番外編
やあ、よいこのみんな元気かな?
ハイパーギガント天才博士の呪術生命研究所、所長だよ!
今日は4月1日、エイプリルフール。
エイプリルフールといえば、そう!楽しい嘘ならついても良いよっていう風習の日だ。
ってことでね、私もエイプリルフールにかこつけて嘘を仕掛けてやろうと思うわけですよ。
ターゲットは甚壱お兄ちゃん。
たまたま所要で京都に居るので、大好きなお兄ちゃんに可愛い妹から可愛い嘘をついてやろうってなわけである。
じゃ、早速だけど嘘ついてきま〜す!
___
「お兄ちゃんのこと、もう好きじゃなくなったから」
突然屋敷にやって来て、自分の元に直行して来たかと思えばそんなことを言う妹に、甚壱は年度の初めから大変微妙な気持ちになった。
あの価値観が前時代過ぎる禪院家で育ち、今も暮らす甚壱とて今日が何の日かくらいは知っている。
毎年4月1日は嘘をついても良いとされる風習があり、日本語に直訳すれば「四月馬鹿」とも表現される行事に乗っかってのことだろう。
しかし、もう好きでは無いと言う妹は、ガッツリしっかり、これでもかと甚壱にしがみついていたので、甚壱は言動くらいは一致させろと思った。
「お兄ちゃんのことなんて、好きじゃないんだからね!」
ムギュッムギュッ。
そこそこ大きな声であからさまな嘘を言いながら、ゼロに等しい距離をさらに何とかして縮めようとしてくる妹の頭を落ち着かせるために一先ず撫でる。
甚壱は賢い兄であった。
もう一人の兄、彼からすれば弟である男と違って、本当にずっと気狂いな妹の面倒を、頼まれたとは言え見て来たし、泣いたり喚いたり苦しんだりする姿を長年支えてやって来た。
ある時は癇癪を起こす妹に腕を歯型塗れにされ、またある時は同じ布団で寝てやり、さらにある時は口から血をゴポゴポ流す妹を抱えて治療のために全力で屋敷を駆けた。
なので、今やっとこそれなりに落ち着いて、体調も安定している妹のことを、家族と言うよりは世話係りとして良かったと安堵しているし、これからも見守るつもりである。
それはつまり、親離れさせるような気持ちであったのだ。
妹は自分の手から離れ、一人でやっていく。
もう風呂も着替えも食事も手伝わず、今まで手を焼いてきたことを一人でやらせる。
自分は妹の姿を遠くから見守り、互いに別々の道を歩んでいく。
正に理想的な別離であると甚壱は勝手に思っていたが、思っていただけで実際の現実はコレである。
妹は離れるどころか前よりもくっついてくるし、何なら今はよじ登り始めた。
うんしょうんしょと甚壱の背中によじ登りながら「好きじゃないよ、でもやっぱちょっとは好きかも!」と耳元で言われれば、理想とした別離は本当にただの理想だったのだと思い知らされる。
安定性を確立し始めた妹は、前よりも色々な意味で元気になってしまった。
「耳元で話すな」
「じゃあナイショ話ね、お兄ちゃん今日はエイプリルフールなのだよ…」
ポショポショと鼓膜を擽るように微かな声で話される。
落ちないようにと背中にひっつく妹に腕を回してやる甚壱は、傍から見れば妹思いの良い兄であった。
しかし、本人の気持ちとしては、落ちて割れただの痛いだの何だの騒がれる方が遥かに面倒なので、それを避けているだけに過ぎなかった。
「つまりね……」
そんな甚壱の腕の中からピョンっと飛び降りた妹は、クルリと軽い足取りで甚壱の前に回ると、ニンマリと得意気な顔で言う。
「嘘でーす!お兄ちゃん大好き!!」
両手を広げ、今度は正面から甚壱は抱きつかれる。
ボフッと勢い良く飛び込んで来た妹を難なく抱き留めれば、一つ気付いたことがあった。
「少し軽くなったか」
「え、良く気づいたね!?」
「また何処か欠けたのか」
長年妹の世話をしてきた兄だからこそ分かる、少しばかりの違和感。
軽くなった体重と、身体の一部を庇うような動き。
それを指摘すれば、妹はペラペラと解説し出すものだから、甚壱はまたもや微妙な気持ちになる。
「んーん、違うの、ちょっと一部の骨格を強化と軽量化のために炭素繊維強化樹脂にしてみてるの。えっと確か5日くらい前に……」
また自分の身体で人体実験をしているのか。
甚壱は少し頭が痛くなった気がした。
散々自己改造をして、その度に倒れて一人じゃ何も出来なくなって自分に迷惑を掛けてきたというのに、本当に懲り無い奴だ。
しかも恐らく、体重の変動について、他の誰も気付かなかったのだろう。
妹の両脇に手を入れ持ち上げる。やはりどうにも前より軽い気がした。
「倒れるようなことはするな」
「しないよ、天才だもん」
手を伸ばされ、そのまま何故か抱っこの形になる。
まるでコアラのように再びしがみつかれながら、甚壱は思った。
やはり、自分が定期的に確認しておかないと大変な事態に成りかねないと。
手遅れになる事態になったら、責任転換の矛先は自分に向かう。
どうやらまだ手を離すには早すぎたらしい。
太い首に腕を回され、ご機嫌な様子で「お兄ちゃんも嘘ついて良いよ!」と言ってくる妹に、甚壱は何も言わなかった。
「ほら、なんか嘘ついて!今日だけは私も寛大な心で許すよ!」
「暴れると落とすぞ」
「嘘!お兄ちゃんは可愛い妹を落としたりなんてしない!」
謎の自信に満ちている妹は、そう言って甚壱にベッタリと張り付いた。
恐らく、甚壱が手を離しても落ちないだろう。
そして同じく、距離を置くため手を離そうと、離れた分だけ向こうからひっついてくるのだろう。
だが、当分はそれでもいいと受け入れられるくらいには、甚壱は妹のことをそれなりに大事に思っていた。
彼等はそこそこ、仲の良い兄妹である。
ハイパーギガント天才博士の呪術生命研究所、所長だよ!
今日は4月1日、エイプリルフール。
エイプリルフールといえば、そう!楽しい嘘ならついても良いよっていう風習の日だ。
ってことでね、私もエイプリルフールにかこつけて嘘を仕掛けてやろうと思うわけですよ。
ターゲットは甚壱お兄ちゃん。
たまたま所要で京都に居るので、大好きなお兄ちゃんに可愛い妹から可愛い嘘をついてやろうってなわけである。
じゃ、早速だけど嘘ついてきま〜す!
___
「お兄ちゃんのこと、もう好きじゃなくなったから」
突然屋敷にやって来て、自分の元に直行して来たかと思えばそんなことを言う妹に、甚壱は年度の初めから大変微妙な気持ちになった。
あの価値観が前時代過ぎる禪院家で育ち、今も暮らす甚壱とて今日が何の日かくらいは知っている。
毎年4月1日は嘘をついても良いとされる風習があり、日本語に直訳すれば「四月馬鹿」とも表現される行事に乗っかってのことだろう。
しかし、もう好きでは無いと言う妹は、ガッツリしっかり、これでもかと甚壱にしがみついていたので、甚壱は言動くらいは一致させろと思った。
「お兄ちゃんのことなんて、好きじゃないんだからね!」
ムギュッムギュッ。
そこそこ大きな声であからさまな嘘を言いながら、ゼロに等しい距離をさらに何とかして縮めようとしてくる妹の頭を落ち着かせるために一先ず撫でる。
甚壱は賢い兄であった。
もう一人の兄、彼からすれば弟である男と違って、本当にずっと気狂いな妹の面倒を、頼まれたとは言え見て来たし、泣いたり喚いたり苦しんだりする姿を長年支えてやって来た。
ある時は癇癪を起こす妹に腕を歯型塗れにされ、またある時は同じ布団で寝てやり、さらにある時は口から血をゴポゴポ流す妹を抱えて治療のために全力で屋敷を駆けた。
なので、今やっとこそれなりに落ち着いて、体調も安定している妹のことを、家族と言うよりは世話係りとして良かったと安堵しているし、これからも見守るつもりである。
それはつまり、親離れさせるような気持ちであったのだ。
妹は自分の手から離れ、一人でやっていく。
もう風呂も着替えも食事も手伝わず、今まで手を焼いてきたことを一人でやらせる。
自分は妹の姿を遠くから見守り、互いに別々の道を歩んでいく。
正に理想的な別離であると甚壱は勝手に思っていたが、思っていただけで実際の現実はコレである。
妹は離れるどころか前よりもくっついてくるし、何なら今はよじ登り始めた。
うんしょうんしょと甚壱の背中によじ登りながら「好きじゃないよ、でもやっぱちょっとは好きかも!」と耳元で言われれば、理想とした別離は本当にただの理想だったのだと思い知らされる。
安定性を確立し始めた妹は、前よりも色々な意味で元気になってしまった。
「耳元で話すな」
「じゃあナイショ話ね、お兄ちゃん今日はエイプリルフールなのだよ…」
ポショポショと鼓膜を擽るように微かな声で話される。
落ちないようにと背中にひっつく妹に腕を回してやる甚壱は、傍から見れば妹思いの良い兄であった。
しかし、本人の気持ちとしては、落ちて割れただの痛いだの何だの騒がれる方が遥かに面倒なので、それを避けているだけに過ぎなかった。
「つまりね……」
そんな甚壱の腕の中からピョンっと飛び降りた妹は、クルリと軽い足取りで甚壱の前に回ると、ニンマリと得意気な顔で言う。
「嘘でーす!お兄ちゃん大好き!!」
両手を広げ、今度は正面から甚壱は抱きつかれる。
ボフッと勢い良く飛び込んで来た妹を難なく抱き留めれば、一つ気付いたことがあった。
「少し軽くなったか」
「え、良く気づいたね!?」
「また何処か欠けたのか」
長年妹の世話をしてきた兄だからこそ分かる、少しばかりの違和感。
軽くなった体重と、身体の一部を庇うような動き。
それを指摘すれば、妹はペラペラと解説し出すものだから、甚壱はまたもや微妙な気持ちになる。
「んーん、違うの、ちょっと一部の骨格を強化と軽量化のために炭素繊維強化樹脂にしてみてるの。えっと確か5日くらい前に……」
また自分の身体で人体実験をしているのか。
甚壱は少し頭が痛くなった気がした。
散々自己改造をして、その度に倒れて一人じゃ何も出来なくなって自分に迷惑を掛けてきたというのに、本当に懲り無い奴だ。
しかも恐らく、体重の変動について、他の誰も気付かなかったのだろう。
妹の両脇に手を入れ持ち上げる。やはりどうにも前より軽い気がした。
「倒れるようなことはするな」
「しないよ、天才だもん」
手を伸ばされ、そのまま何故か抱っこの形になる。
まるでコアラのように再びしがみつかれながら、甚壱は思った。
やはり、自分が定期的に確認しておかないと大変な事態に成りかねないと。
手遅れになる事態になったら、責任転換の矛先は自分に向かう。
どうやらまだ手を離すには早すぎたらしい。
太い首に腕を回され、ご機嫌な様子で「お兄ちゃんも嘘ついて良いよ!」と言ってくる妹に、甚壱は何も言わなかった。
「ほら、なんか嘘ついて!今日だけは私も寛大な心で許すよ!」
「暴れると落とすぞ」
「嘘!お兄ちゃんは可愛い妹を落としたりなんてしない!」
謎の自信に満ちている妹は、そう言って甚壱にベッタリと張り付いた。
恐らく、甚壱が手を離しても落ちないだろう。
そして同じく、距離を置くため手を離そうと、離れた分だけ向こうからひっついてくるのだろう。
だが、当分はそれでもいいと受け入れられるくらいには、甚壱は妹のことをそれなりに大事に思っていた。
彼等はそこそこ、仲の良い兄妹である。