深淵巨乳伝説
一方その頃、信者in夏油の方はというと…。
「こら、出したら片付ける。前にも言っただろう」
「やっぱその顔でまともなこと言われると違和感凄いんだよなぁ…」
同じく軟禁生活中の虎杖悠仁の世話を焼いていた。
ここに至るまでの経緯をザックリ説明すると、信者の精神が深淵探求をしていたのと同時期に虎杖は一度死んでいたのだった。
蘇生後、わけあって隔離生活をすることとなった彼はその間の暇潰し相手として、同じく暇と母性を持て余していた夏油に世話を焼かれたりする羽目になったのだった。ちなみに一応、五条公認ではある。
そんなわけで、女性の身体を有しているからか、はたまた元来の性質が極まったのかはイマイチ不明だが、信仰無き今神としての質が下がった変わりに世話焼き母ちゃん性質がアップした夏油は、毎日虎杖にちょっかいを出していた。
しかし、中身は夏油でも見た目は同級生の友人の姿。
しかもその友人は学年一のイカれ。何なら狂人と表現しても良い程のあらゆる意味で凄い人物。
そんな人物からまともな言葉が出てくるものだから、虎杖は「これじゃない」感を味わうこととなった。
注意された通りにDVDを元に戻し、クッションも所定の位置へ直した虎杖は自分を見てくる少女の顔をした謎の人物をチラリと見た。
虎杖は少女の中に誰が入っているのか知らない。名前も性別も、どういった経緯でそうなってしまったのかも知らずにいる。
ただ一つ分かるのは、恐らくこの人物こそが普段彼女が乳神様と讃える人物なのだろうということだ。
彼女の思考を勝手に読み取り、風呂で鼻歌を歌えば笑い、オマケにたまに暇だからという理由でよくちょっかいを掛けている…あの乳神様である。
乳神様、よく分からないタイミングでいきなり彼女に話し掛けるみたいだから、本当前触れも無く唐突にボーッとしてる状態になる時があってちょっとそれが怖いんだよな…と、虎杖は少女のいきなり虚無虚無モード現象を思い出していた。
しかし、その現象も最近は全く見ていない。
それはあの身体の中に今、彼女が居ないからだ。
虎杖は早く戻って来て欲しいと、仲間として思う。彼は優しい良い子だった。
「そういえば、私達が学校から居なくなった後の話をまだ聞いていなかったな」
お茶の入ったコップをテーブルに二つ置き、ソファに座った夏油は虎杖に話掛けた。
同じくソファに座った虎杖は「あー、あのあとね」と気さくに会話を繋いだ。
「伏黒がすぐに追っ掛けたんだよな…」
「なるほどね、伏黒恵と私の信者は仲が良いからね」
「うん、だから伏黒すげー心配してた」
ポツポツと、虎杖はあの日の話をし始める。
彼から見た、友人と友人の話を大切な気持ちで語ってみせた。
………
あの日はそう、俺が教室に行った時にはもう話は終わっていて、友人の女子生徒はグスグスと鼻を鳴らして泣いている状態だった。
最初は釘崎あたりがキツいこと言ったんかな〜?とも思ったが、どうやらそういうことではなかったらしい。
聞くところによると、伏黒があの子のことを無視したとか。
なんで無視したんだよと当たり前のことを聞けば「別に…」と、歯切れの悪い言葉が返ってきた。
「なんて言ったらいいか分かんなかったんだよ、あるだろそういう時」
「あーはいはい、私達の戯れに照れてたってことね」
「ちげぇよ」
事情を自由解釈したらしい釘崎はニヤニヤとした顔で「そういうね〜?ふ〜ん?」と、何やら分かったような態度をしていた。
件の同級生と伏黒は俺達が出会うよりも早くに出会っていた。
二人の間には何らかの事情があるらしく、伏黒はいつも一歩引くような、それでいて心配をする素振りが多く見られた。
一つ上の学年にいる先輩達の話によれば、どうやら家の問題らしい。
流石に首を突っ込むことは出来ず、俺はいつも遠目から同級生を心配そうに見つめる伏黒をただ見ることしか出来なかった。
「アイツがここに居んのは俺のせいだ」
ぽつりと溢された一言に詰められた感情は一体何だったのだろう。
罪悪感、負い目、安堵と落胆。
様々な感情が重なり合った声で、伏黒は「これ以上…」と呟く。
「これ以上近付いたら、向こうの連中はきっと喜んで無理矢理にでもアイツを俺に嫁がせようとする」
だから仲良くはなれない、馴れ合えない。
一定の距離を保ち、男女の雰囲気を醸し出すことはしてはいけない。
彼女がどれほどの善人だろうと、親しみの持てる性格をしていようと、己を否定しなかろうと、罪を押し付けない心を持とうと。これ以上は駄目なのだ。彼女のためにも。
実の実家では唯一の成功作として妬みの対象となり、親からは鼻摘み者として扱われ売り払われ、売られた先の家は現代の地獄に等しき環境。
誰も理解者はおらず、味方と言える者はごく僅か。
希少かつ神々の頂きへと通ずる極上の術式はどの家の人間も喉から手が出るほど欲しいものだった。
どこにも逃げ場は無い、居場所も無い。
行き止まりのどん詰まり、あとは野となれ山となれ。
そんな人生を直視出来ず、現実から視線を反らして生きる彼女に一体何がしてやれるだろうか。
自分のような、選ぶ余裕のあった者が何を今更。
伏黒が吐き出した抱えていた事情に、俺も同じような思いを抱く。
俺に、俺達に何が出来るだろうか。
彼女はどう在ることが正解で、俺達に出来ることは果たしてあるのだろうか。
分からない。分からないけど、でも。
「アイツは伏黒のこと大好きだからさ、周りがどうとか関係なく仲良くしてやった方がいいよ」
俺の言葉に、「…そうだな」と言った伏黒の顔は未だ燻りを残していた。
そう簡単な問題じゃないんだろう。
けど、アイツは伏黒のことを本当に大事な友達だと思っているし、きっと俺達がどうにかしてやるより先に自分で困難を克服していくタイプだと俺は信じている。
だから多分大丈夫、今も何処かで「こなくそー!」ってなってるだけに違いない。
そう結論付け、俺と釘崎はしんみりした空気を打ち破るように伏黒に対してアイツとの仲をグイグイ質問してやった。
俺達が来るまで二人っきりで何してたの〜?毎日一緒にご飯食べてたってマジ〜?イチャイチャしてたんじゃないの〜?ね〜?と、ダルくてウザい絡み方をしまくった。
こういう時にアイツが居ると、「やめろ!!!伏黒くんを困らせていいのは私だけだよ、金払え!!」とか言い出すから面白い。
早く帰ってきて伏黒や俺達ともっと仲良くなれたらいいなと思う。
この時は知らなかったが、この後数ヶ月間俺達はあの子に会うことが出来なくなるんだから、やっぱり後悔無く仲良くしておくべきだと今になって強く思うのだった。
「こら、出したら片付ける。前にも言っただろう」
「やっぱその顔でまともなこと言われると違和感凄いんだよなぁ…」
同じく軟禁生活中の虎杖悠仁の世話を焼いていた。
ここに至るまでの経緯をザックリ説明すると、信者の精神が深淵探求をしていたのと同時期に虎杖は一度死んでいたのだった。
蘇生後、わけあって隔離生活をすることとなった彼はその間の暇潰し相手として、同じく暇と母性を持て余していた夏油に世話を焼かれたりする羽目になったのだった。ちなみに一応、五条公認ではある。
そんなわけで、女性の身体を有しているからか、はたまた元来の性質が極まったのかはイマイチ不明だが、信仰無き今神としての質が下がった変わりに世話焼き母ちゃん性質がアップした夏油は、毎日虎杖にちょっかいを出していた。
しかし、中身は夏油でも見た目は同級生の友人の姿。
しかもその友人は学年一のイカれ。何なら狂人と表現しても良い程のあらゆる意味で凄い人物。
そんな人物からまともな言葉が出てくるものだから、虎杖は「これじゃない」感を味わうこととなった。
注意された通りにDVDを元に戻し、クッションも所定の位置へ直した虎杖は自分を見てくる少女の顔をした謎の人物をチラリと見た。
虎杖は少女の中に誰が入っているのか知らない。名前も性別も、どういった経緯でそうなってしまったのかも知らずにいる。
ただ一つ分かるのは、恐らくこの人物こそが普段彼女が乳神様と讃える人物なのだろうということだ。
彼女の思考を勝手に読み取り、風呂で鼻歌を歌えば笑い、オマケにたまに暇だからという理由でよくちょっかいを掛けている…あの乳神様である。
乳神様、よく分からないタイミングでいきなり彼女に話し掛けるみたいだから、本当前触れも無く唐突にボーッとしてる状態になる時があってちょっとそれが怖いんだよな…と、虎杖は少女のいきなり虚無虚無モード現象を思い出していた。
しかし、その現象も最近は全く見ていない。
それはあの身体の中に今、彼女が居ないからだ。
虎杖は早く戻って来て欲しいと、仲間として思う。彼は優しい良い子だった。
「そういえば、私達が学校から居なくなった後の話をまだ聞いていなかったな」
お茶の入ったコップをテーブルに二つ置き、ソファに座った夏油は虎杖に話掛けた。
同じくソファに座った虎杖は「あー、あのあとね」と気さくに会話を繋いだ。
「伏黒がすぐに追っ掛けたんだよな…」
「なるほどね、伏黒恵と私の信者は仲が良いからね」
「うん、だから伏黒すげー心配してた」
ポツポツと、虎杖はあの日の話をし始める。
彼から見た、友人と友人の話を大切な気持ちで語ってみせた。
………
あの日はそう、俺が教室に行った時にはもう話は終わっていて、友人の女子生徒はグスグスと鼻を鳴らして泣いている状態だった。
最初は釘崎あたりがキツいこと言ったんかな〜?とも思ったが、どうやらそういうことではなかったらしい。
聞くところによると、伏黒があの子のことを無視したとか。
なんで無視したんだよと当たり前のことを聞けば「別に…」と、歯切れの悪い言葉が返ってきた。
「なんて言ったらいいか分かんなかったんだよ、あるだろそういう時」
「あーはいはい、私達の戯れに照れてたってことね」
「ちげぇよ」
事情を自由解釈したらしい釘崎はニヤニヤとした顔で「そういうね〜?ふ〜ん?」と、何やら分かったような態度をしていた。
件の同級生と伏黒は俺達が出会うよりも早くに出会っていた。
二人の間には何らかの事情があるらしく、伏黒はいつも一歩引くような、それでいて心配をする素振りが多く見られた。
一つ上の学年にいる先輩達の話によれば、どうやら家の問題らしい。
流石に首を突っ込むことは出来ず、俺はいつも遠目から同級生を心配そうに見つめる伏黒をただ見ることしか出来なかった。
「アイツがここに居んのは俺のせいだ」
ぽつりと溢された一言に詰められた感情は一体何だったのだろう。
罪悪感、負い目、安堵と落胆。
様々な感情が重なり合った声で、伏黒は「これ以上…」と呟く。
「これ以上近付いたら、向こうの連中はきっと喜んで無理矢理にでもアイツを俺に嫁がせようとする」
だから仲良くはなれない、馴れ合えない。
一定の距離を保ち、男女の雰囲気を醸し出すことはしてはいけない。
彼女がどれほどの善人だろうと、親しみの持てる性格をしていようと、己を否定しなかろうと、罪を押し付けない心を持とうと。これ以上は駄目なのだ。彼女のためにも。
実の実家では唯一の成功作として妬みの対象となり、親からは鼻摘み者として扱われ売り払われ、売られた先の家は現代の地獄に等しき環境。
誰も理解者はおらず、味方と言える者はごく僅か。
希少かつ神々の頂きへと通ずる極上の術式はどの家の人間も喉から手が出るほど欲しいものだった。
どこにも逃げ場は無い、居場所も無い。
行き止まりのどん詰まり、あとは野となれ山となれ。
そんな人生を直視出来ず、現実から視線を反らして生きる彼女に一体何がしてやれるだろうか。
自分のような、選ぶ余裕のあった者が何を今更。
伏黒が吐き出した抱えていた事情に、俺も同じような思いを抱く。
俺に、俺達に何が出来るだろうか。
彼女はどう在ることが正解で、俺達に出来ることは果たしてあるのだろうか。
分からない。分からないけど、でも。
「アイツは伏黒のこと大好きだからさ、周りがどうとか関係なく仲良くしてやった方がいいよ」
俺の言葉に、「…そうだな」と言った伏黒の顔は未だ燻りを残していた。
そう簡単な問題じゃないんだろう。
けど、アイツは伏黒のことを本当に大事な友達だと思っているし、きっと俺達がどうにかしてやるより先に自分で困難を克服していくタイプだと俺は信じている。
だから多分大丈夫、今も何処かで「こなくそー!」ってなってるだけに違いない。
そう結論付け、俺と釘崎はしんみりした空気を打ち破るように伏黒に対してアイツとの仲をグイグイ質問してやった。
俺達が来るまで二人っきりで何してたの〜?毎日一緒にご飯食べてたってマジ〜?イチャイチャしてたんじゃないの〜?ね〜?と、ダルくてウザい絡み方をしまくった。
こういう時にアイツが居ると、「やめろ!!!伏黒くんを困らせていいのは私だけだよ、金払え!!」とか言い出すから面白い。
早く帰ってきて伏黒や俺達ともっと仲良くなれたらいいなと思う。
この時は知らなかったが、この後数ヶ月間俺達はあの子に会うことが出来なくなるんだから、やっぱり後悔無く仲良くしておくべきだと今になって強く思うのだった。