巨乳と汗と涙の結晶
傑さんから引き出した情報によると、彼の後輩で出戻り術師をしている七海さんとやらはかなりのグルメらしい。
真面目で後輩にも気を配ってくれる方だとか。
ほーん………七つの海って書いて七海ですか、シンドバッドじゃんね。
傑さんからの情報を頼りに私も資料室にて七海さんについて調べてみる。
ふむ、高専卒業で…暫く空白期間があり、ある時から呪術師に復帰している。
どうやら出戻りの話は本当のようだ。
階級は一級、男性、なるほど……。
なんで戻って来たんだろ。
「本人に聞いてみたら良いんじゃないかな」
それもそうか。
でも、そこまで気にならないから仲良くなれたらにしよう。
あと、一々脳内の独り言に合いの手入れなくてもいいよ。
「仕方無いだろう、暇なんだから」
それは失礼致しました。
ってなことで、私は七海さんを求めて三千里。
報告書を出しに事務室に行っていると聞いたので、扉の側で出待ち待機中である。
えっと、確か特徴は…身長が高くて、金髪で、スーツを着ている、そしてサングラスも掛けてる………い、インテリヤクザかな?もしかして、そっちの世界から足を洗うために呪術師に戻って来たとか?
なーんて、そんなことあるわけ……
扉の側で一人情報整理をしながら待っていれば、いきなり扉がガラリッと開いた。
誰が出て来たかは知らないが、一応挨拶はせねばあるまい。
下げていた頭を上げて、元気よく「お疲れ様です!」と言おうと口を開いた瞬間、喉の奥に声が引っ込み「ヒュッ」というか細い音だけが僅かに出た。
「……………」
「……………」
「………こんにちは」
「……コ、コニチ、ワ…」
扉から出て来た男の迫力に恐れ戦き狼狽える。
き、金髪…グラサン…デカいタッパ…迫力と緊張感、白いスーツが物語るヤクザっぽさが半端じゃない。
我、思う。
白いスーツはファンタジーヤクザだけが着るものじゃなかったんですか?と。
二次元のさ、龍が如くとかに出てくるやつじゃん、こんなの。
一人、あまりの迫力にプルプル震えながら、唇をキュッと内側に巻き込むようにして縮こまり思わず二、三歩後退した。
脳内の乳神様が「彼が七海だよ」と語り掛けてくるが、それどころでは無い。
このただならぬ感じ、佇まい…絶対に元一般人ではない!ヤクザだ、それもかなりやり手の、北野映画に出てくるやつだ、どうしよう……野球しようかって言われてピッチングマシーンで首がグラグラになるまで弾投げられて殺されるんだ!!
どうしよう、誰か助けて!!
七海さんを見上げながら硬直していれば、彼は「何か」と聞いてきた。
いや、な、なんでもありません!すみませんジロジロ見て、慰謝料請求しないで下さい!!
「ナ…ナデモ…アリマセン……」
「そうですか、でも私は丁度君に用事がありました」
「ヒェッ!?」
死ゾ!??!?
樹海で全身に蜂蜜を塗られて放置されるのか!?
そんな、そんなあ~~~~~~やだよ~~~~~!!
怖くなってしまった私は、場所を考えずに両目に涙を溜めてしまった。
「ウッウ"ッ"…グスッ、ウゥ"~~」
「いきなり…どうされましたか」
「た"す"け"て"、た"す"け"て"ぇ"~~!」
恥もかき捨て恐怖に泣き叫べば、事務室の中から慌てたようにワラワラと人が出てきた。
その中の一人に伊地知さんを見つけ出した私は、バビュンッとトップスピードで彼の元まで行きしがみついた。
「い"、伊地知さん"!怖い"人が!怖い"人がぁ"!!」
ママーーー!!怖いお兄さんがいるのーー!!!怖いお兄さんが私に用事があるってゆった!!怖いことされる!!死にとうない!死にとうないーー!!!
そんな勢いでベソベソと泣きながらしがみつく。あ、珈琲の匂いする、ちょっと好きかも。
「落ち着いて下さい…!七海さんは怖い人では…!」
「二次元でしか見たこと無い白スーツを着ている人がいるのぉ!!」
「落ち着いて下さい、ムー●ィ勝山という芸人も白いスーツですよ…!」
「え………あ、じゃ、じゃあ、芸人の方…?」
あの見た目で芸人!?
衝撃の急展開に驚いて涙も引っ込んでしまった、ギョッとした表情を隠さずに後ろを振り返れば、思ったよりも近くに白いスーツがあって、また私はビャッと震えて飛び上がる。
伊地知さんを盾にするように背中に回り、彼の影からコソコソ顔を出せば、七海さんとやらは「ヤクザでも芸人でもありません」と強めの口調で言って来た。
「七海建人、呪術師です」
「ほら、挨拶しましょう、ね?」
「怖くない…?本当に怖くない?」
「怖くありませんよ、大丈夫ですからね」
伊地知さんは私を落ち着かせるため、よしよしと頭を撫でてくれた。
この人なんでこんなに良い人なのに五条先生にあんな扱いされてるんだ…。
関係の無いことを考えることで、目の前の状況から意識を逸らせてみたものの、やっぱりたかーい所からサングラス越しに見下ろされている圧迫感に「はひ…」と情けの無い声が漏れてしまった。
「な、七海さん………は、はじめ、まして…」
「はい、初めまして」
「ご用事は……な、なんでしょうか…」
や、やっぱり怖くて直視出来にゃい……あのね、私はね、何だかんだとギャイギャイ言ってますが基本的にはわりと怖がりなんですよ。たまに宇宙のことを考えて怖くなって眠れなくなるし、自分しか感じない視線に怯えてるし、夜の学校も、半裸の男子も、デッカイ男性も怖いんですよ。頼むから威圧感どうにかしてくれ、お腹が痛くなってきちゃったじゃないか。
シオシオになりながらお腹を押さえて自分の爪先を見つめる。
もうやだ、お部屋に帰りたい、スマホでバキ読みたい。
旋毛に突き刺さる視線に縮こまっていれば、上からフゥーっと深い溜め息の音が聞こえてハッとした。
………あ…おい、今溜め息つかれなかったか?
え、溜め息つかれてるの?私?面倒臭い人間だと思われてる?
いやいやいや、あの、そもそも私は怖いから怖いって訴えてるだけであって、こちらに非があることなんでしょうかね、これは。え?どうなんですか?
そもそも女子高生を怖がらせる方が社会的には悪だと思うのですが。
顔を少し上げれば、サングラスの向こうから私に向かって視線が降り注ぐ。
「次の任務ですが、君に同行することとなったのでその打ち合わせを…と思ったのですが」
ですが?
「どうやらまともに話し合いは出来そうに無いので、別の手段で…」
「で、出来ますが!??!?」
「いえ、萎縮させてしまうと」
「怖くないですし!?」
は、話し合いくらい……できらぁ!!!
よく分からんが、私にだって話し合いの一つや二つ出来るもん!
決めつけるのは良くないと思います、ちゃんと出来るか出来ないか聞いて欲しい、私は時間を貰えれば覚悟出来るタイプのヒューマンなのだ。
傑さんだって私は出来る子だって言ってたし、そもそも私は呪術エンペラーになるレディ……こんな所で躓いてはいられんのだ!
「怖くない…けど!」
「けど?」
「首が痛くなるので……座ってお話したい、です…」
「ええ、ではそうしましょう」
デカヒューマンと立って会話する時、本当に首が辛い。
私の体型は胸が無くてケツの肉も無くて、身体は薄っぺらで中学の頃のあだ名が「まち針」だったくらいなのだ。そしてさらに身長も成長期が遅刻気味である。そんな女がデカデカ男と喋るのは首が死ぬ。目線合わそうとしても顎とか見ることになる。
私の提案に頷いてくれた七海さんは空き教室を使いましょうと提案した。
やや思案した後に、ノートとペンを取って来て良いか尋ねれば、彼は先に行って待っていますと簡潔的に言って、空き教室へと行ってしまった。
背中を見送り、伊地知さんを見上げればホッとした様子。
「伊地知さん、盾にしてごめんなさい」
「いえ、いいですよ。でも七海さんはとても良い人なので、怯えなくて大丈夫ですからね」
良い人代表の伊地知さんが言うのならば良い人なのだろう、とりあえずは信じておくか。
ただ、一つ気になることがあるとすれば……
「ずっと黙ってるんだよなぁ…」
あんなにいつも煩い神様が何にも言って来ない。価値観を押し付けに押し付けてくる人なのに、どうしたのだろうか。
もしかしたら私につられてお腹痛くなっちゃったのかも。
なら、ほっといてあげた方が良いよね。
真面目で後輩にも気を配ってくれる方だとか。
ほーん………七つの海って書いて七海ですか、シンドバッドじゃんね。
傑さんからの情報を頼りに私も資料室にて七海さんについて調べてみる。
ふむ、高専卒業で…暫く空白期間があり、ある時から呪術師に復帰している。
どうやら出戻りの話は本当のようだ。
階級は一級、男性、なるほど……。
なんで戻って来たんだろ。
「本人に聞いてみたら良いんじゃないかな」
それもそうか。
でも、そこまで気にならないから仲良くなれたらにしよう。
あと、一々脳内の独り言に合いの手入れなくてもいいよ。
「仕方無いだろう、暇なんだから」
それは失礼致しました。
ってなことで、私は七海さんを求めて三千里。
報告書を出しに事務室に行っていると聞いたので、扉の側で出待ち待機中である。
えっと、確か特徴は…身長が高くて、金髪で、スーツを着ている、そしてサングラスも掛けてる………い、インテリヤクザかな?もしかして、そっちの世界から足を洗うために呪術師に戻って来たとか?
なーんて、そんなことあるわけ……
扉の側で一人情報整理をしながら待っていれば、いきなり扉がガラリッと開いた。
誰が出て来たかは知らないが、一応挨拶はせねばあるまい。
下げていた頭を上げて、元気よく「お疲れ様です!」と言おうと口を開いた瞬間、喉の奥に声が引っ込み「ヒュッ」というか細い音だけが僅かに出た。
「……………」
「……………」
「………こんにちは」
「……コ、コニチ、ワ…」
扉から出て来た男の迫力に恐れ戦き狼狽える。
き、金髪…グラサン…デカいタッパ…迫力と緊張感、白いスーツが物語るヤクザっぽさが半端じゃない。
我、思う。
白いスーツはファンタジーヤクザだけが着るものじゃなかったんですか?と。
二次元のさ、龍が如くとかに出てくるやつじゃん、こんなの。
一人、あまりの迫力にプルプル震えながら、唇をキュッと内側に巻き込むようにして縮こまり思わず二、三歩後退した。
脳内の乳神様が「彼が七海だよ」と語り掛けてくるが、それどころでは無い。
このただならぬ感じ、佇まい…絶対に元一般人ではない!ヤクザだ、それもかなりやり手の、北野映画に出てくるやつだ、どうしよう……野球しようかって言われてピッチングマシーンで首がグラグラになるまで弾投げられて殺されるんだ!!
どうしよう、誰か助けて!!
七海さんを見上げながら硬直していれば、彼は「何か」と聞いてきた。
いや、な、なんでもありません!すみませんジロジロ見て、慰謝料請求しないで下さい!!
「ナ…ナデモ…アリマセン……」
「そうですか、でも私は丁度君に用事がありました」
「ヒェッ!?」
死ゾ!??!?
樹海で全身に蜂蜜を塗られて放置されるのか!?
そんな、そんなあ~~~~~~やだよ~~~~~!!
怖くなってしまった私は、場所を考えずに両目に涙を溜めてしまった。
「ウッウ"ッ"…グスッ、ウゥ"~~」
「いきなり…どうされましたか」
「た"す"け"て"、た"す"け"て"ぇ"~~!」
恥もかき捨て恐怖に泣き叫べば、事務室の中から慌てたようにワラワラと人が出てきた。
その中の一人に伊地知さんを見つけ出した私は、バビュンッとトップスピードで彼の元まで行きしがみついた。
「い"、伊地知さん"!怖い"人が!怖い"人がぁ"!!」
ママーーー!!怖いお兄さんがいるのーー!!!怖いお兄さんが私に用事があるってゆった!!怖いことされる!!死にとうない!死にとうないーー!!!
そんな勢いでベソベソと泣きながらしがみつく。あ、珈琲の匂いする、ちょっと好きかも。
「落ち着いて下さい…!七海さんは怖い人では…!」
「二次元でしか見たこと無い白スーツを着ている人がいるのぉ!!」
「落ち着いて下さい、ムー●ィ勝山という芸人も白いスーツですよ…!」
「え………あ、じゃ、じゃあ、芸人の方…?」
あの見た目で芸人!?
衝撃の急展開に驚いて涙も引っ込んでしまった、ギョッとした表情を隠さずに後ろを振り返れば、思ったよりも近くに白いスーツがあって、また私はビャッと震えて飛び上がる。
伊地知さんを盾にするように背中に回り、彼の影からコソコソ顔を出せば、七海さんとやらは「ヤクザでも芸人でもありません」と強めの口調で言って来た。
「七海建人、呪術師です」
「ほら、挨拶しましょう、ね?」
「怖くない…?本当に怖くない?」
「怖くありませんよ、大丈夫ですからね」
伊地知さんは私を落ち着かせるため、よしよしと頭を撫でてくれた。
この人なんでこんなに良い人なのに五条先生にあんな扱いされてるんだ…。
関係の無いことを考えることで、目の前の状況から意識を逸らせてみたものの、やっぱりたかーい所からサングラス越しに見下ろされている圧迫感に「はひ…」と情けの無い声が漏れてしまった。
「な、七海さん………は、はじめ、まして…」
「はい、初めまして」
「ご用事は……な、なんでしょうか…」
や、やっぱり怖くて直視出来にゃい……あのね、私はね、何だかんだとギャイギャイ言ってますが基本的にはわりと怖がりなんですよ。たまに宇宙のことを考えて怖くなって眠れなくなるし、自分しか感じない視線に怯えてるし、夜の学校も、半裸の男子も、デッカイ男性も怖いんですよ。頼むから威圧感どうにかしてくれ、お腹が痛くなってきちゃったじゃないか。
シオシオになりながらお腹を押さえて自分の爪先を見つめる。
もうやだ、お部屋に帰りたい、スマホでバキ読みたい。
旋毛に突き刺さる視線に縮こまっていれば、上からフゥーっと深い溜め息の音が聞こえてハッとした。
………あ…おい、今溜め息つかれなかったか?
え、溜め息つかれてるの?私?面倒臭い人間だと思われてる?
いやいやいや、あの、そもそも私は怖いから怖いって訴えてるだけであって、こちらに非があることなんでしょうかね、これは。え?どうなんですか?
そもそも女子高生を怖がらせる方が社会的には悪だと思うのですが。
顔を少し上げれば、サングラスの向こうから私に向かって視線が降り注ぐ。
「次の任務ですが、君に同行することとなったのでその打ち合わせを…と思ったのですが」
ですが?
「どうやらまともに話し合いは出来そうに無いので、別の手段で…」
「で、出来ますが!??!?」
「いえ、萎縮させてしまうと」
「怖くないですし!?」
は、話し合いくらい……できらぁ!!!
よく分からんが、私にだって話し合いの一つや二つ出来るもん!
決めつけるのは良くないと思います、ちゃんと出来るか出来ないか聞いて欲しい、私は時間を貰えれば覚悟出来るタイプのヒューマンなのだ。
傑さんだって私は出来る子だって言ってたし、そもそも私は呪術エンペラーになるレディ……こんな所で躓いてはいられんのだ!
「怖くない…けど!」
「けど?」
「首が痛くなるので……座ってお話したい、です…」
「ええ、ではそうしましょう」
デカヒューマンと立って会話する時、本当に首が辛い。
私の体型は胸が無くてケツの肉も無くて、身体は薄っぺらで中学の頃のあだ名が「まち針」だったくらいなのだ。そしてさらに身長も成長期が遅刻気味である。そんな女がデカデカ男と喋るのは首が死ぬ。目線合わそうとしても顎とか見ることになる。
私の提案に頷いてくれた七海さんは空き教室を使いましょうと提案した。
やや思案した後に、ノートとペンを取って来て良いか尋ねれば、彼は先に行って待っていますと簡潔的に言って、空き教室へと行ってしまった。
背中を見送り、伊地知さんを見上げればホッとした様子。
「伊地知さん、盾にしてごめんなさい」
「いえ、いいですよ。でも七海さんはとても良い人なので、怯えなくて大丈夫ですからね」
良い人代表の伊地知さんが言うのならば良い人なのだろう、とりあえずは信じておくか。
ただ、一つ気になることがあるとすれば……
「ずっと黙ってるんだよなぁ…」
あんなにいつも煩い神様が何にも言って来ない。価値観を押し付けに押し付けてくる人なのに、どうしたのだろうか。
もしかしたら私につられてお腹痛くなっちゃったのかも。
なら、ほっといてあげた方が良いよね。