番外編
揺
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(大人になってからの話)
立て続けに入った任務のせいでまともに家に帰れなかったが、今日やっと詰まっていた業務の全てが終わり、久々に我が家へと帰って来た。
時刻は夕方6時過ぎ、帰り道に買った可愛らしいケーキの入った箱を片手に玄関の扉を潜る。
「たっだいま〜!可愛い可愛い弟が帰って来たよー……って、」
なにしてんの?
リビングでは、ブルーシートを広げその上に何足も靴を並べている光景が広がっていた。
そして、そんな靴に囲まれた景色の中央でひっくり返る姉の足には何故か僕の靴がハマっていた。
これは…どういう状況なのだろうか、一体どうし…あ、いや、そういえば数日前に暇がある時で良いから靴磨きをしておいてくれと頼んだんだった。
いや、でも、だからってひっくり返っている状況はよく分からないのだけれど。
僕の声に気付いた姉は、ハッとしながら起き上がり、頭を擦りながら口を開く。
「おかえりなさいませ、若様」
「うん、いつも言ってるけどもう当主だから、あと名前で呼んで、敬語もダメ」
「ああ、えっと…おかえり、悟…」
はにかむように、しかし幸せそうに笑みを浮かべる姉から「お仕事ご苦労さま」と、労りの言葉を受け取る。
うーん、流石僕の遺伝子から作られた自慢の一品…顔面国宝…いや、顔面文化遺産。後の世まで語り継ぎたい可愛さの笑顔……。
んで、どうやら姉は後頭部を打ったらしく、痛そうに自分で撫でているので、とりあえずケーキを机に置いて側へ行き、頭を見ることにした。
とくに腫れたりはしていないが、若干頭皮が赤くなっていた。これは可哀想に、慰めてあげなければ。
おーよしよし、痛かったでちゅね〜!と、大袈裟なくらいに擦れば、腕の中からは「グェェッ」という謎の声が聞こえてきた。
「で、なんで僕の靴履いてひっくり返ってたの?」
「履いてみたくて…履いたら滑って……」
「何やってんの、もー」
いやちょっと見たかったけど、絶対可愛かったんだろうな…サイズの合わない僕の靴履いて楽しそうにしちゃう姉さん…サイズの…合わない……。
ひらめいた。
「姉さん、彼シャツしよっか」
「彼シャツ?」
「僕の服着てってこと、だめ?」
「それは別に構わないよ」
顎の下にグーにした両手を置いて、キュルルンと媚びた風に言えば、二つ返事で了承される。
そうと決まればさっさとやろう、さっさと着せよう。
細胞の問題で老化が著しく遅い姉は、僕が幼い頃から殆ど肉体に変化が無い。若干髪が伸びたかなって程度だ。周りの奴に言わせると、遠目から見たら相変わらず僕か姉か分からないらしい。
そんな姉に服を着せる、僕の服を。
クローゼットから取り出した衣服を身体に当ててどれにするかと悩む。まるで着せ替え人形で遊んでいる気分だ。
あいも変わらず完璧な笑みを浮かべながら、僕の好き放題にされている姉であったが、「あ!」とクローゼットの奥を指差し驚きによって表情を崩す。
「もしかして、その奥の…」
「ん?ああ…制服、まだ残ってたんだ」
衣服の管理は姉に任せてしまっていたから全然知らなかった、管理している本人すら忘れていたくらい奥にあったのが面白い。
少し埃っぽくなってしまっているそれを取り出せば、近付いて来た姉は「懐かしいなぁ」と笑みを綻ばせた。
「ねぇ、これ着てみてよ」
バサバサと服を叩けば埃が微かに舞う。
姉は結局人生において一度もまともに学校というものに通わなかった人だ、だから制服姿なんぞ僕ですら見たことが無かったりする。
どっちかと言うとセーラー服を着て欲しいんだけどね、いやでもブラウスネクタイカーディガンの3コンボなんちゃって制服みたいなのも捨て難い…今度買って来ようかな、姉さんあんまり服とか気にしない人だから、着て見せてって言えば普通に着てくれるだろうし。
邪な思いを抱きながらも黒い制服を押し付ければ、「これは、ちょっと…」と珍しくも渋る姿勢を見せた。
珍しい、僕が言えば何だってしてくれるのに。
「なんで?」
「君の青い春を彩った宝物に腕を通すのは、ちょっとね」
「大袈裟じゃない?」
「だって、君の親友はもう……」
………ああ、そこを気にしてくれたのか。
相変わらず優しい人だ、僕の分身とは思えないくらい優しくて清らかな人だ。
硝子から言わせれば、僕が持ち得なかった思い遣りや親切心などの全てを持っているとまで言わしめた人だからね。
でも、気にしなくていいのに。
確かにアイツは…傑は今は…もう……
「インチキ宗教ビジネス教祖様になっただけだから、アイツのことは気にしないでいいって」
「でも、この前会った時に「新しい金儲け…じゃなかった、新しいありがたい品を売り捌く…いや、信者に分け与えることにしてね」って、塩を…」
「ああ、その塩僕も貰った」
普通の塩だった、ただ高かったけど。
「夏油くん…あんなに可愛くて優しい良い子だったのに…」
「それ本気で言ってる?」
「え、うん…丁寧で爽やかな子だったよね」
僕の姉さん親友に洗脳されてる?
まあ、それはさて置き、着て貰わなければ。
彼シャツならぬ弟制服を。
姉さんに擦り寄り、お仕事頑張ったからご褒美が欲しいな〜?姉さんが制服着てくれたら疲れも吹っ飛ぶのにな〜?と甘えた声を出せば、僕の可愛さにメロメロな姉さんは「仕方無いなぁ」と言いながら制服を受け取ってくれた。
チョロい、チョロすぎる。
こんなんだから他人に、押せば行けそうだなって思われるんだよ、本当もうちょっとしっかりして。僕以外に対して。僕に対しては永遠に激チョロおねえたまで居てくれて良いけど。
早速ブレザーを手に取り袖を通した姉さんは、「あれ、私…こんなに小さかったかな…」とブツブツ言いながらブレザーを着てボタンを留めた。
まあ、うん……予想通り…………すんごく良い……。
ブカブカの首元と、袖により完全に隠れてしまっている手、ダボダボしたシルエット、サイズが合わないせいで膝上くらいのワンピースのようになってしまっているとことか………もう、最高。
よくやった僕、よく着てくれた姉さん。
スマホを取り出しパシャパシャとあらゆる角度から収めておく。
恥ずかしいのか、テレテレと眉をへにゃりと下げながら笑う姉を真顔でムービーにも収めた。
可愛い、最高、天才、ぶっちゃけエロい。何処とは言わないが元気になる。
「いいよいいよ!ちょっとポーズとか取ってみようか、はいピース」
「ピース…」
「じゃあ次は上目遣いでピースしてみようか!」
これ、姉さんを好きな奴等に売ったら、傑が売る塩より高く売れそうだな…。いや絶対売らないけど。むしろ欲しいって言った奴は制裁するけど。
…
そんなこんなで後日、ダボダボ制服に身を包んだ上目遣い照れ照れピース姉さんを壁紙にしていることを七海に発見された僕は、冷たい視線をくらいながらも「あの人にはもっと可憐で清楚な物が似合いますよ」と言われ、敵は案外身近に居たことを知るのであった。
立て続けに入った任務のせいでまともに家に帰れなかったが、今日やっと詰まっていた業務の全てが終わり、久々に我が家へと帰って来た。
時刻は夕方6時過ぎ、帰り道に買った可愛らしいケーキの入った箱を片手に玄関の扉を潜る。
「たっだいま〜!可愛い可愛い弟が帰って来たよー……って、」
なにしてんの?
リビングでは、ブルーシートを広げその上に何足も靴を並べている光景が広がっていた。
そして、そんな靴に囲まれた景色の中央でひっくり返る姉の足には何故か僕の靴がハマっていた。
これは…どういう状況なのだろうか、一体どうし…あ、いや、そういえば数日前に暇がある時で良いから靴磨きをしておいてくれと頼んだんだった。
いや、でも、だからってひっくり返っている状況はよく分からないのだけれど。
僕の声に気付いた姉は、ハッとしながら起き上がり、頭を擦りながら口を開く。
「おかえりなさいませ、若様」
「うん、いつも言ってるけどもう当主だから、あと名前で呼んで、敬語もダメ」
「ああ、えっと…おかえり、悟…」
はにかむように、しかし幸せそうに笑みを浮かべる姉から「お仕事ご苦労さま」と、労りの言葉を受け取る。
うーん、流石僕の遺伝子から作られた自慢の一品…顔面国宝…いや、顔面文化遺産。後の世まで語り継ぎたい可愛さの笑顔……。
んで、どうやら姉は後頭部を打ったらしく、痛そうに自分で撫でているので、とりあえずケーキを机に置いて側へ行き、頭を見ることにした。
とくに腫れたりはしていないが、若干頭皮が赤くなっていた。これは可哀想に、慰めてあげなければ。
おーよしよし、痛かったでちゅね〜!と、大袈裟なくらいに擦れば、腕の中からは「グェェッ」という謎の声が聞こえてきた。
「で、なんで僕の靴履いてひっくり返ってたの?」
「履いてみたくて…履いたら滑って……」
「何やってんの、もー」
いやちょっと見たかったけど、絶対可愛かったんだろうな…サイズの合わない僕の靴履いて楽しそうにしちゃう姉さん…サイズの…合わない……。
ひらめいた。
「姉さん、彼シャツしよっか」
「彼シャツ?」
「僕の服着てってこと、だめ?」
「それは別に構わないよ」
顎の下にグーにした両手を置いて、キュルルンと媚びた風に言えば、二つ返事で了承される。
そうと決まればさっさとやろう、さっさと着せよう。
細胞の問題で老化が著しく遅い姉は、僕が幼い頃から殆ど肉体に変化が無い。若干髪が伸びたかなって程度だ。周りの奴に言わせると、遠目から見たら相変わらず僕か姉か分からないらしい。
そんな姉に服を着せる、僕の服を。
クローゼットから取り出した衣服を身体に当ててどれにするかと悩む。まるで着せ替え人形で遊んでいる気分だ。
あいも変わらず完璧な笑みを浮かべながら、僕の好き放題にされている姉であったが、「あ!」とクローゼットの奥を指差し驚きによって表情を崩す。
「もしかして、その奥の…」
「ん?ああ…制服、まだ残ってたんだ」
衣服の管理は姉に任せてしまっていたから全然知らなかった、管理している本人すら忘れていたくらい奥にあったのが面白い。
少し埃っぽくなってしまっているそれを取り出せば、近付いて来た姉は「懐かしいなぁ」と笑みを綻ばせた。
「ねぇ、これ着てみてよ」
バサバサと服を叩けば埃が微かに舞う。
姉は結局人生において一度もまともに学校というものに通わなかった人だ、だから制服姿なんぞ僕ですら見たことが無かったりする。
どっちかと言うとセーラー服を着て欲しいんだけどね、いやでもブラウスネクタイカーディガンの3コンボなんちゃって制服みたいなのも捨て難い…今度買って来ようかな、姉さんあんまり服とか気にしない人だから、着て見せてって言えば普通に着てくれるだろうし。
邪な思いを抱きながらも黒い制服を押し付ければ、「これは、ちょっと…」と珍しくも渋る姿勢を見せた。
珍しい、僕が言えば何だってしてくれるのに。
「なんで?」
「君の青い春を彩った宝物に腕を通すのは、ちょっとね」
「大袈裟じゃない?」
「だって、君の親友はもう……」
………ああ、そこを気にしてくれたのか。
相変わらず優しい人だ、僕の分身とは思えないくらい優しくて清らかな人だ。
硝子から言わせれば、僕が持ち得なかった思い遣りや親切心などの全てを持っているとまで言わしめた人だからね。
でも、気にしなくていいのに。
確かにアイツは…傑は今は…もう……
「インチキ宗教ビジネス教祖様になっただけだから、アイツのことは気にしないでいいって」
「でも、この前会った時に「新しい金儲け…じゃなかった、新しいありがたい品を売り捌く…いや、信者に分け与えることにしてね」って、塩を…」
「ああ、その塩僕も貰った」
普通の塩だった、ただ高かったけど。
「夏油くん…あんなに可愛くて優しい良い子だったのに…」
「それ本気で言ってる?」
「え、うん…丁寧で爽やかな子だったよね」
僕の姉さん親友に洗脳されてる?
まあ、それはさて置き、着て貰わなければ。
彼シャツならぬ弟制服を。
姉さんに擦り寄り、お仕事頑張ったからご褒美が欲しいな〜?姉さんが制服着てくれたら疲れも吹っ飛ぶのにな〜?と甘えた声を出せば、僕の可愛さにメロメロな姉さんは「仕方無いなぁ」と言いながら制服を受け取ってくれた。
チョロい、チョロすぎる。
こんなんだから他人に、押せば行けそうだなって思われるんだよ、本当もうちょっとしっかりして。僕以外に対して。僕に対しては永遠に激チョロおねえたまで居てくれて良いけど。
早速ブレザーを手に取り袖を通した姉さんは、「あれ、私…こんなに小さかったかな…」とブツブツ言いながらブレザーを着てボタンを留めた。
まあ、うん……予想通り…………すんごく良い……。
ブカブカの首元と、袖により完全に隠れてしまっている手、ダボダボしたシルエット、サイズが合わないせいで膝上くらいのワンピースのようになってしまっているとことか………もう、最高。
よくやった僕、よく着てくれた姉さん。
スマホを取り出しパシャパシャとあらゆる角度から収めておく。
恥ずかしいのか、テレテレと眉をへにゃりと下げながら笑う姉を真顔でムービーにも収めた。
可愛い、最高、天才、ぶっちゃけエロい。何処とは言わないが元気になる。
「いいよいいよ!ちょっとポーズとか取ってみようか、はいピース」
「ピース…」
「じゃあ次は上目遣いでピースしてみようか!」
これ、姉さんを好きな奴等に売ったら、傑が売る塩より高く売れそうだな…。いや絶対売らないけど。むしろ欲しいって言った奴は制裁するけど。
…
そんなこんなで後日、ダボダボ制服に身を包んだ上目遣い照れ照れピース姉さんを壁紙にしていることを七海に発見された僕は、冷たい視線をくらいながらも「あの人にはもっと可憐で清楚な物が似合いますよ」と言われ、敵は案外身近に居たことを知るのであった。
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