五条悟の姉で奴隷
揺
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眠りから目が覚めると、そこは知らない天井だった。
いや、よく似た天井は毎日のように目にするのだが、何となく違うような気のする天井だった。
ペロリ。
足の裏をザラついた舌が滑る。
頭上からはハッハッと荒い獣の息遣い。
フンフンと鳴る鼻がペチョリと頬に押し当てられ、思わず声を挙げた。
「擽ったいよ、お前達」
どうやら勝手に術式が発動していたらしい、自衛本能だろうか?まあ、何でも良いが…ここは…。
柔らく清潔な布団にふっくらとした枕、畳は青く、きちんと掃除の行き届いた和室。
まずもって、私の部屋では無いだろう。
私の使っている布団はもっとぺしゃんこで、畳は色褪せている。
あ、そういえば腹を刺されたんだっけか、他にも結構痛手を被っていたが…動くことには動けそうだ。
右手をグッパグッパと握り締めし、名残惜しいが布団から起き上がる。
霧のように消えていく獣の群れに手を振ってから伸びをした。
その時、いきなり軽い足音が聞こえてきたと思ったら、スパンッと勢いよく襖が開き、子供が一人転がるように部屋の中へ飛び込んで来た。
「揺ちゃん!起きたんか!!」
「……君は…禪院さん家の、直哉くん」
「俺がたすけたったんやで、俺が!」
ばふり。
布団の上に乗っかり、そのまま顔をグイッと近付けて来た幼い男児は、スンスン鼻を鳴らすと「犬くさ!」と顔を顰めた。
「風呂はいった方がええで、折角のべっぴんさんが台無しや」
「直哉くんは、本当にこの顔が好きだね…」
「うん、おかおだけは好きやで」
顔だけか…いや、この場合、顔だけでも気に入ってくれている事に感謝すべきなのかもしれない。
私は、五条悟の奴隷である前に、贋作だ。
彼に唯一無二の真なる価値があると判明した瞬間に製造されることが決定した、正真正銘の生きる予備パーツ。
この身に流れる血も、内臓も、皮膚も、全ては彼の「変え」になっても良いように調節されて生み出された。
だから、本来ならば私の方が生まれたのは後なのだ、だが同じ子供の身体では肉盾になれない。
だから、大人の身体サイズとなっている。
五条悟の遺伝子を改良されて生み出された私は、謂わばクローン体に近い。
だが、決定的に違う所がある。私の身体は人間と異なる発現方法をしていたのだ。
ここからは実験内容について説明をしよう。
最初に、五条悟の細胞に結合する植物性細胞を見つける所から実験は開始された。
まずもって貴重で優秀な遺伝子であるため、DNA情報を壊さぬよう慎重に事を運ばせなければならなかったらしい。
研究は大変素晴らしく、初動は順調であった、五条悟の細胞に適合する万能性細胞を発見出来たのだ。
だが、すぐに問題点が浮き上がる。細胞が適合出来ても遺伝子情報に癒着出来なければすぐに分離してしまうと言う点だ、そうすれば特別に用意した受精卵は破壊されてしまう。ではどうしたか、最終的には時間が足りずにミミズなどの「切断されても、ある状況下では生存可能な種」を元にそれを使って結合させた。つまりはこの時点で私は人間では無い。
実験は次の段階へ移る。
五条悟の遺伝子をより有効に使うためにはどうするのが最も良いか、研究者は考えた。
結果として、肉壁や衰えの無い内臓を用意しておきたいという家の意向と研究方向が一致すると言うことで、研究者は「五条悟遺伝子を持つモノを事実上の不老不死とする」ことを考えた。
まず行ったのは放射線実験である。応用したのは癌治療のための放射線研究、これを用いた実験の結果、細胞分裂が極端に遅くなる性質を持たせる事に成功。細胞の代謝が少ないため、老化の速度も遅くなる。
さらには前述して行ったミミズなどを代用とした実験により「千切れても元に戻る、複製可能」なことも明らかになった。
さらに実験は次の段階へと進んで行く。
残念なことにこの優秀な『五条悟の遺伝子を組み込んだ新生命体』は受精卵までは完成させられても、それを腹に留め産める母体が人間の女には存在しなかった。
強すぎたのだ、受精卵が。そのため、受精卵が相手の細胞を破壊してしまう。
であるため、研究者が用意した『人工子宮』を持って数年に渡る成長過程を経て、成長を終えた人の形として産み出し、息をさせると方向性となった。
実験は難航した、まず第一回目の実験では「肉体が小さすぎて内臓が収まりきらない」状態で産まれてしまい、僅か4秒で息を絶えた。
第二回目の実験では「思考力の無い植物、もしくは虫」として産まれてしまい、結果死に絶えた。
第三回目の実験では以前の問題点を踏まえ再調節を加えたが、精神バランスが整わず「自害」してしまった。己の心臓を己で止めてしまったのだ。
そして第四回目の実験にて私は産まれた。
放射線研究の段階まで巻き戻り、テロメアを消すところからやり直した。
結果産まれて来た私は、遺伝子がループ状になっており、テロメアがないことから老化することが無く、成人後はほとんど容姿に変化が無いことが確定済みである。
精神的な不具合も見当たらず、そのまま背中に「五条悟の奴隷」と特殊な焼き印を施されて、五条悟の姉としてあの家で生きる事となったのであった。
人間は好きだ、でも私は正しくは人間では無い。
だから、自分で自分を愛せなかった。
直哉くんに手を引かれ、風呂場まで連れて行かれる。
どうやらここは禪院家であったらしい、後で代表者の方に挨拶に行かなければなるまい。
迷惑を掛けてしまったこと、それから、どのツラ下げて帰れば良いのか、風呂に浸かりながら考えた。
五条家の人からしたら、私はもうただの厄介者なのだろう。
必要のない存在なのだ、あの家の何処にも居場所はない、価値もない。
産まれて来たことに後悔は無い。短いながら、素晴らしい人生を歩んで来たと自負している。
悟様と出会えたこと、悟様の姉になれたこと、あの人の人生に貢献出来たこと、五条悟に関わる全ての時間に感謝している。
本当に、あの子の事が大好きなんだと、細胞の一つ一つが訴える。
何よりも尊く、誰よりも愛している。
私の大切な主であり、弟であり、父である人間。
ずっとお側に居たいけれど、それを誰も望んでいないのならば、居られない。
奴隷の分際で我儘なんて言えるはずがない。
そもそも、私はただの人格が備わっただけの肉袋だ。
必要とされないのならば、私はただのゴミでしかないだろう。
いや、よく似た天井は毎日のように目にするのだが、何となく違うような気のする天井だった。
ペロリ。
足の裏をザラついた舌が滑る。
頭上からはハッハッと荒い獣の息遣い。
フンフンと鳴る鼻がペチョリと頬に押し当てられ、思わず声を挙げた。
「擽ったいよ、お前達」
どうやら勝手に術式が発動していたらしい、自衛本能だろうか?まあ、何でも良いが…ここは…。
柔らく清潔な布団にふっくらとした枕、畳は青く、きちんと掃除の行き届いた和室。
まずもって、私の部屋では無いだろう。
私の使っている布団はもっとぺしゃんこで、畳は色褪せている。
あ、そういえば腹を刺されたんだっけか、他にも結構痛手を被っていたが…動くことには動けそうだ。
右手をグッパグッパと握り締めし、名残惜しいが布団から起き上がる。
霧のように消えていく獣の群れに手を振ってから伸びをした。
その時、いきなり軽い足音が聞こえてきたと思ったら、スパンッと勢いよく襖が開き、子供が一人転がるように部屋の中へ飛び込んで来た。
「揺ちゃん!起きたんか!!」
「……君は…禪院さん家の、直哉くん」
「俺がたすけたったんやで、俺が!」
ばふり。
布団の上に乗っかり、そのまま顔をグイッと近付けて来た幼い男児は、スンスン鼻を鳴らすと「犬くさ!」と顔を顰めた。
「風呂はいった方がええで、折角のべっぴんさんが台無しや」
「直哉くんは、本当にこの顔が好きだね…」
「うん、おかおだけは好きやで」
顔だけか…いや、この場合、顔だけでも気に入ってくれている事に感謝すべきなのかもしれない。
私は、五条悟の奴隷である前に、贋作だ。
彼に唯一無二の真なる価値があると判明した瞬間に製造されることが決定した、正真正銘の生きる予備パーツ。
この身に流れる血も、内臓も、皮膚も、全ては彼の「変え」になっても良いように調節されて生み出された。
だから、本来ならば私の方が生まれたのは後なのだ、だが同じ子供の身体では肉盾になれない。
だから、大人の身体サイズとなっている。
五条悟の遺伝子を改良されて生み出された私は、謂わばクローン体に近い。
だが、決定的に違う所がある。私の身体は人間と異なる発現方法をしていたのだ。
ここからは実験内容について説明をしよう。
最初に、五条悟の細胞に結合する植物性細胞を見つける所から実験は開始された。
まずもって貴重で優秀な遺伝子であるため、DNA情報を壊さぬよう慎重に事を運ばせなければならなかったらしい。
研究は大変素晴らしく、初動は順調であった、五条悟の細胞に適合する万能性細胞を発見出来たのだ。
だが、すぐに問題点が浮き上がる。細胞が適合出来ても遺伝子情報に癒着出来なければすぐに分離してしまうと言う点だ、そうすれば特別に用意した受精卵は破壊されてしまう。ではどうしたか、最終的には時間が足りずにミミズなどの「切断されても、ある状況下では生存可能な種」を元にそれを使って結合させた。つまりはこの時点で私は人間では無い。
実験は次の段階へ移る。
五条悟の遺伝子をより有効に使うためにはどうするのが最も良いか、研究者は考えた。
結果として、肉壁や衰えの無い内臓を用意しておきたいという家の意向と研究方向が一致すると言うことで、研究者は「五条悟遺伝子を持つモノを事実上の不老不死とする」ことを考えた。
まず行ったのは放射線実験である。応用したのは癌治療のための放射線研究、これを用いた実験の結果、細胞分裂が極端に遅くなる性質を持たせる事に成功。細胞の代謝が少ないため、老化の速度も遅くなる。
さらには前述して行ったミミズなどを代用とした実験により「千切れても元に戻る、複製可能」なことも明らかになった。
さらに実験は次の段階へと進んで行く。
残念なことにこの優秀な『五条悟の遺伝子を組み込んだ新生命体』は受精卵までは完成させられても、それを腹に留め産める母体が人間の女には存在しなかった。
強すぎたのだ、受精卵が。そのため、受精卵が相手の細胞を破壊してしまう。
であるため、研究者が用意した『人工子宮』を持って数年に渡る成長過程を経て、成長を終えた人の形として産み出し、息をさせると方向性となった。
実験は難航した、まず第一回目の実験では「肉体が小さすぎて内臓が収まりきらない」状態で産まれてしまい、僅か4秒で息を絶えた。
第二回目の実験では「思考力の無い植物、もしくは虫」として産まれてしまい、結果死に絶えた。
第三回目の実験では以前の問題点を踏まえ再調節を加えたが、精神バランスが整わず「自害」してしまった。己の心臓を己で止めてしまったのだ。
そして第四回目の実験にて私は産まれた。
放射線研究の段階まで巻き戻り、テロメアを消すところからやり直した。
結果産まれて来た私は、遺伝子がループ状になっており、テロメアがないことから老化することが無く、成人後はほとんど容姿に変化が無いことが確定済みである。
精神的な不具合も見当たらず、そのまま背中に「五条悟の奴隷」と特殊な焼き印を施されて、五条悟の姉としてあの家で生きる事となったのであった。
人間は好きだ、でも私は正しくは人間では無い。
だから、自分で自分を愛せなかった。
直哉くんに手を引かれ、風呂場まで連れて行かれる。
どうやらここは禪院家であったらしい、後で代表者の方に挨拶に行かなければなるまい。
迷惑を掛けてしまったこと、それから、どのツラ下げて帰れば良いのか、風呂に浸かりながら考えた。
五条家の人からしたら、私はもうただの厄介者なのだろう。
必要のない存在なのだ、あの家の何処にも居場所はない、価値もない。
産まれて来たことに後悔は無い。短いながら、素晴らしい人生を歩んで来たと自負している。
悟様と出会えたこと、悟様の姉になれたこと、あの人の人生に貢献出来たこと、五条悟に関わる全ての時間に感謝している。
本当に、あの子の事が大好きなんだと、細胞の一つ一つが訴える。
何よりも尊く、誰よりも愛している。
私の大切な主であり、弟であり、父である人間。
ずっとお側に居たいけれど、それを誰も望んでいないのならば、居られない。
奴隷の分際で我儘なんて言えるはずがない。
そもそも、私はただの人格が備わっただけの肉袋だ。
必要とされないのならば、私はただのゴミでしかないだろう。