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ナマコ一匹分の癲狂

頭に耳、首からはポップコーンバケツ、手にはカメラを持った私は、可愛い幼女二人がパークの住人と握手をしている姿を様々な角度から撮っていた。

いいよいいよ、可愛いよ!!
あーーー!!照れてる笑顔可愛いよ!!
呪霊もその可愛さで殺せるだろ!!
可愛いノーベル賞受賞!!!

「はい、ベストショット撮れました!」
「先輩!僕ポップコーンバケツ預かってます!」

横からスッと差しのべられた手に私はすかさずポップコーンを押し付ける。

「ありがとう、助かるよ」
「妻なのでこれくらい当然です!」
「いや待ってくれ、何故灰原が……?」

現在、我々反高専勢は某巨大テーマパークに来ていた。
いやあ……凄いね、正直「いうて、ただのテーマパークやろ」と馬鹿にしてた己を恥じました。私が悪かったです。凄い楽しいです。
てかよく夏油くん着いて来たね、大丈夫?さっきめちゃめちゃヤバそうな顔してたけど…まあ本人がいいならいいか。


始めに入ったお店でミミちゃんナナちゃんが選んでくれたカチューシャを身に付け、そこから全てが吹っ切れましたね、全力で楽しむことにしたらまあ楽しいこと楽しいこと……。

「で、灰原くんが何だって?」
「いや、どうして居るのか……」
「呼んだからだよ」
「呼ばれました!」

ねー!と、二人で顔を見合わせ笑い合う我々に、夏油くんは訳が分からないと言いたそうな顔をしてくれた。

ううん…まあ仕方無い…一から説明していくとしましょうか。

そもそも私は高専の方では「自害」したということになっているはずである。
で、あるならば……私の貯金から始まる財産の大体は家の管理下に置かれてしまっていることだろう。
そうなれば、復活後に好きに使うことは困難だ。なので、私は事前に財産の一部を様々な場所に預けたり隠したりしていた。その一つが、灰原くんの元…というわけである。

いやあ助かった、ナイスだよ灰原くん。
私は彼にアポイントメントを取って財産の一部を持って来るよう頼んだ、そして頼む時に理由を話せば、彼も夢の国に行きたいと言うので……ま、まあ…ほら、彼には日頃からお世話になっているので……たまにはね、たまには…これくらいはね……。

そこまで説明して、チラッと灰原くんを見やれば、嬉しそうにニコニコ笑って私を見て来た。
思わず喉に何かが詰まったように「ウッ」となって仰け反る。
今日も眩しい…ハピハピオーラ大全開の後輩が金星よりも眩しい……。
そしてそう思ったのは私だけでは無いらしく、同じく淀んで歪んだ属性持ちの夏油くんも「ウッ」となっていた。確かに君が羨ましい、君になりたいとか言ったけど、こんな所で同じになりたくなかったわ。もうちょい違うリアクションしろ。被るな。

「先輩と出掛けられて嬉しいです」
「ヨカッタネ…」
「はい!!」
「ウゥッ」

おい、誰かコイツの輝きを止めろ!!
夏油傑!お前に言ってるんやぞ!!何一人パークのマップ見る作業に戻ろうとしてるんだ、させないぞ!!

「私は関係無いだろ!そもそも君の嫁だろ、君が何とかしてくれ!!」
「違うから!嫁じゃないから!!」
「でも正ヒロインアンケート堂々の一位だったじゃないか!」
「それはそう!!!」

アンケート一位おめでとう灰原くん!!!沢山票が入って良かったね!!!(※2021年9月24日時点での結果です)

「でも、死んだら嫁にしてあげるって先輩が……」
「あ、や、はい……あの、はい…今のは言葉の綾ってやつで……」
「先輩にとって僕って…やっぱり都合の良い後輩…」
「違うよそんなこと無いよ!?嫁だよ!妻だよ!!マイワイフ!!私の可愛い奥さんです!!!」

あーーー!!!笑顔を曇らせないで!!七海くんに八つ裂きにされるから、私が。
何で私、テーマパークに来て全力で後輩の御機嫌取りしてるんだろ……こちらを見ていた知らない人々やパークの住人が祝福の視線を投げ掛けてくる。
やめろ、見るな、見せもんじゃないから、おい、拍手するな、誰だ今「お幸せに!」っつった奴、実験台にするぞ!

そ、それはそれとして、灰原くんには来て貰って良かったことは確かである。
私は子供の扱い方とかよく分からないし、夏油くんもイマイチ分かって無いけど、灰原くんは妹の居るお兄ちゃんだからね。双子ちゃんともすぐに仲を縮めて楽しそうに緊張感無く話していたから流石だなと尊敬したよ。

「私も灰原が来てくれて良かったと思ってるよ」と、夏油くんが意味深な笑みを浮かべて言うので「どうして?」と一応聞いておく。

「私一人じゃ君の制御が出来ないからね」
「そういうこと言うと暴走したくなる」
「絶対やめろ」

やめろと言われるとやりたくなるのが人間ってもんだが、今日は流石にやめておくことにした。
別に人目を気にして……って問題では無く、既に灰原くんのあれそれによって大分精神力を削られてしまったので…今日は勘弁しといてやるよ……命拾いしたな。


ミミちゃんナナちゃんと手を繋ぎ前を歩いて行く夏油くんの後を歩く。

ポップコーンを勝手に食べながら隣に居る灰原くんに、少しトーンを落とした声で話掛けた。

「お兄ちゃんがさ」
「はい」
「私が壊れた時、次はちゃんと愛してやる…って言ってたんだよね」
「……でも、お兄さん行方不明ですよ」

そうらしいね。
あの人、無責任だから仕方無いね。

ボンヤリと、自分の輪郭が朧気になるような心地がした。
夢の国の魔法にかかっているからか、はたまた別の呪いにでもかかっているのか。それとも単純に私が可笑しいだけなのか。

「先輩?」

後輩からの問いかけにヘラリと笑って何でも無いと言った。


夢と魔法の国を歩けば歩く程、私は自分の中に存在する"何か"を掴めそうになっていた。

多分、あとちょっとで、私は欲しい物を手に入れる手段を得られる。

そんな予感を感じていた。
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