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番外編

集団行動にも青春にも興味が薄い私は、高専に通いたいとはあまり思わないのだが、それはそれとして"制服"という文化への憧れはあった。

というのも、制服は毎日同じ格好で良いからだ。
お着物に袴なんて非論理的、制服こそ至高。
最小限の着替え、洗濯も毎日する必要無し、帽子があれば髪のセットもいらないし…オマケにストッキングは武器の手入れや止血用具に使い回せる。
さらにさらに、礼服、平時、有事、戦闘時を問わず着られ、すべてのシチュエーションのドレスコードとなるのだ。
素晴らしすぎる制服文化…毎日毎日鏡の前でにらめっこせずに済むなんて…。
朝の貴重な時間に「これは一昨日着たからな…」「これは今日の装いには軽い印象過ぎるか…?」と、ゴチャゴチャ悩みたくない私にピッタリである。

スマホに写る、真衣様から届いた御学友とのお写真を眺めながら制服の良さを思わず考えてしまう昼下り、気付けば私はつい思いの一部を口にしていた。

「制服いいなぁ…」
「なんや、服なら前に買うたったばっかりやろ」
「あ、直哉様」

急に後ろから声を掛けられびっくり。
居るんだったら居るって言って欲しいものだ、驚いて咄嗟に拳を振るう所でしたよ。

「いえ、お洋服はもう十分なのですが…制服が……」

彼の方に向き直り、私は先程頭の中で考えていた制服の良さについてとくとくと語り始めた。
ついでに自分が着るならどんなタイプの物が良いかも語る。
意外かもしれないが、こういう時直哉様は「アホくさ」「暇なん?」とか色々言うわりには、わりとちゃんと聞いてくれるし、一緒に考えてくれる。

まあ、単なる暇潰しなんだろうが。

「キュロットはあかん、もっとケツの形分かるスカートにせえ」
「でもパンツ丸見えは嫌なんです!」
「お前のパンツなんて見たって誰も喜ばへんわ」
「そんなことないもん!」

世の中の需要をナメるなよ!!!
貧乳にも貧ケツにも需要はあるんだから、私のパンチラだって喜んでくれる変態の一人や二人くらい…い、い……いる…はず………。
限り無く自信は無いが、多分…この世の何処かには居るはずだ…。

酷いことばかり言う主の意見など無視だ無視!
私はちょっとだけムカつきながらも、話を戻して制服の有り難さについて語る。

「朝の着替えが早く済めば、今より早く直哉様を起こしに行けますし」
「は?今より早くって…今だって十分早いやろ」
「え…でも、私は直哉様が起きるよりも一時間前には起きてますよ?」
「老人やん」

貴方より若いですけど???
早起きは三文の徳ってことわざを知らないのか?早起きすると色々良いことがあるんだぞ、朝の澄んだ空気を吸ったり、まだ花開く前の植物達を観察したり…精神統一をするには朝が一番だ。
しかし、朝はわりとすぐに過ぎ去ってしまう…だからこそ、貴重な時間を着替えなどに取られたくないと思っているわけで…。

私がことわざについての説明を始めれば、「あー言えばこー言う…」というような非常に面倒臭そうな顔をされてしまった。

そもそも、私が早起きしてるのは貴方のためなんだけどなあ…朝から名前も禄に覚えていない他人に起こされると不機嫌になったり、最悪八つ当たりしたりし始めるから、それを避けるために私が身を粉にしているんだけどなあ…伝わらんなあ…。

まあ、いいか。

私は自分の中で適当に感情の着地点を見つけて話を終わらす。
ただでさえ、着物を着るのが下手で洋服を着てるせいで目立っているのだ。どれだけ私が他者を言葉では無く、実力で捻じ伏せられる力があったとしても、これ以上目立つ衣服の着用は避けるべきだろう。

しかし、直哉様は私よりも私のことを考えて下さっていたらしく、話題を続けた。

「スーツくらいやったらええんちゃう?葬式でも着ていけるしな」
「確かに…」

そういえば、スーツは持っていなかったな。
直哉様の言葉に同意を示せば、彼は私の身体をジロジロ見ながら考える素振りを見せる。

そして、一頻り見たあとに溜息混じりに言う。

「そのアホ面を引き締めれたら、警官に成りすますくらいは出来そうかもしれへんな」
「警官?」
「もうちょい身長盛って、背筋伸ばしたらまあまあなんとちゃう?」

しょ、正直全然ピンッと来ないのだが、直哉様が言うのならそうなのだろう。
格好いいんじゃないか?警官ごっこ。必要になる日が来るかもしれないから、知的で堂々とした立ち振る舞いも覚えておいてもいいかもしれないな。

俄然やる気になってきた私は、あとでスーツについて調べておこうと頭の片隅にメモしておく。

直哉様も良い暇潰しになったらしく、話は終わりだと言わんばかりに私へ命令を言い渡すと去って行った。
その背を見届けてから、私も頼まれた用事を済ますべく歩き出す。


本当のことを言うと、別にスーツも制服も特別欲しいわけではない。
ただ、直哉様から頂いた洋服達を汚すことに気が引けるだけだった。
勿論こんなこと言わないし、言えるはずもない。
言った所で鼻で笑われるか、冷たくあしらわれるだけだろう。

情を持つとは難儀な物だ。
けれど、不思議と嫌ではなかった。

この感情もまた、いつか何処かで必要となる日が来るのかもしれないと思えば、飲み込むほかなかった。



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一方その頃主である直哉の方はというと…少女がいきなり制服の話なんてし出したため、「やっぱり学校行きたいんやろか…」と、若干心配になっていたのだった。
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