銃口を睨み付けながら引き金を引いた。
一発の銃声が辺りに響き渡る。
火薬の香り、飛び散る真紅の血飛沫。
燃えるような痛みを最後に、私の意識は途切れて散った。
怒りは星の彼方へ、愛は瞳の奥底へ。
残ったものは、天使の残骸だけだった。