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巨乳と汗と涙の結晶

意識の覚醒を感じ取り、少しずつ瞳を開いた。
喉の渇き、こめかみの痛み、少々の吐き気と強い疲労感。

無理矢理に身体を起こせば、そこは昨日泊まったホテルの一室だった。

「………グラ…ド、キャニオ…ン…夢?」

掠れた声で呟けば、先程よりも幾らか意識がハッキリしてきた。

確か、そうだ…呪霊を倒した後に、事前情報に無かった呪霊が出て来て、ソイツが…ソイツが七海さんの………

「ウッ」

肝心な部分を思い出そうとしたら興奮からか気持ち悪くなってきた。やべ、吐く。
口元を慌てて抑え、ベッドから出てヨロヨロとトイレと洗面所と風呂が一体になってる場所へと行く。
ガチャリとなんとか扉を開けば、中からは温かい湯気と共に、白くきめ細かな肌色が現れた。

「…………………」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「…………シツレイシマシタァ…」
「……はい」

バタンッ。


スゥ~〜〜〜〜…………………ハァ…………………。


この世に産まれて、良かった………。

あなた〜に〜会え〜て〜♪ほんと〜に〜よかあった〜♪
嬉しくて、嬉しくて、ことばにできんな……。

「何を言ってるんだ君は、全く…」

ハッ!この声は乳神様!!省エネモードから復活していたのか、良かった…いや、何も良くないが?今ちょっとこの世の全てに感謝をしながら産まれて来れた奇跡に浸ってるとこだから邪魔しないで頂きたい、多分過去一ピュアな気持ちで有難がってるから。

「私、君に言いたいことがあるんだ」

なんだよ、藪からスティックに。

風呂場の前でウロチョロするのも悪いので、私はコソコソとベッドへ戻った。
ポスンッとベッドに腰を下ろした瞬間、グッと肩が重くなる。
突然照明が遮られたように頭上が暗くなったので上を見上げれば、そこには半透明の傑さんが居た。
顔の横に掛かる黒髪がまるでカーテンのように、私の視界を狭める。

間抜けにも口を開いて見上げていれば、傑さんは私の頬を片手で掴むとニッコリと笑った。

「そろそろいい加減にしないか」
「な、なにが…」
「私の言葉を散々無視して…他の神に身体まで許して」
「ヒョワッ」

頬にあった手は首に下り、優しく肩をなぞって、心臓の真上に降りて行き、その場でスルスルと指先が這った。

「いけない子だ、どうしたら分かってくれるのかな?」
「せ、セクハラ…」
「ん?」
「ひぇ………」

JKの胸を威圧しながら触るな、いや、触っても板なのだが、別名滑走路とも言う程の物だけど、一応あの…そこ、胸なんすよね……。

「ちょ、ちょ…やめろやめろやめろ」
「分かっていないようだから、もう一度言うけれど」

私の瞳を覗く黒い瞳に陰りが出来る。
暗く、深く、吸い込まれそうなその目は、正に深淵を覗いているようで、心がざわめき立つと同時に奇妙な安心感を覚えた。

「他の奴の声なんて聞かなくていい、私の言葉だけに耳を傾けていなさい」
「………依存させようとするのは、良くないと思います…」
「はぁ」

溜め息つかれてしまった…でも私は間違ったことは言っていない。
私は成人まであと4年はかかる子供で、大人が居なければ生きていけない奴だ。
でもいつか、自立して生きていかなければならないと分かっている。

自立するのは怖い。
でも、自立出来ないのはもっと怖い。

誰かに依存して、その人無しじゃ何も出来なくなるなんて悲しい人生だ。
執着も粘着も依存も怖い、それを失った瞬間を考えるだけで怖くて悲しくて寂しくなる。
だからしない、出来ない、私は誰のことも心の内側に招きたくなんてない。

「君に傷付いて欲しくないだけなんだけどね…」
「傑さんに従いたくない、やなの」
「どうして?」

違う、私は本当は

「誰にも従いたくなんてない……だって誰も私を大切にしてくれないんだから……」

従う理由なんて無いでしょう。

本音を少しだけ吐露すると、一気に心が苦しくなって来た。
両親が私を育ててくれたのは、私を売るため。禪院家が私を学校に入れてくれたのは、私に呪術師としての利用価値を見出したから。
先生が目を掛けてくれるのは傑さんが絡んでいるからで、傑さんが私の側に居てくれるのは…未だ諦めていない信念を成就させる手段が私だからだ。

純粋に大切にしているのではない、仕方無く大事に扱っているだけだ。

なんでそんな奴等に従わにゃならんのだ、誰も救ってくれ無かった…なんて雑魚いこと言いたくない、だから私は私を救うために自分自身の考えと思いを誰よりも大切にしなきゃならないのだ。
自分を救うために自分を何よりも大切にする、この力も見える世界も感じた思いも、全ては自分のためにあるのだ。

だから誰にも従わない、従いたくない、私は私のために生きていくんだ。
私のための国の王様は、私自身なのだ。


「ええい!!!」


傑さんの手を払い除け、ガバリとベッドの上に立ち上がり天井に向けて拳を突き上げた。

「貴方の王は、私だ!!!私が従うんじゃない、傑さんが従うんだ!!」
「随分と面白いことを言うものだ」
「今から傑さんは巨乳大臣ね、はい、決定!」
「なんだい、それ」

クツクツと喉の奥で笑う傑さんを見下ろして私も笑う。
今更他人の優しさだとかに縋るつもりは無い、期待しながら待つよりも、自分で目標に向かって歩いて行く方が私は好きだ。

そう、夢はでっかく!!!

「呪術総理大臣になって、環境と巨乳に優しい国作りを行っていきます!!」

皆様の清き一票お待ちして、

「何を騒いでいるのですか」
「あ」

いつの間にか消えてしまった傑さんに変わり、現れた七海さんからの冷ややかな眼差しを浴びてしまった…冷たい目で見られて魂がヒュンッてなっちゃった、これが本当のタマヒュンってね。そして同時に風呂上がりのよく分からん謎の色気に心の童貞成分が湧き上がって来てしまい、何だか恥ずかしくなって、静かにベッドの上に正座した。

す、すみませ…あ、や、み、見ないで…見ないで下さい……今のはあれなんです、自分を鼓舞するためのやつで、変な意味は無くって…。

「…体調はどうですか?酷い状態になってましたが」
「ァ、や、平気デス…」
「そうですか」

あの、今理解したんですがここ七海さんが借りてたホテルの部屋ですよね、私ぶっ倒れてガンギマってたからわざわざこちらのお部屋で様子を見てて下さったってことですよね。

「本当に申し訳ございませんでした」

キッチリ指先を揃え、深々と頭を下げて謝罪をした。
すみませんでした、七海さんも疲れているのにゲロったJKの世話させて、最悪すぎ、切腹します。
傑さん、介錯は頼み申したよ。

「七海にはちゃんと謝るんだね」
「え、や、ちが…」
「私も心配したのに」
「…何があったかは知りませんが、復調したのなら部屋に戻って貰えますか」

眉間をモミモミしながら疲れた声でそう言う七海さんは凄くエッチでした、多分AVだったらここからエッチなマッサージで疲れを解してあげますよ、グッヘッヘ…みたいな展開になってたと思う。
私もAVに出てくる意味不明理論で胸やケツを揉み解そうとするマッサージ師になりてえ、そっちの方が天職な気がする。

あんまり見ると目の毒だと感じ、視線を逸して縮こまりながら「失礼しました…」と言ってベッドを降りて扉へと向かう。
疲れていても七海さんはご丁寧に、「おやすみなさい」と言って下さった。
エッチだとか思った自分のことが一瞬で嫌いになった、救われるなこんな奴、一生五条先生に童貞ってからかわれてろ。

あと、傑さんにも謝らなければ。

「傑さん、ごめんね…」
「おや、反省したのかい?」
「あのね…私、ケツも好きかもしれん……」
「………うん、疲れているみたいだから今日はもう寝なさい」

疲れてるっていうか、憑かれてるっていうか…うん、はい、寝ます。
寝たら童貞精神も治ってるかもしれんからな。
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