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二.五グラムの約束

晴天の下、集まった人々の前でマイクを握り、いかにも適当に持ってきましたと言わんばかりの安っぽい壇上に立って、意気揚々と口を開いた。

「えー…お集まりの皆様おはようございます、本日はお集まり頂きましたこと、心より…」

云々カンヌン……カンペを見ながら事前に考えていた挨拶を読み上げていれば、横にやって来た五条くんが、何の断りも無く私が持っていたマイクをいきなりふんだくった。

「マイク返して!」
「はいはい、そういうのいいから早く紹介して、お前と違って僕達忙しいの」

私だって忙しいですけど!?
は?なにその、自分はめちゃめちゃ仕事忙しいのにわざわざ来てやったアピール、ふざけるな、もっと私のこと大切にしろ。大切にしてくれないと執着と粘着を繰り返し発狂するぞ、私には前例があるんだから発言には気をつけろよな…。

だがまあ、確かにつまらん挨拶をしても時間効率が悪いのは理解出来る。
ということで、私は早々に「まあいっか」という気持ちになり、両手を広げて自分の後ろに建つ施設に注目を集めるようにした。

「ババーン!!みて!出来ました、研究所!!」

おおー!!
パチパチ、パチパチ。

感嘆の声と、私を讃える拍手が響く。
ふふん、もっと拍手しろ、もっと凄いって言え。
えっへんと胸を張って、自慢気な顔で説明をしようと口を開いた所で、未だに隣に居た五条くんがマイクで勝手に説明を始めた。

「はーい、こちら呪術生命研究所、略して呪生研(ジュセイケン)ね、こちら約7割は僕が出資してまーす、はい拍手!」
「略すな!あとお金の話はあとにしてよお!」
「じゃれるなじゃれるな」

マイクを奪い返すために飛び掛かるも、ワシャワシャと好き勝手撫で回された挙げ句に、足払いをされて地面にペイっと捨てられた。
ズベっと地面に転がった私は、白衣を土で汚しながらも諦めずに五条くんの腹目掛けて突撃をする。

この野郎!私が説明したかったのに!
あとダサい略し方するな、英語名から省略したMLI(エムエルアイ)にするって前に言ったじゃん!!
でも7割出資してくれてる友人に強くは言えないので、しがみついてとにかくマイクを奪い返すために手を伸ばし続けた。

クソッ、無駄に高い身長しやがって、その身長半分くらい私に寄越せよ!上から見下ろすな綿埃頭!!

「えー、所長は一応この…コレでーす!」
「コレって言うな!ちゃんと説明して!」
「この小さくて喧しい天才バカでーす、みんな仲良くしてあげてね〜」
「きみ……絶対許さんからな…」

もう、キレちまったよ…絶対許さんからな…首を綺麗に洗って待ってろよ…。
今は無理でも君が耄碌した爺さんになったら、その身体を滅茶苦茶にしてやるからな…六眼抉り出して実験に使ってやる、何なら五条悟2号を作って私の性奴隷にしてやる…いや、性欲無いから意味無いんだけど…。

ゼェゼェ、ハァハァと息を乱し、グチャグチャにされた髪を手櫛で直しながら、悔し紛れに五条くんの足を踏みつけた。

ギュムリッ!ギュムギュムッ!
クソ!無限が邪魔して何もできん!畜生、あとで五条くん以外の仲良しメンバー誘って遊びに行ってやる!もう君なんて知らない、フンッだ!

「もういい!とにかく、研究所出来たから、研究員募集中です、以上!」
「あと研究費も無いから、誰か助けてあげて〜!」
「研究費は大体何処の研究施設も無いから!」

本当にそれは私のとこだけじゃ無いから、助成金とか補助金とかでみんな頑張ってるから…いやあ、研究職って辛いね…。

無事…無事?うん、まあ、想定内に収まったお披露目会は終了し、仕事がある者は仕事に戻り、そうでない者はその場に残り雑談を続けていた。

今更になって五条くんにマイクを返された私は、彼をキッと睨み付け文句を言ってやろうと口を開いた。
しかし、それより先に五条くんが「あのさ」と話はじめてしまう。

「今更だけど、ありがとね」

照れ臭そうに、言いづらそうに、いきなり礼を言う五条くんは正直に言って…気持ち悪かった。

はじめて知ったんだけど、普段ふざけてる相手がいきなり真面目にお礼とか言い出すと、感動より先に心配の方が勝るんだね…。
大丈夫?頭打った?いや、さっき私が頭突きしまくったせいか?

恥ずかしそうに唇をとんがらせて、明後日の方向を向きながら礼を言う姿に、思わず困惑を表情に浮かべてしまう。

いや、私達は友達で、今まで散々色んな場面を経験してきた仲なので、彼が何に対して礼を言っているのかは分かる。十中八九、彼の親友のことについてだろう。
でも別に、それについては五条くんに治療費と研究費の半額を負担して貰うってことで話は着いているし、そもそも私が君の味方で居ると勝手に自分で決めているだけだから、お礼なんて必要無いわけで…。
ま、まあ…クッソ忙しい時に限界人間なんとかしとけって押し付けられたのは、そりゃあちょっと…て思ったけど、本当に無理で嫌だったらやらないし…。

ていうか、別に改めて言われなくたって感謝されていることなど十分伝わっているよ。
恥ずかしがるくらいなら言うなよ、ちょっとキモイぞ。

「別に、全部私が好きでやってるだけだし…」
「え?誰を?傑を?無理なんだけど、結婚しないで」
「違うよ!気持ち悪い勘違いしないで!」
「お前は一生処女で居て〜!」

うるせ〜〜〜!!
デカい声で処女とか言うな!!!

ガバチョッ。

上から伸し掛かるように抱き着かれ、グエッと潰れた声が出る。
抵抗するように身体を捩って腕をバタバタさせるも、「一生独身!一生処女!一生僕だけが友達!」とギュウギュウ抱き込まれる。
藻掻けば藻掻くほど抱き締められ、あまりの苦しさに「割れちゃうよ〜!!」と助けを求めて側で組手をし始めていたお兄ちゃんと恵くんに手を伸ばすも、一瞬目は合ったが無言で逸らされた。
そんな所で似るな!家族の危機だぞ、助けろよ!

え〜ん!腰の辺りがマジでミシミシいってる!
なんで割られそうになってるの!?私なんか悪いことした!?
見に覚えがあり過ぎて何から謝ったらいいか分かんないよー!!

「何でもするからゆるしてー!」
「ん?今、何でもするって言ったよね?」

確認するようにそう言って五条くんはいきなり身体をパッと離した。
数歩、後ろへ下がるようにして五条くんから距離を取り、やってしまったなと後悔するも時既に遅し。

五条くんは口元をニッコリとさせると、グッと親指を立てて言った。

「傑のこと、よろしく」
「は………ぇ……」
「アイツの仕事考えてやって」
「い、いやあの…うちではそういうの、やってなくて……」

じゃ、よろしくねんっ。と言って、五条くんはさっさと任務に行ってしまった。

私はその場に一人ぽつねんと取り残されて、頭を抱える。

んなアホな、うちは職安じゃないんだけど!?そ、そういうのは人事担当の仕事では…え?もしかしてあの色んな意味で厄介な男を私の研究所で雇えってこと?嘘でしょ?
なんで?彼については、あとのことは五条くんが何とかするはずでは?

ま、まさか……そんなに難航しているのか?仕事探しが…。
それは、私でどうにか出来るレベルの問題なのだろうか…。

どうしよう、また失敗して「絶交」を言い渡されたら。
ショックで最悪、自主的に割れるまである。

「ヒェッ…ヒェッ……おにいちゃん…!」

押し付けられた新しい仕事に恐れ慄き、助けを求めてその場から駆け出した。
恵くんのパンチを受け止めている兄の元へ走って行けば、難なく受け止められ、そのまま頭をボスボスと叩くように雑に撫でられる。

「また厄介ごと押し付けられた!たすけて!!」
「お前に解決出来ない問題なんてあんのか?天才様」

ハッ!そうじゃん、私天才だったわ、忘れてたけど不滅で不屈でマッドな天才だったわ……。

「天才に不可能は無い…ってことだね?」
「そこまでは言ってねぇけど」
「言ったもん!!!」

心にそう響いたから、それでいいんです!!

ま、お兄ちゃんに「お前は最高で最強で可愛くて逞しい自慢の天才だから何だって出来るよな」って言われちゃ、やらないわけにはいかないね。
ええ、やってやりますよ夏油くんの職探し!

この天才たる私が、君が一番笑顔で居られる仕事を見つけてあげるからね、首を洗って待ってろよ!
あれ…これさっきも五条くんに思わなかったっけ?
まあいっか、仲良しだもんね二人共。
一緒に首をピカピカに洗っているがいいさ、ハハハッ!
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