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番外編

夏だ夏だ夏だーーー!!!

という事で、頭可笑しくなる程忙しいハチャメチャホゲホゲスケジュールの曖昧を縫いに縫ってやって参りました本日はこれ、夏祭り!!
いやあ……なんと言うか…

「屋台の商品って大概砂埃だらけだよね」
「それ言ったら終わりだろ」

人混みが凄すぎて早々に戦意をダウンした私は、兄に手を引かれて人の少ない場所までやって来た。
辺りには草が生い茂り、とくに手入れなどはされていないのだろうと見て取れる。
あー、良かった浴衣着て来ないで。
本当は実家にねだって浴衣送って貰おうかと企んでいたが、お兄ちゃんが「着たら絶対面倒だから着るな」と言ったので着なかった。
お兄ちゃんナイス判断、流石私のことを見てるだけあるね!
浴衣なんて着たら動きに制限がかかってややこしい事になってたね、良かった良かった。

手に持っていたイカ焼きを兄に押し付け、変わりに兄からチョコバナナを強奪してマムッと食べる。うむ、バナナにチョコがかかっている。それ以上でも以下でも無いな。

「もしかして私…夏祭り楽しむの下手くそ……?」
「今更だろ」
「チョコバナナもお兄ちゃんにあげるね……」
「一口食って満足するのやめろ」

兄の元には私が勢いに任せて買ったけれど食べる気が失われてしまった物が大量にあった。
イカ焼き、わたあめ、ポテト、焼きそば、チョコバナナ……お兄ちゃん沢山食べるから食品ロスにならずに済んで良かったよ。

何だかんだと言いつつも遠慮無く大口を開けて片っ端から食べていく兄を眺める。
お兄ちゃんが食べてるの見るの楽しいな、口デッケー……遠くの方ではドンッドンッと花火が打ち上がり始めたらしい音がしたが、私は焼きそばを啜る兄をニコニコしながら眺めていた。
口をモゴモゴ動かし、麺を飲み込んだ兄は箸で摘まんだ野菜を私の方へと差し出す。

「ん、」
「いらないよ、野菜食べたく無いだけでしょ」

好き嫌いするな!
一体何歳ですか?野菜もきちんと食べましょうね。

「いいだろ別に、ほら口開け、あーん」

ぐっ!!!
あ、あーんて…そんなこと言われたら……ああ、口が勝手に開いていく…!
「あーん……」と流されるままに口を開けば、お兄ちゃんは自分が食べたく無いキャベツの芯などの野菜をすかさず私の口内に捩じ込んだ。

ウッ……微妙に火の通っていないキャベツの芯特有の青臭い感じがする…噛めば噛む程しんどくなる味がする……。

「不味いよ~~~!」
「まだ次あるぞ、あーん」
「あーーーーんッッッ!!!!」

ちくしょー!!!
笑いながら首傾げてあーんって言えば条件反射で口開くと思うなよ!!ちょっとは葛藤してるんだからな!!全然チョロくなんて無いんだからな!!!
突っ込まれたのはカスカスのモヤシや萎びたニンジン、うげぇ…なんでこんなことに……いや、全部私が買ったんだった、巡り巡って自業自得である。

野菜の消えた麺を美味そうに啜る兄に、「もっと妹のこと大切にして!」とペシペシ腕を叩けば、咀嚼をしながらも楽しそうに瞳をしならせてこちらを見つめた。
ゴクリと麺を飲みこみながら、わたあめの入った袋を開いて適当にわたあめをちぎり、こちらに向けて差し出してくる。

「じゃあこれやるよ」
「私が買ったわたあめじゃん!」
「ほら、あーん」
「あーーーん!!!!!」

わたあめ、甘すぎる。
えーーん!!夜蛾ティーがくれる飴が恋しいよー!!
給餌の楽しさに目覚めたのか、次から次にわたあめをちぎっては私の口に押し込んでくる兄は随分とご機嫌である。
私のこと何だと思ってるんだ??イラ立った私はもういらない!と顔を背けた。
そうすれば、兄は今度は自分でわたあめを食べ始めた。

「…甘ぇ」
「そういう物だもん」

甘すぎるし、手はベタベタするし何なんだわたあめ。
二人揃って甘さに撃沈する。
しんど……何これ、屋台って一体何をどう楽しめばいいんだ。
夜空には、打ち上がった大輪の花が派手な音を奏でていた。

「はぁ……暑いし不味いし煩いし、人は多いし…もう帰ろっか……」
「お前、何で来たいって言ったんだよ」
「別に、お兄ちゃんと一緒に居られるなら夏祭りじゃなくても良かったんだけどさあ」

やっぱり夏っぽいことしておくべきかと思ってね、いっぱいお兄ちゃんとの思い出が欲しいんだ。
特別な思い出も、特別でない思い出も、沢山欲しい。
私は我が儘で貪欲だから、お兄ちゃんと一緒に居られれば満足…だなんて思えない。誰よりも一緒に居て欲しいし、一緒に居る時は沢山大事にして欲しい。

でもそれはそれとして、夏祭りというチョイスはハズレだった。
何も楽しくなかったな……早く帰ろう。あ、途中でコンビニ寄って美味しいアイス買おう。しろくま食べたい。

「お兄ちゃんコンビニ行こ!しろくまアイス食べる!!」
「それ前に買って量が多いって食い切れなかったやつだろ」
「じゃあダッツのバニラ!」
「ピノとかにしろ」

ああいう小さいやつはアイス食べたって気持ちにならないんだよ、私はカップにギッシリ入ってるアイスが好きなんだ。
でもお兄ちゃんが「ピノ」って言うのなんだか可愛いからピノの気分になってしまった。

わたあめの袋の口を縛って立ち上がった兄に合わせて私も立ち上がる。

そうだ…私は夏祭り楽しめなかったけど、恵くんはやっぱり子供だしこういうの楽しめるんじゃないかな?会ったこと無い人間が言うのもあれだけど。

「今度は恵くんも連れて来てあげようね」
「あー……機会があればな」

私の歩調に合わせながら歩く兄に嬉しさを感じながら、花火なんて見ずに帰路につく。

夏が終われば秋が来る。

秋の始まりに終わる自分のことを、この時の私は既に何処かで予感していたのだった。
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