呪詛ミンと家出をする
七海さん(まともそう)との鬼ごっこは中々白熱している。
作戦その一、ヴィヌの加護が備わる海水をぶちまける。
これはかなり良い仕事っぷりをしている、凄く良い、これのお陰で七海さん(まともそう)はわりと迷ってくれている。
続いて作戦その二、ヴィヌの恩恵によって一時的に私の身体能力をやや強化。
これはぶっちゃけそこまで意味は無い、何せ元々が引きこもり生活によって出来上がった軟弱ボディであるので……でも無いよりはある方がマシ。
続いて作戦その三、身体の小ささを活かしてとにかくコソコソやる。
果物園と行ったが、ここには何と栗の木などの高い木も結構あったりする。
なので、そういう木に登ったり、木の陰に隠れたり…隠密行動を地道に続けている。
だがまあ、この状況も長くは続かないだろう。
海水が渇いてしまえばジャミング効果は無くなるし、身体強化だって長くは続けられない。
だから私は次を考えなければならない。
七海さん(可笑しい方)は信じろと言った。
もちろん信じている、少なくとも……この世の誰よりも。
でも、信じる者は救われるなんて嘘だ。奇跡は信仰の愛児であるとゲーテは語った、だが奇跡とは、常にかならず起きるものでは無い。
信じても届かぬ物は存在する。
だから覚悟をしておかなければならないのだ。
息を吐き出し、身体に籠る余計な力を逃がしてやる。
あと十分も海水ジャミングは持たない、身体強化も大分負荷がかかって来た。ではどうするか。
もう一度潜水するか、もしくは嵐を呼ぶか。
だがそれは、リスクが大きい。
相手の力量が分からないのに、呪力消費の多いことをするのは得策では無い。万が一の場合は行うが、その場合私は今度こそ手詰まりになるだろう。
それにまだ、打つ手はある。
私のやることはとにかく時間を稼ぐことだ。
それなら、まだやれることはある…と、思う、多分。あんまり自信無いけど……。
私の何一つ変わることの無かった日常が、七海さんを拾い、彼を信じると決めた時からガラリと変わった。
電車の乗り方を覚えた。
ホテルの朝食バイキングではかなり迷うことを知った。
田舎の夜は虫が多くて大変だった。
自販機にはアタリがあるということを体験した。
草の匂い、雑踏の流れ、喫煙所から漂う煙臭さ。
七海さんが食通であること、パンに拘ること。
七海さんの革靴がアスファルトを叩く音、不安な時に握ってくれた手の温度。
一人の夜が長いこと、彼の側が一番落ち着くこと。
私を本当に大切にしてくれていること。
全て、全て、外に踏み出したからこそ分かったこと。
私はこれら全てを特別に思い、大切にし、慈しみ、記憶に残す。
日記に書き留めておく記録では無く、頭と心に刻みつける。
大丈夫だ、まだやれる。
だって私はまだ、願いを叶えていない。
七海さんと真昼の空の下を歩くまで、私は歩みを止めたくは無い。
作戦その一、ヴィヌの加護が備わる海水をぶちまける。
これはかなり良い仕事っぷりをしている、凄く良い、これのお陰で七海さん(まともそう)はわりと迷ってくれている。
続いて作戦その二、ヴィヌの恩恵によって一時的に私の身体能力をやや強化。
これはぶっちゃけそこまで意味は無い、何せ元々が引きこもり生活によって出来上がった軟弱ボディであるので……でも無いよりはある方がマシ。
続いて作戦その三、身体の小ささを活かしてとにかくコソコソやる。
果物園と行ったが、ここには何と栗の木などの高い木も結構あったりする。
なので、そういう木に登ったり、木の陰に隠れたり…隠密行動を地道に続けている。
だがまあ、この状況も長くは続かないだろう。
海水が渇いてしまえばジャミング効果は無くなるし、身体強化だって長くは続けられない。
だから私は次を考えなければならない。
七海さん(可笑しい方)は信じろと言った。
もちろん信じている、少なくとも……この世の誰よりも。
でも、信じる者は救われるなんて嘘だ。奇跡は信仰の愛児であるとゲーテは語った、だが奇跡とは、常にかならず起きるものでは無い。
信じても届かぬ物は存在する。
だから覚悟をしておかなければならないのだ。
息を吐き出し、身体に籠る余計な力を逃がしてやる。
あと十分も海水ジャミングは持たない、身体強化も大分負荷がかかって来た。ではどうするか。
もう一度潜水するか、もしくは嵐を呼ぶか。
だがそれは、リスクが大きい。
相手の力量が分からないのに、呪力消費の多いことをするのは得策では無い。万が一の場合は行うが、その場合私は今度こそ手詰まりになるだろう。
それにまだ、打つ手はある。
私のやることはとにかく時間を稼ぐことだ。
それなら、まだやれることはある…と、思う、多分。あんまり自信無いけど……。
私の何一つ変わることの無かった日常が、七海さんを拾い、彼を信じると決めた時からガラリと変わった。
電車の乗り方を覚えた。
ホテルの朝食バイキングではかなり迷うことを知った。
田舎の夜は虫が多くて大変だった。
自販機にはアタリがあるということを体験した。
草の匂い、雑踏の流れ、喫煙所から漂う煙臭さ。
七海さんが食通であること、パンに拘ること。
七海さんの革靴がアスファルトを叩く音、不安な時に握ってくれた手の温度。
一人の夜が長いこと、彼の側が一番落ち着くこと。
私を本当に大切にしてくれていること。
全て、全て、外に踏み出したからこそ分かったこと。
私はこれら全てを特別に思い、大切にし、慈しみ、記憶に残す。
日記に書き留めておく記録では無く、頭と心に刻みつける。
大丈夫だ、まだやれる。
だって私はまだ、願いを叶えていない。
七海さんと真昼の空の下を歩くまで、私は歩みを止めたくは無い。