夏油傑による姉神信仰について
任務先でかち合わせた男と友達になった。
名を、伏黒甚爾と言うらしい。
男性、年齢不明、職業は多分呪術に関する何か、あとの事は知らん。
彼との出会いは月の綺麗な夜だった。
高専が追っていた呪詛師を彼もやっつけに来たらしく、私が拘束対象となっている呪詛師をボコしている時現れたそやつは、こちらの獲物を横取りしようとして来たのでちょっとやり合う事になった。
拳と拳が交わり友情が生まれる…なんてこたぁ無い、私は時間が夜だったことを良い事に無双した。
『相対万有理論術』
簡単に言うと、一般相対性理論を元にした感じの術式である。
そも、相対性理論とはなんぞや?という話であるが、相対性理論は光とか重力とか物質にまつわるアインシュタインが思い付いた考え方だ。
誰がどのように測定しても光の速さは一定である、という仮定がまずあり、それを保つためには、時間の流れを変化させて帳尻を合わせる。
重力によって時間は歪み、歪むことによって光の速さが…うむ、以下割合!
てな感じの計算を元に、私は重力操作と、重力による時間操作を可能としているのだ。
起点となる重力は月である。
なので、月の綺麗に出ている時間帯は調子が良い。
まるでまだ、月に愛されているのかと錯覚する程に、その夜は調子が良かった。
なので、私が勝った。
時間を限り無く遅くし、重力で相手を押さえ付け、倒れ伏す体の上に乗ってポコスカ殴る。
男女平等パンチ!男女平等パンチ!うーん、かたい。
「どうだ、まいったか」
「そこ丁度良い、もっとやれ」
「ここ?」
「あ"ぁ"ーーー」
こうして15分による激闘の末、我々は和解した。
話によると、伏黒甚爾さんは金に困っているらしい。
金か……私はあまり金は使わないタイプの人間だからな、いや人間じゃないけど。
ファッションもコスメも、そういう部類の物は基本的に自分で買ったことが無い。全部傑くんが気付けばいつの間にかかっている。
最近じゃスケッチブックもそろそろ新しいのを用意せにゃ…と思っていれば、翌日には新しい物が買われている。私の弟はエスパーなのかもしれない。
だから、自分で買う物といえば、古書店で見つけた古くて読んでもよく分からん本だとか、骨董品の展示会で見つけたカモシカの皮とかタヌキの皮とか、そんな物ばかりだ。
悟くんが「お前はゴミ集めるのが趣味なの?」と聞いてきた日もあったが、私にとっては全て宝物。いずれ月に帰る日が来た時に一緒に持って行きたい物しか買わないと決めているのだ。
なので、基本的にお金は使わない、貯まる一方だ。
そのことをポツリと話せば、伏黒甚爾さんは何を思ったのか、私の悩みを問うて来た。
悩み、悩みかぁ……月に帰りたい…は、どうにもならない悩みだ、悩みというか、最早夢だ。
他にあるとすれば……
「友達が、欲しい…」
「ほー……なってやろうか?」
「え!?」
砂の上に林檎を指で書いている最中にビックリすることを言われたせいで、林檎の葉っぱが変な形になってしまった。
横に座っていた伏黒甚爾さんは「よっこいせ」と言ってから立ち上がり、座る私の前に回ると、私が書いていた林檎の絵を草臥れた靴で踏み潰してしまった。
踏み付けられた砂の林檎から顔を上げて、彼を見上げる。
彼は私に向かって右手を差し出しながら言った。
「金、毎月くれんなら友達になってやるよ」
「…………そ、それは友達なの…か…?」
「俺は金が貰えて、お前は友達が出来て、WinWinだろ?」
「た、確かに…?」
なるほど…?自信有り気に言われると、そんな気がしてきてしまった。
「俺は金に困ってる、お前は使い切れない金を持ってる」
「う、うん…」
「お前は友達が欲しい、俺は金が欲しい」
「うん…」
「需要と供給が合致した、良い関係だろ」
たし…かに…!?
良い関係、良い関係なのかもしれない…そうか…互いに困っている時に助け合う事から生まれる友情。助け合いは友情の基礎だ、ならばこれを友情と呼ばずして何を友情と呼ぶのか。
「よし、友達になろう」
「まず50万くれ」
「承知した」
月の浮かぶ空の下で、私にはじめての友達が出来た瞬間であった。
…
朝を待って銀行にダッシュし、50万をおろしてファミレスで待ち合わせている甚爾さんの元へと向かう。
先に店内でドリンクバーやらポテトやら何やらを色々頼んで食べていた甚爾さんに封筒を手渡せば、その場で早速金勘定をし、しっかり50万あることを確認した後に「よろしくな、親友」と言って胡散臭そうに笑った。
「あ、いや…親友はちょっと……」
「遠慮すんな」
「遠慮…とかじゃなくて、ですね…親友は…まだ早いかなって…」
「そこだけ常識あんのかよ」
ファミレスなんて家族としか来たことが無く、注文もしたことがなかったため、モダモダしていれば甚爾さんは勝手に追加分のドリンクバーやデザートなどを注文してくれた。
「飲みもん取って来い」
「…や、やり方……」
「…………マジか」
だって、だって…普段は傑くんが勝手に全部やっちゃうんだもん。
小さな頃親にドリンクバーいるか聞かれた時は「水がいい」って毎回言ってしまっていたし、分からなくても仕方無いだろう。許してくれ。
仕方無さそうに立ち上がった甚爾さんに続いて私も立ち上がる。
彼の背に続きキョロキョロしながらドリンクバーコーナーへと行き、グラスを一つ手渡される。
「コップ置いてボタン押せ」
指示された通りにコップをセットし、ボタンを押す。
チョビッ
ちょっとだけオレンジ色の液体が出た。
こ、これ繰り返すのか……やっぱ水で良かった…。
「長押ししろ、押してる間出るから」
「あ、はい…そういう……へぇ…」
ジョボボボボッ
おお…ハイテクノロジーだ、凄いぞこれは。
めちゃめちゃ楽しいじゃないか、こんな楽しいことを傑くんは独り占めしていたのか、お姉ちゃん悔しい。
無事にオレンジジュースをゲット出来た私はいそいそと席へと戻り、無言でオレンジジュースを飲んだ。
お喋りは苦手だ、意思の疎通は面倒臭い。誰かを気にして生きるなんて高等技術は持ち合わせていない。何せ、月でも月から分離した後でも私はずっと一人だったのだ、今更十数年人間やった所で本質は変えられない。
孤独が特別好きなわけじゃないが、面倒な人間関係を頑張るよりは一人の方がマシに思えた。
そもそも、私には強くて可愛くて頼れる弟が居て、その弟が何でもやってくれるし話も聞いてくれるから、弟とのやり取りだけで大体満足してしまう所がある。
私は別にそれで構わんのだが、弟の成長には良く無いと思ってはいるので、だからこそ友達を作って弟に掛かる負担を減らそうと考えているのだ。
いるの、だが……
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
どうしよう、何を喋ればいいのか全く分からない。
やっぱり、いきなり人間の友達はハードルが高かった…タヌキやリスとなら楽しくお喋り出来るのに、こちらからの一方的な会話だけど。
ああ…カッパの捜索諦めなければ良かったかもしれない。こりゃ無理じゃ、何も言えん。
も、もういいや…耐えらんないから自分の世界に引き籠もろう。
私は背負っていたリュックを下ろし、中からスケッチブックとペンを取り出した。
とりあえずドリンクバー初体験記念にドリンクバーでも描くか…あ、オレンジジュースの絵も描こう、描いた物を寝る前に見れば、楽しかった記憶を思い出した状態で寝れるのだ。画期的である。
まずはドリンクバー、多種多様なジュース類にティーパックも置いてあり、近くにはミルクや砂糖まで完備されていたな…ボタン一つで出てくる仕組みで、この飲み物が出て来る瞬間のジュゴゴッて組み上がる音がたまらん、あと2回はやってこよう。
氷もあって、入れれば冷たい飲み物がさらに冷えそうだ、暑い時期にはピッタリだろう。
それからそれから、ストローもあって、ティースプーンもあって、あとは……
思い出してはシャーペンを滑らし、記憶を紙の上に残す。
あとで傑くんにも見せよう、人生初ドリンクバー体験記!
「何書いてんだ?」
「え…いや……ドリンクバーを…」
「ドリンクバーの絵描いてんのか?」
「…うん」
チョイチョイと指先でスケッチブックを見せるようにと指示される。
躊躇いながらも、友人の頼みだと思えば断るのも野暮だと感じ、机の上にページを開いた状態で置いた。
白い紙の上には走り書きの文字でドリンクバーの説明が書かれており、雑多に全体図から切り抜いた一部分、さらにはより着目した精密なスケッチ等が所狭しと書かれている。
我ながら良い出来だ、今日は筆がよく進む日らしい。
広げたスケッチブックを見つめながらポテトを摘んで口に運ぶ甚爾さんは言う。
「呪術師より、こういうのの方が向いてんじゃねえの?」
「……あ、いやぁ…描くのは好きだけど、お金にするやり方はよく分からないし…」
「まあ、呪術師やってた方が儲かるか」
「それに、弟と離れるのも…」
「弟がいんのか」
こくり、首を一度縦に振る。
「弟も呪術師なのか」
「うん、健気でかわいい子、だいすき」
「惚気んな」
「ウッス」
すみませんでした、でも本当に可愛くて優しい良い子…ではないな、良い子とは言えないかもしれない、ボンタンにピアスだし、ちょっと悪いとこもある、でもそこもまた可愛い。
あれだ、猫ちゃんが飼い主の気を引きたくてワザとらしい悪戯をしても「も〜!愛い奴め」ってなっちゃうのと同じ、私も弟がする多少の悪さには「可愛い人間だのう」って思っている。
あー、早く傑くんにお友達を紹介したいなー。
甚爾さん、傑くんとも仲良くしてくれるかな?お金を払えばしてくれるかな。
「やはり、世の中は金か…」
「友達記念ってことで、ここの勘定も頼む」
果たして本当にこれで良かったのか。
友情とは難しい物である。
名を、伏黒甚爾と言うらしい。
男性、年齢不明、職業は多分呪術に関する何か、あとの事は知らん。
彼との出会いは月の綺麗な夜だった。
高専が追っていた呪詛師を彼もやっつけに来たらしく、私が拘束対象となっている呪詛師をボコしている時現れたそやつは、こちらの獲物を横取りしようとして来たのでちょっとやり合う事になった。
拳と拳が交わり友情が生まれる…なんてこたぁ無い、私は時間が夜だったことを良い事に無双した。
『相対万有理論術』
簡単に言うと、一般相対性理論を元にした感じの術式である。
そも、相対性理論とはなんぞや?という話であるが、相対性理論は光とか重力とか物質にまつわるアインシュタインが思い付いた考え方だ。
誰がどのように測定しても光の速さは一定である、という仮定がまずあり、それを保つためには、時間の流れを変化させて帳尻を合わせる。
重力によって時間は歪み、歪むことによって光の速さが…うむ、以下割合!
てな感じの計算を元に、私は重力操作と、重力による時間操作を可能としているのだ。
起点となる重力は月である。
なので、月の綺麗に出ている時間帯は調子が良い。
まるでまだ、月に愛されているのかと錯覚する程に、その夜は調子が良かった。
なので、私が勝った。
時間を限り無く遅くし、重力で相手を押さえ付け、倒れ伏す体の上に乗ってポコスカ殴る。
男女平等パンチ!男女平等パンチ!うーん、かたい。
「どうだ、まいったか」
「そこ丁度良い、もっとやれ」
「ここ?」
「あ"ぁ"ーーー」
こうして15分による激闘の末、我々は和解した。
話によると、伏黒甚爾さんは金に困っているらしい。
金か……私はあまり金は使わないタイプの人間だからな、いや人間じゃないけど。
ファッションもコスメも、そういう部類の物は基本的に自分で買ったことが無い。全部傑くんが気付けばいつの間にかかっている。
最近じゃスケッチブックもそろそろ新しいのを用意せにゃ…と思っていれば、翌日には新しい物が買われている。私の弟はエスパーなのかもしれない。
だから、自分で買う物といえば、古書店で見つけた古くて読んでもよく分からん本だとか、骨董品の展示会で見つけたカモシカの皮とかタヌキの皮とか、そんな物ばかりだ。
悟くんが「お前はゴミ集めるのが趣味なの?」と聞いてきた日もあったが、私にとっては全て宝物。いずれ月に帰る日が来た時に一緒に持って行きたい物しか買わないと決めているのだ。
なので、基本的にお金は使わない、貯まる一方だ。
そのことをポツリと話せば、伏黒甚爾さんは何を思ったのか、私の悩みを問うて来た。
悩み、悩みかぁ……月に帰りたい…は、どうにもならない悩みだ、悩みというか、最早夢だ。
他にあるとすれば……
「友達が、欲しい…」
「ほー……なってやろうか?」
「え!?」
砂の上に林檎を指で書いている最中にビックリすることを言われたせいで、林檎の葉っぱが変な形になってしまった。
横に座っていた伏黒甚爾さんは「よっこいせ」と言ってから立ち上がり、座る私の前に回ると、私が書いていた林檎の絵を草臥れた靴で踏み潰してしまった。
踏み付けられた砂の林檎から顔を上げて、彼を見上げる。
彼は私に向かって右手を差し出しながら言った。
「金、毎月くれんなら友達になってやるよ」
「…………そ、それは友達なの…か…?」
「俺は金が貰えて、お前は友達が出来て、WinWinだろ?」
「た、確かに…?」
なるほど…?自信有り気に言われると、そんな気がしてきてしまった。
「俺は金に困ってる、お前は使い切れない金を持ってる」
「う、うん…」
「お前は友達が欲しい、俺は金が欲しい」
「うん…」
「需要と供給が合致した、良い関係だろ」
たし…かに…!?
良い関係、良い関係なのかもしれない…そうか…互いに困っている時に助け合う事から生まれる友情。助け合いは友情の基礎だ、ならばこれを友情と呼ばずして何を友情と呼ぶのか。
「よし、友達になろう」
「まず50万くれ」
「承知した」
月の浮かぶ空の下で、私にはじめての友達が出来た瞬間であった。
…
朝を待って銀行にダッシュし、50万をおろしてファミレスで待ち合わせている甚爾さんの元へと向かう。
先に店内でドリンクバーやらポテトやら何やらを色々頼んで食べていた甚爾さんに封筒を手渡せば、その場で早速金勘定をし、しっかり50万あることを確認した後に「よろしくな、親友」と言って胡散臭そうに笑った。
「あ、いや…親友はちょっと……」
「遠慮すんな」
「遠慮…とかじゃなくて、ですね…親友は…まだ早いかなって…」
「そこだけ常識あんのかよ」
ファミレスなんて家族としか来たことが無く、注文もしたことがなかったため、モダモダしていれば甚爾さんは勝手に追加分のドリンクバーやデザートなどを注文してくれた。
「飲みもん取って来い」
「…や、やり方……」
「…………マジか」
だって、だって…普段は傑くんが勝手に全部やっちゃうんだもん。
小さな頃親にドリンクバーいるか聞かれた時は「水がいい」って毎回言ってしまっていたし、分からなくても仕方無いだろう。許してくれ。
仕方無さそうに立ち上がった甚爾さんに続いて私も立ち上がる。
彼の背に続きキョロキョロしながらドリンクバーコーナーへと行き、グラスを一つ手渡される。
「コップ置いてボタン押せ」
指示された通りにコップをセットし、ボタンを押す。
チョビッ
ちょっとだけオレンジ色の液体が出た。
こ、これ繰り返すのか……やっぱ水で良かった…。
「長押ししろ、押してる間出るから」
「あ、はい…そういう……へぇ…」
ジョボボボボッ
おお…ハイテクノロジーだ、凄いぞこれは。
めちゃめちゃ楽しいじゃないか、こんな楽しいことを傑くんは独り占めしていたのか、お姉ちゃん悔しい。
無事にオレンジジュースをゲット出来た私はいそいそと席へと戻り、無言でオレンジジュースを飲んだ。
お喋りは苦手だ、意思の疎通は面倒臭い。誰かを気にして生きるなんて高等技術は持ち合わせていない。何せ、月でも月から分離した後でも私はずっと一人だったのだ、今更十数年人間やった所で本質は変えられない。
孤独が特別好きなわけじゃないが、面倒な人間関係を頑張るよりは一人の方がマシに思えた。
そもそも、私には強くて可愛くて頼れる弟が居て、その弟が何でもやってくれるし話も聞いてくれるから、弟とのやり取りだけで大体満足してしまう所がある。
私は別にそれで構わんのだが、弟の成長には良く無いと思ってはいるので、だからこそ友達を作って弟に掛かる負担を減らそうと考えているのだ。
いるの、だが……
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
どうしよう、何を喋ればいいのか全く分からない。
やっぱり、いきなり人間の友達はハードルが高かった…タヌキやリスとなら楽しくお喋り出来るのに、こちらからの一方的な会話だけど。
ああ…カッパの捜索諦めなければ良かったかもしれない。こりゃ無理じゃ、何も言えん。
も、もういいや…耐えらんないから自分の世界に引き籠もろう。
私は背負っていたリュックを下ろし、中からスケッチブックとペンを取り出した。
とりあえずドリンクバー初体験記念にドリンクバーでも描くか…あ、オレンジジュースの絵も描こう、描いた物を寝る前に見れば、楽しかった記憶を思い出した状態で寝れるのだ。画期的である。
まずはドリンクバー、多種多様なジュース類にティーパックも置いてあり、近くにはミルクや砂糖まで完備されていたな…ボタン一つで出てくる仕組みで、この飲み物が出て来る瞬間のジュゴゴッて組み上がる音がたまらん、あと2回はやってこよう。
氷もあって、入れれば冷たい飲み物がさらに冷えそうだ、暑い時期にはピッタリだろう。
それからそれから、ストローもあって、ティースプーンもあって、あとは……
思い出してはシャーペンを滑らし、記憶を紙の上に残す。
あとで傑くんにも見せよう、人生初ドリンクバー体験記!
「何書いてんだ?」
「え…いや……ドリンクバーを…」
「ドリンクバーの絵描いてんのか?」
「…うん」
チョイチョイと指先でスケッチブックを見せるようにと指示される。
躊躇いながらも、友人の頼みだと思えば断るのも野暮だと感じ、机の上にページを開いた状態で置いた。
白い紙の上には走り書きの文字でドリンクバーの説明が書かれており、雑多に全体図から切り抜いた一部分、さらにはより着目した精密なスケッチ等が所狭しと書かれている。
我ながら良い出来だ、今日は筆がよく進む日らしい。
広げたスケッチブックを見つめながらポテトを摘んで口に運ぶ甚爾さんは言う。
「呪術師より、こういうのの方が向いてんじゃねえの?」
「……あ、いやぁ…描くのは好きだけど、お金にするやり方はよく分からないし…」
「まあ、呪術師やってた方が儲かるか」
「それに、弟と離れるのも…」
「弟がいんのか」
こくり、首を一度縦に振る。
「弟も呪術師なのか」
「うん、健気でかわいい子、だいすき」
「惚気んな」
「ウッス」
すみませんでした、でも本当に可愛くて優しい良い子…ではないな、良い子とは言えないかもしれない、ボンタンにピアスだし、ちょっと悪いとこもある、でもそこもまた可愛い。
あれだ、猫ちゃんが飼い主の気を引きたくてワザとらしい悪戯をしても「も〜!愛い奴め」ってなっちゃうのと同じ、私も弟がする多少の悪さには「可愛い人間だのう」って思っている。
あー、早く傑くんにお友達を紹介したいなー。
甚爾さん、傑くんとも仲良くしてくれるかな?お金を払えばしてくれるかな。
「やはり、世の中は金か…」
「友達記念ってことで、ここの勘定も頼む」
果たして本当にこれで良かったのか。
友情とは難しい物である。