五条悟の姉で奴隷
揺
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「なんてこともあったんだよな〜」
「突然何の話?」
「俺が姉ちゃん大好きって話」
「それは皆知ってる」
快晴の空の下、グラウンドの中心で後輩相手に組手を行う姉の姿を、親友と並んで座りながら眺めていた。
光に照らされると何となく角度によって色が変わるように見える白い髪も、色素の薄い瞳も、綺麗に上がる口角も、あの頃から姉の身は何一つ変わっていなかった。
それもそのはず、姉は俺のコピーでありスペアパーツだったからだ。
あの身体に存在する遺伝子は俺の物だ。
髪も、瞳も、指先も、全て俺を元に作られ産み出され、そうして今こうして俺の願った通りに側に居てくれている。
姉は俺より後に産まれた訳だが、俺はその真実を知ってなおあの人を「姉ちゃん」と呼んだ。
大切なのは役割だ、姉ちゃんは姉ちゃんだ、奴隷じゃなくて姉。俺の大切で愛しい人。
ってことを伝えたいんだけど、これが中々伝わらなくて困っている。
俺が高専に行く時に多方面に我儘をぶっこきまくって一緒に連れて来た姉ちゃんは、高専の術師をやりながら生徒の面倒を見る補助教員的な役割を担っている。
これまではずっとずっと俺だけを相手に愛情を注ぎ続けて来た姉であったが、元来の人間好きが祟り、高専に来てからは大体の人が自分に好意的な状況になったためか、あっちにフラフラこっちにフラフラ状態だ。
自分を慕ってくれるのが嬉しいらしく、俺の同期や一個下の後輩全員にメロメロ状態であり、頼めば「任せなさい」と何でも請け負っている。
俺が「姉ちゃん」と呼ぶせいで、勝手に周りも俺の許可無く姉と呼ぶので、「可愛い妹や弟が増えて嬉しい」と日夜幸せそうだ。ふざけんな。ぶっ飛ばすぞ全員。
今もそうだ、組手を終え、灰原にあれやこれや助言をしたかと思えば、灰原の元気な「はい!ありがとうございますお姉さん!!」の返事にだらしなくニコニコとスマイル全開になった姉は、アイツの頭をよしよしとワシャワシャ撫で始めた。
ふっっっっざけんな、俺以外の頭撫でんな、てか俺以外に姉呼びされて喜ぶなよ。
「イライラしてきた」
「何処が?」
「チンコ」
「法違反者が」
だって姉ちゃんの笑ってる顔世界で一番可愛いんだもん、そりゃチンコの一つや二つイライラするでしょ。
「よく同じ顔の人間に欲情出来るね」
「完璧な顔面だからさぁ…」
あとおっぱいも丁度良い大きさだし、ケツは小さくて可愛いし、脚は白くてスベスベで、相変わらず血生臭い時は多いけどそれはもう慣れたし。
大体肉体年齢が同じくらいになって来たから、やはり悶々とそういうことを考えてしまう。
もっと一緒に風呂入ったこととか覚えときゃ良かった。
「交代だよー!」
灰原と姉ちゃんのやり取りはいつの間にか終わっていたらしく、今度は俺達の番だと手招きする。
二人揃って立ち上がるが、俺の方が先に姉ちゃんの側に駆け寄って行った。先に着かれるのはなんか負けた気になりそうでやだ。
「俺も姉ちゃんとナカヨシした〜い」
「悟くんは夏油くんとナカヨシして下さい、さあ我々は見学に戻ろうか」
「はい!!」
昔は何だって願いを叶えてくれるっつったのに、今はこれである。
俺の可愛い我儘は儚く却下された。
許せない、後でめちゃめちゃ構って貰えなかったから夜に教員用の寮まで枕持って行ってやる。
とりあえず傑に勝って良い所を見せなければ、お前の弟は可愛くて格好良くてモテまくりなうえに最強だって教えてやるよ。
「あ、悟くん、無敵バリアはナシだからね」
「は!?なんで!」
「それから夏油くんと喧嘩しないように」
「任せて下さいお姉さん」
「おい姉ちゃんの肩触んな!!」
なにナチュラルに肩に手置いてんだ、今すぐ離れろ5m距離取れ!!
身長差のせいで傑を見上げながらミラクルハイパーキュートなスマイル全開で「お願いしたよ」と頼まれている傑は仏のような笑みを浮かべていた。
俺の許可無く見つめ合って微笑みを交わすな!つか、仲良し過ぎるだろどいつもこいつも、少しは遠慮しろ!!
姉ちゃんも姉ちゃんだ、自分を姉扱いしてくれる奴相手には誰彼構わずデレデレしまくりやがって、昔は………いや、姉ちゃんは昔から自分より小さい子供相手にはデレデレしていたな、今更か、しかし悔しい事には変わらない。
徐々に遠下がる姉の背中を満たされない思いで眺めていれば、傑が「さっさとやろう」と言い出したので、仕方無く視線を外した。
後で絶対頭を撫でて貰おう、じゃなきゃ気が済まない。
ついでに沢山ハグもするし、頑張りを褒めちぎって貰い、そして夜は添い寝して貰わなくては。
何のために高専まで連れて来たかって、このため以外に他に無い。やっとこ誰にも文句を言われず好き放題出来る環境になったのだから、これでもかと甘やかしてくれなきゃ嫌だ、拗ねる。てかもう拗ねてる。五条"さとる"ならぬ、五条"すねる"に改名してやろうか。
チラチラと姉を意識しながら組手を始めれば、案の定すぐに傑からの顔面クリーンヒットがキマり、俺は仰け反った。
仰け反った拍子に見た姉は、ちゃんと解説しているのだろう。俺達に指を差しながら口を動かしていた。
痛みに顔を顰めながら、ふと思う。
姉ちゃん、いつになったらあのダセェ赤いパーカーを卒業するんだろうか…。
…
姉ちゃんによる甘やかしタイム突入!
ということで、前々から気になっていた赤いパーカーについて尋ねてみることにした。
記憶にある限り、姉ちゃんは大体ダセェ赤いパーカーを着ている。
赤いパーカー、普通のスカート、普通の靴下、確か下着もダサかった記憶。
「ダメかなぁ」
「正直言うとマジでダサい」
「そうかなぁ」
案の定、本人は全く気にしていないらしい。
俺だって言いたかないけど、でも浮きまくりなんだから弟として言っとかないと不味いかと思って。
呪術師の仕事は命懸けだ、だから良い給料が出る。所謂、危険手当みたいなものだ。
以前の、俺のために毎日せっせと出来上がった死体を数えている姉ならいざ知らず、今は列記とした高専所属の呪術師なわけで、だったらそれなりの給料も貰っているはずなのに、何故相変わらず安そうな赤いパーカーなのか。
姉の肩に寄りかかり、チョコレートを口の中で溶かしながらその事を問い掛ければ、首を傾げながら「お給料は貰ってませんよ?」と言った。
「……は?」
え、は…?
いきなりのブッ飛んだ情報に、思考が上手く働かなくなる。
ちょっと待って、待って、は?なに?俺の姉ちゃん無賃労働させられてんの!?
高専?いや、家の方が給料持っててる…?どっちだ、どっちにしろ問題しかない、ふざけんな俺の姉ちゃんなんだと思ってんだ。
肩に預けていた頭を上げ、俺が持ってきたMorozoffのチョコレートセットの前で指を彷徨わせている姉の肩をひっつかみ揺すった。
「なんで給料未払いなの!」
「いやぁ…」
「笑っても誤魔化せないから、ちゃんと言うまで俺、部屋帰んないから」
「…言いづらいんだけど、実は…」
目線をウロつかせ、言い淀みながらも話し出す。
「お姉ちゃんの今の所有権は悟くんにあるので」
「うん」
「稼いだお金は悟くんの方に行っていて」
「…は?なんで?」
「会社で例えるなら、悟くんが社長で私は部下なのね。だから稼いだお金は会社に入り…」
…つまり、俺は給料未払い社長ってこと?
不味い、どうしよう、全く知らなかった。
通帳なんてそんな頻繁に見ないし、そもそも何で言ってくれなかった…あ、いや、そういえば高専来る時に家の奴に言われたような記憶が…やべ、姉ちゃんに「望むもの全て与える」とか言ったのに給料すら与えていなかったのか…。
両手で顔を覆い、項垂れる。
「なんで言ってくんなかったの…」
「私のすべては可愛い弟のためにあるのだから、いいんだよ」
「よくねぇ〜〜〜〜」
バタンッ
後ろにひっくり返り、そのまま姉の方にゴロンと転がれば、頭の上に降りてきた手が俺を慰めるように髪を混ぜながら優しく動いた。
絆される訳にはいかないと頭では分かっていても、身体は勝手に戯れるように姉の手に甘えたがり、手のひらに頭をグリグリと押し付けて「もっとやれ」と訴えてしまう。
甲斐性の無い弟過ぎる、今からでも財布に入ってる金全部渡したい。あ、でもカード以外は小銭しか無かったかもしれねぇ、最悪、どうすりゃいいんだ。
考えてもどうにもならず、何とも格好の付かない声で「姉ちゃん〜〜」と呼べば、「じゃあ一個我儘を言ってみようかな」と愉しげな声で言った姉に驚き、瞬間的に身を起こした。
今までこんな事を言い出したことの無い人なので、思わず瞳を大きく見開いてしまう。
瞳に写る姉は、いつも通りニコニコと完璧な微笑みを浮かべていた。
「お姉ちゃん、新しい靴が欲しいかも」
「他には?」
「えっと……とくに…」
「分かった、仕事着と普段着と寝間着と俺とデートする時の服と俺好みの下着と俺とお揃いのアクセサリーと…」
「い、いらな、」
「絶対全部買うから」
あとこの部屋何も無いから、クッションと小さいソファと壁掛け時計くらいは買う。
他には何が必要だろうか、姉ちゃんを上から下までマジマジと見る。
改めて見ると、自分を縮めて女にしたらこんな感じになるのかもしれないと思った。
文学的でも理論的でも無い、つまらないありふれた感想しか出て来ないくらいには、俺と姉ちゃんはよく似ている。
石英のごとき輝きを纏う白い髪と、星の光を纏うような色素の薄い瞳。長い睫毛に筋の通った形の良い鼻、つまり俺。しかして女。
そんなこの世の美を集められるだけ集めて形作られたのでは無いのかと言わんばかりの成りをした人は、元々は俺の一部だったというのだから面白い話だ。
姉の願いは単純だ、いつか俺の一部になりたいらしい。
俺の細胞から産まれたからだろうか、回帰願望みたいなものだんだろう。
だからきっと、捧げられる物は際限無く全て捧げようとしてくる。
俺が与えない限り、姉は俺に貢ぎっぱなしなのだ。
だから今度は俺のターン。
めちゃめちゃ貢いで貢いで貢ぎまくってやる。
そんで、世界一幸せな女にしてやる。
「突然何の話?」
「俺が姉ちゃん大好きって話」
「それは皆知ってる」
快晴の空の下、グラウンドの中心で後輩相手に組手を行う姉の姿を、親友と並んで座りながら眺めていた。
光に照らされると何となく角度によって色が変わるように見える白い髪も、色素の薄い瞳も、綺麗に上がる口角も、あの頃から姉の身は何一つ変わっていなかった。
それもそのはず、姉は俺のコピーでありスペアパーツだったからだ。
あの身体に存在する遺伝子は俺の物だ。
髪も、瞳も、指先も、全て俺を元に作られ産み出され、そうして今こうして俺の願った通りに側に居てくれている。
姉は俺より後に産まれた訳だが、俺はその真実を知ってなおあの人を「姉ちゃん」と呼んだ。
大切なのは役割だ、姉ちゃんは姉ちゃんだ、奴隷じゃなくて姉。俺の大切で愛しい人。
ってことを伝えたいんだけど、これが中々伝わらなくて困っている。
俺が高専に行く時に多方面に我儘をぶっこきまくって一緒に連れて来た姉ちゃんは、高専の術師をやりながら生徒の面倒を見る補助教員的な役割を担っている。
これまではずっとずっと俺だけを相手に愛情を注ぎ続けて来た姉であったが、元来の人間好きが祟り、高専に来てからは大体の人が自分に好意的な状況になったためか、あっちにフラフラこっちにフラフラ状態だ。
自分を慕ってくれるのが嬉しいらしく、俺の同期や一個下の後輩全員にメロメロ状態であり、頼めば「任せなさい」と何でも請け負っている。
俺が「姉ちゃん」と呼ぶせいで、勝手に周りも俺の許可無く姉と呼ぶので、「可愛い妹や弟が増えて嬉しい」と日夜幸せそうだ。ふざけんな。ぶっ飛ばすぞ全員。
今もそうだ、組手を終え、灰原にあれやこれや助言をしたかと思えば、灰原の元気な「はい!ありがとうございますお姉さん!!」の返事にだらしなくニコニコとスマイル全開になった姉は、アイツの頭をよしよしとワシャワシャ撫で始めた。
ふっっっっざけんな、俺以外の頭撫でんな、てか俺以外に姉呼びされて喜ぶなよ。
「イライラしてきた」
「何処が?」
「チンコ」
「法違反者が」
だって姉ちゃんの笑ってる顔世界で一番可愛いんだもん、そりゃチンコの一つや二つイライラするでしょ。
「よく同じ顔の人間に欲情出来るね」
「完璧な顔面だからさぁ…」
あとおっぱいも丁度良い大きさだし、ケツは小さくて可愛いし、脚は白くてスベスベで、相変わらず血生臭い時は多いけどそれはもう慣れたし。
大体肉体年齢が同じくらいになって来たから、やはり悶々とそういうことを考えてしまう。
もっと一緒に風呂入ったこととか覚えときゃ良かった。
「交代だよー!」
灰原と姉ちゃんのやり取りはいつの間にか終わっていたらしく、今度は俺達の番だと手招きする。
二人揃って立ち上がるが、俺の方が先に姉ちゃんの側に駆け寄って行った。先に着かれるのはなんか負けた気になりそうでやだ。
「俺も姉ちゃんとナカヨシした〜い」
「悟くんは夏油くんとナカヨシして下さい、さあ我々は見学に戻ろうか」
「はい!!」
昔は何だって願いを叶えてくれるっつったのに、今はこれである。
俺の可愛い我儘は儚く却下された。
許せない、後でめちゃめちゃ構って貰えなかったから夜に教員用の寮まで枕持って行ってやる。
とりあえず傑に勝って良い所を見せなければ、お前の弟は可愛くて格好良くてモテまくりなうえに最強だって教えてやるよ。
「あ、悟くん、無敵バリアはナシだからね」
「は!?なんで!」
「それから夏油くんと喧嘩しないように」
「任せて下さいお姉さん」
「おい姉ちゃんの肩触んな!!」
なにナチュラルに肩に手置いてんだ、今すぐ離れろ5m距離取れ!!
身長差のせいで傑を見上げながらミラクルハイパーキュートなスマイル全開で「お願いしたよ」と頼まれている傑は仏のような笑みを浮かべていた。
俺の許可無く見つめ合って微笑みを交わすな!つか、仲良し過ぎるだろどいつもこいつも、少しは遠慮しろ!!
姉ちゃんも姉ちゃんだ、自分を姉扱いしてくれる奴相手には誰彼構わずデレデレしまくりやがって、昔は………いや、姉ちゃんは昔から自分より小さい子供相手にはデレデレしていたな、今更か、しかし悔しい事には変わらない。
徐々に遠下がる姉の背中を満たされない思いで眺めていれば、傑が「さっさとやろう」と言い出したので、仕方無く視線を外した。
後で絶対頭を撫でて貰おう、じゃなきゃ気が済まない。
ついでに沢山ハグもするし、頑張りを褒めちぎって貰い、そして夜は添い寝して貰わなくては。
何のために高専まで連れて来たかって、このため以外に他に無い。やっとこ誰にも文句を言われず好き放題出来る環境になったのだから、これでもかと甘やかしてくれなきゃ嫌だ、拗ねる。てかもう拗ねてる。五条"さとる"ならぬ、五条"すねる"に改名してやろうか。
チラチラと姉を意識しながら組手を始めれば、案の定すぐに傑からの顔面クリーンヒットがキマり、俺は仰け反った。
仰け反った拍子に見た姉は、ちゃんと解説しているのだろう。俺達に指を差しながら口を動かしていた。
痛みに顔を顰めながら、ふと思う。
姉ちゃん、いつになったらあのダセェ赤いパーカーを卒業するんだろうか…。
…
姉ちゃんによる甘やかしタイム突入!
ということで、前々から気になっていた赤いパーカーについて尋ねてみることにした。
記憶にある限り、姉ちゃんは大体ダセェ赤いパーカーを着ている。
赤いパーカー、普通のスカート、普通の靴下、確か下着もダサかった記憶。
「ダメかなぁ」
「正直言うとマジでダサい」
「そうかなぁ」
案の定、本人は全く気にしていないらしい。
俺だって言いたかないけど、でも浮きまくりなんだから弟として言っとかないと不味いかと思って。
呪術師の仕事は命懸けだ、だから良い給料が出る。所謂、危険手当みたいなものだ。
以前の、俺のために毎日せっせと出来上がった死体を数えている姉ならいざ知らず、今は列記とした高専所属の呪術師なわけで、だったらそれなりの給料も貰っているはずなのに、何故相変わらず安そうな赤いパーカーなのか。
姉の肩に寄りかかり、チョコレートを口の中で溶かしながらその事を問い掛ければ、首を傾げながら「お給料は貰ってませんよ?」と言った。
「……は?」
え、は…?
いきなりのブッ飛んだ情報に、思考が上手く働かなくなる。
ちょっと待って、待って、は?なに?俺の姉ちゃん無賃労働させられてんの!?
高専?いや、家の方が給料持っててる…?どっちだ、どっちにしろ問題しかない、ふざけんな俺の姉ちゃんなんだと思ってんだ。
肩に預けていた頭を上げ、俺が持ってきたMorozoffのチョコレートセットの前で指を彷徨わせている姉の肩をひっつかみ揺すった。
「なんで給料未払いなの!」
「いやぁ…」
「笑っても誤魔化せないから、ちゃんと言うまで俺、部屋帰んないから」
「…言いづらいんだけど、実は…」
目線をウロつかせ、言い淀みながらも話し出す。
「お姉ちゃんの今の所有権は悟くんにあるので」
「うん」
「稼いだお金は悟くんの方に行っていて」
「…は?なんで?」
「会社で例えるなら、悟くんが社長で私は部下なのね。だから稼いだお金は会社に入り…」
…つまり、俺は給料未払い社長ってこと?
不味い、どうしよう、全く知らなかった。
通帳なんてそんな頻繁に見ないし、そもそも何で言ってくれなかった…あ、いや、そういえば高専来る時に家の奴に言われたような記憶が…やべ、姉ちゃんに「望むもの全て与える」とか言ったのに給料すら与えていなかったのか…。
両手で顔を覆い、項垂れる。
「なんで言ってくんなかったの…」
「私のすべては可愛い弟のためにあるのだから、いいんだよ」
「よくねぇ〜〜〜〜」
バタンッ
後ろにひっくり返り、そのまま姉の方にゴロンと転がれば、頭の上に降りてきた手が俺を慰めるように髪を混ぜながら優しく動いた。
絆される訳にはいかないと頭では分かっていても、身体は勝手に戯れるように姉の手に甘えたがり、手のひらに頭をグリグリと押し付けて「もっとやれ」と訴えてしまう。
甲斐性の無い弟過ぎる、今からでも財布に入ってる金全部渡したい。あ、でもカード以外は小銭しか無かったかもしれねぇ、最悪、どうすりゃいいんだ。
考えてもどうにもならず、何とも格好の付かない声で「姉ちゃん〜〜」と呼べば、「じゃあ一個我儘を言ってみようかな」と愉しげな声で言った姉に驚き、瞬間的に身を起こした。
今までこんな事を言い出したことの無い人なので、思わず瞳を大きく見開いてしまう。
瞳に写る姉は、いつも通りニコニコと完璧な微笑みを浮かべていた。
「お姉ちゃん、新しい靴が欲しいかも」
「他には?」
「えっと……とくに…」
「分かった、仕事着と普段着と寝間着と俺とデートする時の服と俺好みの下着と俺とお揃いのアクセサリーと…」
「い、いらな、」
「絶対全部買うから」
あとこの部屋何も無いから、クッションと小さいソファと壁掛け時計くらいは買う。
他には何が必要だろうか、姉ちゃんを上から下までマジマジと見る。
改めて見ると、自分を縮めて女にしたらこんな感じになるのかもしれないと思った。
文学的でも理論的でも無い、つまらないありふれた感想しか出て来ないくらいには、俺と姉ちゃんはよく似ている。
石英のごとき輝きを纏う白い髪と、星の光を纏うような色素の薄い瞳。長い睫毛に筋の通った形の良い鼻、つまり俺。しかして女。
そんなこの世の美を集められるだけ集めて形作られたのでは無いのかと言わんばかりの成りをした人は、元々は俺の一部だったというのだから面白い話だ。
姉の願いは単純だ、いつか俺の一部になりたいらしい。
俺の細胞から産まれたからだろうか、回帰願望みたいなものだんだろう。
だからきっと、捧げられる物は際限無く全て捧げようとしてくる。
俺が与えない限り、姉は俺に貢ぎっぱなしなのだ。
だから今度は俺のターン。
めちゃめちゃ貢いで貢いで貢ぎまくってやる。
そんで、世界一幸せな女にしてやる。