番外編
てなことで、灰原くんとショッピングにやって来た。
電車に揺られ、都心の方まで出て来て買わなければならない物とは何ぞや、と灰原くんに質問されたので、優しい先輩である私は質問に答えてあげた。
「下着だよ」
「…………し、」
「パンツとブラジャーだね」
「わあ…」
頬をポポポッと赤くし、言葉を失い固まる灰原くん。
なんて純朴な反応なんだ…五条くんなんて暇だからって理由でスカート捲って来たりするのに…。
何て可愛いんだ灰原くん……私は沸き上がる衝動を口元をもにょっとさせてやり過ごす。流石に大衆の面前で「仕上がってるよ!」「いいよいいよ輝いてるよ!」「ナイス羞恥心!」「ラブリーキュートが歩いてる!」「ここまで可愛くなるのに眠れない日もあっただろう!」と叫び出すと迷惑だろう。
私は腕を組み、後方彼氏面よろしく深く頷いて灰原くんの可愛い照れ顔を味わった。
「聞くところによれば、君は確か妹の居るお兄さんなんでしょう?女兄弟がいるのなら下着くらい見慣れてるんじゃないのかね?」
「それとこれとは別と言うか…」
「へぇ…」
とか何とか言いながら普通に下着ショップに入店してますけども。
「下着が恥ずかしいんじゃなくって、先輩がこれ着るんだって思うと、あの…えへ…」
「…恥ずかしい奴だな、君」
そういうことは言わんでええわ。
下着ショップに男子が居るというだけでそれなりに目立つが、灰原くんは鍛えていて身長もある、爽やかスタイルな好青年であるので、ピンクの壁にふわふわヒラヒラした布面積の少ない下着が吊るされる店内ではそりゃもう目立つ。
本人はあまり気にしていないのか、私の隣で「荷物持ってます!」と張り切って鞄を持ち、私の買い物風景をガン見しているが……そんな我々を店員のお姉さまが生ぬるーい目で見守っているのが微妙にキツい。
レモンイエローの下着と、もう片手に同種の空色をした下着を手に取りチラリと灰原くんに視線を投げる。そんなに見るなら聞いてやろう、困らせちゃる!と息巻いて「どっちがいーい?」なんて聞けば、彼は困る素振りは見せずに間髪入れず、「どっちも無しで!」と言った。
「なんで?」
「こっちは七海っぽいし、こっちは五条さんの目の色だから…」
「……じゃあ何色だったらいいんだ」
「うーん…黒…?」
黒は夏油くんじゃん。何なら硝子ちゃんでもあるじゃん、さらに言えば伊地知くんもだよ。
黒いのは君だけでは無いぞ。
「じゃあ白で!」
「冥さん」
「じゃ、じゃあ赤…」
「ジャバウォック」
そんな一々気にしなくても…私は色から何かを連想するとしたら、鉱物関連くらいのものであるのに。色一つ取って個人を象徴する概念と捉え、他人を思うなど馬鹿馬鹿しい。
私はやや呆れながら、商品を戻して一人他の棚へと足を運ぶ。
その後ろをやや肩を落とした灰原くんが着いて来るので、私は彼に話掛ける。
「買い物終わったらご飯どうする?」
「僕が決めていいんですか?」
「うん、いいよ」
「じゃあラーメン!」
ラーメンか、皆好きだよねラーメン。
灰原くんが周辺のおすすめラーメン屋やら定食屋やらを語ってくれる。私はそれに適当な相槌を打ちながら即決即断で下着を何着か手に取りレジに向かった。
「先輩は何ラーメンが好きですか?」
「サッポロの味噌」
「あ~~!!美味しい!」
ラ王の味噌も好きだよ。
でもこれ、下着ショップでする話じゃないよね。
灰原くんは「僕は炒飯より白米派で」とこだわりを語っている。炒飯も白米も米には変わり無いし、ラーメンがそもそも炭水化物なのに、炭水化物おかずに炭水化物食べるの辛くない?よく入るね。トッピングは味玉とほうれん草が好き?へえ、詳しいねえ。
結局灰原くんによるラーメン談義は下着ショップを出るまで続いた。
「だから僕は追い飯よりも、白米は白米まで食べたくて」
「お米好きだねぇ」
「米、大好き!」
「そうかそうか」
ハハハ……可愛い…。
いつの間にかショップバッグはしっかり灰原くんが持ってくれており、私は手ぶらで歩道の内側を歩く。
灰原くんが兄の立場で居るせいか、私は彼には気付くと甘えてしまっている気がする。
嫌み無く、自然かつ堂々と頼らせてくれる彼は後輩力と同時に兄力も高い。私の兄二人にも是非見習って欲しいものである。
多分、純真さや明るさだけで無く、こういう所に私だけで無く七海くんや夏油くんもノックアウトされてしまっているのだろうなあと思った。
私達みたいなジメッとした部分がある奴等は、彼みたいな夏空のごとき子に弱いのだ。
眩しい。
見上げた先、隣を歩く彼。
丸い瞳、黒い髪、私より頭一つ分以上高い背。
しっかりした首筋、形のよい耳、笑みを象る唇。
青い空を背に、私の視線に気付いてこちらを見下ろし、目と目があったことに嬉しそうに柔らかく頬を緩める灰原くんを見て、私はこの時はじめて「ああ、この子に心臓をあげてしまって良かったなぁ」と思った。
それを使って人間にならなくて良かった。
君を救って良かった。
君は全ての色を鮮やかにする。
きっと、こんなにも空が青く見えるのは、君が笑ってくれるからだ。
電車に揺られ、都心の方まで出て来て買わなければならない物とは何ぞや、と灰原くんに質問されたので、優しい先輩である私は質問に答えてあげた。
「下着だよ」
「…………し、」
「パンツとブラジャーだね」
「わあ…」
頬をポポポッと赤くし、言葉を失い固まる灰原くん。
なんて純朴な反応なんだ…五条くんなんて暇だからって理由でスカート捲って来たりするのに…。
何て可愛いんだ灰原くん……私は沸き上がる衝動を口元をもにょっとさせてやり過ごす。流石に大衆の面前で「仕上がってるよ!」「いいよいいよ輝いてるよ!」「ナイス羞恥心!」「ラブリーキュートが歩いてる!」「ここまで可愛くなるのに眠れない日もあっただろう!」と叫び出すと迷惑だろう。
私は腕を組み、後方彼氏面よろしく深く頷いて灰原くんの可愛い照れ顔を味わった。
「聞くところによれば、君は確か妹の居るお兄さんなんでしょう?女兄弟がいるのなら下着くらい見慣れてるんじゃないのかね?」
「それとこれとは別と言うか…」
「へぇ…」
とか何とか言いながら普通に下着ショップに入店してますけども。
「下着が恥ずかしいんじゃなくって、先輩がこれ着るんだって思うと、あの…えへ…」
「…恥ずかしい奴だな、君」
そういうことは言わんでええわ。
下着ショップに男子が居るというだけでそれなりに目立つが、灰原くんは鍛えていて身長もある、爽やかスタイルな好青年であるので、ピンクの壁にふわふわヒラヒラした布面積の少ない下着が吊るされる店内ではそりゃもう目立つ。
本人はあまり気にしていないのか、私の隣で「荷物持ってます!」と張り切って鞄を持ち、私の買い物風景をガン見しているが……そんな我々を店員のお姉さまが生ぬるーい目で見守っているのが微妙にキツい。
レモンイエローの下着と、もう片手に同種の空色をした下着を手に取りチラリと灰原くんに視線を投げる。そんなに見るなら聞いてやろう、困らせちゃる!と息巻いて「どっちがいーい?」なんて聞けば、彼は困る素振りは見せずに間髪入れず、「どっちも無しで!」と言った。
「なんで?」
「こっちは七海っぽいし、こっちは五条さんの目の色だから…」
「……じゃあ何色だったらいいんだ」
「うーん…黒…?」
黒は夏油くんじゃん。何なら硝子ちゃんでもあるじゃん、さらに言えば伊地知くんもだよ。
黒いのは君だけでは無いぞ。
「じゃあ白で!」
「冥さん」
「じゃ、じゃあ赤…」
「ジャバウォック」
そんな一々気にしなくても…私は色から何かを連想するとしたら、鉱物関連くらいのものであるのに。色一つ取って個人を象徴する概念と捉え、他人を思うなど馬鹿馬鹿しい。
私はやや呆れながら、商品を戻して一人他の棚へと足を運ぶ。
その後ろをやや肩を落とした灰原くんが着いて来るので、私は彼に話掛ける。
「買い物終わったらご飯どうする?」
「僕が決めていいんですか?」
「うん、いいよ」
「じゃあラーメン!」
ラーメンか、皆好きだよねラーメン。
灰原くんが周辺のおすすめラーメン屋やら定食屋やらを語ってくれる。私はそれに適当な相槌を打ちながら即決即断で下着を何着か手に取りレジに向かった。
「先輩は何ラーメンが好きですか?」
「サッポロの味噌」
「あ~~!!美味しい!」
ラ王の味噌も好きだよ。
でもこれ、下着ショップでする話じゃないよね。
灰原くんは「僕は炒飯より白米派で」とこだわりを語っている。炒飯も白米も米には変わり無いし、ラーメンがそもそも炭水化物なのに、炭水化物おかずに炭水化物食べるの辛くない?よく入るね。トッピングは味玉とほうれん草が好き?へえ、詳しいねえ。
結局灰原くんによるラーメン談義は下着ショップを出るまで続いた。
「だから僕は追い飯よりも、白米は白米まで食べたくて」
「お米好きだねぇ」
「米、大好き!」
「そうかそうか」
ハハハ……可愛い…。
いつの間にかショップバッグはしっかり灰原くんが持ってくれており、私は手ぶらで歩道の内側を歩く。
灰原くんが兄の立場で居るせいか、私は彼には気付くと甘えてしまっている気がする。
嫌み無く、自然かつ堂々と頼らせてくれる彼は後輩力と同時に兄力も高い。私の兄二人にも是非見習って欲しいものである。
多分、純真さや明るさだけで無く、こういう所に私だけで無く七海くんや夏油くんもノックアウトされてしまっているのだろうなあと思った。
私達みたいなジメッとした部分がある奴等は、彼みたいな夏空のごとき子に弱いのだ。
眩しい。
見上げた先、隣を歩く彼。
丸い瞳、黒い髪、私より頭一つ分以上高い背。
しっかりした首筋、形のよい耳、笑みを象る唇。
青い空を背に、私の視線に気付いてこちらを見下ろし、目と目があったことに嬉しそうに柔らかく頬を緩める灰原くんを見て、私はこの時はじめて「ああ、この子に心臓をあげてしまって良かったなぁ」と思った。
それを使って人間にならなくて良かった。
君を救って良かった。
君は全ての色を鮮やかにする。
きっと、こんなにも空が青く見えるのは、君が笑ってくれるからだ。