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弟によって神格化されそうになっているのだが…2

気付いた切っ掛けは、例の発光事件だった。

本人は「原因はよく分からないけど、ストレスで光るのかもしれない」とかほざいていたが、整理すりゃ簡単な話。
ストレスは負の側面が強い、それの影響をモロに受けている、しかも本人の話では、自分は月から発生した微小の生命体だとか。

月で発生した生命体がなんで負の感情の影響を強く受けてるか。
話は簡単、呪いと密接に関わっているから。

それに気付けばあとはパズルのピースを嵌めていくだけの簡単な作業。
術式はカモフラージュ、微小の生命体というのも嘘と本当を合わせた言い訳、光ってしまうのは本質が強まるから。
じゃあ本質ってなんだ?ってなったら、答えは一つしかない。

あいつが呪いそのものであるということだ。
だから、負の感情や信仰などの畏怖の念に敏感に反応してしまう。
呪いってのは、そういうものだ。

この事実に気付いた時に思ったことは、そりゃ生き辛えに決まってるだろ、という単純な同情だった。

呪いが人間として人間と一緒に生きて、人間から愛されて大切にされてるんだ、そんなもん辛いだけだろう。
俺の考えは大体あっていて、実際アイツは人間社会に全く馴染めていないし、人間から仲間として扱われることに強くストレスを抱いていた。
仕事もそうだ、自分のために何かをすることは、どんなことでも受け入れ楽しんでいるが、誰かのために頑張る…となると一気にやる気が失せるのは、アイツが呪いで、人間を害する立場にある存在だからに他ならない。

そんな中で、唯一の拠り所である弟が何故、唯一無二の立場に居られるかと言えば、弟が姉を信仰しているのが一番の理由だろう。
時として呪いは信仰から生まれる。
激しい信仰心や、畏怖の念、敬意や崇拝はそういった物の力を強め、惹きつける。
だから、弟は姉を惹き付け、姉から認められている。
この星で唯一、自分を呪い足らしめる存在として。

そんなアイツと仕事を行う、一緒に月へ行くために。
そのためだけに、人を殺す。



___



天内理子を連れて高専に戻ってきた傑くん達を、甚爾さんが襲撃した。
それを私は双眼鏡片手に、少し離れた所から観察していたのだった。
双眼鏡越しに、彼等の様子をジッと見る。

あれが、天元様の器か。
まだほんの幼い少女じゃないか。

悟くんが傑くんと天内理子とその付き人を逃し、甚爾さんと戦闘に入る。

甚爾さんが受けた依頼とは、あの少女の遺体を宗教団体に届けることらしい。
確かに仕事は一緒にするつもりだったが、まさかこんな内容だったとは。
金を稼ぐ方法なんて他にも幾らだってあるだろうと、一応は反対してみたものの、彼は私の態度に機嫌を損ねるばかりだった。
それどころか、嫌味まで言われてしまった。

「お前、いつもそうだよな。人が死ぬのを何でか嫌う、人間のこと見下してる癖に」

「俺が殺るからお前は黙って見てろ」

「それが嫌なら止めりゃいい」

確かに人間を殺せないのは否定できない事実なのだが、そうなのだが…一応理由があって…と話そうとするも、話を聞いて貰えるような雰囲気でもなく、彼は最終的に私にこう命じた。
「五条悟は俺が殺る、お前は大事な弟と別れを済ませておけ」と。

だから、とにもかくにも私は今から傑くんに会いに行かなくてはならない。
何と言えば良いか分からないし、ぶっちゃけた話覚悟を決められず、未だに本当にこれで良いのか迷っている。
月には帰りたいが、そのために人間を…それも、悟くんまで犠牲にするなんて可笑しい気がするのだが、どちらにせよ今の私に出来ることは傑くんに会うことだけだ。
最悪、悟くんは私が前に試しに使った技で何とか出来るかもしれないし…。

双眼鏡をポケットに戻し、傑くん達の後をヒッソリと追う。
どうやら彼等はエレベーターらしき物に乗るらしいので、今がタイミングかと私は出ていった。

「あ、あの……」
「…え、姉さん?」

声を掛ければ、驚いたと言うよりは訝しげな傑くんがこちらを振り返る。
付き人の方もこちらを怪しんだのか、天内理子を背に庇うように一歩前に出た。

そうなりますよね、どう考えてもタイミング的に怪しいよなぁ…。
それにしても、見れば見るほど普通の女の子じゃないか。こんな子が器にされるのか…ああ、いや…非合理な人間の救いのために死体にされるんだったか。
まあ、どちらも同じことか。十数年生きた愛らしい少女の迎える結末にしては、惨たらしい結末に違いない。

自分でも不思議なことだが、どうやら私はこの人間を哀れんでいるらしい。
やはり、この子を殺すのは…でも、殺さなくても器に……。うーむ………。

一先ず、何か喋ろう。

「悟くんが苦戦してるから、私が変わりに護衛役に充てられた」
「そうだったんだ。でも、私の方には何も連絡が…」
「緊急事態だから」

出任せの嘘が口から出た。
流石は優秀な弟だ、例え親しい姉であっても異例の事態の中では疑う姿勢を見せてくる。
けれど、こういう時はとにかく強気に行くことが大切。
私は警戒する彼等に構わず、姿勢を正して歩き出す。

「私なら、どんなエネルギーもカウンター出来るから」
「………分かった、姉さんも来てくれ」

一つ、コクリと頷いて彼等の側まで来る。
こちらを不安そうに見つめる少女の視線が私に突き刺さった。
チラリとそちらを見れば、視線がかち合う。

大きなドングリのような瞳に私の姿が映り込む。
そのまま数秒目を合わせ、ふいっと目を自分から逸らした。

最深部まで、時間はどのくらい掛かるのだろうか。
最深部に辿り着いたら、そうしたら、私は…この子は…。

「姉さん、大丈夫かい…?顔色が良くないようだが」
「ただのストレス」
「…私が留守の間に何かあったのかい?」
「………………」

無言で自分の足元を見て、会話を途切れさせる。

別れの言葉、なんて言ったらいいんだろう。
というか私、何してるんだろうか……私のために友達が頑張ってくれてるのに、何故、こんなにも悩んでいるのだろう。
どうして、弟を裏切るようなことをしようとしているのだろう。
なんで、私の夢のために幼い女の子の人生を踏み躙ろうとしているのだろう。

何故、どうして、なんで……なんで、こんな星に来てしまったのだろうか。
どうしてあの時、あの宇宙で、朽ちることが叶わなかったのだろうか。

もう、なんでもいいから早く果てまで逃げてしまいたい。
誰か私を、塵にでもしてくれたらいいのに。
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