だがしかしこの女、パンツを穿いていないのである。
高専に入学してすぐの頃の話だ、私はよくある山に囲まれた、内陸地方の田舎とも呼べないような過疎化の一途を辿る限界集落出身の術師で、さらには一般家庭の出であった。
さて、一般家庭出身なため呪力コントロールも術式の使い方もぺーぺー、センスはそこそこあっても戦いの「た」の字も知らない素人の中の素人の戦い。周りには強くて格好いい人達ばかりの中、あんな風になれたらいいのになあと思うばかりの日々。
頭の出来がボチボチな平凡だったため、小難しい縛りだとか画期的な作戦だとかが考え付かず、とにかく我武者羅に戦っていた。
しかし、転機が訪れる。
この話をすると、誰もが私を「お前もイカれてたんだな」と称するが、本人からすると然程悩ましい話でも無い。
単純な話だ、水中に逃げ込んだ呪霊を追って私も川の中へと入るも、呪霊を倒しきる前に逃亡されたため、私も追うように陸地に上がった。
その時、濡れてグッショグショになったパンツが気持ち悪かったから、引率の先輩呪術師の人には内緒でコッソリ脱いだのだ。
そしたらその後の戦いでめちゃくちゃ活躍した、いつもよりも精度の高い技を連発して決め、呪力の量も増えた気がした。引率の方にも動きが良かったと褒められ、評価も上々。
「だから、それから戦う時はパンツ穿いて無いの」
「穿こうか」
「ちなみに、この露出が多い衣装も縛りだよ」
「着ようか」
今日は12月の24日、クリスマスイブ。
街はキラキラ輝くイルミネーションで彩られ、カップルが路上にわんさかとひしめき合い、世のサンタさんが眠らぬ子供に隠密スキルを駆使する日!
しかし!そんなことは知ったこっちゃないぜ!と、空気を読まずにやって来た呪詛師と我々呪術師は戦闘中!皆で戦えばクリスマスがエンジョイ出来なくても悲しくないね!
私もこの、寒冷の候歳末の候…肌色成分を惜しみ無く真冬の空の下に晒け出しながら勇猛果敢に戦闘中!
だが!そこでまたしても空気を読まないインチキ宗教家みたいな呪詛師は戦闘中に私へ向かって「待って」と言った。
待てと言われて素直に待つ奴が居るか、真剣に戦ってる時に何なのだ、私はさっさと仕事を終わらせて予約してしまったチキンを取りに行かなければならないのだ!
なので、悪いが戦うぞ~!と意気込めば、敵はとことん空気を読まないらしく「君……どうしてパンツを穿いて無いんだい…?」と至極真面目に困惑した様子で疑問を呟いた。
今?今それ聞かなきゃならないことか?しかし、聞かれたからには答えてあげるが情けってもんである。情けは人のためならず?ノンノン、情けはそのうち世界を救うし飢餓も解決するし、災害もどうにかしてくれる。やはり世の中に必要なのはアガペーよ、無償の愛こそ真理である。
だから私は先程のように、惜しげなく答えてあげたのだ。
何が「見てて寒そう」だ、寒いに決まってるだろ、見て分からんのか。
けど、ピーコも言ていただろう「お洒落は我慢」と。いえ、私のこれはお洒落では無いけれど、ノーパンをお洒落とは流石に呼べないけれど。
聞いたからにはもっと讃えるべきである、敵とか味方とか関係無い、私の努力の結晶である完璧なプロポーションを褒め讃え賛美せよ。
「全裸になろうと、我が身体に一点の曇り無し」
「い、今までずっとパンツ穿いて無かった…の…?」
「そうだよ」
隣で一緒に戦っていた乙骨くんが驚いている、いや、引いている。
引くな、私だって好きでパンツ穿いて無いわけじゃ無いのだ。自分でも変だなって思うもん、パンツ脱いでるとパワーアップする縛りとかどんな露出魔だよ、何のAVだよ、頭おかしいんじゃないの?
でも強くなるんだから仕方無いじゃない…強さとパンツ、どっちが必要かって言われたらそりゃあ強さでしょ。時代は人権より強さだよ。力こそパワーなんだよ。
いいかね?そもそも人間はエデンにて、食せば神々と等しき善悪の知識を得るとされる知恵の果実を食べてしまったことで、善悪の概念を認識し、結果として羞恥という感情を手にした訳だ。
そうして人間は楽園から追放され、必ず死ぬようになり、男には労働の苦役が、女には出産の苦しみがもたらされるようになったのだ。
ならば、不要な知恵や恥じらいの概念を捨てることが出来たのならば……人間は再び「エデンの園」へ回帰出来る権利を得られるのでは。
中世のキリスト教に存在する伝承では、アダムの子の一人、セトがエデンの園に渡ったという伝説がある。
自己の本質と真の神についての認識に到達すること、これこそが人類が至るべき場所。
きっとその先に、エデンがある。
「だから私はパンツを穿かない」
「頭が可笑しくなりそうだ……」
笑顔を失った呪詛師が乙骨くんと何かアイコンタクトを取った。
頑張って説明したのに仲間外れにされている、何故。
乙骨くんは一度呪詛師に向かって頷くと、私の方を見て言った。
「ここは僕に任せて」
あ……………これは、本格的に仲間はずれにしようとしてますね!?
そもそも、どうして私が彼と一緒に戦っているかと言えば、お目付け役だからである。
乙骨くんのお姫様、リカちゃんは色々凄いのだ。そんなスーパーリカちゃんに私はスルーされている、女なのに。
「コイツは論外」みたいな扱いをされている、私が乙骨くんに触れてもリカちゃんは叫ばない、何故なら眼中に無いらしいので。
そんなことある?てくらいスルーされる、真希ちゃんなんてめちゃめちゃ叫ばれたりしてるのに。その差は何?
そんなだからゴジョティー(五条先生)からお目付け役を任されていた。
「暴走した場合は止めてね」
「私に止められるかなあ」
「全裸になれば相討ち出来るよ、ガーンバッ」
このように実力もお墨付きを貰っている。
乙骨くんは特級だ、特別に強い彼と条件次第では相討ちを狙える私って…やっぱり実は天才なのでは?平凡な頭で考え出したわりには天才的実力……あれ、だとしたら…だとしたらだ、目の前で難しい顔をしている呪詛師は特級…あ、もしかして、脱げばワンチャン勝てる!?
灰色の脳細胞がきらめき、活性化したニューロンが最高の答えを弾き出した。
脱げば勝てる、勝ったら仕事が終わる、仕事が終わればクリスマスイブをエンジョイ出来るってワケ。
証明完了 Q.E.D
そうなりゃ話は早い。
私は乙骨くんの言葉に頷くと、やたら露出が激しい衣装に手を掛けた。これ本当に寒いんだよね。
「私が脱げば、万事解決ってわけだね」
「僕の言葉が通じてない…?」
「待て、それはいけない、私が別の罪を被ることになる」
知ったことかあ!と脱ごうとすれば、乙骨くんに手を掴まれた。
やめろ止めてくれるな!私は真希ちゃん達の仇を取るんだ!あと、早く終わらせないと予約しておいたケーキが取りに行けないのだ!人気店のやつなんだ!田舎じゃ食べられないような可愛くてキラキラした夢の詰まったスペシャルなケーキなのだ!
「どうして予約しちゃったの…!」
「クリスマスだからだよ!」
「百鬼夜行あるって分かってたよね?」
「忘れてたんだよ!」
仕方無いじゃん!都会で体験するはじめてのクリスマスなんだもん!百鬼夜行とかいう男の子が喜びそうな四文字熟語なんて興味無いよ!クリスマスコフレとケーキ、チキンにオーナメントで頭の中はいっぱいだったんだよ、呪詛師が群れて高専を襲うこと何て三歩歩けば忘れるよ、女子高生ナメるなよ!
いや、しかし待てよ?やっぱりここは乙骨くんに全部任せちゃっていいのでは無いだろうか、多分乙骨くんなら勝てるし、じゃあもう私いらなくない?
チキンとケーキ取りに行っても良いんじゃないかな。
「よし、乙骨くん 後は君に任せたよ」
「あ、うん…」
こうして私は戦いを放棄した。
だって私が居ても仕方無い、それよりケーキとチキンだ。薄情だと言うなかれ、この物資は狗巻くんと相談して選んだものなのだ、取りに行かねば友情を無駄にする。
見ず知らずの理想家よりも友情を選ぶのは当たり前だろう。
そういうことで、コートを取りに部屋に戻ることにしたのであった。あー寒い寒い。
さて、一般家庭出身なため呪力コントロールも術式の使い方もぺーぺー、センスはそこそこあっても戦いの「た」の字も知らない素人の中の素人の戦い。周りには強くて格好いい人達ばかりの中、あんな風になれたらいいのになあと思うばかりの日々。
頭の出来がボチボチな平凡だったため、小難しい縛りだとか画期的な作戦だとかが考え付かず、とにかく我武者羅に戦っていた。
しかし、転機が訪れる。
この話をすると、誰もが私を「お前もイカれてたんだな」と称するが、本人からすると然程悩ましい話でも無い。
単純な話だ、水中に逃げ込んだ呪霊を追って私も川の中へと入るも、呪霊を倒しきる前に逃亡されたため、私も追うように陸地に上がった。
その時、濡れてグッショグショになったパンツが気持ち悪かったから、引率の先輩呪術師の人には内緒でコッソリ脱いだのだ。
そしたらその後の戦いでめちゃくちゃ活躍した、いつもよりも精度の高い技を連発して決め、呪力の量も増えた気がした。引率の方にも動きが良かったと褒められ、評価も上々。
「だから、それから戦う時はパンツ穿いて無いの」
「穿こうか」
「ちなみに、この露出が多い衣装も縛りだよ」
「着ようか」
今日は12月の24日、クリスマスイブ。
街はキラキラ輝くイルミネーションで彩られ、カップルが路上にわんさかとひしめき合い、世のサンタさんが眠らぬ子供に隠密スキルを駆使する日!
しかし!そんなことは知ったこっちゃないぜ!と、空気を読まずにやって来た呪詛師と我々呪術師は戦闘中!皆で戦えばクリスマスがエンジョイ出来なくても悲しくないね!
私もこの、寒冷の候歳末の候…肌色成分を惜しみ無く真冬の空の下に晒け出しながら勇猛果敢に戦闘中!
だが!そこでまたしても空気を読まないインチキ宗教家みたいな呪詛師は戦闘中に私へ向かって「待って」と言った。
待てと言われて素直に待つ奴が居るか、真剣に戦ってる時に何なのだ、私はさっさと仕事を終わらせて予約してしまったチキンを取りに行かなければならないのだ!
なので、悪いが戦うぞ~!と意気込めば、敵はとことん空気を読まないらしく「君……どうしてパンツを穿いて無いんだい…?」と至極真面目に困惑した様子で疑問を呟いた。
今?今それ聞かなきゃならないことか?しかし、聞かれたからには答えてあげるが情けってもんである。情けは人のためならず?ノンノン、情けはそのうち世界を救うし飢餓も解決するし、災害もどうにかしてくれる。やはり世の中に必要なのはアガペーよ、無償の愛こそ真理である。
だから私は先程のように、惜しげなく答えてあげたのだ。
何が「見てて寒そう」だ、寒いに決まってるだろ、見て分からんのか。
けど、ピーコも言ていただろう「お洒落は我慢」と。いえ、私のこれはお洒落では無いけれど、ノーパンをお洒落とは流石に呼べないけれど。
聞いたからにはもっと讃えるべきである、敵とか味方とか関係無い、私の努力の結晶である完璧なプロポーションを褒め讃え賛美せよ。
「全裸になろうと、我が身体に一点の曇り無し」
「い、今までずっとパンツ穿いて無かった…の…?」
「そうだよ」
隣で一緒に戦っていた乙骨くんが驚いている、いや、引いている。
引くな、私だって好きでパンツ穿いて無いわけじゃ無いのだ。自分でも変だなって思うもん、パンツ脱いでるとパワーアップする縛りとかどんな露出魔だよ、何のAVだよ、頭おかしいんじゃないの?
でも強くなるんだから仕方無いじゃない…強さとパンツ、どっちが必要かって言われたらそりゃあ強さでしょ。時代は人権より強さだよ。力こそパワーなんだよ。
いいかね?そもそも人間はエデンにて、食せば神々と等しき善悪の知識を得るとされる知恵の果実を食べてしまったことで、善悪の概念を認識し、結果として羞恥という感情を手にした訳だ。
そうして人間は楽園から追放され、必ず死ぬようになり、男には労働の苦役が、女には出産の苦しみがもたらされるようになったのだ。
ならば、不要な知恵や恥じらいの概念を捨てることが出来たのならば……人間は再び「エデンの園」へ回帰出来る権利を得られるのでは。
中世のキリスト教に存在する伝承では、アダムの子の一人、セトがエデンの園に渡ったという伝説がある。
自己の本質と真の神についての認識に到達すること、これこそが人類が至るべき場所。
きっとその先に、エデンがある。
「だから私はパンツを穿かない」
「頭が可笑しくなりそうだ……」
笑顔を失った呪詛師が乙骨くんと何かアイコンタクトを取った。
頑張って説明したのに仲間外れにされている、何故。
乙骨くんは一度呪詛師に向かって頷くと、私の方を見て言った。
「ここは僕に任せて」
あ……………これは、本格的に仲間はずれにしようとしてますね!?
そもそも、どうして私が彼と一緒に戦っているかと言えば、お目付け役だからである。
乙骨くんのお姫様、リカちゃんは色々凄いのだ。そんなスーパーリカちゃんに私はスルーされている、女なのに。
「コイツは論外」みたいな扱いをされている、私が乙骨くんに触れてもリカちゃんは叫ばない、何故なら眼中に無いらしいので。
そんなことある?てくらいスルーされる、真希ちゃんなんてめちゃめちゃ叫ばれたりしてるのに。その差は何?
そんなだからゴジョティー(五条先生)からお目付け役を任されていた。
「暴走した場合は止めてね」
「私に止められるかなあ」
「全裸になれば相討ち出来るよ、ガーンバッ」
このように実力もお墨付きを貰っている。
乙骨くんは特級だ、特別に強い彼と条件次第では相討ちを狙える私って…やっぱり実は天才なのでは?平凡な頭で考え出したわりには天才的実力……あれ、だとしたら…だとしたらだ、目の前で難しい顔をしている呪詛師は特級…あ、もしかして、脱げばワンチャン勝てる!?
灰色の脳細胞がきらめき、活性化したニューロンが最高の答えを弾き出した。
脱げば勝てる、勝ったら仕事が終わる、仕事が終わればクリスマスイブをエンジョイ出来るってワケ。
証明完了 Q.E.D
そうなりゃ話は早い。
私は乙骨くんの言葉に頷くと、やたら露出が激しい衣装に手を掛けた。これ本当に寒いんだよね。
「私が脱げば、万事解決ってわけだね」
「僕の言葉が通じてない…?」
「待て、それはいけない、私が別の罪を被ることになる」
知ったことかあ!と脱ごうとすれば、乙骨くんに手を掴まれた。
やめろ止めてくれるな!私は真希ちゃん達の仇を取るんだ!あと、早く終わらせないと予約しておいたケーキが取りに行けないのだ!人気店のやつなんだ!田舎じゃ食べられないような可愛くてキラキラした夢の詰まったスペシャルなケーキなのだ!
「どうして予約しちゃったの…!」
「クリスマスだからだよ!」
「百鬼夜行あるって分かってたよね?」
「忘れてたんだよ!」
仕方無いじゃん!都会で体験するはじめてのクリスマスなんだもん!百鬼夜行とかいう男の子が喜びそうな四文字熟語なんて興味無いよ!クリスマスコフレとケーキ、チキンにオーナメントで頭の中はいっぱいだったんだよ、呪詛師が群れて高専を襲うこと何て三歩歩けば忘れるよ、女子高生ナメるなよ!
いや、しかし待てよ?やっぱりここは乙骨くんに全部任せちゃっていいのでは無いだろうか、多分乙骨くんなら勝てるし、じゃあもう私いらなくない?
チキンとケーキ取りに行っても良いんじゃないかな。
「よし、乙骨くん 後は君に任せたよ」
「あ、うん…」
こうして私は戦いを放棄した。
だって私が居ても仕方無い、それよりケーキとチキンだ。薄情だと言うなかれ、この物資は狗巻くんと相談して選んだものなのだ、取りに行かねば友情を無駄にする。
見ず知らずの理想家よりも友情を選ぶのは当たり前だろう。
そういうことで、コートを取りに部屋に戻ることにしたのであった。あー寒い寒い。
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