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直哉と健気で可愛いパシリちゃん

現状報告。

現在私は、直哉様のお買い物にお付き合いしている。
両手に荷物を色々と持ち、私服姿の彼の後ろをテッテコテッテコ付いて歩いている。

禪院家の御当主様公認の直哉様付き人な私は、わりとよく彼に言われるがまま荷物持ちをすることがたまにあった。
世間様から言わせれば、一回りほど年下の女の子に荷物持たせて、歩くペースも考えずにタッタカ歩く男なんて許し難いかもしれないが、そこについて私は気にしない。
だって私は呪術師だ、こんな程度じゃ疲れたりなんてしない。へこたれもしない。
それに、お屋敷の中でヒソヒソ噂話されながら、わざと肩をぶつけられたりするよりは、直哉様のお供をしている方がよっぽどマシだ。
値踏みをするような眼差しで不躾にジロジロ見られ、陰口やら噂話やら、有る事無い事喋られ、わざと絡まれ、やり返せば無駄に騒がれ……どいつもコイツもクズには変わりないのだが、同じクズなら荷物持ちにされる方がずっと良い。

というか、直哉様は確かに私にセクハラ台詞を吐いて来たり、罵ってきたり、いきなり稽古だとかでボコボコにしてきたりするが、言ってしまえばそれだけだ。
言いたいことは直に言ってくれるし、優しさや温かさなんて端から求めていない。
ボコボコにされるのだって、立場を分からせるためにしてきたことだし。
私が立場を弁えて発言するようになってからは、ボコボコにされたことそんなに無いもの。
別に彼の味方をするつもりなど無いが、直哉様はクズだけど私的には別にまだ良いかなってレベルの人なのだ。いや、許しちゃ駄目だけどね、クズは一刻も早く滅ぶべし。

ということで、良い子な私は文句の一つも言わずに彼の後ろを歩いている。

「次はどちらに?」

私の質問に、直哉様は一瞬だけこちらを振り返って答える。

「お前の服も買うたしな、なんか他に必要な物あるか?」
「必要なもの…」

改めて言われると何が必要だったかと悩むハメになる質問だな…。

仕事着と普段着は先程入ったお店で、私の意見も店員さんの意見も全部無視して、直哉様の趣味で決めた服を買ったし…。
下着も……うん、凄く恥ずかしかったけれど…出来れば思い出したくないくらいだけれど…一応、その…買えたし…。

あとは、他に何かあるだろうか。
実家に居た頃は、世話を焼きたがる兄や姉が沢山居たから、彼等に全て任せていた。
趣味じゃないなって服やヘアアレンジ、香水、ネイル、アクセサリー…布団も枕カバーも何もかも。趣味では無い物しか与えられなかった。

でも、私は別にそれで良かった。
だって私の役目はお洒落を楽しむことじゃない。
甘いお菓子でお茶を嗜むことじゃない。
お琴もピアノも唄も鞠つきも、私のすべきことではないのだ。

そんな暇、一秒だって無い。

だって私は、母の恨みと苦しみそのものだから。
母が孕んだのは、私と言う名の自分の心に積もった怨念だ。
私は母の変わりに戦わねばならないのだ、そうしなければならないと、産まれる前から決められているのだから、それ以外の全てはどうでも良くなければならない。

だから、欲しい物なんて何も無い。
何一つも、この世には無い。


色々考えてしまい黙りこくった私に、直哉様は返事を強制しなかった。
恐らく、彼は私の扱い方を短期間の間に知り得たのだろう。
日常的に私を側に置くことで、それから実家での立ち位置を調べたりして。そして、事件の動機も知っているはずだ。

そう、私は本当は、酷く受動的な人間だ。

母に望まれた通りに戦いに身をやつし、兄姉に願われるままに妹を演じ、乞われた通りに人を殺めた。
きっと、直哉様に付いて来いと命じられれば何所まででも付いて行くだろう。
好きだからとかそんなんじゃない、ただ単に楽だからだ。

自分で考えて行動しようとすると、頭が疲れて敵わないのだ。


無言のままひたすら歩く。
暫くした後、直哉様は「喉乾いたさかい、飲みもん買いに行くか」と、背中越しに声を掛けてきた。
私はそれに、「賛成です!」と元気の良い声で答える。

「スタバにしますか?それともドトール?あ、タリーズもありますね!」
「なんで全部チェーン店なんや、他にもそのへんに色々あるやろ」
「し、敷居が…高そう……」
「なんでこないな時だけひよってまうん?」

それは…雑魚だから……。
キラキラしたお洒落なお店と縁の無い生活をしてきたから、どうにも尻込みしちゃって。
お洒落なカフェ特有のBGMが全然落ち着けない、ゆったり空間と真逆の感情に苦しむハメになる。
もうマックでいいじゃん、甘いものもしょっぱいものも飲み物もあるんだからマックでいいじゃん……ってなる。
これは持論だが、何だかんだで現代の人間は遺伝子レベルでマックシェイクが一番落ち着くし美味く感じるように出来てると思うよ。ちなみに私はストロベリー派だよ。

「直哉様はマックシェイク何派ですか?」
「は?なんで俺があんなん飲まなならへんの」
「え、マックシェイクを飲まないのは人生の8割損してますよ!?」
「そないなわけやいやろ、これやから舌もおつむもアホな女は…」

とか何とか言ってますが、どうやら直哉様はマックを探し始めた模様。
お前のせいで云々と言いながらスマホで地図を確認する姿に、思わずにっこり。

「マックのアップルパイも食べたいなぁ」
「勝手に食うたらええやろ、一々俺に聞かんでええわ」

これは翻訳すると「何でも食べていいよ、一々お伺い立てなくても大丈夫だからね」って意味だと私は捉えた。
なので、「やったー!!直哉様、今日優しい!」と跳ねるように歩きながら言えば、彼は一拍無言になったあと、眉間にググッとシワを寄せて早口で捲し立てる。

「は?別に優しくしてへんけど?勘違いすんなや、きしょい」
「シェイクシェイクシェイク!アップルパーイ!イエイ!」
「分かったから落ち着けや、アホ娘」

マック効果で私のテンションは鰻登り鯉のぼり!オマケに滝登りも出来ちゃいそうだ。

何だか知らないが、今日は本当に直哉様が優しい気がしたので、後ろではなくちょっとだけ隣に近い所まで荷物を持ったまま近寄って行ってみる。
表情が見える位置まで来ても、彼は別に何も言わなかった。
ただこちらをチラッと見て、本当にそれだけだった。

それが何故だろうか、何だか凄く嬉しくて、私は一人表情を崩してにへらぁと笑ってしまった。

荷物持ちでも玩具でも、何でもいいからなるべく側に居させて欲しいなと思った。
それは別に好きだからとかそんなんじゃない。

ただ、彼の後ろは楽なだけだ。
私にとってはの話だが。
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