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ナマコ一匹分の癲狂

空を羽ばたく怪鳥を追い出した我々は早々に別行動を取った。

手持ちの鉱物生命体がナマコ型のラボ33号とジャバウォック2号の二体であるため、迷わずジャバウォックを選び取る。
赤い宝石を目前へ向かって投げれば、鋭い鉤爪とらんらんと光る眼が特徴的な、コウモリの羽を持つ巨体の怪物が姿を現した。

「久しぶりだね、ジャバウォック2号」

優に3メートルはあろうその身によいしょよいしょとよじ登り、しがみついて対象を追うように命じれば、私の愛しい怪物は一度天へと向かって咆哮を上げてから一気に駆け出した。

ビュンビュンと風を切りながらビルの上を飛ぶように駆けていく。
細かな指示を出しながら追跡を続けていれば、どうやら市街地からは離れていっているようで、これでこちらも遠慮無く攻撃行動が出来ると身を乗り出した。

「ジャバウォック、なるだけ近付けて」

ポケットに手を突っ込みビー玉程の大きさをした球体を幾つか取り出す、自身の身をジャバウォックに片手を使って支えて貰いながら、呪力を込めて夏油くんを乗せる怪鳥へ向かって思い切り投擲した。

ヒュンッと、風を切る音を伴い投げられたビー玉のような物が対象に近付いた瞬間、タイミングを見計らって「発火」と口にする。

刹那、そこそこ大きな破裂音と共に空に火花が散った。
赤々とした火花は気流の流れによって怪鳥へと襲い掛かる…が

「イマイチだねぇ……」

見た目は派手な攻撃であったが、威力は微妙だったらしく、あまり目ぼしいダメージにはなっていない様子であった。
まあ仕方無いか…所詮は実験的に作ったニッケルを微粉末状にした物を主体成分とした爆弾擬き。そんな物でアレを何とか出来るとは端から思っちゃいない。
まあ別にいい、今のは挨拶みたいなものだ。こちらには攻撃意思があるということが伝わればいい。

なんだかこうしてジャバウォックと一緒に戦っていると、お兄ちゃんを殺そうとしたあの日を思い出す。
私、いつも誰かしら、何かしらを追い求めている気がするのだが…気のせいだろうか?

そんなことを考えていたせいだろうか、夏油くんの黒いシルエットが兄の背中にダブって見えた。

「ああ、これ終わったらお兄ちゃん探しに行かなきゃ…」



それは、兄のことに思いを馳せた時であった。



瞬間、まるで思考にノイズが走るように、一瞬だけ視界をザザッと砂嵐が覆い尽くす。

私は頭を振って可笑しな幻覚をやり過ごそうとする。
だがしかし、理由も分からぬまま視界はどんどんと砂嵐に覆われたり、謎のテーブルを写したりと意味の分からない、理解の範疇を超えた状態へと陥っていく。

心が乱れる、思考がブレる。
まるで脳髄が掻き回されるかのような。


どんどんと、へんてこな世界におちていく。


自分の思考が妙なことになっていることに気付いた私は、目を擦ったり深呼吸をしたりと身を落ち着かせるために色々なことを試してみた。
落ち着け、落ち着け、落ち着ケ。


…砂嵐の奥、「私を見ろ」と誰かが呼び掛ける。


落ち着ケ、落ち着け、關ス着け。

「あれ、あレ……?」

だがしかし、依然として不可思議な状態は続くばかりである。それどころか、耳鳴りまでしてきたではないか。

いけない、駄目だ、しっかりしてくれ。
夏油くんを追わなければ、そうだ、五条くんのためにも夏油くんを取っ捕まえなければ。


なんで、五条くんのタめニ……?

……あれ、なんでだっけ。

どうしてだっけ。
おかしいな。
急がなきゃいけないのに、ああ、いそがしい、いそがしい。

……なんで忙しいんだっけ?

あれ、そもそも私何で五条くんのために夏油くん追ってるんだっけ?



……………あれ?



あれ、そもそも私何で五条くんのために夏油くん追ってるんだっけ?


あれ、そもそモ私何デ五条くんのために夏油くン追ってるんだっケ?


あレ、そもそモ私何デ五条くんのタめに夏油くン追ってるんだっケ?


あレ、そもそモ私何デ菴輔〒莠疲擅縺上s縺ョ縺溘a縺ォ螟油くン追ってるんだっケ?


………あれ?

思考が霞む、視界がザラつく。
私、今何を考え、何を見ている?
見えている世界は、正しい世界?


あレ、そもそモ遘何デ輔〒莠疲擅縺上s縺ョ縺溘a縺ォ螟油くン追ってるん縺?縺」縺托シ?


縺ゅΞ縲√◎繧ゅ◎繝「遘∽ス輔ョ闖エ霈斐?定滋逍イ謫?クコ荳奇ス鍋クコ?ョ邵コ貅假ス∫クコ?ォ陞滓イケ縺上Φ霑ス縺」縺ヲ繧九s縺?縺」繧ア?


………あれ?


だっケ?そもそモ夏油くん縺ゅΞ縲∫ァ∽ス輔ョ莠疲擅縺上s縺ョ繧ソ繧√↓オッてる私、


………縺ゅl窶ヲ窶ヲ窶ヲ?


私遘√?∽コ疲擅縺五条くん上s縲∝、乗イケ縺上s夏油くん縲√↑繧薙〒なんで縲∬ソス縺」縺ヲ縲√k追って繧薙□縺」るんだ縺托けシ、


…………
………
……



鼻先が紅茶の香りを感じ取った。
テーブルの上に美味しそうなお菓子が置いてあるのに気付いた。
「私を見ろ」と、誰かが肩を叩くから、そちらを振り向けばアリス(わたし)が居た。


……あぁ、そうだった!


ぱちんっ、手を一つ叩けば、耳に楽しいメロディーが流れてこんでくる。

私はそれに合わせて機嫌良くお誕生日じゃない日おめでとうの歌をうたったの。


「なんでもない日、バンザイ!」

楽しい。
こんなにうれしくてたのしいのはひさびさだ。

「乾杯しよう! 祝おう! おめでとう!」

嬉しい。
おともだちがいて、おにいちゃんのせなかがみえて、とってもうれしいひだ。

「なんでもない日バンザイ!」

バンザイ!バンザイ!バンザイ!


そうだったそうだった、私はお兄ちゃんとお茶会しなきゃいけないんだった。そう決めたんだった。
ずっとずっと永遠に6時を差す時計を見ながらね、終わらないお茶会をするの。
それでね、ティーカップに飽きたら席をずらしてね、ナゾナゾをして、歌をうたって、お話をして…マのつく物しか書いちゃいけない絵を描く会なんかもしちゃって。


私はくふくふと笑い声を漏らしながらジャバウォックに元気良く命じて見せた。

「ジャバウォック!あそこに居るお兄ちゃんを捕まえて!!」


指差す先には兄の背中が見えている。

その時の私には、彼の背が兄の物に見えていたのであった。
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