番外編
今日は私、夏油傑の誕生日だ。
「つまりは、姉さんに何をしても許される日でもある」
「いやだからって教室に連れて来るなよ」
「私の宗教である姉さんが許してくれているからいいんだ」
授業が始まるまでの朝の時間、私は誕生日なのを理由に姉さんを一年生の教室まで連れて来てしまった。
眠そうに、というか半分寝ている姉さんはムニャムニャと口元を動かしながら私の胸元にふにゃりと頬を擦り寄せている。
可愛い、たまらない、小さく開く口の中を今すぐめちゃくちゃにしてやりたい。叫び出しそうな衝動を堪えながら吐き出した息はいやに熱く、甘く、重たかった。
腕の中に囲い込んだ姉さんを見下ろす。
今日一日この可愛い人を好きにしていいのかと思うと頭が沸騰しそうだった。
美しく、清らかで純粋で、私のために存在する天より与えられし私のための命。
幼い頃から好きだった姉さん。
その姉さんに、幼少期の私はある約束をした。
「毎年誕生日の日は僕のものになって」
当時の私は純粋な気持ちでこれを願い、姉さんも軽い気持ちで「いいよ」と頷いた。
今となっては良くやったと過去の自分を褒めてやりたいくらいの功績だ、過去の私のお陰で今年の誕生日も深夜0時から姉さんと一緒に居られたのだから。
眠い、寝かせてくれ、頼む…後生だから…と我儘を言う姉さんをあの手この手で起こし続けてなんとか迎えた深夜0時、姉さんからのお誕生日おめでとうを聞いて私はそのまま姉さんを優しく抱えて眠った。
そういえば、朝起きた時姉さんが「死ぬかと思った…」と言っていたけれど、あれはどういうことだったのだろう。私はただ姉さんにピッタリくっついて、ムギュッと抱き締めていただけのはずだが…何か良くない夢でも見たのだろうか。
「姉さん、ほら、可愛い私の誕生日なんだから寝ないで祝い続けてくれ」
「傑くんおっきくなったねー、すごいねー…」
「もっと言って」
「えっと…頼りになって可愛くて、力も強くて…」
そうだろうそうだろう、何せ私は姉さんの自慢の可愛くて強くて頼りになる弟だからね、こうして姉さんの足を朝から地上に一回も付ける事なく運び続けるのも楽々出来てしまうんだ。
今日一日は姉さんを離さないからね、私の側にずっと居てくれなきゃ嫌だ、勝手に許可無く何処かへ行ったら拗ねるよ。
「姉さん、誕生日だから今日はずっと一緒に居てくれ」
「トイレ以外ならいいよ」
「じゃあ、極力トイレは我慢して貰えるかな」
「暴君…?」
ん?なんか今、暴君とか聞こえた気がしたが気の所為だよね、可愛い弟に姉さんがそんなことを言うはずが無い。朝だから私もまだ寝惚けているのかも。
今日はまだ始まったばかりだ。
ああ、毎日誕生日だったらいいのに。
そうしたら毎日姉さんを抱えて眠れるのに。
___
傑くんの誕生日は毎年デンジャラスだ、何故なら誕生日の彼は我儘暴君へと変身するからである。
小さい頃は我儘も可愛かった、小学校への登校時に「手つなご」と言って来たり、「姉さんの鉛筆一本ちょうだい」とか、その程度だった。
だが年々お願いのレベルが上がりに上がって、今年は「一日ずっと一緒に居てくれ」「とにかく腕の中に居てくれ」「暇なら私を褒めてくれ」「姉さんが食べてる物が欲しい」「姉さんが持ってるハンカチが使いたい」「3分以上離れたら駄目だよ、3分でトイレ終わらせて」「授業が終わったら教室に居て」「何処にも行くな」「メールアドレスを「sukisukisugurukun0203@」にしてくれ」とかなんとか、まあもう次から次にリクエストが飛んで来た。えらいこっちゃ。
昨日の夜は日付が変わる頃まで起こされ、日付が変わったと同時に誕生日を祝った、それで終わりかと思えばその後が大変だった。
一緒に寝ることになったのだが、それがマズかったのだ。
本人からすればムギュッ♡スリスリ♡くらいの力のつもりで抱き締めて寝ているんだろうが、私からしたら完全に締められていた。ギチッ…ギチッ…と鳴りそうな勢いでまるで巨大な蛇に締め付けられているような感覚のする身体は一切動かず、固められた関節が痛みを訴え始める。
グリッゴリッと押し付けられる硬い身体は重く、下手したら潰れてしまいそうだった。
これ…寝惚けて力加減間違えられたら、私、死ぬのでは…。
弟の誕生日が命日になる姉…最悪の展開を想像してしまえば、中々寝付くことが出来なかった。
そんなこんなで朝、彼は健やかに目覚めて嬉々として私の世話を焼き、私は一歩たりとも勝手に歩くことを許されずに弟の教室まで連行された。
寝不足で回らない頭で請われるままにひたすら弟を讃え続ける。
「傑くんは筋肉があって、あったかくて」
「うん、それから?」
「あー…優しくて、モテて…」
「他には?」
「ご飯をいっぱい食べれてえらい…」
もう褒められる所が他に見当たらない。
誰か助けてくれ、部屋に帰らせてくれ、それが無理なら一時間で良いから寝かせてくれ。
「姉さん、私のこと好き?」
「だいすき、だいすきだからちょっと寝かせてくれませんか」
「駄目だよ、今から授業なんだから」
そこは真面目なんですね…。
その真面目さを私に対する慈悲や倫理観に少しでも回して頂けないでしょうか、無理ですか、そうですか、ならいいです。姉は耐えます、可愛い弟のために。
ああ、今年も長く大切な一日が始まったな。
おめでとう傑くん、君が健やかであるならば、姉は他に何もいらないよ。
「つまりは、姉さんに何をしても許される日でもある」
「いやだからって教室に連れて来るなよ」
「私の宗教である姉さんが許してくれているからいいんだ」
授業が始まるまでの朝の時間、私は誕生日なのを理由に姉さんを一年生の教室まで連れて来てしまった。
眠そうに、というか半分寝ている姉さんはムニャムニャと口元を動かしながら私の胸元にふにゃりと頬を擦り寄せている。
可愛い、たまらない、小さく開く口の中を今すぐめちゃくちゃにしてやりたい。叫び出しそうな衝動を堪えながら吐き出した息はいやに熱く、甘く、重たかった。
腕の中に囲い込んだ姉さんを見下ろす。
今日一日この可愛い人を好きにしていいのかと思うと頭が沸騰しそうだった。
美しく、清らかで純粋で、私のために存在する天より与えられし私のための命。
幼い頃から好きだった姉さん。
その姉さんに、幼少期の私はある約束をした。
「毎年誕生日の日は僕のものになって」
当時の私は純粋な気持ちでこれを願い、姉さんも軽い気持ちで「いいよ」と頷いた。
今となっては良くやったと過去の自分を褒めてやりたいくらいの功績だ、過去の私のお陰で今年の誕生日も深夜0時から姉さんと一緒に居られたのだから。
眠い、寝かせてくれ、頼む…後生だから…と我儘を言う姉さんをあの手この手で起こし続けてなんとか迎えた深夜0時、姉さんからのお誕生日おめでとうを聞いて私はそのまま姉さんを優しく抱えて眠った。
そういえば、朝起きた時姉さんが「死ぬかと思った…」と言っていたけれど、あれはどういうことだったのだろう。私はただ姉さんにピッタリくっついて、ムギュッと抱き締めていただけのはずだが…何か良くない夢でも見たのだろうか。
「姉さん、ほら、可愛い私の誕生日なんだから寝ないで祝い続けてくれ」
「傑くんおっきくなったねー、すごいねー…」
「もっと言って」
「えっと…頼りになって可愛くて、力も強くて…」
そうだろうそうだろう、何せ私は姉さんの自慢の可愛くて強くて頼りになる弟だからね、こうして姉さんの足を朝から地上に一回も付ける事なく運び続けるのも楽々出来てしまうんだ。
今日一日は姉さんを離さないからね、私の側にずっと居てくれなきゃ嫌だ、勝手に許可無く何処かへ行ったら拗ねるよ。
「姉さん、誕生日だから今日はずっと一緒に居てくれ」
「トイレ以外ならいいよ」
「じゃあ、極力トイレは我慢して貰えるかな」
「暴君…?」
ん?なんか今、暴君とか聞こえた気がしたが気の所為だよね、可愛い弟に姉さんがそんなことを言うはずが無い。朝だから私もまだ寝惚けているのかも。
今日はまだ始まったばかりだ。
ああ、毎日誕生日だったらいいのに。
そうしたら毎日姉さんを抱えて眠れるのに。
___
傑くんの誕生日は毎年デンジャラスだ、何故なら誕生日の彼は我儘暴君へと変身するからである。
小さい頃は我儘も可愛かった、小学校への登校時に「手つなご」と言って来たり、「姉さんの鉛筆一本ちょうだい」とか、その程度だった。
だが年々お願いのレベルが上がりに上がって、今年は「一日ずっと一緒に居てくれ」「とにかく腕の中に居てくれ」「暇なら私を褒めてくれ」「姉さんが食べてる物が欲しい」「姉さんが持ってるハンカチが使いたい」「3分以上離れたら駄目だよ、3分でトイレ終わらせて」「授業が終わったら教室に居て」「何処にも行くな」「メールアドレスを「sukisukisugurukun0203@」にしてくれ」とかなんとか、まあもう次から次にリクエストが飛んで来た。えらいこっちゃ。
昨日の夜は日付が変わる頃まで起こされ、日付が変わったと同時に誕生日を祝った、それで終わりかと思えばその後が大変だった。
一緒に寝ることになったのだが、それがマズかったのだ。
本人からすればムギュッ♡スリスリ♡くらいの力のつもりで抱き締めて寝ているんだろうが、私からしたら完全に締められていた。ギチッ…ギチッ…と鳴りそうな勢いでまるで巨大な蛇に締め付けられているような感覚のする身体は一切動かず、固められた関節が痛みを訴え始める。
グリッゴリッと押し付けられる硬い身体は重く、下手したら潰れてしまいそうだった。
これ…寝惚けて力加減間違えられたら、私、死ぬのでは…。
弟の誕生日が命日になる姉…最悪の展開を想像してしまえば、中々寝付くことが出来なかった。
そんなこんなで朝、彼は健やかに目覚めて嬉々として私の世話を焼き、私は一歩たりとも勝手に歩くことを許されずに弟の教室まで連行された。
寝不足で回らない頭で請われるままにひたすら弟を讃え続ける。
「傑くんは筋肉があって、あったかくて」
「うん、それから?」
「あー…優しくて、モテて…」
「他には?」
「ご飯をいっぱい食べれてえらい…」
もう褒められる所が他に見当たらない。
誰か助けてくれ、部屋に帰らせてくれ、それが無理なら一時間で良いから寝かせてくれ。
「姉さん、私のこと好き?」
「だいすき、だいすきだからちょっと寝かせてくれませんか」
「駄目だよ、今から授業なんだから」
そこは真面目なんですね…。
その真面目さを私に対する慈悲や倫理観に少しでも回して頂けないでしょうか、無理ですか、そうですか、ならいいです。姉は耐えます、可愛い弟のために。
ああ、今年も長く大切な一日が始まったな。
おめでとう傑くん、君が健やかであるならば、姉は他に何もいらないよ。