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巨乳覇者列伝

傑さんの「アレは危険過ぎる、逃げなさい」という言葉を振り切って、私は勢い良く重たくて少し苦い煙を吸い込んだ。
一気に肺が煙によって満たされる感覚がして苦しくなる、咳き込みそうになるのをグッと堪え、瞳を閉じて宇宙の神秘へとアクセスした。


大いなる真理への接触開始。

宇宙の根本原理、解読。

我欲、独占、欲望をリセット。

全てを捧げよ、この世界は神の前に平等である。


疑似天啓術

獣、化物、正体を晒せ。


「汝、神の意思なりや」


さあ、深淵に潜む君よ、私の手を取ってくれ。










心の内に這いずるそれを表に出す。
海面のように揺れる影から姿を表したるは、蛇のようにうねり、ヌトヌトと粘液を纏った、テラテラと照り輝くおぞましい異形であった。

大小様々な大きさをした、すじこのようなツブツブとした物が表面についた物から始まり、真珠を飲み込んだかのようにボコボコとした物。
それらがタイツに覆われた私の脚を絡め取るように無作為に動いていた。

異様な軟体動物のようなソレを、一度指先で擽るように撫でてから対象へ目掛けて駆け出す。


「行け、ヴーゾムファ!!!」


蠢く触手が涎のような蜜を垂らし、粘着質な音を立てて対象へと素早く風を切って突っ込んで行く。
滴る液体が屋根を濡らし、月の光が反射して、何処か嫌らしく光った。


ヴーゾムファ、婬欲と快楽の化身。
全ての海の祖にして、父であり、母である、両性具有神。
生物の性的快楽を餌とし、かの触手に囚われた者は男女を問わず強い快感を覚える。
つまり、めっちゃエチエチなのだ!!!


頭の中の傑さんが「格好良いシーンが500文字で終わった」と嘆いているが知ったことでは無い!
半裸の一般人に伏黒くんが襲われそうになってるんやぞ!?私はね、モブ×伏黒くんのレ!!なやつ地雷なんで。そんなもの、私の触手神様で一般人を逆レ!!してやるんだから!!

行け!ゾムファちゃん!!あと、スカートは捲るな!!!

私の指示に従い大量の触手がネチョネチョモゾモゾしながら一般人に向けて突っ込んでいく、が、しかし。


「なんだこれは」
「キャンッ!!!!」


デコピン一発で触手もろとも私は吹っ飛ばされた。
したたかに、壁に全身を打ち付け強い痛みを感じる。
痛い!!なんで!?やられるのが早すぎる、あの一般人強すぎでは!?一体何者なんだ……。

てか、ヤバ………頭打ったかも、術式とプラスしてふわふわしてきた……。
遠くで傑さんが呼んでる声がする、さらにもっと遠くから……何か、が………。

揺らぐ意識の底にはガラスが一枚、隔たりを作っている。

………私を見ているお前は、誰だ。









目眩を感じながら、私は目を覚ます。
肺から吐き出した息は甘く、重く、熱く、幾何学模様の味がした。
視界いっぱいに広がる深い闇の底から、手招きされるがままに、一歩、また一歩と、歩みを進める。

ちゃぷり、ちゃぷり。

足元には温度の無い海が広がっており、私の靴やタイツを濡らしていく。

ちゃぷり、ちゃぷり。

周囲からは甲高い子供の笑い声と、バタバタとした騒がしい足音が聞こえてくる。
巨大な何かが頭上を通り過ぎて行く感覚と、舐めるような視線。
ここは、何処なのだろうか。
意識が妙に曖昧でハッキリしない、軋むような頭の痛みと明滅を繰り返す視界に、いよいよもって深淵へ続く海の中へと倒れそうになった。

瞬間、誰かに、腕を引かれる。

片腕の失われた身体で、ゴツゴツとした手で私の腕を引いたのは、私が呼んだ私の神様らしきもの、傑さんその人であった。

しかし、彼からは一切の音がしなかった。
口をパクパクと開けたり閉じたり、忙しなく何かを喋っているのに、私には何の声も届かない。


「よく、分からないけれど……」

私は言う。
微笑んで言う。

「透明な板を挟んだ一枚向こうに、自分の半分がある気がするんだ」

伝わるだろうか、この違和感が。

ずっとずっと感じていた文字をなぞるかのように私を見る視線と、頭の中まで覗かれる感覚。

なあ、伝わっているか?私を見ている君に。
君だよ、なあ、透明の板の向こうに居るお前だ。
お前こそが、私を見ていた者なのだろう?
そして、この事実こそが、この世界の根本原理なのだろう?

「傑さん、もういいよ」

ここへ飛び込めば、私は消える。
私が紡いだ物語ごと、消えて、忘れ去られる。
きっと、こうして暗い場所へ沈むから、消えるから、削除されるから、先人達は消えていったのだろう、世界の何処かへ。
もしくは、大いなる真理の頭の中へと帰って行ったのだろう。

私も同じだ、私にはこの事実は少しばかり荷が重すぎる。
だからこの手を離してくれないか。


そう言うも、傑さんは首を振りながら掴んだ腕を離してはくれなかった。

嫌な人、悪い人。

そんな優しいとこがあるから、貴方は私を呪い切れていないのだ。
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