だがしかしこの女、パンツを穿いていないのである。
ベッドが狭い!!!
説明するのも億劫な程には色々あって、拾った猫ちゃん…もとい、夏油傑(28歳、男性、現無職)が寮の自室に居るわけなんだけど、これがまあ場所を取る……デカいんだよ、体積も態度も、もっと遠慮しろよ。
「というか出てって貰ってもいいですか…?」
「捨てるのかい?クスンクスンッ」
「うわ泣き真似の仕方がキショい」
「頼むから優しくして?」
私は十分優しいだろうに、これ以上何を求めると言うのか。
考えてもみて欲しい、乙骨くんとリカちゃんのラブパワーの前に敗北した瀕死のシングル男へ手を差し伸べ、さらには彼の犯した罪を肩代わりし、毎日毎日贖罪のために仕事仕事仕事…合間に非業の死を遂げた魂へ祈りを捧げて浄化の道へと導き、挙げ句の果てには一緒に楽園まで連れてってやると約束までしてやったのだ、これ以上何をしろと?私に求めすぎないで欲しい、ていうか拘束と監視があるとは言えど、日がな一日私の部屋に引きこもってないで少しは働け。
「私はほら、自由に動き回れないからさ」
「少しは自由になるための努力をしてくださーい」
「う~ん…」
「早くゴジョティーと仲直りしてってことだよ」
「う~~~~ん………」
悩むな、も~~この感情拗らせ人間くんは~!親友との仲直りを中々してくれないもんだから困ったものである。
そもそもクリスマスプレゼントに渡した物を返品するゴジョティーもゴジョティーだ、私だってこんなデカくて邪魔な黒い物体いらないよ、狗巻くんサイズがベスト。戦力アップとして契約は交わしたが、私の目当ては彼の重ねた罪の数であって彼そのものでは無い、だから本体はぶっちゃけいらない。
それを正直に言えば、「いらないとか言わないで」と、うるうるした瞳で言うもんだから、考えるより先に「うわ気持ち悪い」と言ってしまった。
「そもそもベッド狭いんですって、床で寝てよ」
「私、怪我人なのにな…」
「治療受けたでしょうに、ほら枕返して」
「優しくして欲しいな…」
私から奪い最早彼の私物と化してしまったふわふわ枕を片手で抱き締めて、頬をぷくりと膨らまし「絶対にベッドから出ない」という固い意思を見せつけてくる。
どうやら意地でも出ないらしい、何なんだこの人、こんな姿を見たら貴方の仲間が泣くよきっと。
仕方無しに隙間と呼べるようなスペースに寝っ転がれば、待っていましたと言わんばかりに私の身体を枕ごと抱え込んでくる。暑いし邪魔、寝苦しいったらありゃしない。そもそも私は未成年、都条例に引っ掛かるのではなかろうか。
「君は男に興味無いのかい?私が何をしても靡いてくれなくて少し寂しいよ」
「好きでも無い人間にどうされても…特に何も……」
「冷たいな、あんなに熱烈な言葉をくれたのに」
……言ったか?どれだ??
「記憶に無い…」
「言っただろう、思い出して」
「どれだろ…」
「私に惜しみ無く愛情を注ぎ、楽園を見せてくれると」
後半は確かに言った記憶あるけど、前半は言った記憶が無いな…まあ記憶が無いのはいつものことだ。
私の愛は無償であるので欲するならばいくらでも与えよう、愛情を掛ければこの人も少しは働いてくれるだろうか、愛情の還元をちょこっと期待して私は身体を彼の方へと向けて背中に手を伸ばし、ポンポン叩いて眠りを誘う。
「……私を責めないんだね」
「貴方の犯した罪は、私にとっては蜜だもの」
「変な術式」
「変な前髪には言われたくない」
揃って眠りに招かれるように目を閉じる、変な術式…その通りだ。
私の術式は随分おかしな物だ、他人の罪を肩代わりしただけ強くなる。
「寂光罪滅術」
私の中に住まう蛇の形をした式神が術式そのものである、かの蛇はこの世の全てのエゴを喰らって成長、もとい肥大化する。
だから、欲や罪は蛇の餌であり、私が強くなるために必要不可欠なもの。
罪深き術式であり、同時に救済が伴う術でもある。
存在の浄化、喰らい付いた相手の全てを奪って消化し昇華し浄化する。
私は何も悪いことなどしていないのに、他人の悪行のために償いをする、そうすることでしか呪力や技を強化出来ない。この仕組みは、ゴジョティー曰く「魂に刻まれた呪い」だと言う。きっと前世にでも散々なことをしたのだろう、だから私は今世で救世主の真似事をしなければならないのだ、きっとそうに違いない。
頭上から聞こえてくる穏やかな呼吸にやや苛立つ、やっぱり邪魔だこの人。毎夜毎夜人を抱き枕変わりにしやがって……良い気なものだ、私はここ最近ずっと働きっぱなしで疲れたよ。何度も偉い人に呼び出されるわ、ゴジョティーから距離を感じるわ、狗巻くんが何故か冷たいわで散々な毎日を送っている。
それでも寝て起きれば新しい朝がやって来る。
昨日よりも今日を、今日よりも明日を、少しでも良い世界にするために私は頑張る。
もしも産まれて来たことに理由があるのならば、私が産まれて来た意味とは何だろうと考えたことがある。私はきっとこの世の浄化装置だ、溢れ返る罪を、私というシステムを通すことで綺麗にする。そうして呪いを減らし、罪を減らし、より良い世界にしていく……なんてことを考えても時もあったが、違うことなどとっくの昔に気付いている。
私が産まれて来た意味、使命、戦う理由、全て理解している。
だが最も大切なのは、自己の本質に気付き、真の神についての認識に到達すること。
私は私がどんな存在かよく理解している、だからこそ怯える夜もある。
夜の闇から逃げるように目を瞑り、息を殺すようにして眠りに落ちて朝を待つ。
私の術式は蛇を宿している。
腹を空かせた蛇は、いつか全てを喰らい尽くさんとして口を開けて待っている。
呑まれてはならない、私の欲を、罪を、罰を、全て飲み干すために待ち構える蛇は、私が真っ当に生きることの邪魔立てをするのだ。
今宵も欲深き蛇が私の中を這う。
毎夜襲い来る痺れるような苦しみは、私が存在することへの天罰なのかもしれない。
五つの陸を食らい、三つの海を飲み干して、空をも求めんとする蛇の王。
世界蛇、ミズガルズの大蛇。
それが私に刻まれた呪いの真の名だ。
説明するのも億劫な程には色々あって、拾った猫ちゃん…もとい、夏油傑(28歳、男性、現無職)が寮の自室に居るわけなんだけど、これがまあ場所を取る……デカいんだよ、体積も態度も、もっと遠慮しろよ。
「というか出てって貰ってもいいですか…?」
「捨てるのかい?クスンクスンッ」
「うわ泣き真似の仕方がキショい」
「頼むから優しくして?」
私は十分優しいだろうに、これ以上何を求めると言うのか。
考えてもみて欲しい、乙骨くんとリカちゃんのラブパワーの前に敗北した瀕死のシングル男へ手を差し伸べ、さらには彼の犯した罪を肩代わりし、毎日毎日贖罪のために仕事仕事仕事…合間に非業の死を遂げた魂へ祈りを捧げて浄化の道へと導き、挙げ句の果てには一緒に楽園まで連れてってやると約束までしてやったのだ、これ以上何をしろと?私に求めすぎないで欲しい、ていうか拘束と監視があるとは言えど、日がな一日私の部屋に引きこもってないで少しは働け。
「私はほら、自由に動き回れないからさ」
「少しは自由になるための努力をしてくださーい」
「う~ん…」
「早くゴジョティーと仲直りしてってことだよ」
「う~~~~ん………」
悩むな、も~~この感情拗らせ人間くんは~!親友との仲直りを中々してくれないもんだから困ったものである。
そもそもクリスマスプレゼントに渡した物を返品するゴジョティーもゴジョティーだ、私だってこんなデカくて邪魔な黒い物体いらないよ、狗巻くんサイズがベスト。戦力アップとして契約は交わしたが、私の目当ては彼の重ねた罪の数であって彼そのものでは無い、だから本体はぶっちゃけいらない。
それを正直に言えば、「いらないとか言わないで」と、うるうるした瞳で言うもんだから、考えるより先に「うわ気持ち悪い」と言ってしまった。
「そもそもベッド狭いんですって、床で寝てよ」
「私、怪我人なのにな…」
「治療受けたでしょうに、ほら枕返して」
「優しくして欲しいな…」
私から奪い最早彼の私物と化してしまったふわふわ枕を片手で抱き締めて、頬をぷくりと膨らまし「絶対にベッドから出ない」という固い意思を見せつけてくる。
どうやら意地でも出ないらしい、何なんだこの人、こんな姿を見たら貴方の仲間が泣くよきっと。
仕方無しに隙間と呼べるようなスペースに寝っ転がれば、待っていましたと言わんばかりに私の身体を枕ごと抱え込んでくる。暑いし邪魔、寝苦しいったらありゃしない。そもそも私は未成年、都条例に引っ掛かるのではなかろうか。
「君は男に興味無いのかい?私が何をしても靡いてくれなくて少し寂しいよ」
「好きでも無い人間にどうされても…特に何も……」
「冷たいな、あんなに熱烈な言葉をくれたのに」
……言ったか?どれだ??
「記憶に無い…」
「言っただろう、思い出して」
「どれだろ…」
「私に惜しみ無く愛情を注ぎ、楽園を見せてくれると」
後半は確かに言った記憶あるけど、前半は言った記憶が無いな…まあ記憶が無いのはいつものことだ。
私の愛は無償であるので欲するならばいくらでも与えよう、愛情を掛ければこの人も少しは働いてくれるだろうか、愛情の還元をちょこっと期待して私は身体を彼の方へと向けて背中に手を伸ばし、ポンポン叩いて眠りを誘う。
「……私を責めないんだね」
「貴方の犯した罪は、私にとっては蜜だもの」
「変な術式」
「変な前髪には言われたくない」
揃って眠りに招かれるように目を閉じる、変な術式…その通りだ。
私の術式は随分おかしな物だ、他人の罪を肩代わりしただけ強くなる。
「寂光罪滅術」
私の中に住まう蛇の形をした式神が術式そのものである、かの蛇はこの世の全てのエゴを喰らって成長、もとい肥大化する。
だから、欲や罪は蛇の餌であり、私が強くなるために必要不可欠なもの。
罪深き術式であり、同時に救済が伴う術でもある。
存在の浄化、喰らい付いた相手の全てを奪って消化し昇華し浄化する。
私は何も悪いことなどしていないのに、他人の悪行のために償いをする、そうすることでしか呪力や技を強化出来ない。この仕組みは、ゴジョティー曰く「魂に刻まれた呪い」だと言う。きっと前世にでも散々なことをしたのだろう、だから私は今世で救世主の真似事をしなければならないのだ、きっとそうに違いない。
頭上から聞こえてくる穏やかな呼吸にやや苛立つ、やっぱり邪魔だこの人。毎夜毎夜人を抱き枕変わりにしやがって……良い気なものだ、私はここ最近ずっと働きっぱなしで疲れたよ。何度も偉い人に呼び出されるわ、ゴジョティーから距離を感じるわ、狗巻くんが何故か冷たいわで散々な毎日を送っている。
それでも寝て起きれば新しい朝がやって来る。
昨日よりも今日を、今日よりも明日を、少しでも良い世界にするために私は頑張る。
もしも産まれて来たことに理由があるのならば、私が産まれて来た意味とは何だろうと考えたことがある。私はきっとこの世の浄化装置だ、溢れ返る罪を、私というシステムを通すことで綺麗にする。そうして呪いを減らし、罪を減らし、より良い世界にしていく……なんてことを考えても時もあったが、違うことなどとっくの昔に気付いている。
私が産まれて来た意味、使命、戦う理由、全て理解している。
だが最も大切なのは、自己の本質に気付き、真の神についての認識に到達すること。
私は私がどんな存在かよく理解している、だからこそ怯える夜もある。
夜の闇から逃げるように目を瞑り、息を殺すようにして眠りに落ちて朝を待つ。
私の術式は蛇を宿している。
腹を空かせた蛇は、いつか全てを喰らい尽くさんとして口を開けて待っている。
呑まれてはならない、私の欲を、罪を、罰を、全て飲み干すために待ち構える蛇は、私が真っ当に生きることの邪魔立てをするのだ。
今宵も欲深き蛇が私の中を這う。
毎夜襲い来る痺れるような苦しみは、私が存在することへの天罰なのかもしれない。
五つの陸を食らい、三つの海を飲み干して、空をも求めんとする蛇の王。
世界蛇、ミズガルズの大蛇。
それが私に刻まれた呪いの真の名だ。