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番外編

餅は餅屋に任せておけ、なんて言葉がある通りに、専門的分野のことは専門家に任せておいた方が良いこともある。
狂乱の天才、ファナティック・マッド・クレイジーガール、五条悟のお気に入り、近付いたら駄目な奴、見ちゃいけません!……等々と言われるこの私にも、浅学な分野は多数存在する。

その中の一つが「金」

そう、皆様大好きマネーである。

何を隠そう私の兄は金使いが荒い、荒いというか、あればあるだけパーッ!と使ってしまう。
そして大変お恥ずかしいことに、私もこと金使いにおいては似たようなところがある。遺伝かな?クソみたいな類似点でも兄と似ているというだけで喜べます。兄ラブ、鍛えられているので。
ちなみに私は賭け事はしないが、人には到底理解して貰えないような物を好んで買ったり、研究にドッサドッサと投資したりしてしまう質である。
つまりは、何が言いたいかと言うと……。

「金欠です、えーーん!!ひもじいよー!!」
「…………はぁ…」

最早私の手元には、明日をしのぐ金すら無いのであった!!
なので、可愛い後輩ちゃんの白い方、プリティーナナミンに物乞いをしている最中である。

「先輩、恥ずかしくないのですか?」
「恥じらいと呼ばれる感情が私にあると思うか?」
「あったらこんな無様な真似してませんね、聞いてしまい失礼しました」

聞いたことより物乞いを「無様」と言い切った方が失礼な気が……え?私もしかして、後輩から「恥ずかしくて無様な生き物」だと思われてる?う、嘘…この世紀の大天才にむかってそんな……。
ショックで硬直していれば、七海くんは呆れた顔を隠しもせずに溜め息を吐いた。

「はぁ……」
「お願い…何か食べさせて……」
「…たしか、ホットケーキミックスがあったはずです」
「いっぱいお手伝いします!!!」

やっぱり持つべき物は競馬に行ったきり帰って来ない兄や対価を求めてくる友より、可愛い後輩だよね!
いやあ、時代は後輩属性ですよ、先輩が困っていたら助けてくれる後輩の気遣いと優しさこそが世界を救う……。

「いえ、対価は求めるつもりですが」
「えっ」

それは聞いて無いんだが???
待て、待って欲しい、本当に今月はピンチなので集られても期待には答えられない。レアメタルの産出もこの前終えたばかりなんだ。
それともまさか…か、身体か!?私の身体が目当てだとでも!?
自慢じゃ無いがなあ、乳はそこそこ良い形をしていると思うぞ。

「そういう俗物的な要求をしたい訳じゃない、それと…」
「それと?」
「あまり、身体を安売りするような真似はやめて下さい」

冷たさを感じる真面目な言葉の中には、それでも確かに優しさが感じ取れた。
瞬きを三回。
無意味に瞼を上げ下げして、先を歩く後輩の顔を見上げて、私は「あ、コイツ真剣に私のこと大事に考えてくれているのか」と気づく。

私の周囲の人間は、良くも悪くも金と技術力を欲して私に接触しようとしてくる輩しか居ない。
研究を支えるために資金援助をする、変わりに研究成果が出た暁には是非我々の手に……。
鉱物を買い取るから、是非研究成果を我が一族にもたらしてくれ……。
その身は最早人成らざると聞くが、金を出すから研究ごと我が一族に嫁入りしてくれないか……。

金、金、金。
金を得る手段は手を伸ばせばすぐ側にある。けれど、得れば最後、私は孤独で自由な研究家では居られなくなる。
だから毎回、研究資金を集めることは非常に難航しているのだ。

右を見ても左を見ても、私に集ろうとしてくる人間はそんな恥知らずばかりである。
だから少し麻痺していたし、驚いてしまった。


歩みを止めた私を不自然に思った七海くんがこちらを振り返る。

「………何ですか、笑ってないでさっさと歩いて下さい」
「…七海くんって超可愛いね」
「いいから、歩いて下さい」
「可愛い……」

ちょっと欲しいかも……。
ボソッと呟いた言葉は運の無いことに、七海くんのお耳に入ってしまったらしく、ギョッとした顔付きをして引くような素振りをした。

いいじゃ~~ん!!私、可愛いの好き。可愛い子で実験するの好き~!あわよくば可愛い子を"我が子"にしたい。

「勘弁して下さい」
「ねえ、死んだら嫁に…」
「灰原に言い付けますね」

……え。

「この前補助監督の方を同じように口説いてたこともついでに言い付けます」

あ、待って。
それは駄目、本当やめて欲しい。
ゆ、ゆるして!頼む!!灰原くんには聞かれたくない!!
や、あの、あれですよ?コミュニケーションの一つ、そう、言葉の綾ってやつで、他意は無いと言いますか……。
私は慌てて走り、七海くんの行く手を遮るように回り込んで彼に縋り付く。

「ごめんなさい調子に乗りました!ゆるして!!」
「それを決めるのは私では無く灰原です」
「そんなご無体な!うわーん!!」

私の最期の晩餐……ホットケーキになっちゃうよ!!
シクシク泣きながら七海くんにひっついて廊下を歩む。
クソ、この……プリティー・クールボーイめ!!大切な友人を私に改造されてから私への風当たりが強いぞ!?
君だって合意してたはずなのに!

「合意はしましたが、灰原の献身を無下にして良いとは言ってませんし、許しません」
「それは……そう…すみません、大事にします」
「大事にしなかったら八つ裂きにします」

そこまで!!?!?
慌てて七海くんから離れて距離を取るも、ジットリ睨まれて涙が出そうになった。
こ、怖すぎる…後輩の目付きの悪さ半端無い……。背筋をブルブルと悪寒が走ると同時に、彼が抱く友情の美しさを知り何とも言えない気持ちになった。

「私、別に君から灰原くんを取るつもりは無いからね」
「は?」
「同じこと言うけど、君も灰原くんのこと大切にしなよ、今度は悔いの残らないように」

立ち止まったまま固まってしまった七海くんを置いて、私は先を進む。
あんまりツンツンした態度ばかり取って、言っておけば良かったと思うことを言えずに別れるのは悲しいことだ。
後悔はいつの日か、自分を苦しめる呪いとなる。
私はそれをよく知っているから、可愛い後輩に同じ思いで苦しんで欲しくは無いと思った。

ああ、でも……

クルリと一度振り返り、未だ固まったままの七海くんを視界に捉える。

「私の前ではツンツンしててくれていいよ!可愛いから!!」

ツンデレっていいよね、七海くんの場合はデレが無いけど。気位の高い猫ちゃんみたいで可愛いから許します。
猫ちゃん可愛い!大好き!ニャニャミにゃん!!
ってことを叫んでいれば、七海くんはヒュンッと風を置き去りにする程の"本気"の走りで私の元まで駆け抜け、私の口元を手のひらで覆った。

「それ以上喋ったら」
「ムゴゴゴゴゴッ!!」
「喋るな」
「ピッ」
「余計なこと喋ったらホットケーキ焼きません」

それは困るので黙ります!
やっぱり七海くん怖すぎる……でもホットケーキ作ってくれるからプラマイゼロです。

ええ、ひもじい思いは人を不幸にすると改めて痛感しました。
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