六千カラットの揺籠
死んだ人間が戻ってきて、詳しい話もまともにしないってのに、この家の人間は私が居る日常を受け入れて過ごしているんだから、まあイカれてるよね。人のこと言えないんじゃないかなあ。
最初の一ヶ月はとにかく夏油くんの生命維持を優先させた、普段自分の研究しか優先していない私とて、流石に今回ばかりは他人の命を優先している。
なんでかってそりゃ、やらかしてしまったからだ、私が。
お兄ちゃんのことを考えすぎて頭の可笑しくなった私は、夏油くんを半殺しにしてしまった、そのせいで五条くんから脅されているのだ。
「いいか、もし傑が元に戻らなかったら………」
「かったら…?」
「お前、責任取って俺と結婚するか、もしくは切腹しろ」
そんな、待って下さい!私には最愛の兄と帰りを待つ妻が居るんです…!
そう叫んでみたものの、五条くんは私の頭に容赦の無いアイアンクローを決めながら「俺はお前の唯一の友人として介錯してやらなきゃならないんだよ!!」と叫んでいた。イダダダダダダダッ!!頭蓋骨ヘコんだ気がするんだけど!?軽率なDVやめて下さい!!!
百歩譲って切腹は分かるよ?そらそうよ、親友を半殺しにされたんだから。でも結婚はおかしいでしょ、誰も幸せになれないじゃん、私赤ちゃん産めない身体だし……あと、別に恋愛的な意味で五条くんのことを好いたことないし。
「とにかく、俺にトドメを刺されたくないなら傑を助けろよ、絶対」
「わ、分かったよ…」
「結婚する場合は人間の身体に戻れよな」
「なんで!?やだよ!!!」
絶対嫌なんだけど!?
こんな便利な身体を捨てるわけないだろう、体内実験も出来るし、他人に血を分けることだって出来る、食事は一週間に一回で足りる。他にも色々な人間には真似出来ない機能を搭載したスペシャルな肉体を何で手放さなければならないのか。そもそも結婚しないし、切腹選ぶから、そんで舞い戻って来てやる。
「だってお前の身体の中、危ない物質だらけなんだろ?」
「うん、メチル水銀とかね」
「チンコ突っ込んだら死ぬじゃん、俺が」
「なんでいきなりそんな展開を予想されてるんです!?」
え、怖いよ!私、友人のことが分からなくて怖い!!
なんで、どうして?分からない……どうして五条くんは私にチンコを突っ込むことを想定しているの?突っ込まないでよ、怖いよ、やめてくれ。
夫婦の営みとかいうやつをやろうとしてるの?やらんでいいよ、営むな、私はそういうことには興味無いタイプの生命体なんだよ………だってほら、私一人で全て完結しているからね、老いる恐怖も死ぬ恐れも関係の無い私には、自分の遺伝子を残したいと思う欲求も無いのだ。即ち、繁殖に付随する求愛行動や感情も大きく掛け離れた位置にある。持てて親愛までだ、恋愛感情を必要としない生命である私に結婚とかなんか……そういうのを求めるのはやめてくれないだろうか………。
と、説明してみるものの、五条くんは一拍置いた後に人を嘲笑うような笑みを浮かべて「や・だ」と楽しそうに言って来た。
「お前なら絶対俺を置いてかないでしょ」
「……あのさぁ、五条くん」
「なんだよ」
向けられている感情に気付いた瞬間、私は途端に目の前に居る友人のことが面倒臭くなった。
友達になって早三年、私達は時にふざけ合い、時にぶつかりながらも切磋琢磨しつつ互いに友情を感じて時間を重ねて来た。
私は出会った頃から五条くんのことが大好きだし、五条くんも出会った頃から私のことを気に入ってくれているのだろう、そのことについては理解している。
だがしかし、私達はあくまで友人なのだ、君がアホみたいに執着する相手は今死にかけている親友だけでいいだろう、私にまで執着しようとするな、健全じゃない。
ああ、嫌だな…執着という言葉すら使いたくない。
その感情がどれだけ面倒臭くて、厄介で、苦しくなるかなんて私が一番よく理解しているのだ。
それだけでここまで来た女なんだぞ、君までそんなんになるのは見たくない。
珍しくも良心が働いた私は、彼の顔を見上げながら、「五条くん、私に粘着するのはやめなよ」と口にする。
その感情、絶対時間が経つにつれて拗れていくからね、本当大変なんだから。ソースは私、身を持って知っておりますとも。
「は?なんでだよ、灰原にはさせてる癖に」
「彼は私の作品だよ、作品は全て子だ。子を大切にするのは親の務めだろう」
「灰原カワイソー」
「話を逸らさないでよ、もー…」
あと別に灰原くんは可哀想では無いよ、彼は覚悟を持って私に寄り添ってくれているし、私も彼の覚悟に答えるために、この世に一つしか無い私が人間に戻るための心臓をあげたのだから。あと私達仲良しだし、この前夢の国も行ったし、ずっと手繋ぎながら歩いてたもん………いやこれは、私がすぐに単独行動をしようとするから拘束されていただけなんですがね。
ま、まあとにかく、灰原くんと私の関係については、私達の中で上手いことバランスを取って健全な関係として成り立っているのだから、外野がとやかく言うものじゃないよ。全く。
「でも灰原だってお前にチンコ突っ込みたいって思ってるかもよ?」
「お、思うのは別に自由じゃん、言ったらアウトだけど!」
「まあ、とにかく」
ニヤニヤとした悪い顔から一変、冗談染みた会話を切り上げた五条くんは、真剣な目付きで話始める。
「次何かしたら、流石に俺も庇いきれなくなるから」
「……うん」
「そしたらマジで、お前は死ぬか、ただの人間に戻って俺に管理されるかの二択なの忘れるなよ」
「分かったよ」
肝に命じておきます、ええ本当に。
言いたいことを伝え切ったのか、五条くんは眠る夏油くんの様子を少し眺めた後に帰る支度をし始めた。
こんなとこに長居はしたくないと、さっさと帰って行く背をボンヤリと眺めながら浅く息を吐き出す。
私が今、上層部から手を出されないのは禪院家当主と五条くんと五条くんのお家のお陰だ。
当主さまは私の"経済的価値"に着目し、それを理由に私の処罰をどうにかして下さっているらしい。らしいというのは、ここに戻って来てから一度だけお話したが、当主さまは酒を飲みながら私の研究や高専で成長した術式の使い道について興味深そうに話を聞くばかりで、実際私に掛けて来た言葉など「直哉をどうにかしておけ」というザックリとした命令だけであった。
多分、恐らく、私という存在は、当主様から見ればただのマネーツリーなのだろう。
別にそう思われるのは嫌ではない、それで私が私のしたいように生きられるのならば、そこまで重要なことでは無いのだ。
きっとそれは向こうも同じ、当主様は私が人を何人殺そうが、非術師がどうなろうが問題にせず、私が着々と自分の思う通りに金を運んできてくれることだけを期待している。
有難い話だ、私は当主さまがそういう人だから今も息をしていられる。
五条家については五条くんのワンマンショーな現在の環境下であるため、私の味方になってくれている。
そして最後に残る御三家が一つ、加茂家であるが………
「会合で挨拶して来いってさあ……会合って何すればいいの…」
産まれてこの方そんなとこ出たことないんだけど。
そういうのは扇おじさまとか、甚壱お兄ちゃんとかの役目じゃん!私が行くやつじゃないじゃん、絶対。
行ったらパンダを見る目で見られるに違いない………悪名高いパンダが来たと思われる、もしくはエイリアンとか思われる。威嚇したろか、キシャーッ!!
廊下で一人会合に向けて威嚇の練習をしていたら歩いて来た蘭太くんに驚かれたので顔を背ける。
フンッ、お兄ちゃんのコバンザメになんて興味無いから。
なのに蘭太くんは伺うように「あ、あの…」と声を掛けて来た。
「なに」
「実は呼びに来たんですが…」
「……私、なんかしたっけ?」
「多分、次の会合で着るための着物選びかと…」
………着物?
私、着物きるの?なんで?「え、これじゃ駄目なの?」と、率直に抱いた疑問を口にする。
今着ているものは、丸襟のブラウスにハイウエストの黒いパンツだ。シンプルイズベスト、余計な物を身に付けないスタイル。これで会合行っちゃいけないの?
「色々な家の代表者が来る場なので」
「ちゃんとしなきゃ駄目ってこと?」
「恐らく…」
「へぇ~」
ほ~~~ん、なるほどね、大体分かってきたぞ会合。
わざわざ呼びに来てくれた蘭太くんに「ありがとね」とお礼を伝えて呼ばれた場所まで自ら赴くことにした。
まあ私天才ですのでね、天才に不可能なんてありませんから。やり遂げてみせますとも、会合とやらを。
そんで地位回復、名誉マシマシ、援助もバンバン受けてやるから。
そんで夏油くんも元に戻すし、五条くんとの結婚ルートも回避するし、灰原くんと旅行にも行くから。
ここらで一つ、天才ってのを見せ付けてやりますよ。
最初の一ヶ月はとにかく夏油くんの生命維持を優先させた、普段自分の研究しか優先していない私とて、流石に今回ばかりは他人の命を優先している。
なんでかってそりゃ、やらかしてしまったからだ、私が。
お兄ちゃんのことを考えすぎて頭の可笑しくなった私は、夏油くんを半殺しにしてしまった、そのせいで五条くんから脅されているのだ。
「いいか、もし傑が元に戻らなかったら………」
「かったら…?」
「お前、責任取って俺と結婚するか、もしくは切腹しろ」
そんな、待って下さい!私には最愛の兄と帰りを待つ妻が居るんです…!
そう叫んでみたものの、五条くんは私の頭に容赦の無いアイアンクローを決めながら「俺はお前の唯一の友人として介錯してやらなきゃならないんだよ!!」と叫んでいた。イダダダダダダダッ!!頭蓋骨ヘコんだ気がするんだけど!?軽率なDVやめて下さい!!!
百歩譲って切腹は分かるよ?そらそうよ、親友を半殺しにされたんだから。でも結婚はおかしいでしょ、誰も幸せになれないじゃん、私赤ちゃん産めない身体だし……あと、別に恋愛的な意味で五条くんのことを好いたことないし。
「とにかく、俺にトドメを刺されたくないなら傑を助けろよ、絶対」
「わ、分かったよ…」
「結婚する場合は人間の身体に戻れよな」
「なんで!?やだよ!!!」
絶対嫌なんだけど!?
こんな便利な身体を捨てるわけないだろう、体内実験も出来るし、他人に血を分けることだって出来る、食事は一週間に一回で足りる。他にも色々な人間には真似出来ない機能を搭載したスペシャルな肉体を何で手放さなければならないのか。そもそも結婚しないし、切腹選ぶから、そんで舞い戻って来てやる。
「だってお前の身体の中、危ない物質だらけなんだろ?」
「うん、メチル水銀とかね」
「チンコ突っ込んだら死ぬじゃん、俺が」
「なんでいきなりそんな展開を予想されてるんです!?」
え、怖いよ!私、友人のことが分からなくて怖い!!
なんで、どうして?分からない……どうして五条くんは私にチンコを突っ込むことを想定しているの?突っ込まないでよ、怖いよ、やめてくれ。
夫婦の営みとかいうやつをやろうとしてるの?やらんでいいよ、営むな、私はそういうことには興味無いタイプの生命体なんだよ………だってほら、私一人で全て完結しているからね、老いる恐怖も死ぬ恐れも関係の無い私には、自分の遺伝子を残したいと思う欲求も無いのだ。即ち、繁殖に付随する求愛行動や感情も大きく掛け離れた位置にある。持てて親愛までだ、恋愛感情を必要としない生命である私に結婚とかなんか……そういうのを求めるのはやめてくれないだろうか………。
と、説明してみるものの、五条くんは一拍置いた後に人を嘲笑うような笑みを浮かべて「や・だ」と楽しそうに言って来た。
「お前なら絶対俺を置いてかないでしょ」
「……あのさぁ、五条くん」
「なんだよ」
向けられている感情に気付いた瞬間、私は途端に目の前に居る友人のことが面倒臭くなった。
友達になって早三年、私達は時にふざけ合い、時にぶつかりながらも切磋琢磨しつつ互いに友情を感じて時間を重ねて来た。
私は出会った頃から五条くんのことが大好きだし、五条くんも出会った頃から私のことを気に入ってくれているのだろう、そのことについては理解している。
だがしかし、私達はあくまで友人なのだ、君がアホみたいに執着する相手は今死にかけている親友だけでいいだろう、私にまで執着しようとするな、健全じゃない。
ああ、嫌だな…執着という言葉すら使いたくない。
その感情がどれだけ面倒臭くて、厄介で、苦しくなるかなんて私が一番よく理解しているのだ。
それだけでここまで来た女なんだぞ、君までそんなんになるのは見たくない。
珍しくも良心が働いた私は、彼の顔を見上げながら、「五条くん、私に粘着するのはやめなよ」と口にする。
その感情、絶対時間が経つにつれて拗れていくからね、本当大変なんだから。ソースは私、身を持って知っておりますとも。
「は?なんでだよ、灰原にはさせてる癖に」
「彼は私の作品だよ、作品は全て子だ。子を大切にするのは親の務めだろう」
「灰原カワイソー」
「話を逸らさないでよ、もー…」
あと別に灰原くんは可哀想では無いよ、彼は覚悟を持って私に寄り添ってくれているし、私も彼の覚悟に答えるために、この世に一つしか無い私が人間に戻るための心臓をあげたのだから。あと私達仲良しだし、この前夢の国も行ったし、ずっと手繋ぎながら歩いてたもん………いやこれは、私がすぐに単独行動をしようとするから拘束されていただけなんですがね。
ま、まあとにかく、灰原くんと私の関係については、私達の中で上手いことバランスを取って健全な関係として成り立っているのだから、外野がとやかく言うものじゃないよ。全く。
「でも灰原だってお前にチンコ突っ込みたいって思ってるかもよ?」
「お、思うのは別に自由じゃん、言ったらアウトだけど!」
「まあ、とにかく」
ニヤニヤとした悪い顔から一変、冗談染みた会話を切り上げた五条くんは、真剣な目付きで話始める。
「次何かしたら、流石に俺も庇いきれなくなるから」
「……うん」
「そしたらマジで、お前は死ぬか、ただの人間に戻って俺に管理されるかの二択なの忘れるなよ」
「分かったよ」
肝に命じておきます、ええ本当に。
言いたいことを伝え切ったのか、五条くんは眠る夏油くんの様子を少し眺めた後に帰る支度をし始めた。
こんなとこに長居はしたくないと、さっさと帰って行く背をボンヤリと眺めながら浅く息を吐き出す。
私が今、上層部から手を出されないのは禪院家当主と五条くんと五条くんのお家のお陰だ。
当主さまは私の"経済的価値"に着目し、それを理由に私の処罰をどうにかして下さっているらしい。らしいというのは、ここに戻って来てから一度だけお話したが、当主さまは酒を飲みながら私の研究や高専で成長した術式の使い道について興味深そうに話を聞くばかりで、実際私に掛けて来た言葉など「直哉をどうにかしておけ」というザックリとした命令だけであった。
多分、恐らく、私という存在は、当主様から見ればただのマネーツリーなのだろう。
別にそう思われるのは嫌ではない、それで私が私のしたいように生きられるのならば、そこまで重要なことでは無いのだ。
きっとそれは向こうも同じ、当主様は私が人を何人殺そうが、非術師がどうなろうが問題にせず、私が着々と自分の思う通りに金を運んできてくれることだけを期待している。
有難い話だ、私は当主さまがそういう人だから今も息をしていられる。
五条家については五条くんのワンマンショーな現在の環境下であるため、私の味方になってくれている。
そして最後に残る御三家が一つ、加茂家であるが………
「会合で挨拶して来いってさあ……会合って何すればいいの…」
産まれてこの方そんなとこ出たことないんだけど。
そういうのは扇おじさまとか、甚壱お兄ちゃんとかの役目じゃん!私が行くやつじゃないじゃん、絶対。
行ったらパンダを見る目で見られるに違いない………悪名高いパンダが来たと思われる、もしくはエイリアンとか思われる。威嚇したろか、キシャーッ!!
廊下で一人会合に向けて威嚇の練習をしていたら歩いて来た蘭太くんに驚かれたので顔を背ける。
フンッ、お兄ちゃんのコバンザメになんて興味無いから。
なのに蘭太くんは伺うように「あ、あの…」と声を掛けて来た。
「なに」
「実は呼びに来たんですが…」
「……私、なんかしたっけ?」
「多分、次の会合で着るための着物選びかと…」
………着物?
私、着物きるの?なんで?「え、これじゃ駄目なの?」と、率直に抱いた疑問を口にする。
今着ているものは、丸襟のブラウスにハイウエストの黒いパンツだ。シンプルイズベスト、余計な物を身に付けないスタイル。これで会合行っちゃいけないの?
「色々な家の代表者が来る場なので」
「ちゃんとしなきゃ駄目ってこと?」
「恐らく…」
「へぇ~」
ほ~~~ん、なるほどね、大体分かってきたぞ会合。
わざわざ呼びに来てくれた蘭太くんに「ありがとね」とお礼を伝えて呼ばれた場所まで自ら赴くことにした。
まあ私天才ですのでね、天才に不可能なんてありませんから。やり遂げてみせますとも、会合とやらを。
そんで地位回復、名誉マシマシ、援助もバンバン受けてやるから。
そんで夏油くんも元に戻すし、五条くんとの結婚ルートも回避するし、灰原くんと旅行にも行くから。
ここらで一つ、天才ってのを見せ付けてやりますよ。