五条悟の姉で奴隷
揺
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
姉が帰って来ない。
昼と夕方の境目くらいの時間帯に家を出た姉が、2日経ったのに帰って来ない。
近場の仕事だからすぐに帰れるよ、と言っていたのを確かに記憶している。
姉は仕事人間だ、どんな時でも仕事を優先する。俺の我儘よりも優先する時だってある。
真面目に淡々と、同じ動きを繰り返す感情の湧かない作業のように、俺のために人を殺し続けている。
不毛だと思った。
真面目にやっている仕事に対して言うのも悪いが、姉がいくら俺のために手を汚したって、俺を狙って来る奴は減らない。
そんなことをするくらいならば、もっと俺の側に居て欲しい。朝も昼も夜も、好きな時にくっついて甘えて、俺が撫でて欲しいと思った時に撫でて抱き締めて欲しかった。
俺がさっさと強くなれば話は全て解決するんじゃないかと、最近になって気付いたので、密かに訓練の時間を増やしたりした。
姉はあんな感じの人だから、きっとこの健気な頑張りにも気付いていないだろう。
だから、姉が帰って来たら理由も言わずにとにかく甘え倒してやろうと考えていたのに、待てども待てども姉はとうとう2日経っても帰って来なかった。
廊下の向こうから、大人達の声が聞こえる。
「帰って来なくて清々する」
「やっと死んだか、あの獣め」
「一体、何処で野垂れ死んでいるのやら」
「どちらにせよ、あんな物必要無かったのだ」
「悟様のレプリカなんぞ、最初からいらなかったのだ」
ボト、
姉が帰って来たら食べさせてやろうと思って隠していたオヤツが手から滑り落ちて、廊下を汚した。
あの人は、俺が食べる物より遥かに粗末な物しか食べていないから、食わせてやろうと思ったのだ。
いつからだ、いつからだろう、そういえば…いつからあの人は俺の側に居たのだっけ。
一番古い記憶にあるあの人は、今と何一つ変わらぬ姿をしていた。
さらに思い出そうとするも、吐き気がこみ上げてくる。
口元を手のひらで抑え付け、身体を丸めながらその場に小さくしゃがみこんだ。
さとるさまのれぷりかってなんだ。
俺の贋作?誰が、姉ちゃんが?
いや、そもそも…あの人は、本当に俺の姉なのか?
造形だけは似ている。
いや、似すぎている。
そういえば、髪が伸びた所を見たことが無い。
爪を切っている所すら見たことが無い。
最初からあの形だった、ずっと。
あの人間は、一体何者だ。
___
愛ほど歪んだ呪いは無い。
悟とはじめて出会ったのは、彼がまだ今よりもっと幼い時だった。
彼の側近の世話役から始まり、母や父、祖父母等の方々の前に連れて来られた私は、酷く怯えていたと思う。
「まあ、美しい!」
誰かが言った、その言葉の意味を私は知らない。
「これが悟様のスペアパーツ?素晴らしい出来ね」
「皮膚も血も内臓も、変わりになるのだろう?」
「見た目は成人した女の身体なのか、時が来たら性教育にも安心して使えるな」
下瞼を指で下げるように抑え付け、瞳を覗き込まれる。
指の先から肩まで、様々な手が触れる。
胸を、尻を、太腿を、腰を、腹を、幾つもの指が蠢いて這う。
不快感という言葉すら教えられず、意識を覚醒させて半日の私はただただ先程教えられた通りにひたすら気色の悪さから耐え続けた。
「挨拶は出来ないのか?」
「出来ますとも」
後ろに立つ男が答える。
「挨拶をしろ」と言われ、先程覚えさせられた言葉を口に出す。
「はじめ、まし、て」
私の言葉に、思い思いの反応が返ってくる。
気味が悪い、人間より優秀になったらどうするのだ、美しい、欲しい、味見をさせろ。
ざわめきの中心でひたすらに呼吸を繰り返す。
心臓の鼓動を感じる、吐き出す息は重く、吸う空気には煙が混じっており肺を痛くする。
これが、生きるということか。
私は、この人間達のために生きていくのか。
背中に押された烙印が酷く痛んだ気がしたが、痛みを訴える言葉すら与えられなかった私は、ただひたすらに覚えた言葉を反復する。
奴隷、私は奴隷。
五条悟のレプリカで、スペアパーツ。
「こんなに美しいと色々心配になってくるわ、ねえ貴女」
女が私の顔を掴み、微笑みながら言う。
「悟様のために早く死んで頂戴ね」
生まれて半日の身で、死を願われる。
私は理解する。
そうか、これが人間なのか。
他者のために犠牲を願い、他者の幸福のために下位生命を捧げる。そうやって成り立っているんだ、人間というものは。
私は彼等が言う「悟様」のための奴隷であり犠牲であり贄として生み出されたのだから、死ぬのは当たり前のことなんだ。
彼等は当たり前のことを、私に願っているに過ぎないのだ。
覚えた言葉を思い出す。
私は女の完璧なまでの笑みを真似ながら言った。
「揺は立派にお役目を務めてみせます」
そうあれかしと望まれているのならば、従おう。
人間よりも下位の生命として、奴隷のように、獣のように、生きてやろう。
人間は好きだ。
他人の幸福のために私を生み出し、死を願う浅はかさ、何と健気で愛しいことか。
馬鹿で惨めで愚かでどうしようも無い生命体、お前達のために私は生きてやろう。
いつか、お前達の願い通りに死んでやろう。
それまでは決して死ぬものか。
お前達の魂が歪むまで、愛してやる。
美しいその血を啜り、命が耐える瞬間を聞きながら、笑ってやる。
そうして最後はお前等が嘲笑う、下位生命体である獣の餌にでもしてやろう。
昼と夕方の境目くらいの時間帯に家を出た姉が、2日経ったのに帰って来ない。
近場の仕事だからすぐに帰れるよ、と言っていたのを確かに記憶している。
姉は仕事人間だ、どんな時でも仕事を優先する。俺の我儘よりも優先する時だってある。
真面目に淡々と、同じ動きを繰り返す感情の湧かない作業のように、俺のために人を殺し続けている。
不毛だと思った。
真面目にやっている仕事に対して言うのも悪いが、姉がいくら俺のために手を汚したって、俺を狙って来る奴は減らない。
そんなことをするくらいならば、もっと俺の側に居て欲しい。朝も昼も夜も、好きな時にくっついて甘えて、俺が撫でて欲しいと思った時に撫でて抱き締めて欲しかった。
俺がさっさと強くなれば話は全て解決するんじゃないかと、最近になって気付いたので、密かに訓練の時間を増やしたりした。
姉はあんな感じの人だから、きっとこの健気な頑張りにも気付いていないだろう。
だから、姉が帰って来たら理由も言わずにとにかく甘え倒してやろうと考えていたのに、待てども待てども姉はとうとう2日経っても帰って来なかった。
廊下の向こうから、大人達の声が聞こえる。
「帰って来なくて清々する」
「やっと死んだか、あの獣め」
「一体、何処で野垂れ死んでいるのやら」
「どちらにせよ、あんな物必要無かったのだ」
「悟様のレプリカなんぞ、最初からいらなかったのだ」
ボト、
姉が帰って来たら食べさせてやろうと思って隠していたオヤツが手から滑り落ちて、廊下を汚した。
あの人は、俺が食べる物より遥かに粗末な物しか食べていないから、食わせてやろうと思ったのだ。
いつからだ、いつからだろう、そういえば…いつからあの人は俺の側に居たのだっけ。
一番古い記憶にあるあの人は、今と何一つ変わらぬ姿をしていた。
さらに思い出そうとするも、吐き気がこみ上げてくる。
口元を手のひらで抑え付け、身体を丸めながらその場に小さくしゃがみこんだ。
さとるさまのれぷりかってなんだ。
俺の贋作?誰が、姉ちゃんが?
いや、そもそも…あの人は、本当に俺の姉なのか?
造形だけは似ている。
いや、似すぎている。
そういえば、髪が伸びた所を見たことが無い。
爪を切っている所すら見たことが無い。
最初からあの形だった、ずっと。
あの人間は、一体何者だ。
___
愛ほど歪んだ呪いは無い。
悟とはじめて出会ったのは、彼がまだ今よりもっと幼い時だった。
彼の側近の世話役から始まり、母や父、祖父母等の方々の前に連れて来られた私は、酷く怯えていたと思う。
「まあ、美しい!」
誰かが言った、その言葉の意味を私は知らない。
「これが悟様のスペアパーツ?素晴らしい出来ね」
「皮膚も血も内臓も、変わりになるのだろう?」
「見た目は成人した女の身体なのか、時が来たら性教育にも安心して使えるな」
下瞼を指で下げるように抑え付け、瞳を覗き込まれる。
指の先から肩まで、様々な手が触れる。
胸を、尻を、太腿を、腰を、腹を、幾つもの指が蠢いて這う。
不快感という言葉すら教えられず、意識を覚醒させて半日の私はただただ先程教えられた通りにひたすら気色の悪さから耐え続けた。
「挨拶は出来ないのか?」
「出来ますとも」
後ろに立つ男が答える。
「挨拶をしろ」と言われ、先程覚えさせられた言葉を口に出す。
「はじめ、まし、て」
私の言葉に、思い思いの反応が返ってくる。
気味が悪い、人間より優秀になったらどうするのだ、美しい、欲しい、味見をさせろ。
ざわめきの中心でひたすらに呼吸を繰り返す。
心臓の鼓動を感じる、吐き出す息は重く、吸う空気には煙が混じっており肺を痛くする。
これが、生きるということか。
私は、この人間達のために生きていくのか。
背中に押された烙印が酷く痛んだ気がしたが、痛みを訴える言葉すら与えられなかった私は、ただひたすらに覚えた言葉を反復する。
奴隷、私は奴隷。
五条悟のレプリカで、スペアパーツ。
「こんなに美しいと色々心配になってくるわ、ねえ貴女」
女が私の顔を掴み、微笑みながら言う。
「悟様のために早く死んで頂戴ね」
生まれて半日の身で、死を願われる。
私は理解する。
そうか、これが人間なのか。
他者のために犠牲を願い、他者の幸福のために下位生命を捧げる。そうやって成り立っているんだ、人間というものは。
私は彼等が言う「悟様」のための奴隷であり犠牲であり贄として生み出されたのだから、死ぬのは当たり前のことなんだ。
彼等は当たり前のことを、私に願っているに過ぎないのだ。
覚えた言葉を思い出す。
私は女の完璧なまでの笑みを真似ながら言った。
「揺は立派にお役目を務めてみせます」
そうあれかしと望まれているのならば、従おう。
人間よりも下位の生命として、奴隷のように、獣のように、生きてやろう。
人間は好きだ。
他人の幸福のために私を生み出し、死を願う浅はかさ、何と健気で愛しいことか。
馬鹿で惨めで愚かでどうしようも無い生命体、お前達のために私は生きてやろう。
いつか、お前達の願い通りに死んでやろう。
それまでは決して死ぬものか。
お前達の魂が歪むまで、愛してやる。
美しいその血を啜り、命が耐える瞬間を聞きながら、笑ってやる。
そうして最後はお前等が嘲笑う、下位生命体である獣の餌にでもしてやろう。