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巨乳と汗と涙の結晶

七海さんはとてもとても良い人でした。
流石に手のひらひっくり返しちゃう。

私の質問にこと細かに答えてくれるし、解説は丁寧だし、ノートに書き込んでる時は待っててくれる。
あと凄く真面目で、でも自分の常識や価値観を押し付け過ぎない、でも訂正すべき箇所が見付かれば間違いを指摘してくれる。
指摘だってただ駄目と言うばかりでは無くて、こちらが自発的に間違いを見付けて正せるようにと誘導してくれるのだ。

あまりに出来た人間過ぎて、先程とは違う意味で震えてしまった。
五条先生よりずっと大人だった。


次の任務に関すること、そこから推測される状況や、呪霊のパターン、戦闘方法などなどについての説明をまとめるために開いたノートは簡単に文字でビッシリと埋め尽くされた。
書いた方が覚えやすいから書いても良いですか?とはじめに聞いたら、「勿論構いません」と言ってくれたので、遠慮無く書いてしまったが、これは………少し雑にまとめ過ぎたな、後でまとめ直そう。

「いつもノートに?」
「え?えぇ…術式のせいで、たまに記憶がトブもので」
「なるほど、良い心掛けですね」

ほほ、ほへへ……褒められちった…。

もにょもにょと口元を動かして照れを誤魔化す、真面目な称賛は嬉しいよりも恥ずかしい、家に居た頃は私が何をしたって褒めて貰うことなどは無かった。別にそれを悲しいとか寂しいとか思ったことはそんなに無い、早い段階から「そういうもの」だと割り切っていたし、その分自由に伸び伸びとやって来れたから別に良い。

今更褒められたって、それによる伸び代への影響も無いかもしれないけれど、それはそれとして嬉しい。
他者から認められることは自己を客観視する材料の一つになる。
鏡に写る自分を自分で評価し続けることには限界があるからね。

まあ私は自己評価とか改めてやったりしないタイプなんですけども。
前しか見てないし、突き進むことしか考えてない……直進行軍が私を表す四文字なので。座右の銘です。

「七海さん、五条先生より先生っぽい」
「……そうですか」
「五条先生はね、私のスカート履いて生徒に写真撮らせたりしてるよ」
「あの人は何をしているんだ」

これが件の写真です見てくれ、とスマホを差し出せば、凄く嫌そうな顔をしながら画面を覗き込んでくれた。

「先生、脚も綺麗~」
「も?」
「目とか手とか、先生は全部綺麗ですよ、眩しい」
「外見だけです、騙されてはいけません」

人間は中身が大事ってか、いやでもさぁ……やっぱ外見は大切だよ、私は傑さんが貧乳だったら速攻で見切り付けてたもんね。彼と未だに仲良くやれてるのは、単に彼に発達した胸があるからですよ、正義はそこにあるんですよ。

ちなみに五条先生は元々そこまで眼中に無いので、心配するまでも無いと思う。


ペンを筆箱に仕舞い、一息つく。
えっと、任務は明後日で、場所は山間部の………。

忘れないようにともう一度脳内で情報を整理している時、その感覚はやって来た。
脳内へ直接語り掛ける傑さんの声が聴こえる。


「変われ」


瞬間、私の視界は闇に飲まれていく。
何処か、強大で恐ろしい物に身を絡め取られ、奈落の底へと身体全てが引っ張り落とされるような感覚が我が身を襲う。
耳元で聞こえる、ケラケラと甲高い無数の子供の笑い声と、すぐ側を這い回る異形の胴体、視界の端では影がスキップをするように笛を吹きながら踊り出し、ふと見上げた空は虹の色をしていた。

現実とは異なる幻想に彩られた世界に身を堕としながら、私は恐怖に慄き、目と耳をふさいで神との関わりを拒絶したのだった。
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