弟によって神格化されそうになっているのだが…
姉さんから連絡が来て電話に出たら、その声は男の物だった。
「なぁ、お前の姉ちゃんがヤベェんだけど」
「姉さんを姉ちゃんと呼ぶな!!!」
「まず話聞けよ」
思わずドスの効いた声で「あ"?」と言ってしまい、即座にそんな場合ではないと反省をする。
そうだ、姉さんに何かがあったのならば、そっちの方を聞かなければ…………は?姉さんに何かがあった?
「姉さんは無事なのか!?」
「あー……」
「姉さん!?そこに居るのか!?姉さん!?」
「うるせっ」
とにかく来いと言われ、場所を言い渡される。
早々に切られた電話口を、恨みを込めて睨み付けながら、すぐに準備を終えて高専を飛び出した。
一体姉さんになにがあったと言うのか。
もし、もしも姉さんの身に傷でも残るようなことがあったら………何から消せばいいんだ。
まずあの姉さんに寄生する悪い虫は消すとして、あとは姉さんに傷をつけた奴と、姉さんに傷をつけた奴を支援している奴が居るのならばそいつも消して…それから姉さんに傷を付けたのがナイフだったりした場合はそれを折って捨てて…。
ああ、やっぱり姉さんは私が付いていないと駄目なんだ。
私が一緒に居ればこんなことは起きなかった、ずっと穏やかに幸せなまま、私の腕の中で微睡んでいてくれたらいいのに。それだけで、いいのに。
他には何も望まないというのに。
貴女は私の側で息をしていてくれさえすれば、それでいい。
…
指定された場所へ行けば、そこは古びた貸家だった。
本当にここなのかという疑問を持ちながらもチャイムを鳴らし、逸る気持ちを抑えて暫く待てば、出てきたのは姉の友人を自称する例の男だった。
眼前の男をあらん限りの恨みを込めて睨み付ける。
「姉さんに何をした」
「何もしてねぇよ」
何もしていないわけが無いだろう。
だって姉さん、昨日の夜から「明日、楽しみ」ってワクワクしていて…今日だって何を着て行くか迷っていて…そんな可愛い人に何もしない人間なんて居るはずが無い。
いや、何かあっては困るが。私以外が姉さんに何かをするなんて許せない。そんなことが起きれば、世界を作り直すしかなくなる。
家に上がればすぐに様子が分かった。
部屋の隅で布団にくるまりこんもりとしている何かから、姉さんの呪力を感じる。
何故かその隣に座る子供は無視して近寄れば、モゾモゾと塊が動いた。
「傑くん…?」
「姉さん、大丈夫かい?」
「どうしよ、あのね…」
モゾモゾ、モゾモゾ……
動いたことで包まっている布団がズレる。
合わせ目から溢れる、月光を思わせる光が覗いていることに気付いた。
…もしや、まさか、謎発光してるのか?
謎発光とは。
姉さんの身体に時たま起きる謎の現象。
今までのパターンでは、ストレスが高まったり悩みを抱えたりすると光出すことがあった。
悟の六眼で見た限りでは、「溜め込み過ぎたエネルギーが体外に光として漏れ出している」状態らしく、身体に悪影響などは無いらしいが、とにかく目立つので外に出て行動が出来なくなる。
今回は何故発光してしまったのか、やはりこの男のせいなのか。
だからあれ程、私が許した相手以外とは関わるなと言ったのに…。
だけど、まあ、怪我をしたとかではなくて良かった。
溜息と共に肩から力を抜き、側にしゃがんで布団を捲った。
が、しかし…
「眩しッ!?」
溢れ出る輝きは正しく聖なる光。
清らかで神聖な、浄化の光彩が部屋の中を照らした。
「恵、布団戻してやれ」
予想を遥かに超える輝きに、光を遮るように手を翳し、目を瞑る。
姉さんの隣にピッタリとくっついていた少年が立ち上がり、布団をゴソゴソと直し終えた頃、やっと白んだ視界が通常の状態へと戻って来た。
姉さんが、閃光弾みたいなことになってしまった……。
どうしたものか、まともに直視出来ないのは流石に困る。
姉さんの可愛い可愛い顔や手や足が見れないなんて死活問題だ、人生から潤いが失われる、最悪酷たらしく死ぬ。
「どうしましょ、傑くん」
布団の奥からモゴモゴとくぐもった声で私を呼ぶ姉さんの声がした。
確か悟の話では、溜まりすぎたエネルギーが正常値に戻れば直るとか…放っておけばそのうち落ち着くらしいが、しかし今までとは比較にならないくらい今日は燦々と輝いているからな…どうしたものか。
とりあえずまずは、原因を調査するしかない。
「姉さん、一体何があったのか聞いてもいいかな?」
「えっとねぇ…」
そして姉さんはポツリポツリと説明を始めた。
「人を助けてあげようと思って、それでエネルギーが必要になってね」
「うん」
「ちょっとお試しに信仰心ってどれくらいのエネルギーに換算されるのかな〜って、祈らせたら」
「うん」
「ピカピカが止まらなくなった」
うん………なるほど……なるほど。
色々とツッコミたい所は山程あるのだが、とりあえず一つ言わせてくれないだろうか。
頭痛のしてきた眉間を揉み解し、細く息を吐き出す。
「私以外に…祈られないでくれ……」
祈られたのか、私以外の奴に。
何処の誰かは知らないが、私の許可無く勝手に姉さんを信仰しないで貰おうか。
私の神であって、お前の神ではない。
私のための神だ。私の、ため、だけの。
私の腕の中に落ちてきた流れ星なのだから、この星に願いを掛けて良いのは私だけだ。人の物に手を出すな。
姉さんに甘えるのも、甘えられるのも、頼られるのも、祈ることも、全て、弟である私の特権で………ああ、だったら。
姉さんは先程、信仰心をエネルギーに変換して〜と言っていた。
つまり今の姉さんの謎発光は、信仰心から来る神格化状態なわけだ。
だったら、私が弟として姉さんに接すれば…神格化状態は和らぐのではないだろうか。
これは…弟としての愛が試されている場面なのではなかろうか。
ならば、やるしかない、今ここで。
姉さんスキスキ大作戦を。
まずはこの、他人の匂いが染み付いた布団は邪魔だ、剥ぎ取る。
そして伝えるんだ、私の愛を。
「姉さん!!」
「うわっ」
バサリと布団を引っ剥がす。
眩く輝く荘厳の光は温かく、穏やかで、まるで魂まで照らしてくれているようであった。
神秘的な白い光が部屋の中に行き渡り、何もかもを照らして、不浄を祓う。
思わず涙を浮かべながら拝みたくなる気持ちをグッと堪え、私は目を瞑りながら姉さんの身体を抱き寄せて腕の中に囲った。
スリスリと甘い香りのする柔らかな髪に頬を寄せ、ギュッと抱き込む。
力を込めれば簡単に壊れてしまいそうな薄い肩、脆そうな腰の括れ、子供のような体温を感じながら、私は目一杯、あらん限りの姉への愛を込めて耳元でそっと囁いた。
「姉さん、愛してるよ」
「…………」
「姉さんは、私のこと…弟のこと、好き?」
ビカァアアーーーーーーー!!!!!!
瞬間、目が灼ける程の光が姉さんの体内から溢れ出す。
太陽を直視した時と同じ痛みが眼球を攻撃し、皮膚を焼き、カーテンを貫通して家の外まで光が漏れ出した。
先程とは比べ物にならない眩さに、思わず姉さんから素早く離れて身体を丸め、防御態勢を取ることしか出来なくなる。
何なんだこの凄まじい光り方は。
まさか、私の言葉で?ということは、この輝きは私と姉さんの愛の輝き!?英語にすれば、シャイニー・オブ・ラブ!?
The brilliance of my love with my sister!?誰か、このタイトルで私と姉さんの歌を作ってくれ。
いや、そんなことを言っている場合じゃない、このままでは地球が…いや、太陽系が、姉型超巨星の出現により消滅してしまう。
これは、天の川銀河の危機だ。
何とかして姉さんの輝き…いや、私と姉さんの愛の輝きを止めなければ。
「姉さん!落ち着いて、エネルギーを体内に留めることを意識してみてくれないか?」
「うーん…うーん…」
「このままだと、私と姉さんの愛で世界が終わってしまうんだ!」
「マジかー…」
遠くで姉さんが唸る声が聞こえる。
視界は真っ白で、何処に何があるか分からない。近くに感じる気配はあの男の物だろうか?
あれ、待てよ…確かもう一人居なかったか?子供が…。
「そうだ、恵くん?ちょっと私の頼みを聞いてくれる?」
「…なに」
手探りで周りの状況を確かめている時だった。
離れた場所からそんな会話が聞こえてきたと思ったら、数秒後には徐々に、徐々に、輝きが収まっていった。
数十秒もすれば目を開いても問題が無い状態へと戻っており、周囲には蹴飛ばされて転がってしまったちゃぶ台がひっくり返っていたのだった。
顔を姉さんの方へ向ける。
すると、何故か姉さんの腕の中には名前も知らない子供がおり、ギュムッと抱き締められていた。
「恵くんありがとね」
「……ん」
よしよしと頭を撫でられ姉さんに抱き締められる子供は、チラリとこちらを見てから、姉さんの服をキュッと掴んだ。
こ、コイツ………まさか、姉さんのことを……?
ふざけるな、何をしたかは知らないが、勝手に姉さんの腕の中に…。
慌てて駆け寄り、声を掛ける。
「姉さん、大丈夫かい?」
「ああ、うん」
グッパグッパと、己の手を握ったり開いたりして身体の具合を確かめた後、「大丈夫っぽい」と言う姉さんはいつも通りの表情をしていた。
一体何故いきなり光が止んだのか、私が声を掛けたらまるで引き金を引いてしまったように光が強まったというのに…やはり謎発光は謎だらけだ。
それに、この子供には何をさせたのだろうか。
疑問が顔に出ていたのか、姉さんが私の「その子、離したら?」という言葉を無視して子供の頭を撫でながら話し出す。
「傑くんによって溜まりに溜まった信仰パワーが爆発して光り出したっぽい」
「私の信仰パワー…?」
「傑くんのラブでブーストされて、さらに光っちゃった」
「私のラブ・ブースト…?」
「恵くんにチュウして貰ったらそっちに意識行って直った」
「………………は?」
今、なんて?
「信仰イコール傑くんに結び付いてしまった私の発想が原因だったみたい、次回はもっとコントロール出来るように…」
「いやそんなことはどうでもいい」
反省を始めた姉さんに詰め寄り、顔をガシッと掴む。
キョトンと目を丸くして、黒く艶めく瞳に私を映し出す。
映し出された私の顔には、一切の表情が存在しなかった。
抜け落ちた表情でジッと見つめ、尋問をする。
「チュウ?キス?私以外の男と?姉さん、ファーストキス…まだだったよね?」
「………えっとね」
「聞いていないことは答えないでくれ、私が聞いたことだけを答えて欲しい」
「あー…ほっぺだよ、ほっぺにね…」
ほっぺ。
頬か、どっちだ。いや、この際どちらでも良い、両方私の唇で上書きすればいい。
一度顔を離し、姉さんの細い顎に指先を添える。
顔にかかる髪をそっと耳にかけて、ゆっくりとその白くまろい頬に唇を寄せていった。
しかし。
「はい、だめー」
姉さんの片手が私の顔の接近を止める。
グイグイと押しても、ムイッムイッと指先で眉間を揉まれながら押し返されてしまった。
「また発光しちゃうから」
「モガガッ」
「あとここ、人んちだから」
「グッ」
姉の正論パンチ、効果はバツグン。
それは確かにそうだ、ましてや子供の前だった。
今は仕方無い、一旦引き下がろう。
だが、帰ったら。
帰ったら、絶対姉さんに抱き締めて頭を撫でて貰って頬にキスして貰う。
でなければ嫉妬という熱で、私が太陽系を滅ぼすハメになってしまうかもしれない。
「なぁ、お前の姉ちゃんがヤベェんだけど」
「姉さんを姉ちゃんと呼ぶな!!!」
「まず話聞けよ」
思わずドスの効いた声で「あ"?」と言ってしまい、即座にそんな場合ではないと反省をする。
そうだ、姉さんに何かがあったのならば、そっちの方を聞かなければ…………は?姉さんに何かがあった?
「姉さんは無事なのか!?」
「あー……」
「姉さん!?そこに居るのか!?姉さん!?」
「うるせっ」
とにかく来いと言われ、場所を言い渡される。
早々に切られた電話口を、恨みを込めて睨み付けながら、すぐに準備を終えて高専を飛び出した。
一体姉さんになにがあったと言うのか。
もし、もしも姉さんの身に傷でも残るようなことがあったら………何から消せばいいんだ。
まずあの姉さんに寄生する悪い虫は消すとして、あとは姉さんに傷をつけた奴と、姉さんに傷をつけた奴を支援している奴が居るのならばそいつも消して…それから姉さんに傷を付けたのがナイフだったりした場合はそれを折って捨てて…。
ああ、やっぱり姉さんは私が付いていないと駄目なんだ。
私が一緒に居ればこんなことは起きなかった、ずっと穏やかに幸せなまま、私の腕の中で微睡んでいてくれたらいいのに。それだけで、いいのに。
他には何も望まないというのに。
貴女は私の側で息をしていてくれさえすれば、それでいい。
…
指定された場所へ行けば、そこは古びた貸家だった。
本当にここなのかという疑問を持ちながらもチャイムを鳴らし、逸る気持ちを抑えて暫く待てば、出てきたのは姉の友人を自称する例の男だった。
眼前の男をあらん限りの恨みを込めて睨み付ける。
「姉さんに何をした」
「何もしてねぇよ」
何もしていないわけが無いだろう。
だって姉さん、昨日の夜から「明日、楽しみ」ってワクワクしていて…今日だって何を着て行くか迷っていて…そんな可愛い人に何もしない人間なんて居るはずが無い。
いや、何かあっては困るが。私以外が姉さんに何かをするなんて許せない。そんなことが起きれば、世界を作り直すしかなくなる。
家に上がればすぐに様子が分かった。
部屋の隅で布団にくるまりこんもりとしている何かから、姉さんの呪力を感じる。
何故かその隣に座る子供は無視して近寄れば、モゾモゾと塊が動いた。
「傑くん…?」
「姉さん、大丈夫かい?」
「どうしよ、あのね…」
モゾモゾ、モゾモゾ……
動いたことで包まっている布団がズレる。
合わせ目から溢れる、月光を思わせる光が覗いていることに気付いた。
…もしや、まさか、謎発光してるのか?
謎発光とは。
姉さんの身体に時たま起きる謎の現象。
今までのパターンでは、ストレスが高まったり悩みを抱えたりすると光出すことがあった。
悟の六眼で見た限りでは、「溜め込み過ぎたエネルギーが体外に光として漏れ出している」状態らしく、身体に悪影響などは無いらしいが、とにかく目立つので外に出て行動が出来なくなる。
今回は何故発光してしまったのか、やはりこの男のせいなのか。
だからあれ程、私が許した相手以外とは関わるなと言ったのに…。
だけど、まあ、怪我をしたとかではなくて良かった。
溜息と共に肩から力を抜き、側にしゃがんで布団を捲った。
が、しかし…
「眩しッ!?」
溢れ出る輝きは正しく聖なる光。
清らかで神聖な、浄化の光彩が部屋の中を照らした。
「恵、布団戻してやれ」
予想を遥かに超える輝きに、光を遮るように手を翳し、目を瞑る。
姉さんの隣にピッタリとくっついていた少年が立ち上がり、布団をゴソゴソと直し終えた頃、やっと白んだ視界が通常の状態へと戻って来た。
姉さんが、閃光弾みたいなことになってしまった……。
どうしたものか、まともに直視出来ないのは流石に困る。
姉さんの可愛い可愛い顔や手や足が見れないなんて死活問題だ、人生から潤いが失われる、最悪酷たらしく死ぬ。
「どうしましょ、傑くん」
布団の奥からモゴモゴとくぐもった声で私を呼ぶ姉さんの声がした。
確か悟の話では、溜まりすぎたエネルギーが正常値に戻れば直るとか…放っておけばそのうち落ち着くらしいが、しかし今までとは比較にならないくらい今日は燦々と輝いているからな…どうしたものか。
とりあえずまずは、原因を調査するしかない。
「姉さん、一体何があったのか聞いてもいいかな?」
「えっとねぇ…」
そして姉さんはポツリポツリと説明を始めた。
「人を助けてあげようと思って、それでエネルギーが必要になってね」
「うん」
「ちょっとお試しに信仰心ってどれくらいのエネルギーに換算されるのかな〜って、祈らせたら」
「うん」
「ピカピカが止まらなくなった」
うん………なるほど……なるほど。
色々とツッコミたい所は山程あるのだが、とりあえず一つ言わせてくれないだろうか。
頭痛のしてきた眉間を揉み解し、細く息を吐き出す。
「私以外に…祈られないでくれ……」
祈られたのか、私以外の奴に。
何処の誰かは知らないが、私の許可無く勝手に姉さんを信仰しないで貰おうか。
私の神であって、お前の神ではない。
私のための神だ。私の、ため、だけの。
私の腕の中に落ちてきた流れ星なのだから、この星に願いを掛けて良いのは私だけだ。人の物に手を出すな。
姉さんに甘えるのも、甘えられるのも、頼られるのも、祈ることも、全て、弟である私の特権で………ああ、だったら。
姉さんは先程、信仰心をエネルギーに変換して〜と言っていた。
つまり今の姉さんの謎発光は、信仰心から来る神格化状態なわけだ。
だったら、私が弟として姉さんに接すれば…神格化状態は和らぐのではないだろうか。
これは…弟としての愛が試されている場面なのではなかろうか。
ならば、やるしかない、今ここで。
姉さんスキスキ大作戦を。
まずはこの、他人の匂いが染み付いた布団は邪魔だ、剥ぎ取る。
そして伝えるんだ、私の愛を。
「姉さん!!」
「うわっ」
バサリと布団を引っ剥がす。
眩く輝く荘厳の光は温かく、穏やかで、まるで魂まで照らしてくれているようであった。
神秘的な白い光が部屋の中に行き渡り、何もかもを照らして、不浄を祓う。
思わず涙を浮かべながら拝みたくなる気持ちをグッと堪え、私は目を瞑りながら姉さんの身体を抱き寄せて腕の中に囲った。
スリスリと甘い香りのする柔らかな髪に頬を寄せ、ギュッと抱き込む。
力を込めれば簡単に壊れてしまいそうな薄い肩、脆そうな腰の括れ、子供のような体温を感じながら、私は目一杯、あらん限りの姉への愛を込めて耳元でそっと囁いた。
「姉さん、愛してるよ」
「…………」
「姉さんは、私のこと…弟のこと、好き?」
ビカァアアーーーーーーー!!!!!!
瞬間、目が灼ける程の光が姉さんの体内から溢れ出す。
太陽を直視した時と同じ痛みが眼球を攻撃し、皮膚を焼き、カーテンを貫通して家の外まで光が漏れ出した。
先程とは比べ物にならない眩さに、思わず姉さんから素早く離れて身体を丸め、防御態勢を取ることしか出来なくなる。
何なんだこの凄まじい光り方は。
まさか、私の言葉で?ということは、この輝きは私と姉さんの愛の輝き!?英語にすれば、シャイニー・オブ・ラブ!?
The brilliance of my love with my sister!?誰か、このタイトルで私と姉さんの歌を作ってくれ。
いや、そんなことを言っている場合じゃない、このままでは地球が…いや、太陽系が、姉型超巨星の出現により消滅してしまう。
これは、天の川銀河の危機だ。
何とかして姉さんの輝き…いや、私と姉さんの愛の輝きを止めなければ。
「姉さん!落ち着いて、エネルギーを体内に留めることを意識してみてくれないか?」
「うーん…うーん…」
「このままだと、私と姉さんの愛で世界が終わってしまうんだ!」
「マジかー…」
遠くで姉さんが唸る声が聞こえる。
視界は真っ白で、何処に何があるか分からない。近くに感じる気配はあの男の物だろうか?
あれ、待てよ…確かもう一人居なかったか?子供が…。
「そうだ、恵くん?ちょっと私の頼みを聞いてくれる?」
「…なに」
手探りで周りの状況を確かめている時だった。
離れた場所からそんな会話が聞こえてきたと思ったら、数秒後には徐々に、徐々に、輝きが収まっていった。
数十秒もすれば目を開いても問題が無い状態へと戻っており、周囲には蹴飛ばされて転がってしまったちゃぶ台がひっくり返っていたのだった。
顔を姉さんの方へ向ける。
すると、何故か姉さんの腕の中には名前も知らない子供がおり、ギュムッと抱き締められていた。
「恵くんありがとね」
「……ん」
よしよしと頭を撫でられ姉さんに抱き締められる子供は、チラリとこちらを見てから、姉さんの服をキュッと掴んだ。
こ、コイツ………まさか、姉さんのことを……?
ふざけるな、何をしたかは知らないが、勝手に姉さんの腕の中に…。
慌てて駆け寄り、声を掛ける。
「姉さん、大丈夫かい?」
「ああ、うん」
グッパグッパと、己の手を握ったり開いたりして身体の具合を確かめた後、「大丈夫っぽい」と言う姉さんはいつも通りの表情をしていた。
一体何故いきなり光が止んだのか、私が声を掛けたらまるで引き金を引いてしまったように光が強まったというのに…やはり謎発光は謎だらけだ。
それに、この子供には何をさせたのだろうか。
疑問が顔に出ていたのか、姉さんが私の「その子、離したら?」という言葉を無視して子供の頭を撫でながら話し出す。
「傑くんによって溜まりに溜まった信仰パワーが爆発して光り出したっぽい」
「私の信仰パワー…?」
「傑くんのラブでブーストされて、さらに光っちゃった」
「私のラブ・ブースト…?」
「恵くんにチュウして貰ったらそっちに意識行って直った」
「………………は?」
今、なんて?
「信仰イコール傑くんに結び付いてしまった私の発想が原因だったみたい、次回はもっとコントロール出来るように…」
「いやそんなことはどうでもいい」
反省を始めた姉さんに詰め寄り、顔をガシッと掴む。
キョトンと目を丸くして、黒く艶めく瞳に私を映し出す。
映し出された私の顔には、一切の表情が存在しなかった。
抜け落ちた表情でジッと見つめ、尋問をする。
「チュウ?キス?私以外の男と?姉さん、ファーストキス…まだだったよね?」
「………えっとね」
「聞いていないことは答えないでくれ、私が聞いたことだけを答えて欲しい」
「あー…ほっぺだよ、ほっぺにね…」
ほっぺ。
頬か、どっちだ。いや、この際どちらでも良い、両方私の唇で上書きすればいい。
一度顔を離し、姉さんの細い顎に指先を添える。
顔にかかる髪をそっと耳にかけて、ゆっくりとその白くまろい頬に唇を寄せていった。
しかし。
「はい、だめー」
姉さんの片手が私の顔の接近を止める。
グイグイと押しても、ムイッムイッと指先で眉間を揉まれながら押し返されてしまった。
「また発光しちゃうから」
「モガガッ」
「あとここ、人んちだから」
「グッ」
姉の正論パンチ、効果はバツグン。
それは確かにそうだ、ましてや子供の前だった。
今は仕方無い、一旦引き下がろう。
だが、帰ったら。
帰ったら、絶対姉さんに抱き締めて頭を撫でて貰って頬にキスして貰う。
でなければ嫉妬という熱で、私が太陽系を滅ぼすハメになってしまうかもしれない。