深淵巨乳伝説
重体の吉野凪が高専に運び込まれた。
運び込んだ少女は家入と一言二言現場状況についての応答を重ねた後、再び虎杖に合流するため夜の高専内を歩き出した。
虎杖と合流したら仮眠を取り、朝になったら状況を見て臨機応変に対応…が望ましいだろうと脳内にて夏油と会議を行うい、あくびを噛み殺しながら高専の出入り口に向かっていた。
その途中、前方から見慣れた人影を発見し、思わず立ち止まる。
コンビニの買い物袋を手首に下げ、黒い部屋着を着て歩いているツンツン頭。
彼はそう、紛れもなく伏黒恵だった。
「…ふ、伏黒くん……」
「………お前…」
互いに互いの姿を視界に捉えたまま、虫のさざめきくらいしか響かない静かな夜の下でふと立ち止まる。
吹き抜ける九月の風はどこか湿っていて、少し生ぬるかった。
そして、驚きに目を瞠る少女はしっかり三秒立ちつくしてから分かりやすく喜びの表情を浮かべ、飼い主を見つけた犬のように駆け出した。
「わあーーー!!!マイフレンドーー!!!!会いたかったよおーーー!!!!」
「ちょ、待て…!」
静止の声を振り切りそのまま体当たりする勢いで抱きつく。
それはもうギュウギュウと、一ミリの隙間も無く。何ならスリスリと頬を擦り寄せて。少女は伏黒のことを全身で喜びを顕にしながら抱き着き抱きしめた。
「おい、離れろ馬鹿!」
「馬鹿だからわかんない!!!」
「つかこれ五条さんの服じゃ…」
突然現れたと思ったらなんでコイツ担任の服着てんだよ、つか今までどこ行ってたんだ。
色々聞きたいことのあった伏黒だが、ギチギチに抱き締められている現状それどころではなく、とにかくハイテンションモードな同級生を引き離そうと身体を掴んだ。
掴んだが、あまりにも細くて柔らかくて一回手を離してしまった。
着ている服がかなり大きかったのも相まって、まるで身がスカスカなエビフライと遭遇してしまったかのような気持ちになる。
中身が無さすぎる…コイツ、本当にこんな身体で大丈夫なのか…?
伏黒は意を決しもう一度少女の腰に手を当てた。やはり不安になる薄っぺらさだった。
「分かった、分かったから一旦離れろ」
「伏黒くん、この手はなに?」
「いや……別に…」
決して力を入れたら折りそうだから添えた所で諦めた…とは言えなかった。だって一応仮にも相手は呪術師なので。伏黒はちゃんとそのへんの失礼ラインが分かる人間であった。
なのでそっ…と誘導しながら身体を離させる。離す瞬間に香った五条がつけてる香水の匂いに関しては無視した。一々そんなとこ気にして突っ込んでいたらこの同級生の奇行を処理仕切れないので。
自分と会えて本当に嬉しいのだろう、ニコニコと笑みを浮かべて喜ぶ少女に伏黒はちょっとむず痒い気持ちになる。
前々から懐かれてはいると感じていたが、会わなかった期間がそうさせたのか、前よりも格段に好かれている気がした。
それは別に嫌ではなかった。ただ、一応は異性同士なため距離感の無さに戸惑わずにはいられなかったのだ。青春の輝かしい一コマである。
そんなわけで少年少女はあの日以来の邂逅を果たした。
しかし時間は夜のかなり遅い時間、起き抜け早々任務に励んだせいで精神的にも肉体的にも疲労が強い少女は、友人に再会出来たことに安堵し気が抜け先程よりも強い眠さに襲われることとなった。
うつらうつら、むにゃりむにゃり。
再会を喜びながらも勝手に下がっていく瞼には到底抗えず、目の前の腕の中にゆっくりと体重を預けて意識を彼方へとほっぽり投げてしまう。
「……ふしぐろくん…おやすみ…」
「おい待て寝るな、せめて五条さんの上着脱いでから寝ろ」
「すかぴー…」
「…自由過ぎるだろ、子犬か」
おやすみ3秒、明日の朝まで夢の彼方へ。
少女を受け止めた伏黒は、仕方無く横抱きにして仮眠室まで連れて行ってやることにした。
本当はちょっとだけ自分の部屋に寝かそうかとも考えたが、色々不安なのでやめた。
何せさっきから頭上をコウモリのようなそうでないような、明らかに同級生の術式絡みな物が飛び回り続けているので。
この奇っ怪で見続けると吐き気を催すモノ共に巻き込まれたら大変だ。
そんなわけで、伏黒は仮眠室に少女を寝かせると大人しく部屋を後にした。
そして、彼の中では不可解なことがずっとその夜中頭の中に残り続けることとなった。
「本当になんで五条さんの服着てんだ…アイツ……」
起きたら絶対理由を聞いてやる。
きっとどうせどうしようもない理由なんだろうけど、無性に腹が立つから早く脱いで欲しい。
伏黒の思いを茶化す存在も指摘する存在もそこには居なかったため、彼の小さな小さな嫉妬は眠りと共に昇華されるのであった。
___
揺蕩う星の海で私は目を覚ました。
いや、正確に言うとこれは夢の中での出来事なので目は覚ましていない。
敢えて言うならば、意識の再起動をした…と言い換えても良いかもしれない。
星の散らばる浅い海の中、私は隣に居た傑さんと少しだけ話をすることにした。
私についてのあまり大事ではない、つまらない話を。
「私、百万の恵まれたる者の一人なんです」
足先で水面を蹴れば、バシャリと音を立てて空の黒さを孕んだ海がゆらりと波打つ。
星の灯火が天と海を小さく照らす。吹く風は穏やかで、隣に立つ男は静かに私の話を聞いていた。
「百万の恵まれたる者とは…とある神様のお気に入りで、その神様が自身の誕生に関わっている者のことを言います」
私の母親は、古い異形の者の子を孕みました。
無名の霧、大いなる名付けられざるもの…マグナム・インノミナンドゥム。
別名、空虚の乳。
星から訪れた者の奇跡によって誕生した私は、神々の声を聞きこの世界の真実を探り見届ける役割を与えられたのです。
けれど私は見ることを、知ることを拒みました。
だって恐ろしかったから。
自分を知ることも、私を見つめる視線の存在も、この世界が本当は有り得ざる世界線だという事実も。
自分は本当はどこにも居ないはずの人間で、神様の気まぐれで成り立っていて…舞台装置の一つに過ぎなくて、主人公なんかじゃなくて、ただの異物に過ぎなくて…。
知れば知るほどこの世界でどうやって息をしていたのか忘れてしまった。
地獄の方がまだお似合いだったかもしれない、だってあそこには何が居たって許されるのだから。
ああ、ねえ傑さん。私の神様。
私が居るべき地獄に先に居た、本当はただの悪くて優しい人な傑さん。
貴方の人生はどんな人生でしたか?とても素敵な一生でしたか?
愛する人は居ましたか?夢や目標はありましたか?
私にはそんなもの、とうとうどこにもありませんでした。
ただ、誰にも否定されたくない、本当はいらない存在だったとしても必要とされたい…という思いだけでここまで来てしまいました。
暗く、深い、いっそ美しい程の常闇に魂を浸し、微睡む深淵の王の血が私の中に流れているのを知ってしまいました。
この人生に、意味はあるのだろうか。
どこにも行けない、何にもなれない、この世のどこにも居場所が無い、息をすることすら辛くて苦しい…死ぬまで神様の使いっぱしりな舞台装置の私はそんなことを思ってしまうのです。
……いつからだろうか、私の両目からは涙が流れていた。
頬を濡らし顎に伝った涙を傑さんは指先でそっと拭ってくれる。
優しい人の手だった。
彼は確かに悪人だ。生き方を間違えたのだろう。それでも私にとっては優しくて温かい、誰よりも何よりも安心出来る指先だった。
「大丈夫、君には私がついている」
頬に手を添えて、コツンとオデコとオデコがぶつかり合う。
間近で見る黒い瞳には優しさが滲んでおり、仕方のない子供を見る目で私を見つめながら彼は言った。
「使命も他の神もどうでもいい、君のことは私が一生呪っていてあげよう」
頬を撫でる手に自分の手を添えてゆっくり瞬きをすれば、傑さんはそっとオデコを離す変わりに旋毛にキスを落とした。
そのままゆっくり、ゆっくりと私の頭を撫でて、悦びと呪いを孕んだ甘く柔らかな声で私に祝福を落としたのだった。
「君が地獄は嫌だって、泣いて喚いて叫んでも離してなんてあげないよ。君の居場所は私の元だけだ、だから私を信じ、祈りなさい」
願い、乞い、信じなさい。
何があろうと他の声に耳を傾けず、私の言葉を真実としなさい。
君の神は私だ、君を人の形に留めているのは私だ、私だけが君を救ってあげられる。
脳の奥に直接響かすようにジワジワと、旋毛に唇を付けたまま喋られる。
砂糖が蜜に溶けるように、まっさらな雪に決して消えない墨が落とされるように、私の頭は、思考は、神様の物になっていく。
そうか、これでいいんだ。
これが正解なんだ、きっと。
信じる者は救われる。
私の本当の救いは、希望は、祈りは、ここにあったのだ。
正しき信仰によって小さく出来た心の隙間からは朝日が差し込んでいた。
振り返れば重く美しい夜は、向こうからやってくる天下の日差しによって切り取られていっていた。
気付けば、心を揺らす彼方からの声はもう聞こえなかった。
こうして邪悪な魂を持って生まれた私は、仏の指先によって救われ、彼の掌の中でのみ息をすることを許されたのだった。
運び込んだ少女は家入と一言二言現場状況についての応答を重ねた後、再び虎杖に合流するため夜の高専内を歩き出した。
虎杖と合流したら仮眠を取り、朝になったら状況を見て臨機応変に対応…が望ましいだろうと脳内にて夏油と会議を行うい、あくびを噛み殺しながら高専の出入り口に向かっていた。
その途中、前方から見慣れた人影を発見し、思わず立ち止まる。
コンビニの買い物袋を手首に下げ、黒い部屋着を着て歩いているツンツン頭。
彼はそう、紛れもなく伏黒恵だった。
「…ふ、伏黒くん……」
「………お前…」
互いに互いの姿を視界に捉えたまま、虫のさざめきくらいしか響かない静かな夜の下でふと立ち止まる。
吹き抜ける九月の風はどこか湿っていて、少し生ぬるかった。
そして、驚きに目を瞠る少女はしっかり三秒立ちつくしてから分かりやすく喜びの表情を浮かべ、飼い主を見つけた犬のように駆け出した。
「わあーーー!!!マイフレンドーー!!!!会いたかったよおーーー!!!!」
「ちょ、待て…!」
静止の声を振り切りそのまま体当たりする勢いで抱きつく。
それはもうギュウギュウと、一ミリの隙間も無く。何ならスリスリと頬を擦り寄せて。少女は伏黒のことを全身で喜びを顕にしながら抱き着き抱きしめた。
「おい、離れろ馬鹿!」
「馬鹿だからわかんない!!!」
「つかこれ五条さんの服じゃ…」
突然現れたと思ったらなんでコイツ担任の服着てんだよ、つか今までどこ行ってたんだ。
色々聞きたいことのあった伏黒だが、ギチギチに抱き締められている現状それどころではなく、とにかくハイテンションモードな同級生を引き離そうと身体を掴んだ。
掴んだが、あまりにも細くて柔らかくて一回手を離してしまった。
着ている服がかなり大きかったのも相まって、まるで身がスカスカなエビフライと遭遇してしまったかのような気持ちになる。
中身が無さすぎる…コイツ、本当にこんな身体で大丈夫なのか…?
伏黒は意を決しもう一度少女の腰に手を当てた。やはり不安になる薄っぺらさだった。
「分かった、分かったから一旦離れろ」
「伏黒くん、この手はなに?」
「いや……別に…」
決して力を入れたら折りそうだから添えた所で諦めた…とは言えなかった。だって一応仮にも相手は呪術師なので。伏黒はちゃんとそのへんの失礼ラインが分かる人間であった。
なのでそっ…と誘導しながら身体を離させる。離す瞬間に香った五条がつけてる香水の匂いに関しては無視した。一々そんなとこ気にして突っ込んでいたらこの同級生の奇行を処理仕切れないので。
自分と会えて本当に嬉しいのだろう、ニコニコと笑みを浮かべて喜ぶ少女に伏黒はちょっとむず痒い気持ちになる。
前々から懐かれてはいると感じていたが、会わなかった期間がそうさせたのか、前よりも格段に好かれている気がした。
それは別に嫌ではなかった。ただ、一応は異性同士なため距離感の無さに戸惑わずにはいられなかったのだ。青春の輝かしい一コマである。
そんなわけで少年少女はあの日以来の邂逅を果たした。
しかし時間は夜のかなり遅い時間、起き抜け早々任務に励んだせいで精神的にも肉体的にも疲労が強い少女は、友人に再会出来たことに安堵し気が抜け先程よりも強い眠さに襲われることとなった。
うつらうつら、むにゃりむにゃり。
再会を喜びながらも勝手に下がっていく瞼には到底抗えず、目の前の腕の中にゆっくりと体重を預けて意識を彼方へとほっぽり投げてしまう。
「……ふしぐろくん…おやすみ…」
「おい待て寝るな、せめて五条さんの上着脱いでから寝ろ」
「すかぴー…」
「…自由過ぎるだろ、子犬か」
おやすみ3秒、明日の朝まで夢の彼方へ。
少女を受け止めた伏黒は、仕方無く横抱きにして仮眠室まで連れて行ってやることにした。
本当はちょっとだけ自分の部屋に寝かそうかとも考えたが、色々不安なのでやめた。
何せさっきから頭上をコウモリのようなそうでないような、明らかに同級生の術式絡みな物が飛び回り続けているので。
この奇っ怪で見続けると吐き気を催すモノ共に巻き込まれたら大変だ。
そんなわけで、伏黒は仮眠室に少女を寝かせると大人しく部屋を後にした。
そして、彼の中では不可解なことがずっとその夜中頭の中に残り続けることとなった。
「本当になんで五条さんの服着てんだ…アイツ……」
起きたら絶対理由を聞いてやる。
きっとどうせどうしようもない理由なんだろうけど、無性に腹が立つから早く脱いで欲しい。
伏黒の思いを茶化す存在も指摘する存在もそこには居なかったため、彼の小さな小さな嫉妬は眠りと共に昇華されるのであった。
___
揺蕩う星の海で私は目を覚ました。
いや、正確に言うとこれは夢の中での出来事なので目は覚ましていない。
敢えて言うならば、意識の再起動をした…と言い換えても良いかもしれない。
星の散らばる浅い海の中、私は隣に居た傑さんと少しだけ話をすることにした。
私についてのあまり大事ではない、つまらない話を。
「私、百万の恵まれたる者の一人なんです」
足先で水面を蹴れば、バシャリと音を立てて空の黒さを孕んだ海がゆらりと波打つ。
星の灯火が天と海を小さく照らす。吹く風は穏やかで、隣に立つ男は静かに私の話を聞いていた。
「百万の恵まれたる者とは…とある神様のお気に入りで、その神様が自身の誕生に関わっている者のことを言います」
私の母親は、古い異形の者の子を孕みました。
無名の霧、大いなる名付けられざるもの…マグナム・インノミナンドゥム。
別名、空虚の乳。
星から訪れた者の奇跡によって誕生した私は、神々の声を聞きこの世界の真実を探り見届ける役割を与えられたのです。
けれど私は見ることを、知ることを拒みました。
だって恐ろしかったから。
自分を知ることも、私を見つめる視線の存在も、この世界が本当は有り得ざる世界線だという事実も。
自分は本当はどこにも居ないはずの人間で、神様の気まぐれで成り立っていて…舞台装置の一つに過ぎなくて、主人公なんかじゃなくて、ただの異物に過ぎなくて…。
知れば知るほどこの世界でどうやって息をしていたのか忘れてしまった。
地獄の方がまだお似合いだったかもしれない、だってあそこには何が居たって許されるのだから。
ああ、ねえ傑さん。私の神様。
私が居るべき地獄に先に居た、本当はただの悪くて優しい人な傑さん。
貴方の人生はどんな人生でしたか?とても素敵な一生でしたか?
愛する人は居ましたか?夢や目標はありましたか?
私にはそんなもの、とうとうどこにもありませんでした。
ただ、誰にも否定されたくない、本当はいらない存在だったとしても必要とされたい…という思いだけでここまで来てしまいました。
暗く、深い、いっそ美しい程の常闇に魂を浸し、微睡む深淵の王の血が私の中に流れているのを知ってしまいました。
この人生に、意味はあるのだろうか。
どこにも行けない、何にもなれない、この世のどこにも居場所が無い、息をすることすら辛くて苦しい…死ぬまで神様の使いっぱしりな舞台装置の私はそんなことを思ってしまうのです。
……いつからだろうか、私の両目からは涙が流れていた。
頬を濡らし顎に伝った涙を傑さんは指先でそっと拭ってくれる。
優しい人の手だった。
彼は確かに悪人だ。生き方を間違えたのだろう。それでも私にとっては優しくて温かい、誰よりも何よりも安心出来る指先だった。
「大丈夫、君には私がついている」
頬に手を添えて、コツンとオデコとオデコがぶつかり合う。
間近で見る黒い瞳には優しさが滲んでおり、仕方のない子供を見る目で私を見つめながら彼は言った。
「使命も他の神もどうでもいい、君のことは私が一生呪っていてあげよう」
頬を撫でる手に自分の手を添えてゆっくり瞬きをすれば、傑さんはそっとオデコを離す変わりに旋毛にキスを落とした。
そのままゆっくり、ゆっくりと私の頭を撫でて、悦びと呪いを孕んだ甘く柔らかな声で私に祝福を落としたのだった。
「君が地獄は嫌だって、泣いて喚いて叫んでも離してなんてあげないよ。君の居場所は私の元だけだ、だから私を信じ、祈りなさい」
願い、乞い、信じなさい。
何があろうと他の声に耳を傾けず、私の言葉を真実としなさい。
君の神は私だ、君を人の形に留めているのは私だ、私だけが君を救ってあげられる。
脳の奥に直接響かすようにジワジワと、旋毛に唇を付けたまま喋られる。
砂糖が蜜に溶けるように、まっさらな雪に決して消えない墨が落とされるように、私の頭は、思考は、神様の物になっていく。
そうか、これでいいんだ。
これが正解なんだ、きっと。
信じる者は救われる。
私の本当の救いは、希望は、祈りは、ここにあったのだ。
正しき信仰によって小さく出来た心の隙間からは朝日が差し込んでいた。
振り返れば重く美しい夜は、向こうからやってくる天下の日差しによって切り取られていっていた。
気付けば、心を揺らす彼方からの声はもう聞こえなかった。
こうして邪悪な魂を持って生まれた私は、仏の指先によって救われ、彼の掌の中でのみ息をすることを許されたのだった。