番外編
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瞼の裏、瞳の奥がチリチリと焼け焦げる心地がしていた。
熱い、熱い……焼けてしまう、息が上手く出来ない、頭がふわふわして…もう……何も…。
………
……
…
駄目だ、蒸し焼きになっちゃう…。
「は、ハフゥ……も、無理…」
息を切らし、汗を流し、ふらふらしながら木陰を求めて歩くも力尽きた。
バタン、キュゥ……。
残念ながら、蚕ちゃんは休眠モードに入ります。
「入らないでくれ!」
「いいえ、入ります…おやすみ、可愛いミーシャ……」
「まだ訓練をはじめて10分も経っていないだろう!」
私達は現在、グラウンドにて戦闘訓練を行っていた、所謂組み手とか言うやつだ。
季節は夏真っ盛り、真っ青な空には触れたらモフモフしていそうな雲がふんわり浮いていて、サンサンと照らす太陽は容赦無く私の体力をゴリゴリと削ってくれる。
最初の3分で既に体力のほぼ全てを使いきり、ヘロヘロのヘニョヘニョであった私はその後の7分間、ヒィヒィ言いながら自分でもワケの分からない動きを繰り返していた。
ねえ、私もう十分頑張ったわ、許してくれないかしら…だって、本当に身体を動かすことが得意では無いのよ。
もうね、出来る限り動きたく無いと言いますか、ぶっちゃけ補助監さんになりたくて…でも、はてながすんごい強いから術師以外に道は用意されていなくて……ああ、何て悲劇的なのかしら。これもそれも、全ては私の拾った影が強いばっかりに…。
聞いていて?はてな、お前のことを言っているのよ?
はてなは私の不満を秘めた視線にサムズアップをしてくれた。
どうやら、彼はまだまだ私に頑張れと言いたいらしい。
「やだ……もう無理、プールに行きたい、ミーシャ連れてって」
「訓練を頑張れたら考えようか、ほら立って」
「いじわるな子ね、今日はもうミーシャと訓練はしません」
「え、」
プイッとそっぽを向いて、言われた通りに立ち上がり、砂を払ってから離れた場所で訓練をサボタージュしていた他の生徒の元へ向かい声を掛けた。
「はぁい、マリーちゃん」
「その呼び方マジでなんなわけ?」
「白くてふわふわ、蒼い瞳の猫ちゃんよ」
「あっそ~~~すぐるー!!早くこのナマケモノ捕まえろー!」
私がトロくて体力の無い奴だからってナマケモノに例えるのはいかがなものか、見るからに面倒そうな顔をしないでほしい。
でも別に気にしたりなんてしないわ、私は勝手に話を進める。
「ね、マリーちゃんもプール行きたくない?流れるプール…ウォータースライダー…」
「ながれるぷーる……?うぉーたー…は?」
「こう、ね?とっても大きな水の流れる滑り台があるのよ、水と一緒に流れるの。誰かと一緒に流れるのが面白いの、きっと冷たくて楽しいわ」
手や腕を使い一生懸命説明をする。
グルグル回る水の滑り台に、浮き輪に乗ってプカプカ流れるプール。泳いだ後のしょっぱい物はとても美味しく感じる。クタクタになるまで遊べば、きっと体力も付くはず。
毎日飽きもせず、太陽の下で訓練ばかりではあまりに風情が無いでしょう?
私達学生よ、呪いと戦うために生きているのでは無いのよ。
今しか感じられない思いと共に、一瞬一秒を大切にして夏を過ごさないと、あっという間に水の冷たさを恋しいと思える季節が過ぎてしまうわ。
「ね、ミーシャとマリーちゃんと…グラスも呼びましょうね」
「……俺、水着あったっけ」
「プールの売店で買えばいいわ」
「よし、傑を説得するぞ」
ヘトヘトな私のプレゼンを聞き終えたマリーちゃんは、私の腕を掴み立ち上がらせると、そのままミーシャの方へと歩いて行く。
私も遅れないように脚を前に前にと動かすも、途中で早さについて行けずによろけてしまった。
前のめりになる身体を大きな手がグッと支えてくれる。
そのまま、溜め息を吐き出しながらも私を軽々と抱き上げたのはミーシャであった。
「ありがとうミーシャ」と、日差しで熱くなった彼の黒い頭を撫でれば、「汗がつく、汚いよ」と言われたが、そんなことを気にするものかと笑っておく。
「ミーシャが泥んこだらけになったって汚いだなんて言わないわ、君はいつだって可愛いもの」
「………、……悟と何の話を?」
「プールに行くための作戦会議」
私の言葉にミーシャとマリーちゃんが仲良く見つめあった。
「目と目が合う瞬間、恋の花咲くこともある…」と、勝手にドラマチックなナレーションを付けるとマリーちゃんから「マジでやめろ」と真剣に非難されてしまった。
「蚕、水着はあるのかい?」
「中学校の時のがあるわ、まだ着れる」
「……私が選んであげるよ、健全な物を」
「つまりプールに行っていいのね!」
嬉しい!スイスイ泳げるわけでは無いけれど、浮き輪があれば私だって楽しめる。
喜びと感謝を込めてミーシャの首にギュッと腕を回せば、ミーシャは何も言わなかったけれどマリーちゃんが「見てて暑苦しいから離れろ」とまた非難の声を挙げた。
仲間外れにされて悲しかったのかもしれない、拗ねないで、君にも感謝しているのよ。
私はミーシャの腕からピョイッと飛び降り、はてなにキャッチしてもらいながら着地をしてマリーちゃんに腕を伸ばした…が、横から伸びて来たミーシャの手が私の運動服の背中部分をギュッと掴んだせいで抱き締めることは叶わなかった。
「こら、やめなさい」
「…今日は暑いからパス」
それなら仕方無いか、諦めるとしましょう。
「ところで、私も行って構わないのかい?」
私はその質問に思わずキョトンとしてしまう。
数度瞬きを繰り返し、突き抜ける青さを背に私を見下ろし口元だけで微笑む彼に、「当然でしょう」と言い返した。
「君が居ないと、楽しいことも楽しく無くなってしまうわ。来てくれなきゃイヤよ」
「……私も水着買わないと」
やや困った雰囲気を醸し出しながら私の背から手を離したミーシャは、服のシワを直すように二、三度背をなぞると、「でも今日は訓練の日だ」と表情を直してしまった。
私は文句をお腹の奥に仕舞い込んで渋々返事をする。
訓練は嫌いだ、戦うことだって好きでは無い。呪いなんてどうでもいいし、世界がどうなったって気にしないけれど、君がこの夏を大切にしているみたいだから私も大切にしようと思う。
君と居る夏が一番楽しいことを、私は誰より知っている。
君も、夏は特別でしょう?
拝啓夏よ、今年も私達を照らしてくれ。
熱い、熱い……焼けてしまう、息が上手く出来ない、頭がふわふわして…もう……何も…。
………
……
…
駄目だ、蒸し焼きになっちゃう…。
「は、ハフゥ……も、無理…」
息を切らし、汗を流し、ふらふらしながら木陰を求めて歩くも力尽きた。
バタン、キュゥ……。
残念ながら、蚕ちゃんは休眠モードに入ります。
「入らないでくれ!」
「いいえ、入ります…おやすみ、可愛いミーシャ……」
「まだ訓練をはじめて10分も経っていないだろう!」
私達は現在、グラウンドにて戦闘訓練を行っていた、所謂組み手とか言うやつだ。
季節は夏真っ盛り、真っ青な空には触れたらモフモフしていそうな雲がふんわり浮いていて、サンサンと照らす太陽は容赦無く私の体力をゴリゴリと削ってくれる。
最初の3分で既に体力のほぼ全てを使いきり、ヘロヘロのヘニョヘニョであった私はその後の7分間、ヒィヒィ言いながら自分でもワケの分からない動きを繰り返していた。
ねえ、私もう十分頑張ったわ、許してくれないかしら…だって、本当に身体を動かすことが得意では無いのよ。
もうね、出来る限り動きたく無いと言いますか、ぶっちゃけ補助監さんになりたくて…でも、はてながすんごい強いから術師以外に道は用意されていなくて……ああ、何て悲劇的なのかしら。これもそれも、全ては私の拾った影が強いばっかりに…。
聞いていて?はてな、お前のことを言っているのよ?
はてなは私の不満を秘めた視線にサムズアップをしてくれた。
どうやら、彼はまだまだ私に頑張れと言いたいらしい。
「やだ……もう無理、プールに行きたい、ミーシャ連れてって」
「訓練を頑張れたら考えようか、ほら立って」
「いじわるな子ね、今日はもうミーシャと訓練はしません」
「え、」
プイッとそっぽを向いて、言われた通りに立ち上がり、砂を払ってから離れた場所で訓練をサボタージュしていた他の生徒の元へ向かい声を掛けた。
「はぁい、マリーちゃん」
「その呼び方マジでなんなわけ?」
「白くてふわふわ、蒼い瞳の猫ちゃんよ」
「あっそ~~~すぐるー!!早くこのナマケモノ捕まえろー!」
私がトロくて体力の無い奴だからってナマケモノに例えるのはいかがなものか、見るからに面倒そうな顔をしないでほしい。
でも別に気にしたりなんてしないわ、私は勝手に話を進める。
「ね、マリーちゃんもプール行きたくない?流れるプール…ウォータースライダー…」
「ながれるぷーる……?うぉーたー…は?」
「こう、ね?とっても大きな水の流れる滑り台があるのよ、水と一緒に流れるの。誰かと一緒に流れるのが面白いの、きっと冷たくて楽しいわ」
手や腕を使い一生懸命説明をする。
グルグル回る水の滑り台に、浮き輪に乗ってプカプカ流れるプール。泳いだ後のしょっぱい物はとても美味しく感じる。クタクタになるまで遊べば、きっと体力も付くはず。
毎日飽きもせず、太陽の下で訓練ばかりではあまりに風情が無いでしょう?
私達学生よ、呪いと戦うために生きているのでは無いのよ。
今しか感じられない思いと共に、一瞬一秒を大切にして夏を過ごさないと、あっという間に水の冷たさを恋しいと思える季節が過ぎてしまうわ。
「ね、ミーシャとマリーちゃんと…グラスも呼びましょうね」
「……俺、水着あったっけ」
「プールの売店で買えばいいわ」
「よし、傑を説得するぞ」
ヘトヘトな私のプレゼンを聞き終えたマリーちゃんは、私の腕を掴み立ち上がらせると、そのままミーシャの方へと歩いて行く。
私も遅れないように脚を前に前にと動かすも、途中で早さについて行けずによろけてしまった。
前のめりになる身体を大きな手がグッと支えてくれる。
そのまま、溜め息を吐き出しながらも私を軽々と抱き上げたのはミーシャであった。
「ありがとうミーシャ」と、日差しで熱くなった彼の黒い頭を撫でれば、「汗がつく、汚いよ」と言われたが、そんなことを気にするものかと笑っておく。
「ミーシャが泥んこだらけになったって汚いだなんて言わないわ、君はいつだって可愛いもの」
「………、……悟と何の話を?」
「プールに行くための作戦会議」
私の言葉にミーシャとマリーちゃんが仲良く見つめあった。
「目と目が合う瞬間、恋の花咲くこともある…」と、勝手にドラマチックなナレーションを付けるとマリーちゃんから「マジでやめろ」と真剣に非難されてしまった。
「蚕、水着はあるのかい?」
「中学校の時のがあるわ、まだ着れる」
「……私が選んであげるよ、健全な物を」
「つまりプールに行っていいのね!」
嬉しい!スイスイ泳げるわけでは無いけれど、浮き輪があれば私だって楽しめる。
喜びと感謝を込めてミーシャの首にギュッと腕を回せば、ミーシャは何も言わなかったけれどマリーちゃんが「見てて暑苦しいから離れろ」とまた非難の声を挙げた。
仲間外れにされて悲しかったのかもしれない、拗ねないで、君にも感謝しているのよ。
私はミーシャの腕からピョイッと飛び降り、はてなにキャッチしてもらいながら着地をしてマリーちゃんに腕を伸ばした…が、横から伸びて来たミーシャの手が私の運動服の背中部分をギュッと掴んだせいで抱き締めることは叶わなかった。
「こら、やめなさい」
「…今日は暑いからパス」
それなら仕方無いか、諦めるとしましょう。
「ところで、私も行って構わないのかい?」
私はその質問に思わずキョトンとしてしまう。
数度瞬きを繰り返し、突き抜ける青さを背に私を見下ろし口元だけで微笑む彼に、「当然でしょう」と言い返した。
「君が居ないと、楽しいことも楽しく無くなってしまうわ。来てくれなきゃイヤよ」
「……私も水着買わないと」
やや困った雰囲気を醸し出しながら私の背から手を離したミーシャは、服のシワを直すように二、三度背をなぞると、「でも今日は訓練の日だ」と表情を直してしまった。
私は文句をお腹の奥に仕舞い込んで渋々返事をする。
訓練は嫌いだ、戦うことだって好きでは無い。呪いなんてどうでもいいし、世界がどうなったって気にしないけれど、君がこの夏を大切にしているみたいだから私も大切にしようと思う。
君と居る夏が一番楽しいことを、私は誰より知っている。
君も、夏は特別でしょう?
拝啓夏よ、今年も私達を照らしてくれ。
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