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巨乳と汗と涙の結晶

東京の街中は意味が分からない。
まず人が多すぎる、日本ってこんなに人間が居たのか〜って思っちゃうくらいには人間だらけだ。
次に店が多い、何処見ても店があるし、店から流れてくるBGMが重なり合って美しい音楽もドブのような濁った音色になってしまっている。
さらに、比例するかのように呪いもポコポコ居るもんだから、ギチギチだ。
JKらしさを求めて久方ぶりに渋谷駅で降りてみたが、あまりの環境にすぐ疲れてしまった。

いやあ〜、歩けども歩けども人や呪いが居る。
耳も鼻も目も疲れる、情報量が多過ぎるのだ。

とくに行く宛の無かった私は、アッチにフラフラ、コッチにフラフラと適当に歩くだけ。
東京に詳しい様子の傑さんが脳内で色々と紹介してくれているが、全て聞き流していた、だって気になる物が多すぎて。

雑誌で見たようなファッションがショーウィンドウに並べられていたり、派手な髪したお姉さんや、女性に声掛けまくってる男性とか…ば、場違いな気がしてきた…何で私渋谷なんかに来ちゃったんだ…渋谷と原宿は怖いから避けてたのに、よりにもよって何故今日来てしまったんだ、勢いに頼りすぎたな…。

早々に人の圧に負けた私は、なるだけ人の居ない方居ない方へと足を運ぶ。

狭い路地を進んでいけば、倒れたまんまのポリバケツや、ティッシュの残骸、看板が出てないのにやっていそうな店等がある通りへとやって来た。
所謂路地裏、アンダーグラウンド。
すえた臭いと、ゴミの溜まった道を靴の踵をコツコツ鳴らして行く。

「………呪霊が多いな」

道の隅でしゃがみこむようにしている人の形をした人では無い物や、壁を這う蛇のような物、今しがた足元を通り過ぎて行った六本足の小さな羊も呪いだろう。
ここにはあまり長居しない方が良さそうだ。

なるべく何者とも視線を交わさないよう気を付けながら、奥へ奥へと道を進んでいたその時だった。

ふいに、後ろから声を掛けられる。


「ね、一人で居るのは危ないんじゃない?」


ゾクリ。

背筋を冷たい風が過ぎていく。

浮かれていた頭の中が一気に冷えて、しばし呼吸を止めた。
背後に感じる強く、重く、苦しさすら感じる気配に動けなくなる。

否、動けないのでは無い。

今、下手な動きをすれば死ぬと、本能が訴えている。

辺りは異様に静かで、先程まで感じていた風や日光を感じ取れない。
帳だ、いつの間にか帳が降ろされている。

不味いな、やられた。

背後の奴の言うとおりだ、私が一人で出歩くのは危険だと…五条先生から言われていたでは無いか。
ゆっくりと噛み締めた唇に力を込めて、鼻での呼吸を意識して行う。

落ち着け、落ち着け、惑うな、しっかり頭を働かせるんだ。

パイプの用意をしていない状態の今、即戦力として頼れるのは己の身体と傑さんだけ。
半実体化可能な傑さんであるが、生前使っていた術式も現在は使用出来ない状況。

嫌でも肩に力が入る、吸った息が上手く吐けない。
頭の中ではどうしよう、どうすればいい、ばかりが繰り返され、まともに思考が働かない。

何も言わずに黙っていれば、痺れを切らしたかのように背後の気配が喋りながら近付いてくる。
一歩、また一歩と近づく度に濃く感じ取れるようになってくるその不快さに、自然と眉間にシワが寄った。

「君、自分がどれだけ貴重か分かってないんだ?」

人を馬鹿にしたような声に対しても、どうしようという思いばかりが沸き立つ。
だが、いきなり傑さんが「本当だよ、全く」と何故か同意を示す。
その言葉がストンと入ってきた私は、危機的状況下であることも一瞬忘れてツッコんでしまう。


いや、傑さんは私の味方をしろよ!!
何同意して、ってイカンイカン、冷静に慎重になれ、敵は背後まで迫っているのだぞ。

「大通りにひよってこんな場所に来て…小心者にも程がある」

なっ、なんだと!?ひよってねぇし!小心者じゃないし!

「しかも私の言葉をまた無視して、成長が見られない」

こんな所でガチ説教モード入るのやめてもろてええですか!?
てか、無視した訳じゃ無いよ、さっきのは私焦ってて、傑さんの声を聞きたくても色んな音や人の話し声で聞き取れる物も聞き取れなかっただけで、

「まったく…馬鹿も休み休みにしてくれないか」


ば………………


「馬鹿じゃないやい!!!!」
「うわっ」

思わず、脳内で完結させるはずの話を声に出してしまう。
いつの間にか肩からは力が抜け、呼吸は正常な状態へと戻っていた。
傑さん、もしかして私の動揺を正すためにワザとこんなこと言って…いやでも、馬鹿呼ばわりは許せない。

馬鹿って言った方が馬鹿なんですよ、知ってました?
やーい、馬鹿!!半透明!!キツネ顔!!巨乳ドスケベ淫乱坊主!!!
出て来いよ、成敗してく…れ………


そして、勢い良く振り返り顔を上げた先、そこに居たのはセーラー服姿の巨乳美少女(継ぎ接ぎ模様あり)だった。

「…………………」
「ビッ…くりした、いきなり振り向くなよ〜」
「…………」
「てか俺、一言も馬鹿なんて言ってないんだけど」
「………ハヘ」

な、なんてことだ……まさか、こんな…こんな子が現実に存在していたなんて…。
やっぱりこの世はギャルゲーなのではないか?ならば、初めましての挨拶は大切だ。

私は一度目を瞑り、天におわす神々と緊張を解してくれた傑さんに感謝をしてから美少女の手を自ら取った。

「はじめまして私高専一年の呪術師なんだけど今日はちょっとサボタージュしてて今は散歩中でね あっところで名前聞いて良いかなあと身長体重胸のサイズ好きな食べ物と嫌いな人のタイプお気に入りの下着ブランドとかもあれば教えてほしいんだけど てか今暇かな?LINEやってる?良かったら友達になろうよいや別に変な意味とかでは無く純粋な気持ちで言ってるだけで下心とか全く無いんだけど」
「俺?真人」
「真人ちゃんっていうんだね可愛い名前だねそのポニーテールもめちゃめちゃ似合ってるすんごく良いと思うな ちなみにセーラー服だけど学校通ってるのかな?何処の学校なのかなもしよければ今からランチでもしに行かない?勿論奢るよエスコートは任せて下さいおっぱいには触りません」
「俺の胸触りたいの?別にいいよ、はいどーぞ」

そうして真人ちゃんは私の手を取り、自分の胸へと触れさせた。


ぱふっ
ぽよんっ

「オウマイゴッド」


思わず天を仰ぎ見た、頭上に広がる帳の向こうにはきっと神のおわす空が広がっているのだろう。

神よ………………我は罪人なり。
罪深き者なり、我を罰したまえ。

ギルティだ、真人ちゃん…なんて子だ、あまりにも衝撃が強すぎて言葉が出て来ない、人はこれを感動と言う。

私が瞬きすら忘れて行動停止していると、真人ちゃんはさらに私の手にぽよんぽよんなおっぱい様を押し付けながら、耳元に唇を寄せて来た。
おい、この世、ギャルゲーじゃなくてエロゲーだったかもしれん。どうしよう、私16歳なのに。18歳以上ですか?で「いいえ」を選ばなきゃならない年齢なんです、エッチなのはいけないと思います…。

「ま、ま、マヒマヒ…マヒトチャン……」
「俺の呪いがさ、」
「ちか、近い……イィ~」
「触れて発動するタイプの術式だったらどうすんの?」

グイグイッ、むにゅん。

うあああ〜〜〜〜!!!!どうすんのっつったって!そんなん、そんなんさあ!!真人ちゃんに出会えた奇跡に感謝しながら死ぬしかないじゃん!!!
なあ、お前もそう思うだろスグハムちゃん!!!

脳内のスグハムちゃんは冷たい目をしながら「ほら、こっちは準備出来たよ」と言った。

その間にも、真人ちゃんはさらに私との距離を縮めてくる。耳にかかる吐息が擽ったい、身体に押し付けられる胸が柔らかい、マジで今ここで死んでも良いかもしれんな…って一瞬だけ思ってしまった。
そのくらい、真人ちゃんは凄かった。

だが、私には分かる。

これは"まがい物"だと。


お笑いモードからスッと意識を切り替え、私は呪力を深く意識する。


「それは…こっちも同じだよ、真人ちゃん」
「何が?」
「私の術式が、触れて発動する物だったらどうすんのって」

話よ。


同じように、唇を耳元に寄せて静かに呟く。
押し付けられた胸をわざと力を込めて鷲掴み、ダラシの無い作り笑顔を消して表情を一変させる。

そうして、その魂と一方的に繋がってやる。


『疑似天啓術』


天から呪いを賜わう術式。

呪いも精霊も偶像の神々も、皆人の心が生み出した物。

この呪いに捧げる物は何一つ必要無い。
何故なら、既にコイツの方から私に触れて、干渉しようとしてくれているのだから。
ならばわざわざ煙を捧げて深淵を覗き込む必要は無し。触れて、触れられて、全ての準備は整った。

繋がった魂を意識すれば、脳裏に過るはおぞましくも美しい、未だ成長途中の純粋な悪意に塗れた世界が見えた。

すまないね、真人ちゃん。
実は一対一じゃないんだ、私には優秀で頼りになる神様が憑いててくれているのさ。


じゃ、傑さんよろしくお願いします。
貴方の呪いを私に与えてください。

これよりは、神罰である。
新世界を願った神による、信者を救うための一手。


「怪傑の定理」

導き出すは、信者が生きる道筋なり。


さあ天まで吹っ飛びな、かわいこちゃん。
私の魂は私だけの物なんだよ。
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