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番外編

吐き出したフランシウムは大した金にはならなかった。

ので、このお金はとりあえず子供達の将来用貯金に回すこととする!
やべ…私、親っぽいことしてる……思い立ったように貯金をしてみたが、でも、それ以前にした親っぽいことの記憶が見当たらない。
ど、どうしよう…思えば住む場所と学習環境と月々のお小遣いを与える以外にしていることが無い気がする。
これは、いかんのでは無いだろうか。

そこまで考えた私は、本屋さんに行き育児書を買った。

読み込んだ結果、私に必要なもの、必要ないものが判明した。
必要なもの、それは時間だ。
親は子供と触れ合う時間があることで、親として成長していくらしい。実に動物的習性だ、最小単位の社会を築くことは親子関係から…うむ、良い勉強になった。

で、次に必要無いものであるが…


それは、おっぱいだ。


ぽよん。
両手を胸に置けば、パフリと当たる柔らかな感触、これこそがおっぱい。
男性のロマンが詰まってるとか巷では聞くが、実際に詰まってるのは脂肪である。肩が凝る原因以外の何者でもない。

で、だ。
なんでこれがいらないのかと言えば、これがある限り私は「父」にはなれないと気付いたからだ。

私は元々女だ、性自認だって女だ。
現在、肉体的には女性の持つ性機能は形くらいしか残っちゃいない。そもそも私は単一で完結した生命体となった身だ、性別なんぞいらないのだ。
今も胸があるのは人間時代の名残、不必要極まる部位。
だから、前々から別にいらないよなって思っていたので、父親の役割もこなすことが出来るようになるため、まずは形から入るべく不必要な胸を摘出する自己改造をだね……。


「しようと思うんだけど、賛成のひとー!」

シーン…

「は、反対のひと〜」

「先輩、やめて下さい!」
「おっぱい消したら絶交だから」
「私があげた下着どうすんの?」

反対意見、多数。


ということで、現在私はおっぱいないない裁判の真っ最中であった!

灰原くん、五条くん、硝子ちゃん、お兄ちゃんを夏油くんの治療室に集めて決議の真っ最中、しかしどうやら私の意見は劣勢の様子。

「しかし、しかしだね、君たち…」
「待ってくれ、まず私の部屋からあの猿を追い出してくれないか?」
「お兄ちゃんのこと指差さないでよお!!!」

指折るぞゴラァ!!!!
あと人間は皆猿の仲間だから!今更だから!我々は皆同じヤポネシアゲノムを持つ同族なの、ネアンデルタール人もオラウータンもヒューマンもみんな霊長目なの、だからお兄ちゃんを猿とか言うな!おめぇも生物学的にはサル目じゃ!!!

「つぎお兄ちゃんのこと猿って言ったら夏油くんのクローンを生み出して、そいつを苗床にしてやる」
「まわりくどい嫌がらせだな…」
「あと前髪をパッツンにする」
「それは本当にやめてくれ」

それでは決議に戻るぞ、全く君達と来たら…胸が無くなるからって私の中身が変わるわけでもないのに。
胸が無くなれば肩こりなどが無くなる可能性だってあるのだぞ、そもそも残しておく意味が無いじゃないか。

「胸の無いお前なんて僕は認めないけど?絶交するから」
「いや、だから胸が無くなっても中身が変わるわけでは無いのだよ、五条くん」
「先輩のぽよぽよが…」
「じゃあこのぽよぽよを灰原くんにくっつけるってのはどうかな?」

ついでに指の本数を増やして、拳からパイルバンカーが突き出るようにするとかどうかな?ちょーカッコイイ…。
灰原くんバージョン2.5を提案すれば、硝子ちゃんのみが「いいじゃん」と言ってくれた。

話は流れ、会議はどんどんと荒れていく。

父親役は他の人で賄えているだとか、そもそも私が親の役割が出来ないことなど今更だとか、黙って研究してろとか、ゲトウゲリオン計画についてだとか…だ、駄目だコイツら…何も分かっちゃいない。

「胸が無くなれば多少はお兄ちゃんに似るかもしれないじゃん!」
「先輩、それはムリです」

妻に真面目な顔して否定された……。
ガクリと肩を落とし、悲しみを全身で表現する。
うぅ…私は私の責任を遂げたいだけなのに、我が子のためならば何だってする覚悟があるのに。
ちなみに、我が子とは私の産み出した鉱物生命体も含むからね、恵くんがそのうち私の物になったら無事ジャバウォックとも兄弟である。うむ、素晴らしきかな。

落ち込んだり何だりしていれば、話は終わりだと皆が部屋から出て行く。
残るは病室の住人夏油くんとお兄ちゃんと私のみ。先程から何も喋らず眠たそうにしているお兄ちゃんをチラリと見れば、大きなアクビをしていた。喉の奥まで丸見えである、エッチだ…。

そんなお兄ちゃんはアクビを終えると、よっこらせと言いながら立ち上がりこちらを見下ろしてくる。

「なに…言いたいことあるなら言ってよ」
「胸無きゃ困るだろ」
「困んないよ、だって私はもう生物学的には…」
「俺が困んだよ」

ほ???
なんで?え、なんでお兄ちゃんが困るの?
私のおっぱいが無くてお兄ちゃんが困ることなんて無いと思うのですが…。
天才的頭脳を働かせても働かせても、困る理由が見つからない。
困惑気味に見上げれば、お兄ちゃんは無言で私の脇の下に手を入れるとそのまま持ち上げた。

身体が浮く。
床から離れた爪先がプラプラと揺れた。
真正面にある兄の黒い目が私を静かに眺めながら言う。

「硬くちゃ抱き枕にならねぇだろ」
「なるほどねぇ!」

そゆことねー!!!
確かにそりゃいかんな!お兄ちゃんの安眠が阻害されるなんてあってはならないことだ、そうか…この何の役にも立たない脂肪の塊もお兄ちゃんの眠りに役立っていたのか、そうかそうか…。

「ならば良し!」
「寝る」
「私も一緒にお昼寝する!」

お兄ちゃんが寝るなら私も寝るよ!
自ら手を伸ばしてお兄ちゃんの首に腕を回し、ギュッと抱き付けば、片手で私を抱え直した兄が病室から出ようとしたので、夏油くんにバイバーイと手を振っておいた。
彼はこれでもかと嫌そうな顔をしていた。ついでに舌打ちも聞こえた。不良だ…。


ということで、いきなり親にもなれないと思うから、出来ることから始めていこうと思う。
とりあえず彼等の記録用にナマコでもプレゼントしてみようかな。
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