ナマコ一匹分の癲狂
バシッと頬を思い切り打たれ、痛いと思った次の瞬間には倒れることを許さないと言わんばかりに胸ぐらを掴まれ揺すられながら怒声を浴びせられた。
「お前、何してんだ、しっかりしろ!!!」
「……え、あっ…え?え?」
「頼むからしっかりしてくれ、そんで今すぐ何とかしろ!!!」
勢い良く顔に飛んで来る飛沫は唾液なのか涙なのか汗なのかよく分からないが、顔をグッチャグチャにした五条くんはブチギレながら怒鳴り続けている。
………何だ、どうしたんだ?何が起きていた?
必死に何があったか思い出そうとするも、支離滅裂で混乱するしかない夢を見ていたような気がする…ということしか思い出せなかった。
随分あやふやな感覚に陥っていたような…まるで水銀中毒にでもなったみたいな……ああいや、そんなことはどうでもよくて、今はそう‥夏油くんだ!夏油くんを引っ捕らえなければ!!
「夏油くんどこ!?追い掛けなきゃ!」
「そこでくたばってんのが傑!!見てわかんねえの!?」
「え………なんで……?」
「お前がやったんだよ!!!」
私の胸ぐらを掴みながらガックンガックンと揺すり、指を差し示す五条くん。
揺すられ酔いそうになりながらも指差す方へと顔を向ければ、血溜まりでピクリともせずに沈黙している夏油くんの姿があった。
え、なんで?私がやったの??夏油くんを??なんで??
サアッと一気に血の気が引いていく。
五条くんを押して夏油くんの元へと駆け寄り状態を見る。
身体は温かい、が………脈が弱い、そんな、そんな……
「ごめん夏油くん!殺すつもりは無かったの!」
「いいから早くなんとかしろって!!」
衣服を裂いて身体を診る。
内臓が破裂して内出血をしている。
それにこれは…セレンか?彼の体内を蝕む成分に元素の一つであるセレンを多量に感じ取る。
セレンは少量であれば必要栄養素であるが、量によっては毒にもなりうる物だ。
彼から検出されるセレン濃度が高すぎる、それに他の毒素…ヒ素なんかも感じ取れるし、この傷口の茶色はなんだ?ガリウムによる変色か?
これを…私がやったのか……?
余すこと無く身体中を私の術式によって生み出せる鉱物や元素を主体とした毒で犯されていた。
混乱と焦りを無理矢理飲み込み、こうなっては仕方無いと応急措置を始める。
「い、一度……仮死状態にします……」
これは夏油くんの身体だから持っているようなものだ、脊髄をマヒさせ仮死状態にさせなければ持たないだろう。
早く研究室に運ばなければ…いや待て、研究室はまだあるのだろうか。
「ご、五条くん……私の研究室ってまだある…?」
「………片付けるって俺は聞いたけど…」
ま、マジか……ってことは保存してある色んな希少鉱物や薬品や設備は…あ、実家かも…?
もし無くても実家の裏山には色々隠してあるから、それを掘り出せば何とか…きっと皆のこと驚かせてしまうかもしれないけど迷ってはいられない。
「夏油くんを禪院家に運んでそこで処置する」
「家着くまでに間に合わなかったら……」
「間に合わせるよ、大丈夫」
服の下に隠し持っていた医療用道具を幾つか取り出してから上着を脱ぐ、夏油くんの血管に針を刺し輸血の準備をし始めた。
自分の脇の下近くの血管に刺さるように針を刺して、自分に流れる血液の変わりとなる体液を夏油くんに送りこんでいく。
代替血液と呼ばれるこの液体は、100%人工物で出来ている。人工赤血球を主体としたこの血液製剤は、誰にでも輸血出来る血液の型であるO型のRhマイナスなため非常事態の時はこうして相手の血液型を知らずとも輸血可能だ。
そもそも私の身体は全て他者のパーツとして再利用可能なように作られている、皮膚も髪も血も眼球も全てだ。この身は"もしも"のための消耗品、だから夏油くん一人であれば家までは持たせることは出来るだろう。
ジャバウォックの背に夏油くんと五条くんと共に乗り実家を目指す。
最短距離で走り続ければどうにかなるだろう、呪力はストックしてある結晶で…それが尽きたら私の物を直接流しこみ続ければいい。
「頼むからイカれるなよ、可笑しくなるのは傑どうにかした後にしてくれ」
「分かってる、大丈夫」
「つーか……今更だけど、お前やっぱり死んで無かったんだな」
「……そうだね」
死んでないよ、死ねなかったよ。
お兄ちゃんの言葉のせいで、今回もまた私は続いてしまった。狂った愛を断ち切れなかった。
気を抜くと耳の奥からでたらめな歌が聞こえてくるような気がして頭を振る。
私を見ろと訴える幻想の声が聞こえる。
ダメ、今はお兄ちゃんのこと考えちゃいけない。お兄ちゃんのことに気を向けると 私、おかしくなる。
ジャバウォックにしがみつき西へ向けて駆けて行く。
揺れる怪物の背の上で、夏油くんに言われた言葉を思い出した。
「化け物」
…そうだよ、気付くのが遅かったね夏油くん。
君が人間として大切にしようとしてくれた私は、人間ではないんだよ。
人間ではないから…もう二度と、私のことなんて大切にしようとしなくていいよ。
化物と人間。
やっぱり私達、友達になんてなれなかったね。
「お前、何してんだ、しっかりしろ!!!」
「……え、あっ…え?え?」
「頼むからしっかりしてくれ、そんで今すぐ何とかしろ!!!」
勢い良く顔に飛んで来る飛沫は唾液なのか涙なのか汗なのかよく分からないが、顔をグッチャグチャにした五条くんはブチギレながら怒鳴り続けている。
………何だ、どうしたんだ?何が起きていた?
必死に何があったか思い出そうとするも、支離滅裂で混乱するしかない夢を見ていたような気がする…ということしか思い出せなかった。
随分あやふやな感覚に陥っていたような…まるで水銀中毒にでもなったみたいな……ああいや、そんなことはどうでもよくて、今はそう‥夏油くんだ!夏油くんを引っ捕らえなければ!!
「夏油くんどこ!?追い掛けなきゃ!」
「そこでくたばってんのが傑!!見てわかんねえの!?」
「え………なんで……?」
「お前がやったんだよ!!!」
私の胸ぐらを掴みながらガックンガックンと揺すり、指を差し示す五条くん。
揺すられ酔いそうになりながらも指差す方へと顔を向ければ、血溜まりでピクリともせずに沈黙している夏油くんの姿があった。
え、なんで?私がやったの??夏油くんを??なんで??
サアッと一気に血の気が引いていく。
五条くんを押して夏油くんの元へと駆け寄り状態を見る。
身体は温かい、が………脈が弱い、そんな、そんな……
「ごめん夏油くん!殺すつもりは無かったの!」
「いいから早くなんとかしろって!!」
衣服を裂いて身体を診る。
内臓が破裂して内出血をしている。
それにこれは…セレンか?彼の体内を蝕む成分に元素の一つであるセレンを多量に感じ取る。
セレンは少量であれば必要栄養素であるが、量によっては毒にもなりうる物だ。
彼から検出されるセレン濃度が高すぎる、それに他の毒素…ヒ素なんかも感じ取れるし、この傷口の茶色はなんだ?ガリウムによる変色か?
これを…私がやったのか……?
余すこと無く身体中を私の術式によって生み出せる鉱物や元素を主体とした毒で犯されていた。
混乱と焦りを無理矢理飲み込み、こうなっては仕方無いと応急措置を始める。
「い、一度……仮死状態にします……」
これは夏油くんの身体だから持っているようなものだ、脊髄をマヒさせ仮死状態にさせなければ持たないだろう。
早く研究室に運ばなければ…いや待て、研究室はまだあるのだろうか。
「ご、五条くん……私の研究室ってまだある…?」
「………片付けるって俺は聞いたけど…」
ま、マジか……ってことは保存してある色んな希少鉱物や薬品や設備は…あ、実家かも…?
もし無くても実家の裏山には色々隠してあるから、それを掘り出せば何とか…きっと皆のこと驚かせてしまうかもしれないけど迷ってはいられない。
「夏油くんを禪院家に運んでそこで処置する」
「家着くまでに間に合わなかったら……」
「間に合わせるよ、大丈夫」
服の下に隠し持っていた医療用道具を幾つか取り出してから上着を脱ぐ、夏油くんの血管に針を刺し輸血の準備をし始めた。
自分の脇の下近くの血管に刺さるように針を刺して、自分に流れる血液の変わりとなる体液を夏油くんに送りこんでいく。
代替血液と呼ばれるこの液体は、100%人工物で出来ている。人工赤血球を主体としたこの血液製剤は、誰にでも輸血出来る血液の型であるO型のRhマイナスなため非常事態の時はこうして相手の血液型を知らずとも輸血可能だ。
そもそも私の身体は全て他者のパーツとして再利用可能なように作られている、皮膚も髪も血も眼球も全てだ。この身は"もしも"のための消耗品、だから夏油くん一人であれば家までは持たせることは出来るだろう。
ジャバウォックの背に夏油くんと五条くんと共に乗り実家を目指す。
最短距離で走り続ければどうにかなるだろう、呪力はストックしてある結晶で…それが尽きたら私の物を直接流しこみ続ければいい。
「頼むからイカれるなよ、可笑しくなるのは傑どうにかした後にしてくれ」
「分かってる、大丈夫」
「つーか……今更だけど、お前やっぱり死んで無かったんだな」
「……そうだね」
死んでないよ、死ねなかったよ。
お兄ちゃんの言葉のせいで、今回もまた私は続いてしまった。狂った愛を断ち切れなかった。
気を抜くと耳の奥からでたらめな歌が聞こえてくるような気がして頭を振る。
私を見ろと訴える幻想の声が聞こえる。
ダメ、今はお兄ちゃんのこと考えちゃいけない。お兄ちゃんのことに気を向けると 私、おかしくなる。
ジャバウォックにしがみつき西へ向けて駆けて行く。
揺れる怪物の背の上で、夏油くんに言われた言葉を思い出した。
「化け物」
…そうだよ、気付くのが遅かったね夏油くん。
君が人間として大切にしようとしてくれた私は、人間ではないんだよ。
人間ではないから…もう二度と、私のことなんて大切にしようとしなくていいよ。
化物と人間。
やっぱり私達、友達になんてなれなかったね。