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第三の生命体、菌類種の話

いきなりですが、生物の始まりは何だと思いますか?

海中のプランクトン…微小の菌類、低分子有機物、コアセルベート(高分子集合体)、パンスペルミア説……

素晴らしい、どれも理論的追及の成された、人類誕生までの進化論に当てはまりますね。


でも、本当は違う。

「本当は、陸上」


「ストロマトライト」と言う、地下ずっと深く、深く、光も届かぬ底で、空気も存在しない場所で始まりの生命は発生したのだ。

その微小の生命達は、己を守るため、自ら外殻として鉱物を産み出し纏ってみせた。

そう、ストロマトライトは、地球上で最も古い生命体。

つまり、生命のはじまりとは………藍藻類、またの名を「シアノバクテリア」、藍色細菌。
それは、最も原始的な細菌で、過酷な環境でも生息できる神秘の命。
海水域・淡水域の両方、地球上のあらゆるところに昔は存在した。

そして、藍藻類に捕食者となる貝類や甲殻類が存在しはじめ、彼等はシアノバクテリアを捕食し、己を守るための殻を纏い出した。

内側を守るために、外側を強くする。

深海にて、外敵から自らを守るために。
そして、陸地においては……最大の天敵である人間を欺くために。

私は、外側だけを"良くした"。

愛されるために、戦えるために、守って貰うために。
友好関係を結ぶために、誰にも疑われないために、何者にも再び蹂躙されぬように。


人間。

人間、人類、ヒト、ヒューマン。


始まりは同じ小さな小さな命だったのに、どうして私(細菌)は貴方達になれなかったのだろう。
何故、私だけが海底で啄まれる菌類のままだったのだろう。

人の形を手に入れてしまったからか、感情なんていう余計なものまで付いてきた。
そのせいで、私は時々無性に息をするのが苦しくなる。
だってほら、姿形は限り無く君達に似ているのに、中身は全然違うから。

違うから、同じにはなれない。
どうやったって交われない、本当に仲良くはなれない、理解しあえない。

あのね、私、数を数えられる。歌だって知ってる、寂しいって気持ちも分かる。
陸に上がってからはオシャレだって知った、味と匂いはまだ分からないけれど、色と音なら理解できる。
きっと、人間だったのならば、他にも私のような者が居たならば、恋だって出来たのに。

でも、出来なかった。
そうはなれなかった。
私はこの世に一人きり、海から無理矢理上げられ、沢山居たはずの仲間達はシャーレに分けられてそれっきり。
成功例は私、ただ一人。

太陽が近いこの場所で、私一人だけが生きている。
帰る手段はもう無い。だって人間の身体は深海じゃ暮らせない。あの懐かしい暗闇には朽ちるまで還れない。
いや、もしかしたら、私は土に吸われて終わるかもしれない。
ちっぽけな細菌として。

だからせめて、次の時代に私の情報が海に伝わるようにしたかった。
地上で闊歩する蹂躙者達の進化の過程と、我々の可能性について学び尽くし、その結論を持ち帰らなければならない。

いつか、陸が沈んで星が真っ青になった時。
原初の生命である我々が、この星のはじめの友人として、この星の終わりが寂しくないように。
皆でダンスの一曲でも踊れる手足を身に付けるため、私はここで未来を探している。

人間のフリをして、人間からあらゆる叡智を根刮ぎ奪うのだ。
それこそがきっと、産まれてきた意味に違いない。



___



ふと、意識の浮上を感じ取る。

辺りはひんやりとしていて、どこか暗く、照明はろうそくのみ。
足枷と手枷で拘束されているらしい私をグルリと囲むように、複雑な曼荼羅が画かれていた。

「…………なにこれ」
「お前が人間襲ったから、一時的に封印」

思わず溢れた呟きに返事が返ってきて、ハッと顔をあげる。
暗闇の奥から、カツカツと靴底を鳴らして歩いてきたのは、こんな場所でも変わらず美しい五条悟だった。
しかし、彼はそのシャイニービューティーなお顔を曇らせ、こちらを高い場所から厳しい視線で見つめてくる。

な、なんか………これは、怒ってる…?

「あの、私…何が何だか…」
「ペナイチだってよ」
「ペナ…ペナルティー?」
「お前は人間襲ったのが理由で、俺はお前の監督ミスで」

はあ〜〜〜。
ドデカい溜息を吐き出した悟くんはガリガリと頭を掻き、心底面倒臭そうな雰囲気を醸し出す。

「次やったらソテーにして食ってやるから」
「あの、私…きのこじゃないです…だから食べても美味しくな、」
「お前が何者かとか本当にどうでもいいから」

言葉に言葉を被せ、彼は立ち上がる。
長い脚を雑に動かしながらこちらに近寄り、不様に転がる私を真上から見下ろして言った。

「傑とばっか、遊んでんじゃねーよ」

拗ねた声にパチクリパチクリと、瞬きを数度する。

こ、これは……まさか、このムーヴは………お気に入りの玩具を取られた幼児のするやつでは…?

ブスッと膨らませた頬、突き出した下唇、眉間に寄せた似合わないシワ。
どこを取ってもこの態度は、まさに、幼児が自分のお気に入りの玩具を他の子に取られて不貞腐れているあれだ…!
ご、五条悟ーーー!!!お前いったい幾つになったんでちゅかーー!?!?

あまりにも見事な拗ね方に、思わず自分の状態も危機感を忘れて「へへ……」と笑い声が漏れてしまった。

「なに笑ってんだよ、何も面白くねーよバーカバーカ!」
「悟くんって陸地で一番かわいいですね」
「は?世界で一番の間違いだろ、訂正しろ」
「いや、ユメナマコちゃんの方が可愛い」
「誰だよその女!」

ユメナマコちゃんは深海を華麗に舞う半透明の可愛いナマコだよ、と説明するも、どうやら相当ご立腹な状態であるらしく、悟くんはゲシゲシと爪先で私のお尻を蹴ってきた。

DVだ!ドメスティックバイオレンス!!

「蹴らないでよお!」
「上下関係ってもんを叩き込んでやるよ!」
「家庭内暴力反対ですー!」
「うるせえ浮気者!傑と不倫して触手プレイしやがって!混ぜろよ!!」

誤解なんです!!!違うんです!!!
というか、私は被害者なんですって!!
そもそも誘ってきたのはあっちで…あ、あんな真っ昼間から私の背中におっぱいをムッチムッチと押し付けて来る方がいけないんですよ!!
私は幼気な陸地初心者なのに…!どうしてこんな…!
クソ、これもあれも全ては、夏油傑が淫乱団地妻の如く欲情を掻き立てる身体をしているから…!

「私は悪くないのにー!」
「AVで見たから知ってる、加害者は大体そう言うんだよ!」

AVと現実は違うから!!現実の団地妻は別にエロくないし、いきなり押し倒してくる配達員も居ないし、客にマイクロビキニを着させてケツを揉んでくるマッサージ屋も無いから!!

クソガキに虐められる亀さんよろしく、私は悟くんから蹴ったり抓まれたり捏ねられたりした。
あうあうと、口から意味の無い母音が溢れる。
無抵抗な深海生物を虐めたり実験に使ったり…人類って本当に嫌な奴だな……早くこんなのが支配する陸地など海に沈んでしまえばいいのに…!クソ…こんなのがこの星の支配者なんて認めてたまるか…絶対私達菌類の方が上手く自然と共存出来たからな…!

「この…モチモチキノコが!モチモチしてんじゃねぇよ!」
「うぅぅ…」

最早悪口なのかどうか判別しかねる、罵声らしき物を浴びながら縮こまっていれば、「悟、そのへんにしてあげな」という声が聞こえた。

こ、この声は……!

「私も最初は驚いたけど、その…結構、中々良かったから」
「げ、げと…せんぱい……」

後輩に色目を使い誑かそうとしたら、逆に触手責めにあって身体中を弄られた挙げ句に新しい扉を開いてしまいそうになっている、ハプニングエロスイベント体験済み男子高校生の夏油傑じゃないか!

お、お前よくも私の身体の一部を容赦無く引き千切りまくってくれたな!結構痛かったぞ!

流石に文句の一つでも言っておかねば故郷の仲間に顔向け出来ないと、口を開いた瞬間だった。

「よっこいせ」
「ぇ……」

悟くんによって雑に持ち上げられた私の身体は、夏油先輩が広げたズタ袋の中に頭から押し込まれた。
そのまま、うんせうんせと何処かへ運ばれていく。

………故郷から強制的に引き離されて、抵抗する手段の無い中実験を繰り返された挙げ句、仲間達は皆実験失敗により息絶え、人間に類似した身を得た私は人間に管理され、故郷には勿論帰れず……そのうえこの仕打ち。

うーーん……人間、滅んで良し!
人類よ、絶滅しよう!!みんな長生きして、いなくなろう!!
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