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番外編

「先輩?」

鼻歌交じりに鉱物を眺めながら歩いていれば、後ろから声を掛けられ、その声にギクリと身を強ばらせた。
ソロリソロリと振り返れば、予想通り……灰原くんが笑いながら立っている。
だがしかし、その表情には陰りがあり、その陰りの理由が私の言動からのことであることを理解して、彼が何かを言う前に私は頭を地面に向けて直角に下げた。

「すみませんでした!!!」
「先輩……」
「ごめんなさい!!浮気じゃないんです!!!」

というかそもそも、私は灰原くんと付き合ってるわけじゃないんだけどね!!?
何なら彼が「妻」を自称しているだけなんだけど……あ、いや、ごめんなさい、そんなけと無いです!私にも責任はあります!だからションボリしないでくれ!!

「僕だけじゃ駄目ですか?」
「そんなこと無いです!!灰原くんだけでお腹いっぱいだよ、本当本当、マジで」
「でも七海を……」
「違うんです!!」

いつも明るく笑ってくれる可愛い可愛い灰原くんが悲しそうに微笑む姿が痛々しい、私の心にダイレクトヒット、突き刺さるは妻の涙……。
浮気の言い訳をする夫のように、私は頭を下げて手を合わし、彼に私が悪かった…軽率なことを言った…反省してます…と言葉を次々に並べる。

何故、自称「妻」である彼にここまで謝っているかと言えば、それは一重に彼の存在が私や私の研究にかなりの影響を及ぼしているからである。
研究についての詳しい説明は省くが、灰原くんに使用した「女王のハート」は彼の細胞を伝い進化した。
今や彼の心臓は、私が求めていた実験結果に限り無く近いものであるため、何としても経過観察をしていかなければならない。つまりは手離すことが出来ない人になってしまったのだ。

だから……万が一にも、彼が機嫌を損ねて本当に実家に帰ってしまったら困る!
私の研究が打ち止めとなってしまう!それだけは何が何でも阻止せねばならない……。

ってなことで~~!ここは一発可愛い実験体…もとい、妻のために先輩の威厳ってやつを見せてやらあ!!

絵に描いたようにシュン……とする灰原くんに近寄り、耳元でコソコソと話す。

「あの……落ち着いたら、実験成功記念に旅行とか~~……行かない…?」
「え!二人でですか!?」
「うん、だからあの、何卒今回のことは…」
「…嬉しい……先輩、僕嬉しいです」

ションボリ笑顔から一辺、喜びを顕にした灰原くんは、可愛い笑顔を私に向ける。ウグゥ!!百点満点の微笑み…ヒロインの風格、これが正妻を自ら名乗る男の余裕か……。

「じゃ、じゃあそういうことで…」
「はい、ありがとうございます!」

元気なお返事に、あ~可愛いなあとこちらもほにゃほにゃ笑っていれば、彼は最後に爆弾を投下していった。

「ハネムーンですね!」
「ハ………」

はね……はねむーん……意味、結婚旅行。
何か、上手いこと転がされている気がしなくも無いのだが…果たして私はこれでいいのだろうか……そのうち気付いたら大変なことになってやしないだろうか。

やはり灰原くん…油断ならぬ子だ……。
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