姉と私の信仰恋慕
というような、盲目煮詰めすぎ激重ドロドロ愛情がフルマックス状態な夏油であったが、そんな彼を置いて姉は普通に高専をアッサリと卒業していった。
それはもうアッサリと、サッパリと、さっさと荷物を纏めて卒業証書を貰ってさようなら。
寂しがる後輩達に「また任務でね」と声を掛け、駄々を捏ねる五条に「また任務でね」と同じ言葉を紡ぎ、本当に卒業させて大丈夫なのかと心配する教師たちにも「じゃあ、また任務で」とまたもや同じ声を掛けていた。
弟である夏油はといえば、一周まわって完全無敵モード・姉神崇拝神域(私こそが姉たる神の愛に相応しい弟だ)に突入しており、「まあ何があろうと私達の愛は永遠だから心配なんてするだけ無駄だろう、私と姉さんは永劫不滅の愛を誓ったからね(誓ってない)」と達観した顔をして姉を送り出した。流石は弟、他とは面構えが違う。
結局就職先に関しては、高専のサポート下にある場所になった。
しかし、その二週間後、姉は仕事を辞めて高専に戻ってきてしまったのだった。
いつもの可愛げの欠片も無い茶色いリュックを背負い、スーツケースをガラガラと引いて、片手に土産袋を携え突然やって来た姉に三年生になって多忙を極め、精神を擦り減らしていた夏油は弾丸の如きスピードでひっつき、ギチィッと音がするくらいキツく抱き締めた。
これは絶対に私に対する天からのお恵み、私が毎日姉さんに祈りを捧げていたからこその結果。やっぱりするべきは雨乞いならぬ姉乞い。奇跡も呪いもあるんだよ。
「姉さん、おかえり…!」
「全然ダメだった、もうおわりだ」
「いいんだ、いいんだよ姉さん、もういいんだ…辛かったね、大変だったね…」
「社会は厳しい」
「私が守ってあげるから大丈夫だよ、よく頑張ったね」
「えーんっ」
無の表情をしながら泣き真似をする姉は、弟に抱き上げられるがままに教室へと連行された。
彼女はその道中、社会に出て二週間の間に起きたことをこう語る。
「たんぽぽを摘んでから仕事場に行ったら怒られたんだ、何も悪いことしてないのに。遅刻もしてないのに。それともたんぽぽが悪かったのか?あんなに可愛いのに?」
「お茶をもってこいって言われたから緑茶を持ってったら、違うって怒られたんだ。お前の好みなんて知るかって言ったら叱られて仕事を増やされた…もうやだ」
「だから嫌になって仕事を休んだら凄く凄く怒られたんだ、もう人間きらい、地球に月…落としちゃおっかな」
夏油は姉の話に心を痛めた。
それはもう、我がことのように悲しくなった。
なんて痛ましいんだ姉さん…沢山頑張ったのにどうしようもない理解の無い奴等のせいで傷ついて…私が沢山癒やしてあげるからね。それはもう、身体の隅々まで癒やしてあげるから。さあ、もう大丈夫、私だけを見て私だけとお喋りして私だけと愛し合おう。そしたら何も悲しいことなんて起きないよ。姉さんの世界には私以外必要無い。
そんな気持ちだったが、一方でちょっと喜んだ、大好きな姉さんが無謀にも社会に出て、案の定コテンパンにされて人間嫌いになって帰ってきたからだ。もうこれは自分の元から離れる理由が全て消えたと言っても過言では無いはずだ…自ら手を汚さずとも素晴らしい結果を得られた…と、内心めちゃくちゃ喜んだ。最低である。
教室に行けば、噂を聞いて駆け付けた面々が集まっていた。
彼等は二週間という超スピードで退職をキメて帰ってきた先輩に「やっぱりな…」「知ってた」と思った。失礼な奴等である。
荷物を置き、椅子に座らせられた姉を取り囲むように後輩がワラワラと集まる。
「で、姉ちゃんこれからどうすんの?」
「私が養うから気にしないでくれ」
「傑には聞いてないから」
「なんだと」
喧嘩勃発。
「最強パンチ!」
「姉ラブカウンター!」
「からの、空手チョップ!」
「ならばこちらはクロスボンバーだ」
仲良く喧嘩しだした二人は放置して、他の面々が問いただそうとするも、人見知りを発揮した姉は頑なに目線を合わせようとしなかった。
こんなんでも一応、彼女にはプライドがあった。
「自分のために働く」と勢い良く啖呵を切った手前、どんなに辛くとも頑張ろうという意気込みだけはそこそこあったのだ。
しかし駄目だった、どんなに頑張っても二週間が限界だった。何なら残り3日は出勤をしていなかった。
彼女が就職した先は、高専が管轄下に置く呪物についての研究や管理をする施設であった。
元々呪術師をやり続けるモチベーションが限り無く低かった彼女は、卒業後も術師をする気など全く無かった。
何故ならば、呪いも人間もどうでもいいし、人が死のうが生きようがどうなろうが気にならないし、金にも興味が無いからだ。若くして才能も実力もあったが、やり甲斐が一つも見つけられなかった。だから術師をやめた。
だからと言って、他にやれることはなかった。
それはそうだ、何せ人間が効率良く生きるためにある人間の仕事を、異星人がやれるわけがない。
会話も通じるし人を愛することも出来る彼女だが、その実根本的な所では全く分かりあえていないと言えよう。
会話も愛することも、"それっぽく生きている"だけの行動に過ぎないのだ。
だからそう、彼女をよく知る友人代表は働く気を無くした月のヘンテコ生命体にこう言った。
「やめちまえ、アホくせぇ」
この一言で彼女の化けの皮は剥がされた。
翌日と言わず、その日のうちに仕事場に行き、それまで大人しく人間らしくしていた彼女はそれをやめ、上司に向かって「この仕事やめるね」とタメ口で言ってのけた。
誰かの明日を守り、呪いから人々を助けるための正義感から仕事をしていた上司は、簡単にやめるなどと言った無礼極まる新人にカンカンに怒った。
けれど彼女はスッキリとした様子で立ち去った。だって人間じゃないから人間を助ける義務とかないし。
その後3日間は、友人と友人の息子と遊んだり一緒にご飯を食べたりして楽しく過ごした次第である。
水族館デートもしたし、映画も観に行ったし、お弁当を買ってピクニックもした。
夜は三人一緒に眠ったし、朝は友人の息子と一緒にラジオ体操をした。
毎日こうしていたいなあと思いながらも、報告のためにと一応高専までやってきたのが今日である。
色々自分のために将来を考えてくれていたらしい弟に啖呵を切った手前、帰って来るのは少し勇気がいる決断だったが、可愛い弟が自分が帰ってきたことに喜んでくれれば不安も消えてしまった。
どれだけ失敗しようと、駄目な姉だろうと、弟だけはいつでも喜んで抱き締めてくれる。
その事実に彼女は安心してしまった。
というわけで、二週間ですごすごと卒業校へ帰ってきた彼女は、教員達に「やっぱりな」という顔をされながら、今暫く呪術師を続けることになった。
高専で術師をやっている間であれば、寮の空き部屋に住むことを許されたため、二週間前と同じ日々に戻ったのであった。
___
「っていう状況なんだけど」
「待て待て待て…今なんて言った?」
「だから、呪術師の仕事失敗して高専追い出されちゃったんだってば」
高専に戻って一ヶ月くらいしてからの話だ。
私は任務失敗を立て続けに起こしてしまい、やる気の低下と高専との折り合いを考慮して、一応自主的に高専所属の術師を辞めた。
一応言い訳をさせて貰うと、任務の失敗は私が悪いわけではない。
一回目の失敗任務は、任務自体はちゃんと終えたはずだったのだが、一般人が私を悪魔だ魔物だと言い始めたのが煩かったので、ちょっと黙らせたらそれが良くなかったらしい。これについては私も反省した。
二回目の失敗任務は、土砂崩れにあって呪霊を取り逃した挙げ句、これまた土砂災害にあった地域の一般人からお前のせいだと責め立てられたので、ちょっと黙らせたらまた怒られた。まあ一応反省した。
で、三回目の失敗任務で……なんか知らないが、私を信仰する団体が発生していまった。これには高専ではなく傑くんが引くくらい怒っていた。もちろん、高専にも怒られた。
よく分からないが、私が他人を黙らす時に無意識の内にやっている「人外っぽいオーラ」が一般人に良くなかったらしい。
それを真正面から受けた一般人達が、私を神の使いだなんだと騒ぎ立てはじめてしまい、それが良くなかったとかふんにゃらかんにゃらぷいぷいぷい…。
で、一応は反省しているのだが高専からは反省してないだろと叱られ、上層部からは引き渡しを命じられ、悟くんからは「この…ポンコツエイリアン!馬鹿!」と怒られ、傑くんからは「浮気者!私という信者が居るのに!」と拗ねられ…居場所を失いプロデューサーこと孔さんの元へやって来た次第である。
今になって思えば、学生時代は周りから甘やかされていたのだろう。
ちょっとポヤッとしていて不思議な部分はあるけど、学生だから…と、多目に見て貰えていたのが、社会に出たらこれこの通り。
もうだめだ、おしまいだ。
今すぐ月へ帰りたい、帰り方が分からないから無理だけど。
泣いちゃいそう、本当ションボリ。
「甚爾さんに話したら、彼…なんて言ったと思う?」
「どうせ鼻で笑われただけだろ?」
「なんで分かるの?友情パワー?ズルいぞ」
「気色悪い言い方するな、追い出すぞ」
えーんっ。
プロデューサーにまで冷たくされて、今度こそ傷付いてちょっと泣いた。
人間、人外に対して厳しすぎない?もうちょっと居場所を頂戴よ、こっちだって好きでもない人間社会で頑張ってんだからさあ…。
でも本当に困っているのだ。
貯金はあるから当面はなんとかなるが、このままいくと甚爾さんに友達料金が払えなくなる。
そしたら友達0人に舞い戻り。
傑くんも何だかやけに忙しくしている今、頼りになる人が減るのは困る。
「お助け…」
「嬢ちゃん一人じゃ不安だから、暫くはあの暇人にも一緒に働かせる、いいな?」
「うん、がんばる…」
頑張らせて頂く所存。
意気込みを見せるため握りこぶしを作って見せれば、何故か微妙な顔をされた。
絶対頼りないと思ってるよこの人、私ってば結構強いのになあ。
…それにしても、何故今年の傑くんはあんなに忙しそうなのだろうか。
去年はもうちょっと余裕があったはずなんだが…どうしたんだろう、大丈夫だろうかあの子…。
まあ、もし駄目になったら神として責任を持って救いを与えてあげよう。
私の許可無く勝手に私を崇め出した他の信者共は知らないが、傑くんは私の可愛い可愛い弟であり信者だからね、君だけは救ってあげるよ。
どこで何をしていようとね。
それはもうアッサリと、サッパリと、さっさと荷物を纏めて卒業証書を貰ってさようなら。
寂しがる後輩達に「また任務でね」と声を掛け、駄々を捏ねる五条に「また任務でね」と同じ言葉を紡ぎ、本当に卒業させて大丈夫なのかと心配する教師たちにも「じゃあ、また任務で」とまたもや同じ声を掛けていた。
弟である夏油はといえば、一周まわって完全無敵モード・姉神崇拝神域(私こそが姉たる神の愛に相応しい弟だ)に突入しており、「まあ何があろうと私達の愛は永遠だから心配なんてするだけ無駄だろう、私と姉さんは永劫不滅の愛を誓ったからね(誓ってない)」と達観した顔をして姉を送り出した。流石は弟、他とは面構えが違う。
結局就職先に関しては、高専のサポート下にある場所になった。
しかし、その二週間後、姉は仕事を辞めて高専に戻ってきてしまったのだった。
いつもの可愛げの欠片も無い茶色いリュックを背負い、スーツケースをガラガラと引いて、片手に土産袋を携え突然やって来た姉に三年生になって多忙を極め、精神を擦り減らしていた夏油は弾丸の如きスピードでひっつき、ギチィッと音がするくらいキツく抱き締めた。
これは絶対に私に対する天からのお恵み、私が毎日姉さんに祈りを捧げていたからこその結果。やっぱりするべきは雨乞いならぬ姉乞い。奇跡も呪いもあるんだよ。
「姉さん、おかえり…!」
「全然ダメだった、もうおわりだ」
「いいんだ、いいんだよ姉さん、もういいんだ…辛かったね、大変だったね…」
「社会は厳しい」
「私が守ってあげるから大丈夫だよ、よく頑張ったね」
「えーんっ」
無の表情をしながら泣き真似をする姉は、弟に抱き上げられるがままに教室へと連行された。
彼女はその道中、社会に出て二週間の間に起きたことをこう語る。
「たんぽぽを摘んでから仕事場に行ったら怒られたんだ、何も悪いことしてないのに。遅刻もしてないのに。それともたんぽぽが悪かったのか?あんなに可愛いのに?」
「お茶をもってこいって言われたから緑茶を持ってったら、違うって怒られたんだ。お前の好みなんて知るかって言ったら叱られて仕事を増やされた…もうやだ」
「だから嫌になって仕事を休んだら凄く凄く怒られたんだ、もう人間きらい、地球に月…落としちゃおっかな」
夏油は姉の話に心を痛めた。
それはもう、我がことのように悲しくなった。
なんて痛ましいんだ姉さん…沢山頑張ったのにどうしようもない理解の無い奴等のせいで傷ついて…私が沢山癒やしてあげるからね。それはもう、身体の隅々まで癒やしてあげるから。さあ、もう大丈夫、私だけを見て私だけとお喋りして私だけと愛し合おう。そしたら何も悲しいことなんて起きないよ。姉さんの世界には私以外必要無い。
そんな気持ちだったが、一方でちょっと喜んだ、大好きな姉さんが無謀にも社会に出て、案の定コテンパンにされて人間嫌いになって帰ってきたからだ。もうこれは自分の元から離れる理由が全て消えたと言っても過言では無いはずだ…自ら手を汚さずとも素晴らしい結果を得られた…と、内心めちゃくちゃ喜んだ。最低である。
教室に行けば、噂を聞いて駆け付けた面々が集まっていた。
彼等は二週間という超スピードで退職をキメて帰ってきた先輩に「やっぱりな…」「知ってた」と思った。失礼な奴等である。
荷物を置き、椅子に座らせられた姉を取り囲むように後輩がワラワラと集まる。
「で、姉ちゃんこれからどうすんの?」
「私が養うから気にしないでくれ」
「傑には聞いてないから」
「なんだと」
喧嘩勃発。
「最強パンチ!」
「姉ラブカウンター!」
「からの、空手チョップ!」
「ならばこちらはクロスボンバーだ」
仲良く喧嘩しだした二人は放置して、他の面々が問いただそうとするも、人見知りを発揮した姉は頑なに目線を合わせようとしなかった。
こんなんでも一応、彼女にはプライドがあった。
「自分のために働く」と勢い良く啖呵を切った手前、どんなに辛くとも頑張ろうという意気込みだけはそこそこあったのだ。
しかし駄目だった、どんなに頑張っても二週間が限界だった。何なら残り3日は出勤をしていなかった。
彼女が就職した先は、高専が管轄下に置く呪物についての研究や管理をする施設であった。
元々呪術師をやり続けるモチベーションが限り無く低かった彼女は、卒業後も術師をする気など全く無かった。
何故ならば、呪いも人間もどうでもいいし、人が死のうが生きようがどうなろうが気にならないし、金にも興味が無いからだ。若くして才能も実力もあったが、やり甲斐が一つも見つけられなかった。だから術師をやめた。
だからと言って、他にやれることはなかった。
それはそうだ、何せ人間が効率良く生きるためにある人間の仕事を、異星人がやれるわけがない。
会話も通じるし人を愛することも出来る彼女だが、その実根本的な所では全く分かりあえていないと言えよう。
会話も愛することも、"それっぽく生きている"だけの行動に過ぎないのだ。
だからそう、彼女をよく知る友人代表は働く気を無くした月のヘンテコ生命体にこう言った。
「やめちまえ、アホくせぇ」
この一言で彼女の化けの皮は剥がされた。
翌日と言わず、その日のうちに仕事場に行き、それまで大人しく人間らしくしていた彼女はそれをやめ、上司に向かって「この仕事やめるね」とタメ口で言ってのけた。
誰かの明日を守り、呪いから人々を助けるための正義感から仕事をしていた上司は、簡単にやめるなどと言った無礼極まる新人にカンカンに怒った。
けれど彼女はスッキリとした様子で立ち去った。だって人間じゃないから人間を助ける義務とかないし。
その後3日間は、友人と友人の息子と遊んだり一緒にご飯を食べたりして楽しく過ごした次第である。
水族館デートもしたし、映画も観に行ったし、お弁当を買ってピクニックもした。
夜は三人一緒に眠ったし、朝は友人の息子と一緒にラジオ体操をした。
毎日こうしていたいなあと思いながらも、報告のためにと一応高専までやってきたのが今日である。
色々自分のために将来を考えてくれていたらしい弟に啖呵を切った手前、帰って来るのは少し勇気がいる決断だったが、可愛い弟が自分が帰ってきたことに喜んでくれれば不安も消えてしまった。
どれだけ失敗しようと、駄目な姉だろうと、弟だけはいつでも喜んで抱き締めてくれる。
その事実に彼女は安心してしまった。
というわけで、二週間ですごすごと卒業校へ帰ってきた彼女は、教員達に「やっぱりな」という顔をされながら、今暫く呪術師を続けることになった。
高専で術師をやっている間であれば、寮の空き部屋に住むことを許されたため、二週間前と同じ日々に戻ったのであった。
___
「っていう状況なんだけど」
「待て待て待て…今なんて言った?」
「だから、呪術師の仕事失敗して高専追い出されちゃったんだってば」
高専に戻って一ヶ月くらいしてからの話だ。
私は任務失敗を立て続けに起こしてしまい、やる気の低下と高専との折り合いを考慮して、一応自主的に高専所属の術師を辞めた。
一応言い訳をさせて貰うと、任務の失敗は私が悪いわけではない。
一回目の失敗任務は、任務自体はちゃんと終えたはずだったのだが、一般人が私を悪魔だ魔物だと言い始めたのが煩かったので、ちょっと黙らせたらそれが良くなかったらしい。これについては私も反省した。
二回目の失敗任務は、土砂崩れにあって呪霊を取り逃した挙げ句、これまた土砂災害にあった地域の一般人からお前のせいだと責め立てられたので、ちょっと黙らせたらまた怒られた。まあ一応反省した。
で、三回目の失敗任務で……なんか知らないが、私を信仰する団体が発生していまった。これには高専ではなく傑くんが引くくらい怒っていた。もちろん、高専にも怒られた。
よく分からないが、私が他人を黙らす時に無意識の内にやっている「人外っぽいオーラ」が一般人に良くなかったらしい。
それを真正面から受けた一般人達が、私を神の使いだなんだと騒ぎ立てはじめてしまい、それが良くなかったとかふんにゃらかんにゃらぷいぷいぷい…。
で、一応は反省しているのだが高専からは反省してないだろと叱られ、上層部からは引き渡しを命じられ、悟くんからは「この…ポンコツエイリアン!馬鹿!」と怒られ、傑くんからは「浮気者!私という信者が居るのに!」と拗ねられ…居場所を失いプロデューサーこと孔さんの元へやって来た次第である。
今になって思えば、学生時代は周りから甘やかされていたのだろう。
ちょっとポヤッとしていて不思議な部分はあるけど、学生だから…と、多目に見て貰えていたのが、社会に出たらこれこの通り。
もうだめだ、おしまいだ。
今すぐ月へ帰りたい、帰り方が分からないから無理だけど。
泣いちゃいそう、本当ションボリ。
「甚爾さんに話したら、彼…なんて言ったと思う?」
「どうせ鼻で笑われただけだろ?」
「なんで分かるの?友情パワー?ズルいぞ」
「気色悪い言い方するな、追い出すぞ」
えーんっ。
プロデューサーにまで冷たくされて、今度こそ傷付いてちょっと泣いた。
人間、人外に対して厳しすぎない?もうちょっと居場所を頂戴よ、こっちだって好きでもない人間社会で頑張ってんだからさあ…。
でも本当に困っているのだ。
貯金はあるから当面はなんとかなるが、このままいくと甚爾さんに友達料金が払えなくなる。
そしたら友達0人に舞い戻り。
傑くんも何だかやけに忙しくしている今、頼りになる人が減るのは困る。
「お助け…」
「嬢ちゃん一人じゃ不安だから、暫くはあの暇人にも一緒に働かせる、いいな?」
「うん、がんばる…」
頑張らせて頂く所存。
意気込みを見せるため握りこぶしを作って見せれば、何故か微妙な顔をされた。
絶対頼りないと思ってるよこの人、私ってば結構強いのになあ。
…それにしても、何故今年の傑くんはあんなに忙しそうなのだろうか。
去年はもうちょっと余裕があったはずなんだが…どうしたんだろう、大丈夫だろうかあの子…。
まあ、もし駄目になったら神として責任を持って救いを与えてあげよう。
私の許可無く勝手に私を崇め出した他の信者共は知らないが、傑くんは私の可愛い可愛い弟であり信者だからね、君だけは救ってあげるよ。
どこで何をしていようとね。