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番外編

夏油くんが呪霊団子を食べる横で、私もポリポリと鉱物を口に運んでいたら、一瞬夏油くんがむつかしい顔をしたので気になった。
それ、味あるんだ。思わず口をついて聞いてしまったのは、お団子のことをずっと気になっていたから。

「呪霊のお団子って何味なの?」
「とにかく不味い」
「口直しいる?」
「口直し?」

ポケットに入っていた飴を袋から取り出し、自分の口に含む。あ、わざとらしいパイナップル味。

「美味しい」
「君が食べるんだ」
「いる?」
「いる」

もう一粒取り出し、袋を破る。私は優しい子なので疲れているであろう夏油くんに食べさせてあげようと、唇に飴をふにっと押し付けた。口を開けろとグニグニ押し付けるが、中々唇を開いてくれない夏油くんの顔が、キョトンとした表情から徐々に口角を上げて笑みを作る。
キツネのように目を細め、ニコニコと微笑みながら何故か口を開かない夏油くんは完璧にこの状況で遊ぼうとしている。
夏油くんはこういう所がある、意味が分からない言動は勘弁して欲しい。理解し難い人間は苦手だ。

「夏油くんあーんだよ、あーん」
「………」
「いいもん、私が食べちゃうから」

一向に口を開かないものだから、押し付けていた飴をパクっと食べてしまう。
うえ、抹茶味とパイナップル味が混ざって変な感じだ。

「飴くれないんだ?悲しいな」
「口開けてくれないんだもん」
「口直し、したかったのに」
「可愛い子ぶっても、もう無いよ」

ポケットを探るが飴は無い、口を開いて舌の上にある飴を見せ付けてやれば、夏油くんは何を思ったのか私の両頬をムギュッと大きな手で固定してくると、ズイッと顔を近付けて来た。

そして、そのまま口内の飴を二つともかっ拐われた。
口に口をくっつける形で。
私の口の中を舌が這って出ていく、色んな味が混ざって味覚が混乱を引き起こした。

飴を奪い取った夏油くんが口を離し、顔を離し、見せ付けるようにガパリと大口開いて飴を舌の上で転がして見せる。
あまりの事態に思わず一瞬思考が飛ぶ、次いで荒れた感情が胃の奥から迫り上って来た。
こ……こ、コイツ!!許せない!許せないぞ!これは許してはならないことだ!!
ワナワナと震えながら、高い位置で私を勝ち誇った顔で見下ろすチョロチョロ前髪男の瞳を睨み付け、言葉をぶつけた。

「全部取らないでよ!最後の二個だったのに!!」
「そっち?」
「一個返せ!!!」

そっちってどっちだ!!キスか!?たかだかキスの一つくらいでゴタゴタ言うような人間だと思うなよ!!いいから飴一個返せよ!!!
顔面目掛けてビャッと飛び上がって襲いかかれば、軽くキャッチされ、地面から足が離れたまま爪先がプラプラと揺れる。
夏油くんは不服そうな笑みをした後に、少し考えてから……咀嚼しだした。
私の目の前で、ガリガリゴリゴリと音を立てながら無情にも飴が砕かれていく。
私の飴が……私の、おやつ……。

「夏油くんは人の心を失いし者なの?」
「ごちそうさま」

ご馳走さまじゃ無いよ、何わろてんねん。私の飴なんだけど、夜蛾ティーから貰ったやつなんだけど。五条くんだって返せって言ったら「やれるもんなら、やってみな」ってチャンスをくれるのに、慈悲って言葉知らないの?
信じられん、コイツ。何楽しそうな顔してんだ、おいお前の口の中めちゃめちゃ不味かったぞ、ほぼゲロみたいな味だったぞ、ふざけるなよ。
五条くんに言いつけてやるからな。


ということで、帰宅後。
教室に居た五条くんに「夏油くんが口の中に入ってた飴取った!口くっつけて取った!うわーん!」と泣きつけば、五条くんは教室を飛び出して行った。
あまりの速さに、その場には風だけが取り残される。いや、泣いてるんだから慰めろよ。どっか行くな。

何処かから破壊音が響いてくる。
多分最強親友コンビがまた些細な事で暴れ散らかしているんだろう、拳で語り合わないと意思の疎通が叶わないなんて難儀なものだ。

何はともあれ、今日も皆元気で良いことである。
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