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星を蝕む呪いの祈り

東京の呪術高専と京都の呪術高専が姉妹校同士で交流会をするらしく、そのタイミングで呪物の回収に行って来いと送り出された我々は現在、帳内にて撹乱中であった。
めっちゃ迷子になりそう。

「重面春太くん…だっけ?」
「なあにー?」

私の後ろをテコテコ着いてくる彼にやや振り返りながら言う。

「あのさ、君が行くのあっちだよ、同じ方に来ても仕方無いでしょう」
「お姉さんと一緒に行く方が楽しそうなんだもん」

えー、何この子可愛い。お姉さんだって、うふふ。
しかし可愛い子には旅をさせよと言うものだ、ここは涙を飲んででも送り出さなければ。

「お姉さん花御ちゃんの様子も見に行かなきゃいけないから……ほら、五条悟とかいうの来るかもよ?戦えるの?」
「お姉さんこそ戦えるの?」
「ちょっとムリかな~…」

流石に五条悟はムリかな。なんかほら、最強らしいし。
てか苦手なんだよね、よく分からないけど。五条悟に流れてる血もムリ、魂も見たこと無いけど多分ムリ、マジでムリ。考えただけでダルいしサムいし萎える、あ、いや逆かも?興奮する…ような?
まあいいや、とにかく名前を聞くだけでしんどくなるのだ、五条悟とかいう奴は。
しかし、しかしだ、私の唯一の心の拠り所である花御ちゃんを見捨てることも出来まいて。
だって花御ちゃん私に優しいし、お花くれるし。

帳が破られるのは時間の問題、帳がやられたら脅威と見なされるのは間違い無く花御ちゃんだ。だからそちらへ加勢に行かねば。友達を見捨てることはしたくないよね、人として。

「春太くん、一人でちょこっと頑張って来てくれるかなー?出来るかなー?」
「お姉さん、俺のこと応援してくれるの?」
「するする、がんばれー!」

まけないでー!がんばえー!
映画館で魔法少女を応援する女児の如く無邪気に応援すれば、春太くんも元気に「頑張るね」と手を振って去っていった。

ほへへ…可愛い、あの子可愛いな。サイドテールが良い味出してる。
ああいう良いも悪いも関係無く生きてる子好きよ、葛藤の少ない人生は命に不純物が少ない。すごく、すごく、美味しいのだ。

………おっと、危ない危ない、本性を出してしまう所だった。

私の趣味についてはどうでもいい、今大切なのは花御ちゃんだ。
特級呪霊なのでそんな簡単にどうこうならないだろうけど、私の花御ちゃんスキスキレーダーが『このあとヤバい』を感知している。
だから行こうではないか。

待ってて花御ちゃん、今行くからね!!


___



虎杖と東堂の猛攻により追い詰められた花御の耳に飛び込んで来たのは、その場にはあまりに不釣り合いな、言葉で表すならば ぽわぽわ~ とした声であった。

「花御ちゃーん!!大丈夫かーい!」

その緊張感の無い声は、どうやら花御と敵対する二人にも聞こえたらしく、警戒しながらも動きを止めた。

森の奥から草木を掻き分け掻き分け現れたるは、何ともまあ……場違いな女であった。
胡桃色の髪をサラサラと太陽の光に照らし、毛先を揺らしながら手を振ってまるで待ち合わせしていた友達にでも声を掛けるかのように「おまたせ!」と言った若い女は、コンバースのピンク色のスニーカーにやや泥を付けながら歩いてくる。
そして、虎杖の方を見てギョッとした風に目を見開き「あ、宿儺…宿儺の器だ!」と声を荒げた。

「うわあ、匂う!この匂いは宿儺の器!」
「俺そんな臭い!?」
「大丈夫だブラザー、男は誰だって汗をかけば臭うものだ」
「変なのが混ざってる匂いがする、やーんっ!」

花御ちゃんにはわかる?匂うよね?
と失礼にも程があることを言う女は、そのまま警戒する二人を気にも止めずに「あっ」と足を止めて空を見上げる。

「帳が上がるね、間に合って良かった」

その言葉に重なるように、空を覆う黒は晴れていく。


晴れ渡る天にて一人立つは、最強の名を冠する男。
空に向かって彼の名を呼び声を挙げた虎杖の声を聞き、瞬時に状況把握を終わらせた五条は次の行動に移ろうとした。

が、しかし。

一瞬、重なる視線が一つ。
だがそれはあまりに一瞬の出来事であった。
確かにそこに存在していた歪なソレは、瞬きの後には綺麗さっぱり、最初から居なかったように消えていたのだ。
五条は違和感に首を傾げながらも身を飛ばし、己の責務を全うする。


五条の出現により花御は撤退を決めた。

何故か自分を心配して現れた彼女も一緒にと思ったが、いつの間にか周囲に気配の一つも見当たらなかったため自分の待避行動を優先させる。


………
……



……そして、草木もろとも地を抉る五条悟による一撃が放たれる頃、一人の女がまた気まぐれを起こしていたのであった。
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