40億年の果てに後悔を手にする話。
人使いが荒いったらありゃしない。
私は別にスパイをしているつもりは無かったのだけど、立ち位置的にそんな感じになってしまっているわけで、仕方無しに夏油さんから頼まれたことを了承した。
夏油さんは乙骨くんのジョカノが欲しいらしい。とんでもねぇ趣味だ。
こんなん、どう考えても「よろしい、ならば戦争だ」になっちゃうでしょうに。
そんで、愛の前には何人足りとも敵わないというのに。
どうして分からんかね、夏油さんって実はイタリアの芸術作品に感化されてたりする?あっちってほら、悲劇を求む国民性が反映されて、悲劇的な作品が多いからさ、そっち寄りなのだとしたら……まあ12月24日とかいう、リア充の宴の前夜祭にわざわざリア充を乗り越える作戦に出たくなるのも分からないでもない。
彼からの頼まれ事は簡単なことで、脱出経路の確保だった。
私の眼を持ってすればそれくらいお茶の子さいさい、ババッと終わること。
問題は………
「ま、今さら考えても遅いか」
考えるを一旦止めて、今は手元に集中だ。
どうせクリスマスは出来なくなるだろうからということで、本日は前倒しで棘くんとプレゼント交換をすることになっている。
授業も終わり、シャワーも浴びて、良い子の私は課題も終わらせ、棘くんの部屋までやって来た。
柄にもなくちょっとドキドキしている、わりと迷うことなくプレゼントを選んでしまったけれど、大丈夫なのかこれ。予算を互いに決めてから各々買ったわけだが、はたして喜んで貰えるのか。
うにゃうにゃと悩みながらも扉をノックし、「棘くーん、来たよー」と声を掛ければ、すぐにガチャリと扉が開いた。
「明太子」
「こんばんは、お邪魔するね」
「しゃけしゃけ」
「あ、この前新しいおにぎりの具見つけたよ」
「こんぶ!」
「カラムーチョ」
「カラムーチョ」
てなことを話ながら、見知った棘くんの部屋にお邪魔し、定位置に座ってのんびりゆったり雑談を続ける。
「あと変わり種だと、ちゃんちゃん焼きとか」
「ちゃんちゃんやき」
「あ、可愛いかも」
「ちゃんちゃんやき♡」
すぐのるじゃん、可愛いから文句ないけど。
よしよしよしよし……衝動的に目の前のキュートなオデコをした可愛い頭を撫でれば、棘くんはニコニコしてくれた。やーん、可愛い。
男に可愛いと言うのは失礼だとかって意見もあるが、可愛いもんは可愛いんだからしょうがない。
可愛いものってのは無条件で可愛がられなければならないのだ、そういう宿命を背負っているんだ、だから私はニコニコハピネス棘くんを暫く撫で続けた。
だがしかし、時間も時間だし可愛がりはこれくらいにしておいて、いざ尋常にプレゼント交換といこうではないか。
持ってきた紙袋をガサゴソと鳴らし、中からラッピングされたプレゼントボックスを取り出す。
………ちょっと緊張するな、シャワー浴びたからって髪の毛いじって来なかったけど、やっぱりちょっとこう……何かすれば良かったかなぁ。いやいや、でも棘くんも普通にスウェット着てるし、私だけ力入れて来たらそれはそれで可笑しいよなぁ。
ええい、ままよ!
グイッ………とは付き出せず、結局床に置いてススス……と棘くんの方に箱を押して渡す感じになりながら、私は「早いけど、メリークリスマス」と言ってどうにかプレゼント授与を成功させた。
そして棘くんからも「いくら~!」との言葉と共にラッピングされたプレゼントが渡された。
………いや、大きいな?
部屋に入った時から、まさか……とは思ったが改めて渡されると結構大きいぞ。
でも軽い、「開けてもいい?」と聞けば、彼は首をコクコク上下に振ってくれた。
髪の毛先がプンプン跳ねてて可愛いなぁ。
雑念を振り払うように紫色のリボンをほどき、中を覗き込めば、そこにはクソデカおにぎりが入っていた。
………予想のど真ん中来ちゃったよ。
クソデカおにぎりクッションを見て、あまりの直球ドストレートに私は「おぉ……」と謎の声をあげて固まってしまった。
あ、待って、よく見たらまだ入ってる。
ガサゴソガサゴソ、腕を伸ばしてもう一つの物を取り出す。
………おにぎり靴下、おにぎりハンカチ。
「おにぎりフルコースだ…!」
「しゃけ!」
「ありがとう、乙骨くんに自慢するね」
「ツナマヨ!?」
あ、今のツナマヨは意味が分かったぞ、「なんで!?」ってことでしょ。
「乙骨くんって棘くんのこと大好きだから……」
「つ、ツナ…」
「あの男にだけは棘くんを渡したくないんだよね」
「め、明太子~!」
何故か感激し出した棘くんはラッピングを剥がす手を止めて私に抱き付いて来た。
その身体を軽く受け止め抱き締めれば、彼も同じように抱き締め返し、嬉しそうにすり寄ってきてくれた。
お風呂上がりなのだろう、良い匂いがする。
身体は少しばかり肌寒さを感じているが、心はぽっかぽかだ。
こう見えてかなりドキドキしているのだが、バレてはいないだろうか?ちゃんと格好良いカノピになれてる?
「棘くんプレゼントありがとう、毎日抱き締めるね」
「おかか!」
「あ、分かった!毎日抱き締めるのは棘くんにするよ、おにぎりは棘くんを抱き締めらんなかった時にぎゅってするね」
「しゃけ!」
ハハッ、何だかやっと彼の言わんとすることが分かって来たぞ。
40億年輪廻に囚われている私でも、ちゃんと成長出来るんだなあ。それが棘くんのことだというのだから、尚更嬉しい。
………私、一体いつの間にこんなに君のことが好きになったんだろう、よく分からないや。
分からないけど、この気持ちもプレゼントも大切にしたいと、祈りに近い思いを抱いた。
「……大事にするね」
墓にまで持っていく…という台詞は飲み込んだ。
こんな話、冗談でも彼の前ではしたくない。
こうして終わりまでのカウントダウンは、誰にも知られることの無いまま、ゆっくり穏やかに進んでいったのだった。
この恋は互いに後悔となるだろう。
でも、私が人になるためには、人として終わるためには、必要なものだったのだろう。
40億年の果て、長い長いこの星と共に歩んだの歴史にすれば瞬きの間の出来事だが、私にとっての初めての青い春はこうして終わりに向かっていく。
私は別にスパイをしているつもりは無かったのだけど、立ち位置的にそんな感じになってしまっているわけで、仕方無しに夏油さんから頼まれたことを了承した。
夏油さんは乙骨くんのジョカノが欲しいらしい。とんでもねぇ趣味だ。
こんなん、どう考えても「よろしい、ならば戦争だ」になっちゃうでしょうに。
そんで、愛の前には何人足りとも敵わないというのに。
どうして分からんかね、夏油さんって実はイタリアの芸術作品に感化されてたりする?あっちってほら、悲劇を求む国民性が反映されて、悲劇的な作品が多いからさ、そっち寄りなのだとしたら……まあ12月24日とかいう、リア充の宴の前夜祭にわざわざリア充を乗り越える作戦に出たくなるのも分からないでもない。
彼からの頼まれ事は簡単なことで、脱出経路の確保だった。
私の眼を持ってすればそれくらいお茶の子さいさい、ババッと終わること。
問題は………
「ま、今さら考えても遅いか」
考えるを一旦止めて、今は手元に集中だ。
どうせクリスマスは出来なくなるだろうからということで、本日は前倒しで棘くんとプレゼント交換をすることになっている。
授業も終わり、シャワーも浴びて、良い子の私は課題も終わらせ、棘くんの部屋までやって来た。
柄にもなくちょっとドキドキしている、わりと迷うことなくプレゼントを選んでしまったけれど、大丈夫なのかこれ。予算を互いに決めてから各々買ったわけだが、はたして喜んで貰えるのか。
うにゃうにゃと悩みながらも扉をノックし、「棘くーん、来たよー」と声を掛ければ、すぐにガチャリと扉が開いた。
「明太子」
「こんばんは、お邪魔するね」
「しゃけしゃけ」
「あ、この前新しいおにぎりの具見つけたよ」
「こんぶ!」
「カラムーチョ」
「カラムーチョ」
てなことを話ながら、見知った棘くんの部屋にお邪魔し、定位置に座ってのんびりゆったり雑談を続ける。
「あと変わり種だと、ちゃんちゃん焼きとか」
「ちゃんちゃんやき」
「あ、可愛いかも」
「ちゃんちゃんやき♡」
すぐのるじゃん、可愛いから文句ないけど。
よしよしよしよし……衝動的に目の前のキュートなオデコをした可愛い頭を撫でれば、棘くんはニコニコしてくれた。やーん、可愛い。
男に可愛いと言うのは失礼だとかって意見もあるが、可愛いもんは可愛いんだからしょうがない。
可愛いものってのは無条件で可愛がられなければならないのだ、そういう宿命を背負っているんだ、だから私はニコニコハピネス棘くんを暫く撫で続けた。
だがしかし、時間も時間だし可愛がりはこれくらいにしておいて、いざ尋常にプレゼント交換といこうではないか。
持ってきた紙袋をガサゴソと鳴らし、中からラッピングされたプレゼントボックスを取り出す。
………ちょっと緊張するな、シャワー浴びたからって髪の毛いじって来なかったけど、やっぱりちょっとこう……何かすれば良かったかなぁ。いやいや、でも棘くんも普通にスウェット着てるし、私だけ力入れて来たらそれはそれで可笑しいよなぁ。
ええい、ままよ!
グイッ………とは付き出せず、結局床に置いてススス……と棘くんの方に箱を押して渡す感じになりながら、私は「早いけど、メリークリスマス」と言ってどうにかプレゼント授与を成功させた。
そして棘くんからも「いくら~!」との言葉と共にラッピングされたプレゼントが渡された。
………いや、大きいな?
部屋に入った時から、まさか……とは思ったが改めて渡されると結構大きいぞ。
でも軽い、「開けてもいい?」と聞けば、彼は首をコクコク上下に振ってくれた。
髪の毛先がプンプン跳ねてて可愛いなぁ。
雑念を振り払うように紫色のリボンをほどき、中を覗き込めば、そこにはクソデカおにぎりが入っていた。
………予想のど真ん中来ちゃったよ。
クソデカおにぎりクッションを見て、あまりの直球ドストレートに私は「おぉ……」と謎の声をあげて固まってしまった。
あ、待って、よく見たらまだ入ってる。
ガサゴソガサゴソ、腕を伸ばしてもう一つの物を取り出す。
………おにぎり靴下、おにぎりハンカチ。
「おにぎりフルコースだ…!」
「しゃけ!」
「ありがとう、乙骨くんに自慢するね」
「ツナマヨ!?」
あ、今のツナマヨは意味が分かったぞ、「なんで!?」ってことでしょ。
「乙骨くんって棘くんのこと大好きだから……」
「つ、ツナ…」
「あの男にだけは棘くんを渡したくないんだよね」
「め、明太子~!」
何故か感激し出した棘くんはラッピングを剥がす手を止めて私に抱き付いて来た。
その身体を軽く受け止め抱き締めれば、彼も同じように抱き締め返し、嬉しそうにすり寄ってきてくれた。
お風呂上がりなのだろう、良い匂いがする。
身体は少しばかり肌寒さを感じているが、心はぽっかぽかだ。
こう見えてかなりドキドキしているのだが、バレてはいないだろうか?ちゃんと格好良いカノピになれてる?
「棘くんプレゼントありがとう、毎日抱き締めるね」
「おかか!」
「あ、分かった!毎日抱き締めるのは棘くんにするよ、おにぎりは棘くんを抱き締めらんなかった時にぎゅってするね」
「しゃけ!」
ハハッ、何だかやっと彼の言わんとすることが分かって来たぞ。
40億年輪廻に囚われている私でも、ちゃんと成長出来るんだなあ。それが棘くんのことだというのだから、尚更嬉しい。
………私、一体いつの間にこんなに君のことが好きになったんだろう、よく分からないや。
分からないけど、この気持ちもプレゼントも大切にしたいと、祈りに近い思いを抱いた。
「……大事にするね」
墓にまで持っていく…という台詞は飲み込んだ。
こんな話、冗談でも彼の前ではしたくない。
こうして終わりまでのカウントダウンは、誰にも知られることの無いまま、ゆっくり穏やかに進んでいったのだった。
この恋は互いに後悔となるだろう。
でも、私が人になるためには、人として終わるためには、必要なものだったのだろう。
40億年の果て、長い長いこの星と共に歩んだの歴史にすれば瞬きの間の出来事だが、私にとっての初めての青い春はこうして終わりに向かっていく。