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番外編

なんと、人を待っていたら今度は私がナンパをされている!
よりにもよって私を選ぶとは…どうしよう……世も末だ。
若干の面倒臭さを感じながらも、一般人相手ということで穏便に対話にて事を済まそうとお断りの決まり文句を口にする。

「私、彼氏がいるので!」
「何処に?さっきから一人で居たじゃん?」
「いや、えっと…その、うーん……うーん…概念的な……」
「やっぱ居ない感じだ?」

ろくろを回す動きをしながら「彼氏」の概念を生み出そうとして失敗した。
居ない、はい、そうですね。居ませんね……。
居ませんでした、嘘つきましたね…。
可笑しいな、彼氏居るって言えば引き下がるもんなんじゃないの?え~、こういうのよく分かんないからどうしたらいいんだ?意識か記憶でも奪うか?
ムムム……と悩み続けていれば、相手の男が私の肩に手を触れた。

「暇っぽいし、ちょっと付き合ってくれない?」
「うーむ……(しかし意識を奪うと周囲の目線が…)」
「ね?ちょっとでいいからさ」
「うーむ……(あ、即席で洗脳とかどうかな?)」
「聞いてる?」
「うーむ……(まずは前頭葉の神経回路を切断するために…)」

私の肩を抱いてくる男にさてどうしたものかと悩んでいれば、「すみません遅れました」と声がして振り返る。

「おや七海くん、お疲れ様」
「お疲れ様です……そちらの男性は?」
「わかんない、そういえば誰なんだろね?お前誰?」
「………」

七海くんは眉間にシワを寄せ、男から私をベリッと引き剥がしてこう言った。

「この人が失礼しました」
「え、いや……」

は???
失礼してたのはこの男なんですが?え、待って、可笑しいよ。私はナンパされて困ってた側なんだけど。

「待って待って七海くん違うよ、私ね、ナンパされてたんだよ」
「分かりましたから、行きますよ」
「ねえ、本当だよ?嘘じゃないんだよ?」

無言で私の肩を無理矢理押して七海くんはその場から移動する。
前々から思ってたけど七海くんってさあ…雑だし態度悪いよね、私先輩なんですけど、仮にも一級術師でハイパー天才生命体なんですが。

「もっと危機感を持って下さい」
「なんで?」
「面倒なので灰原に聞いて下さい」
「なんで?」

七海くんが言い出したことなのに?
えー……まあいいや、後で灰原くんに尋ねよう。


ということで、高専に帰還後 湯上がりほこほこな髪がまだ濡れている灰原くんを強引に引っ捕らえ問い詰めた。

「質問タイムだよ!」
「先輩、嬉しいけど暑いから離れて欲しいかも…」
「ごめんね!!」

それは失礼しました、と言うことで気を取り直して質問をば。
投げ掛けた質問に対し、灰原くんは頭を拭きながら悩み唸り、最終的に滅多にしないような渋い顔をして言った。

「先輩って……他人の性別ちゃんと意識してますか?」
「……………」
「……………」
「……人間は人間では?」

そうなっちゃうかー、そうだよね……知ってたけど…。灰原くんは何やら一人で納得していた。
一応弁明しとおくと、流石に皆の性別くらいは理解しているし、性別の壁や意識の問題、配慮すべき点についての知識はあるよ。それら一切をとくに気にしていないだけで。

「ちゃんと断らないと合意だと思われちゃいますから、断りましょうね!」

なるほど、確かにそりゃいかんな。
よし、今度からしっかり断ろう。

「あと彼氏じゃ無くて妻が居るって言って下さいね!」

あ、はい……そうさせて頂きます…。
妻と言われて途端に「嫁にナンパされたことを武勇伝のように語る夫」の気持ちを味わい、感情が抜け落ちスンッ…と真顔になった。
私、どんどん灰原くんに敵わなくなっていっている気がする…いかん、これはいかんぞ。由々しき事態。

このままでは「弱点:妻」とかいう嫁に頭の上がらない夫キャラになってしまう!!
いや、私は夫じゃないけど!
妹属性を売りにしてるはずなんだけど!!

灰原くん……油断ならぬ、恐ろしい子だ……。
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