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直哉と健気で可愛いパシリちゃん

現状報告。

私は現在、強請りに強請って直哉様にご褒美デーを頂いた。
つまるところの休暇である、お休みサイコー!


直哉様に買って頂いたお洋服を着て、これまた直哉様に買って頂いた靴を履き、女中さんに髪型を可愛くして貰って一人ウキウキと外を歩いていたら、見知らぬ人に声を掛けられた。

「あーすみません、道分かんなくって」
「おやまあ、私で良ければお教え致しますよ」

人助けは大切だからね!
私は優しくて紳士的な兵士ですので、勿論困ってる人は助けますとも。

と言った感じで道を教えたら、お礼にお茶でもしないかと誘われてしまった。
私は何故だ?と首を傾げ、困惑する。
だって行く先があるのだろう?なのに茶なんぞしばいてる暇はあるのか?

そう考えている間にも、何故か親しげに手を握られ「良い店知ってるからさ」と強制的に連れてかれそうになる。

あれ?あれれ〜??これはどういうことなのでしょうか??
人の善意ってこんなに押しが強いものだったっけ?

「あ、あの……」

親しげにされるのも、お礼をと言われるのも有り難いことなのだが、私にも行きたい場所があってだな…と、オロオロしていた時だった。
背中から「おい、何してんねんカス」という声が聞こえてきた。
振り返れば、そこには朝挨拶だけしておいた主が、それはもう見るからに高圧的な雰囲気で立っていた。

「直哉様!?」
「休日に男引っ掛けるなんてええご身分やなあ?」

ヒッ………めちゃめちゃ機嫌悪い……。

私はすぐさま掴まれていた手を振り払い、頭を下げる。

「違うんです道案内したらお礼をと言われてしまい私もどうしたら良いか困っていたところで決して男遊びなどに興じていたわけでは無くですね………」

とりあえず誤解を解くため早口で弁明をしてみた。

弁明をしながら思ったのだが、何で私は休日にまでこの人に頭を下げてご機嫌伺いしてるのだろうか。
普通に考えて、休日なんだし良くないか?プライベートは自由であるべきでしょ?
いやまあ、そんな常識が通用する相手だとは微塵も思っていないので、私はネチネチグチグチ言われる罵声に、頭を下げたり謝罪を口にしたりした。

「いつから尻が軽なったん?」
「お尻は元々小さくて軽めでして…」
「アホか、お前の尻のサイズなんて聞いてへんわ」
「すみませ……」

てか何ならスリーサイズ知ってるよな、多分。
前に下着屋で教えたし、というか常日頃から尻はこれでもかとよく叩かれるし。

気付けば、私にお礼をと言って下さった人は消えていた。
残念に思ったりなどはこれっぽっちもしないが、道はちゃんと覚えられたかどうかは心配であった。

「で、直哉様はいったいどうしてこちらへ…?」

私の素朴な疑問に、何故か一瞬スンッと表情を無くし、その後「俺の休みに俺が何しとったって関係あらへんやろ」と言われた。
確かにその通りである。しかし、私は一応彼のパシリ…じゃなかった、従者なのだ。その事実は例え休日であろうと変わることはない。

仕えるべき主が目の前に居て、主が一人で街を歩くとなれば、お側にあるべきだろう。
私はそう結論付け、「どちらまで行かれるのですか?」と尋ねた。

「お供いたしますよ、荷物持ちは任せて下さい!」
「は?お前今日休日やろ」
「ええ、ですから可愛い格好で散歩をしていました!」

そう、何を隠そう本日の目的その一…ちょっと可愛い格好をしてお外をプラプラしてみたい…である。

………いや、いや、あの………………えっと………今まで運命だ宿命だ戦うことが役目だなんだと言い、女として生きるなどするわけなかろうと高らかに言ってましたけど、それはそれとして"可愛い服を着る楽しさ"というものをつい先日見出してしまって。

というのも、任務のために黒い襟付きのワンピースを着ていた所、直哉様から「まあまあ似合っとる」とお褒めに預かり……いや、思い出したら恥ずかしくなってきちゃったぞ…。
違うんですよ、別に舞い上がってたわけではなく、その………これは、だから……。


胸を張って可愛い格好をしたぞ!とアピールしていたが、次第に居た堪れない気持ちになり、「やっぱ何でも無いです、お洋服ありがとうございます…」と消え入りそうな声でお礼を言って背筋を正し直した。

そんな私の様子に、直哉様は「あっそ」とだけ言った。

私はそれに胸を撫で下ろす。
いやはや浮かれポンチも良い所だ、もっとビシッとしていかないと!プライドを思い出せプライドを!

てな感じで己を律していれば、直哉様が馬鹿にした視線をこちらに送りながら話し始めた。

「ほなお前は行き先も決めんと、一人寂しゅうプラプラしとった挙げ句にナンパにとっ捕まっとったっちゅうわけなんやな?ほんまにオツムの足らへんアホやな…流石に見てて可哀想やわ」
「え、先程のはナンパだったんですか!?」
「アカン、アホすぎるわ…」

直哉様は心底呆れたように溜息を吐いた。

確かにこれはアホかもしれない。
ナンパと困ってる人の区別も付かないとか、社会経験が足りなさ過ぎる。
ということは待てよ…?先程直哉様が声を掛けてくれたのは…もしかして助けて下さったのか…?

いや、流石にそれは無いな。今のは自惚れた考えだ。このクズを絵に描いたような人が従者を助けるだなんて有り得ない。もしも本当にそうだとしたら、明日は嵐にでもなるだろう。

「仕方あらへん、目的も無くアホみたいに歩いてるお前も一緒に来ること許したる」
「ちなみに何処に行くんですか?」
「は?何処でもええやろ」
「あ…はい……」

アホだけどバカではない私は察する。
コイツも行き先決めずにとりあえず家から出てきたんだ、と。

しかも多分理由は私だ、私の休日を破壊しに来たに違いない。
だが残念なことに、有意義な休日の使い方を全く知らなかった私には破壊されるものなど無かったのだった。

仕方無いので、良く出来た従者である私は「私、実は踵の高い靴を見たかったんです」と機転を利かせた。

「そんなん何に使うんや」
「何って、そりゃ貴方を守る時にですよ」

私はいつも通りの笑みを浮かべ、これから先も変わらぬであろう忠誠心を刻んだ言葉を紡いだ。

「直哉様の盾になるために、今の身長では小さ過ぎるので…だから、踵の高い靴が欲しいのです」

だって私、貴方のための従者ですから。
貴方が戦わなくて良いように、貴方が傷付かなくて良いように、貴方が笑って長生きしてくれるように。
そのために、私は側に居るのですから。


直哉様は一言、いつも通り「アホか」と言い捨て、私の前を歩いて行く。
私はその半歩後ろを、周りに気を配りながら背筋を伸ばして歩いた。

私の血と戦いで出来た長い旅は、こうして始まりを迎える。


母は死んだ。
呪いは今日もこの胸に満ちている。

神も悪魔も降り立たぬこの地にて、私は主のために戦うことを選んだ。


余談だが、次の日は嵐のような土砂降りとなっていたのだった。
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