番外編
突然だが、姉さんの耳に穴を開けたい。
何故そう思ったのかというと、3日前珍しくファッション雑誌(メンズ物)を私の寮の自室でつまらなそうに捲っていた姉さんであったが、ある1ページで手を止め、何かをじっ…と見つめていた。
悟とゲームをしていた私はページの内容までは見えなかったが、ポツリと呟かれた言葉は耳に入った。
「ピアスかぁ…」
ピアス。
ピアスとは、私の耳に付いているアクセサリーと同じ物だろうか?イヤリングではなくピアス、ぶら下げる方ではなく、穴をブスッと開ける方。
………え、姉さんがピアスに興味を持っている!?
あの、ファッションに対して一ミリも興味が無さすぎて中学卒業まで無地のスポブラ、学校規定の白ソックスな姉さんが!?今だって親に入学祝いにと買って貰った、自分で選んだリュックサックは茶色と迷彩柄が所々にある機能性を追求した軍人が持つみたいな無骨なやつを私との休日デートの日すら背負っている姉さんが!?
ゴトンッ
「おいなにDS落としてんだよ」
「……とうとう、色気づきはじめたのか?」
「は?」
悟とのマリカーを中断し、チラリと後ろを振り返る。
ベッドの上には飽きられて捨てられたメンズ雑誌が適当に広がっていた。
壁の方を向いて寝っ転がる姉から分かることは、とくに無い。
ただ、先程呟かれた言葉が脳内に反復し続けた。
…
ということで、翌日ファーストピアスと一体になったピアッサーを2個買った私は、ご機嫌に昼食のおにぎりを持って何処かへ行こうとしている姉を引っ捕らえ教室に連れて行った。
普段私が座る椅子に座らせ、引き出しから取り出したピアッサーを机に音を立てて置く。
「さ、開けようか」
「え、な、なんで…」
「大丈夫、任せてくれ。痛くしないさ、優しくするよ」
「いや、いい、いいです」
おや、痛い方が好みだったか?
しかし愛しい姉さんを痛め付けるなど、優しい私にはとてもじゃないが出来ない。
まあ、その…姉の身体の一部に塞がらない一生に残る傷を付けられる事には、昨日の夜も上手く寝付けないくらいには酷く興奮しているが。
だからこそ、はじめては優しくしてあげたい。
姉さんのはじめて…ああ、なんて甘美な響きなんだろうか。
下っ腹に熱が集まる心地だ。
「ほら、私とお揃いの色だよ」
「そういう問題じゃなくて…」
「冷やす物も用意したし、消毒液も新しく買ったから」
「あわわわわ…」
器用に椅子ごとゴトゴトと後退していく姉の肩を掴む。
うっ…見上げてくる瞳に浮く怯えた色が可愛い、少し眉を垂れさせ、口を半開きにしながら、「なんで…」と困惑する姿に色々な物が耐えられなくなりそうだった。
口元はだらし無く歪み、嫌らしい笑みが隠しきれない。
荒んだ呼吸が溢れ落ちる。
どうしよう、めちゃくちゃにしたい。
「…姉さん」
「なんでしょう…」
「めちゃくちゃにしていい?」
私は優しくて可愛くてえらい、自慢の弟なのでちゃんと手を出す前に聞いてあげた。
私の問に対して姉さんは、難しい顔をして「んー…」と唸りながら悩んだ末に、一つ頷くと、パッと両手を差し出して来た。
「やだ、抱っこがいい」
「はあーーーー………」
そっか〜〜〜〜。
抱っこがいいか〜〜〜〜。
姉さんがそう言うなら仕方無い。
むしろ、抱っこさせて貰えることも中々無いから、これはこれで嬉しい。
いや、寝惚けている時とかは全然勝手にしているんだが、こう…相手からせがまれるのと自分で勝手にするのはまた違ってね…とにかく、姉さんの可愛いおねだりが聞けて大分満足した。
一度脇の下に手を入れ持ち上げ、その後お尻と背中に腕を移動させて体勢を整える。
すぐそばにある同じ色の瞳がパチリパチリと瞬いて、それから弓なりにしなる。首元に擦り寄せるように頭を寄せられてしまえば、触れた箇所が異常に熱くなった気がした。
肩にコテンと頭を預けられ、思わずゴクリと喉が鳴る。
このまま部屋に持ち帰りたい、朝まで閉じ込めておきたい。
姉さんは蜜のようであり、毒のようである。
いや、両方かもしれない。蜜のように甘い毒だ。
口に含まねば味は分からないが、含んだら最後、後は無い。
そういうお人…いや、神だ。
「よし、このままおにぎりを持って行進開始」
「ああ、部屋に…」
「さっきオオマムシグサを見つけたんだ、それを見ながら昼食にしたい、外だ、外に行け」
「オオ…なんて?」
オオ…え?それは食物なのか?
姉さんが私の知らない草に反応するのはいつもの事だけれど、また今日も私よりも草を優先するのか?
私をこんなにもドキドキさせておいて?つまり、弄んだんだ…へぇ、こんなに健気な弟を…ふぅん。
「姉さん、その草はあとにして、たまには私といけないことでも…」
「いけないこと…?カモシカを狩る…?」
「国の指定している特別天然記念物を狩るのは洒落にならないよ」
というかそれは最早"いけないこと"なんて可愛いものじゃないだろう、流石にそこまでの事は出来ない、あとカモシカが可哀想だ。
私の提案に若干ショボンとしている姉さんは、私の制服をちょみっと掴んでいた。
「でもオオマムシグサは可愛いよ」
「姉さんの方が可愛いよ」
ポンポンと背中を叩けば、はぁ…と小さな溜め息が腕の中から聞こえた。
「一番最初に傑くんに見せてあげたかったのに…悟くん誘おうかな…」
「よし行こうか」
前言撤回、姉さんが尊び私に見せたがっている物は見なければならない、弟として、これは義務だ。
ということでその、オオマムシグサ?とかいうのを見に行くことにした。
「オオマムシグサは毒草なんだよ」
「へぇ、じゃあ食べたら駄目なんだね」
「そもそも、食べてもそんなに美味しくない」
「食べたんだ…」
また目を離した隙に変な草食べてる…。
本当やめてくれ、少し散歩に出ただけで野草で腹を満たす癖を控えて欲しい、いつか病院に担ぎ込まれるんじゃないかとヒヤヒヤする。
校内から出た所で姉さんは私の腕の中から降りて、目的地に向かって先導するように歩き始めてしまった。
今更だが、思いっきりピアスのことが頭からすっぽ抜けてしまっていた。
まあ、今日是非やらずとも、後日でいいか。
今日の所は姉さんに付き合うことにしよう。
ああ、私ってなんて出来た弟なんだろうか。
これはもう、姉さんも絶対に私を手放せないだろうなぁ…。
そうなるよう仕込み続けたのは、他でも無い私なのだが。
それを姉さんが理解する日は恐らく、来ないだろう。
何故そう思ったのかというと、3日前珍しくファッション雑誌(メンズ物)を私の寮の自室でつまらなそうに捲っていた姉さんであったが、ある1ページで手を止め、何かをじっ…と見つめていた。
悟とゲームをしていた私はページの内容までは見えなかったが、ポツリと呟かれた言葉は耳に入った。
「ピアスかぁ…」
ピアス。
ピアスとは、私の耳に付いているアクセサリーと同じ物だろうか?イヤリングではなくピアス、ぶら下げる方ではなく、穴をブスッと開ける方。
………え、姉さんがピアスに興味を持っている!?
あの、ファッションに対して一ミリも興味が無さすぎて中学卒業まで無地のスポブラ、学校規定の白ソックスな姉さんが!?今だって親に入学祝いにと買って貰った、自分で選んだリュックサックは茶色と迷彩柄が所々にある機能性を追求した軍人が持つみたいな無骨なやつを私との休日デートの日すら背負っている姉さんが!?
ゴトンッ
「おいなにDS落としてんだよ」
「……とうとう、色気づきはじめたのか?」
「は?」
悟とのマリカーを中断し、チラリと後ろを振り返る。
ベッドの上には飽きられて捨てられたメンズ雑誌が適当に広がっていた。
壁の方を向いて寝っ転がる姉から分かることは、とくに無い。
ただ、先程呟かれた言葉が脳内に反復し続けた。
…
ということで、翌日ファーストピアスと一体になったピアッサーを2個買った私は、ご機嫌に昼食のおにぎりを持って何処かへ行こうとしている姉を引っ捕らえ教室に連れて行った。
普段私が座る椅子に座らせ、引き出しから取り出したピアッサーを机に音を立てて置く。
「さ、開けようか」
「え、な、なんで…」
「大丈夫、任せてくれ。痛くしないさ、優しくするよ」
「いや、いい、いいです」
おや、痛い方が好みだったか?
しかし愛しい姉さんを痛め付けるなど、優しい私にはとてもじゃないが出来ない。
まあ、その…姉の身体の一部に塞がらない一生に残る傷を付けられる事には、昨日の夜も上手く寝付けないくらいには酷く興奮しているが。
だからこそ、はじめては優しくしてあげたい。
姉さんのはじめて…ああ、なんて甘美な響きなんだろうか。
下っ腹に熱が集まる心地だ。
「ほら、私とお揃いの色だよ」
「そういう問題じゃなくて…」
「冷やす物も用意したし、消毒液も新しく買ったから」
「あわわわわ…」
器用に椅子ごとゴトゴトと後退していく姉の肩を掴む。
うっ…見上げてくる瞳に浮く怯えた色が可愛い、少し眉を垂れさせ、口を半開きにしながら、「なんで…」と困惑する姿に色々な物が耐えられなくなりそうだった。
口元はだらし無く歪み、嫌らしい笑みが隠しきれない。
荒んだ呼吸が溢れ落ちる。
どうしよう、めちゃくちゃにしたい。
「…姉さん」
「なんでしょう…」
「めちゃくちゃにしていい?」
私は優しくて可愛くてえらい、自慢の弟なのでちゃんと手を出す前に聞いてあげた。
私の問に対して姉さんは、難しい顔をして「んー…」と唸りながら悩んだ末に、一つ頷くと、パッと両手を差し出して来た。
「やだ、抱っこがいい」
「はあーーーー………」
そっか〜〜〜〜。
抱っこがいいか〜〜〜〜。
姉さんがそう言うなら仕方無い。
むしろ、抱っこさせて貰えることも中々無いから、これはこれで嬉しい。
いや、寝惚けている時とかは全然勝手にしているんだが、こう…相手からせがまれるのと自分で勝手にするのはまた違ってね…とにかく、姉さんの可愛いおねだりが聞けて大分満足した。
一度脇の下に手を入れ持ち上げ、その後お尻と背中に腕を移動させて体勢を整える。
すぐそばにある同じ色の瞳がパチリパチリと瞬いて、それから弓なりにしなる。首元に擦り寄せるように頭を寄せられてしまえば、触れた箇所が異常に熱くなった気がした。
肩にコテンと頭を預けられ、思わずゴクリと喉が鳴る。
このまま部屋に持ち帰りたい、朝まで閉じ込めておきたい。
姉さんは蜜のようであり、毒のようである。
いや、両方かもしれない。蜜のように甘い毒だ。
口に含まねば味は分からないが、含んだら最後、後は無い。
そういうお人…いや、神だ。
「よし、このままおにぎりを持って行進開始」
「ああ、部屋に…」
「さっきオオマムシグサを見つけたんだ、それを見ながら昼食にしたい、外だ、外に行け」
「オオ…なんて?」
オオ…え?それは食物なのか?
姉さんが私の知らない草に反応するのはいつもの事だけれど、また今日も私よりも草を優先するのか?
私をこんなにもドキドキさせておいて?つまり、弄んだんだ…へぇ、こんなに健気な弟を…ふぅん。
「姉さん、その草はあとにして、たまには私といけないことでも…」
「いけないこと…?カモシカを狩る…?」
「国の指定している特別天然記念物を狩るのは洒落にならないよ」
というかそれは最早"いけないこと"なんて可愛いものじゃないだろう、流石にそこまでの事は出来ない、あとカモシカが可哀想だ。
私の提案に若干ショボンとしている姉さんは、私の制服をちょみっと掴んでいた。
「でもオオマムシグサは可愛いよ」
「姉さんの方が可愛いよ」
ポンポンと背中を叩けば、はぁ…と小さな溜め息が腕の中から聞こえた。
「一番最初に傑くんに見せてあげたかったのに…悟くん誘おうかな…」
「よし行こうか」
前言撤回、姉さんが尊び私に見せたがっている物は見なければならない、弟として、これは義務だ。
ということでその、オオマムシグサ?とかいうのを見に行くことにした。
「オオマムシグサは毒草なんだよ」
「へぇ、じゃあ食べたら駄目なんだね」
「そもそも、食べてもそんなに美味しくない」
「食べたんだ…」
また目を離した隙に変な草食べてる…。
本当やめてくれ、少し散歩に出ただけで野草で腹を満たす癖を控えて欲しい、いつか病院に担ぎ込まれるんじゃないかとヒヤヒヤする。
校内から出た所で姉さんは私の腕の中から降りて、目的地に向かって先導するように歩き始めてしまった。
今更だが、思いっきりピアスのことが頭からすっぽ抜けてしまっていた。
まあ、今日是非やらずとも、後日でいいか。
今日の所は姉さんに付き合うことにしよう。
ああ、私ってなんて出来た弟なんだろうか。
これはもう、姉さんも絶対に私を手放せないだろうなぁ…。
そうなるよう仕込み続けたのは、他でも無い私なのだが。
それを姉さんが理解する日は恐らく、来ないだろう。