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ナマコ一匹分の癲狂

夏油くんを挟んでやや前方にいる五条くんが、サングラスの下からこちらに熱く鋭い視線を送って来た。
厳しい眼差しに含まれた様々な感情は、こちらの感情にも焦りを生じさせる。が、それを飲み込み、一つ頷いた後に素早く夏油くんの後方を陣取って見せた。

「あれ…おかしいな、君さっきまで私と仲良くしていたよね?絶対悟より私とのフラグの方が多かったよね?」

五条くんと私に前後を塞がれた夏油くんがふざけたように言う。

「は?何??お前俺の許可無く傑と仲良くなってんじゃねぇよ」

ポケットに手をツッコミながらイラ立つままに五条くんが理不尽なことを言う。


私は彼等のやり取りに焦りを忘れて思わずニコニコしてしまった。

良かった~~!!夏油くんが居るお陰で私への怒りが半減されている気がするぞ!これなら最悪のパターンである絶交は免れそうだ。
よし、夏油くんには悪いが、ここは彼に生け贄となって貰おう……うむ、本当に申し訳ないが仕方ない、だがしかし人生時には犠牲が必要なのだ…。
安心してくれ、君のこと…忘れないよ。

私はズッ友(ずっとこの先も君だけが私の真の友達)である五条くんにキレのあるサムズアップをする。

「私、永遠に五条くんの味方だからね!」
「…で、傑とは?」
「仲良くなってないよ!」
「なら良し」

夏油くんが「良しじゃ無い」とかなんとか言っているが知らない知らない知らないもーん!!
背後から夏油くんの背に素早く突撃し、彼をヒシッと捕まえる。
五条くん!私の勇姿見てる!?裏切りの親友より私の株の方が上がってる!?うをおおお!絶対離さんぞ夏油傑!お前を犠牲にして私は勝つ!!

「あのね、当たってるよ」
「成分の大体はシリコンや炭素繊維だよ!」
「一気に有り難みが無くなった」

私の身体は8割が強力な人工の物である炭素フレームや炭素繊維、もしくは鉱物素材に置き換えられている、だから今夏油くんが一瞬喜んだ二つのぽよぽよも有り難い脂肪では無い、残念だったな。
それにしても…コイツ硬いな、私の周りの男みんな硬い、硝子ちゃんの女の子特有のやわこい身体が恋しいよ…。

ひっぺがそうとする夏油くんと、離すまいとしがみつく私達は往来のど真ん中でワチャワチャし出すこととなった。
「離しなさい!」「やだよ!」「こら、胸を鷲掴まないでくれ!」「やだよ!」「やだくない、メッ!」
そんな様子を見せられていた五条くんはまたしても心を荒立たせていく。

「傑からブッ飛ばすつもりだったけどお前からにするわ」
「なんでえ!?」
「ほら、悟が待ってるから離れて」
「やだあ!!!!」

なんでよー!!?こんなに頑張ってるのに!?今にもこの前髪チョロチョロ男のゴリラ腕力に負けそうになってるのに、必死に食らい付いてる健気なこの姿が見えないのか!?
てか、思い出したけど、そもそも五条くんが自分が忙しいことを理由にヤバめの親友の世話を押し付けてきたせいで私が処刑される羽目になったんだが!?
そこのとこどうなんですか、私 凄く頑張ってると思うんですが!頑張り過ぎて砕けた挙げ句に、愛しのお兄ちゃんを見失ってしまったんですが!
おい聞いてるのか白髪綿毛丸グラサン!!ちょっと何私を放って親友と見つめ合ってんだ!!いい加減にしろよお前ら、あとで絶対泣かすからな!!!

「見つめ合ってんじゃないよ!」
「違うよ、睨み合いの間違いだから」
「絶対泣かしてやるからな!!」
「既にお前が泣いてんじゃん」

泣いてないし、全然大丈夫だし。

段々周囲からの視線が厳しくなって来たので、五条くんは「場所変えんぞ」と言い出した。
勿論私は同意する、が、しかし夏油くんは抵抗しようと私を再度ひっぺがすために力を込めて来た。
先程とは打って変わって本気で力を込めてこちらを離そうとする夏油くんに対抗するため、全身に呪力を回してしがみつく。

だがしかし、やはり夏油くんの力は半端なものじゃ無かった。
マズイ、このままでは負けてしまう…!ここは仕方無い……本当は部屋に居座り続けるために使うつもりだった奥の手を使うしか無いようだ。

私はぐっと上を向き、彼に向かってこう言った。

「五条くんの言うとおりにしないと、夏油くんの恥ずかしい秘密をここで暴露するよ!!!」
「なっ……」
「君の隠された性癖について叫ぶよ!!!」
「何故知っているんだ!!?」

それは君を監視していたナマコ型鉱物生命体 ラボ33号を私の母体にしたからだよ、ラボ33号が保存していた君のどうでもいい情報の一部が私と繋がってしまったせいだね。すまないね……君のお気に入りAVタイトルを知ってしまって…『闇の同級生調教日記~グチャグチャになっても帰さない~』だったっけ。知ってしまったのは不可抗力なんだ、でも結構その…は、激しいのがお好きなんだねぇ……肉体開発…なるほど……いや何でも無いよ。

「おいマジでそういうのいいから、早く移動しようぜ」
「ほら、夏油くん我が儘言わないで」
「……………」

我々の言葉に物凄く不服そうな顔をした夏油くんは、身体を一度脱力させた。
抵抗を諦めたのかな?と思った私も少し腕から力を抜く。

だが、その判断は間違いだった。

正しく瞬きの間、咄嗟のことである。

巨大な鳥の形をした呪霊を出した彼は、私を押し退けると空へと向かって逃げ出した。

巨大な鳥が羽ばたく風圧が私を襲う。

「うわっ!」

強い風から身を守るために両腕を前に出して身を庇うも、風圧に負け後ろに向かって倒れそうになった。そんな身体を五条くんが支えてくれる。
耳元で五条くんが夏油くんの名を叫ぶ声が聞こえる。
私は彼が逃げて行った空を見上げて奥歯を噛み締めた。

「おい、追うぞ」
「…………」
「聞いてんのか、追うからな」
「……分かってまーす」

分かってるよ、大丈夫だよ五条くん。

私は喉まで込み上げて来た苛立ちを飲み込んで了承の意を伝える。

腹の中、おへその辺りがグルグルしている。
私は五条悟の味方、君は大切で大好きな友達。
夏油くんは友達なのかも分からない奴。
だから私は五条くんが求めるままに走り出す、呪いと共に空へ逃げた彼を捕らえるために足を前に出す。

私は以前、彼に「人はもっと思うがままに生きるべきだ」「だから夏油くんも多少は我儘になるべき」と言ったことを記憶している。

確かに言ったがこういうことをしろって意味じゃ無いんだよ。
違うんだよ、私は……私をただの人間として見て扱い、高い所に押し上げようとも、こちらに何かを望むこともしなかった君には、君だけには私も同じ気持ちでいられたんだ。
同じただの人間の、異性の、緩やかに穏やかに一緒に居ることが出来る相手であれたんだ。


けれど、君が私達との対話を拒み、逃げるというのなら話は別だ。


新しくなった強い肉体で無理矢理人混みを駆け抜けていく。
高い所へ行くのは君の役目じゃない、孤独になるのも君のすべきことではない、それら全ては私が成さねばならないこと。
私こそが五条悟から望まれていること。

だから、孤独の道を選ぼうと空へと逃げ出した君を今から撃ち落とす。

君がそれを望んでいなくとも、五条くんが望んでいるから

私は自恃を持って我が道を行く狷介となる。
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