星を蝕む呪いの祈り
物凄い質量のエネルギーが花御に向かって放たれる。
地を裂き、空気を揺らし、そこだけ世界が飲まれていく。
凄まじい熱量と鼓膜を痛くさせる程の轟音。
見る者の足を震わせ、手を震わせ、喉を渇かせ目を見開かせる。
神の鉄槌とは正にこのこと。悪しき呪いを断絶するため極光は突き進む。
木々の間に身を隠し、静かに辺り一体と同一化していた私は、いつか見たことのあるその一撃に忘れていた記憶を簡単に呼び起こされた。
私に人の殺し方を教えた男の腹を抉った死の猛攻。
幼き日に見た天上の輝き。
それが今、花御を包まんとする。
五条悟の視線から逃れるためにわざわざ術式まで使って林の影に隠れたのに。
落ち着け私、待つのよ私、今出ていったら駄目だ。それは駄目、だって私…何故かは分からないけどあの人に認識されたくない。
大丈夫、花御は呪霊、例え脇腹を抉られようとも消滅はしない。花御は特級呪霊なのだ、だから、大丈夫。大丈夫。
………………
………………
………………
大丈夫だから、なんだっていうのだ?
急激に気持ちが冷めていく。
奥歯が上手く噛み合わない。
脳内に様々な情報と感情が飛び交う。
記憶と気持ちの交差点にて、見えたのは一つの有り得ざる風景。
脳裏に過るそれは、私の中に渦巻く呪いの景色であった。
「あ……」
私が殺した、私が呪った、私が命を啜った者を乗せた船が大海原を泳いでいる。
狂楽の宴、剥き出しの命が明滅する楽土にて繰り返される理性を捨てたトンチキ騒ぎ。
世界が揺れる、命で溢れた海が揺れる、そうしてお舟が揺れて、気持ちも揺れる。
「………」
剥き出しの欲に沈む他無くなった、形無き色とりどりの孤独な命を乗せたその船に、花御の色が灯るのを一瞬、夢想した。
「あ…」
花御。
花御、花御。
美しい精霊の人。
私の友達、私の花園。
呪霊は人の形の一つだ。
アウストラロピテクス、猿人が人の原型となった原人を産み出したように、ホモ・サピエンスである我々新人も新たなる人類種の一つを生み出した。
いや、正しくは切り離したのだ、新人から不必要な要素を。それが呪霊だ。
でも私には関係無いのだ。
人か呪いかなんて関係無い、命であることに変わりは無い。
人も、呪いも、犬も、鳥も、花も、水も。
命ある物は私の前では等しく同価値、彼等は皆、私の糧であり私の一部だ。
私の……星(わたし)の一部なのだ。
「花御………!!!!」
気付くと私は走り出していた。
誰かが私に止まれと声を掛けたのが、確かに耳に入った。
入ったが、無視した。
だって、だって、このままじゃ花御が…私の在り方を受け入れてくれた人が痛い思いをしてしまう。嫌だ、可哀想だ、そんなの悲しい。
花御にはまだ私の船に乗って欲しくない、花御にはもっと沢山自然のことについて教えて欲しいの。
お願い、お願いだから私の花を傷付けないで。
私の居場所を取らないで。
私の記憶に触れないで。
…
赤い正の力と青い負の力が合わさった死の色をした一撃は、衝撃波と共に全てを砕いて呑み込んでいく。
未だ待避行動を終えられていなかった花御が砕かれんとしたその直前、空間に一筋の白が舞う。
否、白では無い。
白から流るる光の線は、花御の眼前に亀裂を作り、唸りを上げるような熱を放出しながら五条悟による"完璧な一撃"の速度を一瞬緩めた。
いや、違う、緩めたのでは無い。
コンマ小数点以下の時間の中、花御は瞬時に理解した。
これは緩められてるのでは無い……"食っている"のだ。
正と負を合わせた仮想質量と似た物質の加速度を持ってして相殺することはこの地球上では不可能だろう。
だから"食った"のだ、仮想質量を。
誰が?
そんなこと、分かり切っている。
それは……
「花御!!!」
人の姿をした人では無い、呪霊でもない、何者でも無い女が花御に精一杯手を伸ばす。
星の人。
我々は彼女を、寿蝕(としばみ)と呼んだ。
花御はその手を無理矢理に掴み、力加減などせずに引っ張ってそのまま退却をする。
何者でもない、けれど星から産まれた星の人。
この星に居る限り、この星にある限り、全ては星の一部である。
星を畏れ、敬う心から産まれた呪いと融合を果たした人の、成れの果て。
彼女は、いや……この呪いは
星をも呪う人の心が作り出した、地獄を孕むこの世の一部だ。
地を裂き、空気を揺らし、そこだけ世界が飲まれていく。
凄まじい熱量と鼓膜を痛くさせる程の轟音。
見る者の足を震わせ、手を震わせ、喉を渇かせ目を見開かせる。
神の鉄槌とは正にこのこと。悪しき呪いを断絶するため極光は突き進む。
木々の間に身を隠し、静かに辺り一体と同一化していた私は、いつか見たことのあるその一撃に忘れていた記憶を簡単に呼び起こされた。
私に人の殺し方を教えた男の腹を抉った死の猛攻。
幼き日に見た天上の輝き。
それが今、花御を包まんとする。
五条悟の視線から逃れるためにわざわざ術式まで使って林の影に隠れたのに。
落ち着け私、待つのよ私、今出ていったら駄目だ。それは駄目、だって私…何故かは分からないけどあの人に認識されたくない。
大丈夫、花御は呪霊、例え脇腹を抉られようとも消滅はしない。花御は特級呪霊なのだ、だから、大丈夫。大丈夫。
………………
………………
………………
大丈夫だから、なんだっていうのだ?
急激に気持ちが冷めていく。
奥歯が上手く噛み合わない。
脳内に様々な情報と感情が飛び交う。
記憶と気持ちの交差点にて、見えたのは一つの有り得ざる風景。
脳裏に過るそれは、私の中に渦巻く呪いの景色であった。
「あ……」
私が殺した、私が呪った、私が命を啜った者を乗せた船が大海原を泳いでいる。
狂楽の宴、剥き出しの命が明滅する楽土にて繰り返される理性を捨てたトンチキ騒ぎ。
世界が揺れる、命で溢れた海が揺れる、そうしてお舟が揺れて、気持ちも揺れる。
「………」
剥き出しの欲に沈む他無くなった、形無き色とりどりの孤独な命を乗せたその船に、花御の色が灯るのを一瞬、夢想した。
「あ…」
花御。
花御、花御。
美しい精霊の人。
私の友達、私の花園。
呪霊は人の形の一つだ。
アウストラロピテクス、猿人が人の原型となった原人を産み出したように、ホモ・サピエンスである我々新人も新たなる人類種の一つを生み出した。
いや、正しくは切り離したのだ、新人から不必要な要素を。それが呪霊だ。
でも私には関係無いのだ。
人か呪いかなんて関係無い、命であることに変わりは無い。
人も、呪いも、犬も、鳥も、花も、水も。
命ある物は私の前では等しく同価値、彼等は皆、私の糧であり私の一部だ。
私の……星(わたし)の一部なのだ。
「花御………!!!!」
気付くと私は走り出していた。
誰かが私に止まれと声を掛けたのが、確かに耳に入った。
入ったが、無視した。
だって、だって、このままじゃ花御が…私の在り方を受け入れてくれた人が痛い思いをしてしまう。嫌だ、可哀想だ、そんなの悲しい。
花御にはまだ私の船に乗って欲しくない、花御にはもっと沢山自然のことについて教えて欲しいの。
お願い、お願いだから私の花を傷付けないで。
私の居場所を取らないで。
私の記憶に触れないで。
…
赤い正の力と青い負の力が合わさった死の色をした一撃は、衝撃波と共に全てを砕いて呑み込んでいく。
未だ待避行動を終えられていなかった花御が砕かれんとしたその直前、空間に一筋の白が舞う。
否、白では無い。
白から流るる光の線は、花御の眼前に亀裂を作り、唸りを上げるような熱を放出しながら五条悟による"完璧な一撃"の速度を一瞬緩めた。
いや、違う、緩めたのでは無い。
コンマ小数点以下の時間の中、花御は瞬時に理解した。
これは緩められてるのでは無い……"食っている"のだ。
正と負を合わせた仮想質量と似た物質の加速度を持ってして相殺することはこの地球上では不可能だろう。
だから"食った"のだ、仮想質量を。
誰が?
そんなこと、分かり切っている。
それは……
「花御!!!」
人の姿をした人では無い、呪霊でもない、何者でも無い女が花御に精一杯手を伸ばす。
星の人。
我々は彼女を、寿蝕(としばみ)と呼んだ。
花御はその手を無理矢理に掴み、力加減などせずに引っ張ってそのまま退却をする。
何者でもない、けれど星から産まれた星の人。
この星に居る限り、この星にある限り、全ては星の一部である。
星を畏れ、敬う心から産まれた呪いと融合を果たした人の、成れの果て。
彼女は、いや……この呪いは
星をも呪う人の心が作り出した、地獄を孕むこの世の一部だ。