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星を蝕む呪いの祈り

交流会の後、五条は頭の片隅で昨日の出来事について考えていた。

自分の一撃を"食った"光の一閃。

言葉に表せば簡単な物だが、現実的に考えて有り得ざる現象であった。

負と正を合わせて生み出した仮想質量による衝撃。
相殺することは不可能なエネルギー現象に対しての対応として、同じ質量をぶつけるのでは無く"呑み込む"行動は言われてみれば正しい対応なのかもしれない……が、果たしてそんなことが人間に可能だろうか?

少なくとも、現時点での人間では不可能だ。
どのような術式にしろ、呪力によって生み出された物をぶつけられれば自分の技の方が必ず勝つに違いない。

だが、実際自分の一撃は一瞬ではあれど食われた。何者かによる何らかの手段によって。

食われると表現するのも正しいのか分からない、もっと言えばあれは吸われているような光景だった。
自分の生み出した仮想質量を何処かに吸い上げる。

「うーん……」

心当たりが無いわけじゃ無いんだよな、悲しいことに。

でもそれはあまりにも自分に都合が良すぎる現実だ、五条はペットボトルの蓋を開け水を口に含み口内を潤しながら思い出すように目を閉じた。


あの子はまだ生きていたのか。
もしそうならば、早く見つけなければ。

早く、謝らなければ。


五条の脳裏に若かれし頃の記憶が甦る。
それは、夏油と袂を別つよりも前の話であった。



___




五条の家の末端、自分と血が掠る程度の女の元に産まれた子供をいつだったかの集まりで一度だけ遠目から見た。

バチリと一瞬合わさった視線ですぐに理解した。あ、コイツ化物になる。
良い意味でも、悪い意味でも、化物になる。
育て方を間違えたら一発アウト、即座に処刑物、よくもまあ……平安の時代、呪術の全盛期から現代にかけて血の薄まった中でこんなバケモンが産まれたと関心した。

自分とは違った種類の強い奴になるだろう、血の繋がりがあるのならば気にしておいてやろう。
あんな強烈な光を灯す人間、忘れたくても忘れられないだろうから、もし、もしも次に会うことがあったならば………五条の瞼の裏にこびりついた、幼子の中で眠る光の欠片は、彼に後悔という形で残り続けることとなる。


彼がその屋敷に着いた頃にはもう全てが遅かった。
何もかもが終わってからの話だった。

惨憺たる惨劇を物語る屋敷の様子に思わず呼吸を止めて、瞳を見開く。

あちこちにある死体の山はまだ"死体"として誰にでも認識出来るが、五条の目に写るのはそればかりでは無かった。
庭の木々や草花、空を飛んでいただろう鳥、ただの虫すら死に絶えている。土は渇き割れ、水の表面は白く濁っていた。
正に死で塗り固められた屋敷、星から見放された荒野のような有り様に喉を震わせながら息をなんとか吐き出す。

全て呑まれた後だった。
全を食い散らかし、吸い上げ尽くしてしまったのだ、あの子は。

サングラスの奥の瞳を静かに閉じる。

きっともう手遅れなのだろう、あの星に通じる道を持った子供は。
それでも叶うならば助けたいと思ってしまうのは、あの日交えた視線から純粋無垢な憧れを感じ取ってしまったからか。それともこの無念を晴らしたいだけなのか。

どちらにせよ、あの子はきっと自分を待っていたはずだったのだ。
ならば謝らなければ、あの子が本物の呪いになる前に、助けに行かなくてごめん、と。その一言を伝えなければ、自分はあの子を諦められないのだから。
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