二.五グラムの約束
初めて会った扇さんとこの従妹ちゃんズに、本当は研究意欲が刺激された。
双子、呪術界では忌まれる産まれ。
私とは別の意味で誕生を祝福されない子供達。
呪術界における双子のメカニズムにはとても興味があった。
けれど、中々研究対象に出来そうな人物が側に居ないせいで研究に着手出来なかった。
今回もまあ、警戒されてしまったし…次回からはもっと色んな物で釣ってみようかな。ケーキ、お菓子、お出掛け…色々やってみて、まずは日常的な部分からデータを取って分析していきたい。
是非、いや、なんとしても…調べてみたい、実に興味の惹かれる事柄だ。
未知への探究心に心を踊らせながら実家の廊下を歩いていれば、後ろから厭味ったらしい声が掛かる。
「なんや、帰って来とったのか」
ゲ、この声は直哉くん…。
ゆっくりと振り返れば案の定、嫌味な笑みを浮かべる従弟が居てテンションが一気に下がった。
そういえばさっき、直哉くんのお気に入りとか言われたけど、あれって悪口だよね?
てか、別に気に入られて無いよね?シンプルに嫌なんだけど、直哉くんに気に入られるの。
でも実際どうなのかちょっと気になってきたな…時間もあることだし、聞いてみちゃおっかな。
「直哉くん、直哉くん」
「なんや」
スススッと近寄って、声を潜めて尋ねる。
「私のこと、どれくらい好き?」
「……は?何言うてんねん、唯一の誇りであるそのおつむまであかんくなったん?もう終わりやん、はよ死ねやカス」
「照れるなって」
「照れてへんわ、イカレカス女。いきなり何なんや、おつむあかんくなったらほんまに胸以外に何の取り柄もあらへんやん、どないすんの?いつ死ぬん?」
めちゃめちゃ早口で罵声してくるじゃん、私のこと大好きかよ。
んふふ、直哉くんは今日もちゃんと嫌味可愛いね、全然嬉しく無いけど。これっぽっちも嬉しくないけど。
へそを曲げてしまったらしい直哉くんはプンプンとしながら、しかし何処かに行くことをせずに、グチグチ言いながらも側に居た。
機嫌の悪い猫の相手をしているような気分だ…いや、これだと猫に失礼だな、訂正します。
果てしなく面倒臭い彼女の相手をしている気分だ、彼女じゃないけど。
立ち話も何だからと縁側に座れば、直哉くんもやはり一緒に座ってくれる。
君、本当に私のこと好きじゃん、え〜?デレ期なの?可愛いね、直哉…。
「今日の直哉くん何かいつもより可愛くない?どうしたの?メイク変えた?前髪切った?」
「はあ?」
訝しげにこちらを睨む直哉くんを観察していれば、気付いたことがあった。
ははあ、なるほどねぇ。
だからか、だからこんなに今日の君は素敵に見えたのか。
そりゃまあ、これが付いてるなら仕方無い。
スッと指先を彼の耳元に近付け、ふにりと触れた。
ツルリとした黒く光沢のある石は、ブラックオパールのように淡く虹色の輝きを放っている。
「前の私じゃん、これ」
ツンッとつっつきながら、笑ってやる。
そうすれば彼は面白いくらい身体を勢いよく私から離し、顔をクシャリと歪めた。
随分と懐かしい物を身に着けているのだな。
言ってくれれば、あんな駄作極まりない肉体の欠片なんかより余程美しい宝石の一つや二つ用意してあげたのに。
私にとってはゴミみたいな物を耳に付けておくなんて、変わった趣味をしてるなあ。
離れた分だけ距離を詰め、ジッと直哉くんの耳に我が物顔でひっつく昔の自分の一部を見つめてみる。
大した価値が無い物でも、それなりな加工をすれば見れなくもない物だな。
でも、直哉くんにはもっと質の良い石の方が良いんじゃないか?
「もっと良い物用意出来るよ?」
「別に、いらへんわ」
ふいっと顔を背けたと思ったら、立ち上がって何処かへ行こうとする直哉くんの手を思わず掴む。
しかし、すぐに振り解かれて、睨むように見下された。
黒い瞳の奥に渦巻くのは嫉妬や怒り、嘆きや混乱。数多の想いに満ちたその目が私に色々な思いと願いを訴える。
あ、これは良くない。
このままふざけてしまったら、多分、直哉くんに嫌われる。
過ぎった予測に頭が冷静になる。
咄嗟に立ち上がり、彼が口を開くより先にもう一度手を掴んだ。
「あの時は、ちゃんと帰って来れなくてごめんね」
私達以外には誰も居ない縁側は、何だか少し寂しげで、しかし当たる日差しは温かく、掴んだ直哉くんの手は私の熱の無い人工的な手よりもずっと正しい温かさがあった。
私にとって死とは、終わりではなく過程に過ぎないものだった。
この身体が朽ちたとしても次がある。
この意思が終わったとしても別のプログラムを用意してある。
「テセウスの船」という思考検証がある。
テセウスの乗っている船が、船を構成するパーツを全て別の物に置き換えられた時に、元の船と全てのパーツが置き換わった船は「同じ船」だと言えるのか否か、という同一性の問題だ。
全てが変わった物を、それでもまだテセウスの船と呼べるか否か。
全てが変わった私を、それでもまだ私と呼べるかどうか。
私の答えは実に明解であった。
私は私だ。
何度死のうと朽ちようと、摩耗しようと消耗しようと、それは"外側"の話に過ぎない。
大切なのは中身の連続性。
船も私も大切なのは中身だ、中身が何を考えどう動くかで外は変わる。
自分自身が自分の所有者であると主張すれば、それは私なのだ。
どんな状態になろうとも。
だから、私は直哉くん含め、周りの人が何故私が一度死んだくらいで悲しむのか理解出来ない。
だが、きっと彼等にとってはショックの大きい事だったのだろう。
死の痛みは分からないが、確かに私も大切な人や物が、自分に断りの一つも無くある日突然消えてしまったら悲しいかもしれない。
それに、直哉くんには「ちゃんと帰ってくる」と約束をしていた。
約束を守らなかったのは、単純に悪かったと思っている。
数秒、いや数分かもしれない。
体感的に長い沈黙を挟んだ後、直哉くんは「ッチ」と、一つ舌打ちをした。
「俺くらいやったで、お前の残骸に手ぇ合わしたの」
「…え?他のひとは?」
「安心しとったで、甚壱くんなんて顔色一つ変えてへんかったわ」
「もしかして私、嫌われてる?」
「今更やろ」
今更、とは…???
というか今、亡骸じゃなくて残骸って言った?一応あれでも元は私だったんですが、それを君、ゴミみたいな言い方…。
え?それより待って、私嫌われてるの?可愛くて、知的で、素敵で、完璧な身体を持つ私が?ついでに超ラブリーなお兄ちゃん×2までいる私が嫌われる理由、どこにも無いでしょ。
いや、流石に今のは直哉くんの嘘だよね。
審議を問い質すために詰め寄れば、「ほんまやで、皆揃って胸撫で下ろしとったで」と徐々にニヤニヤしながら言い始めたので、私は目尻を吊り上げる。
「嘘つかないで!私、禪院の人達のために色々やってきたもん!」
「まあ確かに色々やっとったな、色々、迷惑を」
迷惑!?誰が誰に!?私が禪院の人間に!?
いやまあ、確かに進化と実験のために数多の尊い犠牲はあったかもだけど、基本的に皆五体満足で解放しているし…私のこと襲ってきた奴等だけだよ、やり返してるの、本当に。
それに、全ては私というパーフェクト生命体が禪院の名を背負って、未来永劫進み続けるためなのだから…むしろ禪院は積極的に私のために身を差し出すべきでは?
ほら、私が生きてれば禪院は終わらないわけだし。
これ名案では?よし、そうと決まれば当主さまに進言しちゃお。
「直哉くんのパパにその身体くれって言ってくる!」
「待てや!やっぱお前死んどった方が世のために良かったんちゃうか!?」
「残念、死にませーん!長生きしまくるもん!」
直哉くんの手をバッと離して進路変更、しかし、思い立ったが吉日で走り出した私の前に素早く回り込んだ直哉くんは「これ以上妙なことすな!」と言う。
だが、そんなことじゃ私の情熱は止められやしないのだ!
爪先から腰まで、一気に呪力を回す。そうして一気に踏み出して直哉くんに素早く体当たりをしながら廊下に押し倒してみせた。
肩を両手で掴み、腹の上に乗って拘束する。
さっきから、はよ死ねはよ死ね言いやがってこの坊っちゃんはよお!そんなに極楽に興味があるなら私が見せてやるよ!
突撃!隣の極楽〜めくるめく快楽編〜
「まずは君の身体から貰ってやるよ!」
「甚壱くん妹の飼育ちゃんとしてや!!」
「オスをメスにする実験の始まりだよ!!!」
ということで、今後の禪院家での実験目標は躯倶留隊のみんなを女の子にしてギャルゲ化することに決定です。
大丈夫、責任は取るから。
皆まとめて大事に可愛がってあげるから。
そしたらほら、直哉くんはメインヒロインだよ。
良かったね!
双子、呪術界では忌まれる産まれ。
私とは別の意味で誕生を祝福されない子供達。
呪術界における双子のメカニズムにはとても興味があった。
けれど、中々研究対象に出来そうな人物が側に居ないせいで研究に着手出来なかった。
今回もまあ、警戒されてしまったし…次回からはもっと色んな物で釣ってみようかな。ケーキ、お菓子、お出掛け…色々やってみて、まずは日常的な部分からデータを取って分析していきたい。
是非、いや、なんとしても…調べてみたい、実に興味の惹かれる事柄だ。
未知への探究心に心を踊らせながら実家の廊下を歩いていれば、後ろから厭味ったらしい声が掛かる。
「なんや、帰って来とったのか」
ゲ、この声は直哉くん…。
ゆっくりと振り返れば案の定、嫌味な笑みを浮かべる従弟が居てテンションが一気に下がった。
そういえばさっき、直哉くんのお気に入りとか言われたけど、あれって悪口だよね?
てか、別に気に入られて無いよね?シンプルに嫌なんだけど、直哉くんに気に入られるの。
でも実際どうなのかちょっと気になってきたな…時間もあることだし、聞いてみちゃおっかな。
「直哉くん、直哉くん」
「なんや」
スススッと近寄って、声を潜めて尋ねる。
「私のこと、どれくらい好き?」
「……は?何言うてんねん、唯一の誇りであるそのおつむまであかんくなったん?もう終わりやん、はよ死ねやカス」
「照れるなって」
「照れてへんわ、イカレカス女。いきなり何なんや、おつむあかんくなったらほんまに胸以外に何の取り柄もあらへんやん、どないすんの?いつ死ぬん?」
めちゃめちゃ早口で罵声してくるじゃん、私のこと大好きかよ。
んふふ、直哉くんは今日もちゃんと嫌味可愛いね、全然嬉しく無いけど。これっぽっちも嬉しくないけど。
へそを曲げてしまったらしい直哉くんはプンプンとしながら、しかし何処かに行くことをせずに、グチグチ言いながらも側に居た。
機嫌の悪い猫の相手をしているような気分だ…いや、これだと猫に失礼だな、訂正します。
果てしなく面倒臭い彼女の相手をしている気分だ、彼女じゃないけど。
立ち話も何だからと縁側に座れば、直哉くんもやはり一緒に座ってくれる。
君、本当に私のこと好きじゃん、え〜?デレ期なの?可愛いね、直哉…。
「今日の直哉くん何かいつもより可愛くない?どうしたの?メイク変えた?前髪切った?」
「はあ?」
訝しげにこちらを睨む直哉くんを観察していれば、気付いたことがあった。
ははあ、なるほどねぇ。
だからか、だからこんなに今日の君は素敵に見えたのか。
そりゃまあ、これが付いてるなら仕方無い。
スッと指先を彼の耳元に近付け、ふにりと触れた。
ツルリとした黒く光沢のある石は、ブラックオパールのように淡く虹色の輝きを放っている。
「前の私じゃん、これ」
ツンッとつっつきながら、笑ってやる。
そうすれば彼は面白いくらい身体を勢いよく私から離し、顔をクシャリと歪めた。
随分と懐かしい物を身に着けているのだな。
言ってくれれば、あんな駄作極まりない肉体の欠片なんかより余程美しい宝石の一つや二つ用意してあげたのに。
私にとってはゴミみたいな物を耳に付けておくなんて、変わった趣味をしてるなあ。
離れた分だけ距離を詰め、ジッと直哉くんの耳に我が物顔でひっつく昔の自分の一部を見つめてみる。
大した価値が無い物でも、それなりな加工をすれば見れなくもない物だな。
でも、直哉くんにはもっと質の良い石の方が良いんじゃないか?
「もっと良い物用意出来るよ?」
「別に、いらへんわ」
ふいっと顔を背けたと思ったら、立ち上がって何処かへ行こうとする直哉くんの手を思わず掴む。
しかし、すぐに振り解かれて、睨むように見下された。
黒い瞳の奥に渦巻くのは嫉妬や怒り、嘆きや混乱。数多の想いに満ちたその目が私に色々な思いと願いを訴える。
あ、これは良くない。
このままふざけてしまったら、多分、直哉くんに嫌われる。
過ぎった予測に頭が冷静になる。
咄嗟に立ち上がり、彼が口を開くより先にもう一度手を掴んだ。
「あの時は、ちゃんと帰って来れなくてごめんね」
私達以外には誰も居ない縁側は、何だか少し寂しげで、しかし当たる日差しは温かく、掴んだ直哉くんの手は私の熱の無い人工的な手よりもずっと正しい温かさがあった。
私にとって死とは、終わりではなく過程に過ぎないものだった。
この身体が朽ちたとしても次がある。
この意思が終わったとしても別のプログラムを用意してある。
「テセウスの船」という思考検証がある。
テセウスの乗っている船が、船を構成するパーツを全て別の物に置き換えられた時に、元の船と全てのパーツが置き換わった船は「同じ船」だと言えるのか否か、という同一性の問題だ。
全てが変わった物を、それでもまだテセウスの船と呼べるか否か。
全てが変わった私を、それでもまだ私と呼べるかどうか。
私の答えは実に明解であった。
私は私だ。
何度死のうと朽ちようと、摩耗しようと消耗しようと、それは"外側"の話に過ぎない。
大切なのは中身の連続性。
船も私も大切なのは中身だ、中身が何を考えどう動くかで外は変わる。
自分自身が自分の所有者であると主張すれば、それは私なのだ。
どんな状態になろうとも。
だから、私は直哉くん含め、周りの人が何故私が一度死んだくらいで悲しむのか理解出来ない。
だが、きっと彼等にとってはショックの大きい事だったのだろう。
死の痛みは分からないが、確かに私も大切な人や物が、自分に断りの一つも無くある日突然消えてしまったら悲しいかもしれない。
それに、直哉くんには「ちゃんと帰ってくる」と約束をしていた。
約束を守らなかったのは、単純に悪かったと思っている。
数秒、いや数分かもしれない。
体感的に長い沈黙を挟んだ後、直哉くんは「ッチ」と、一つ舌打ちをした。
「俺くらいやったで、お前の残骸に手ぇ合わしたの」
「…え?他のひとは?」
「安心しとったで、甚壱くんなんて顔色一つ変えてへんかったわ」
「もしかして私、嫌われてる?」
「今更やろ」
今更、とは…???
というか今、亡骸じゃなくて残骸って言った?一応あれでも元は私だったんですが、それを君、ゴミみたいな言い方…。
え?それより待って、私嫌われてるの?可愛くて、知的で、素敵で、完璧な身体を持つ私が?ついでに超ラブリーなお兄ちゃん×2までいる私が嫌われる理由、どこにも無いでしょ。
いや、流石に今のは直哉くんの嘘だよね。
審議を問い質すために詰め寄れば、「ほんまやで、皆揃って胸撫で下ろしとったで」と徐々にニヤニヤしながら言い始めたので、私は目尻を吊り上げる。
「嘘つかないで!私、禪院の人達のために色々やってきたもん!」
「まあ確かに色々やっとったな、色々、迷惑を」
迷惑!?誰が誰に!?私が禪院の人間に!?
いやまあ、確かに進化と実験のために数多の尊い犠牲はあったかもだけど、基本的に皆五体満足で解放しているし…私のこと襲ってきた奴等だけだよ、やり返してるの、本当に。
それに、全ては私というパーフェクト生命体が禪院の名を背負って、未来永劫進み続けるためなのだから…むしろ禪院は積極的に私のために身を差し出すべきでは?
ほら、私が生きてれば禪院は終わらないわけだし。
これ名案では?よし、そうと決まれば当主さまに進言しちゃお。
「直哉くんのパパにその身体くれって言ってくる!」
「待てや!やっぱお前死んどった方が世のために良かったんちゃうか!?」
「残念、死にませーん!長生きしまくるもん!」
直哉くんの手をバッと離して進路変更、しかし、思い立ったが吉日で走り出した私の前に素早く回り込んだ直哉くんは「これ以上妙なことすな!」と言う。
だが、そんなことじゃ私の情熱は止められやしないのだ!
爪先から腰まで、一気に呪力を回す。そうして一気に踏み出して直哉くんに素早く体当たりをしながら廊下に押し倒してみせた。
肩を両手で掴み、腹の上に乗って拘束する。
さっきから、はよ死ねはよ死ね言いやがってこの坊っちゃんはよお!そんなに極楽に興味があるなら私が見せてやるよ!
突撃!隣の極楽〜めくるめく快楽編〜
「まずは君の身体から貰ってやるよ!」
「甚壱くん妹の飼育ちゃんとしてや!!」
「オスをメスにする実験の始まりだよ!!!」
ということで、今後の禪院家での実験目標は躯倶留隊のみんなを女の子にしてギャルゲ化することに決定です。
大丈夫、責任は取るから。
皆まとめて大事に可愛がってあげるから。
そしたらほら、直哉くんはメインヒロインだよ。
良かったね!