三万グラムの憧景
高専、地下。
重く冷たく、険しい空気が満ちる場にて。
四方を呪符で貼り固められ、鎖で繋がれ逃げ場の無い一室に、少女は静かに目を瞑って閉じ込められていた。
今更嘆きは無い、その感情は無意味だから。
後悔など無い、その感情は必要無いから。
ここに悲観は無い、その感情は殺したから。
先刻、少女に下された判決は、死刑であった。
元々少女の力を恐れていた上層部は、少女の犯した罪をこれ幸いと理由にし、一丸となって追い詰め死刑を命じた。
勿論、これに意を唱えた者達も存在する。
だがしかし、それらの声は一切の余地無く通らず、意見は切り捨てられ、無情にも判決は揺るぎ無く下された。
少女はボンヤリとその結果だけを受け入れた。
何か申し開きがあるかと問われても、いつもの調子で「ないよ~」と言う。
己が死を受け入れる態度にしては、あまりにも不遜で適当な具合に、むしろ周りがそれでいいのかと引いたくらいだ。
相も変わらず、禪院から産まれたサイコパスサイエンティストは最後の最後まで意味不明な理解し難い生命であった。
最後の時が迫るのを、少女は退屈そうに待つ。
暇過ぎて目を瞑って色々なことを考えた。
……つってもなー、さっきは綺麗事並べたけど、やっぱお兄ちゃんがどこぞの知らない女に取られんのムカつくな……や、ちょっと…考えてたら腹立ってきたかも。
直哉くんなら、まあ……100歩譲って許すけど、名前も知らない女に取られるのか…キレそう……私の方が絶対お兄ちゃんのこと好きなんですが?
というか、よく考えたらお兄ちゃんも悪くない?
責任感無さすぎ、私のこともっと大事にしろよ、噛むなよ。
リップサービスでいいから可愛いとか言え、一々愛情表現が分かり辛いんだよ。
はー、絶対五条くん怒るだろうな。最悪絶交とかされるかな、やば…こっちの方が泣きそう……。
そんなことを無駄に考えながら、真正面に向かい口を開く。
「何で来たの?」
「来るだろ、普通」
「来ないよ、普通」
睫毛を震わせ、ゆるりと閉じていた瞳を開く。
顔を上げて視線を合わせる相手は、まごうこと無き兄、甚爾であった。
「どうやって来たの?警備員とかは?」
「まあ、生きてはいるだろ」
「問題はそこじゃないでしょ~?」
「いいだろ別に」
呪具を手にした甚爾が足音を立てながら少女に近付き、鎖を強引に断ち切ってしまう。
両手両足をアッサリ解放された少女は、溜め息混じりにお礼を言って肩を回した。
「はー…ごめんね、こんなことさせて」
「ほんとにな、反省しろよ」
「しまーす!めっちゃしまーす!」
明るい声に答えるように、甚爾は妹の頭に手を乗せ雑に撫でる。
ヘラヘラといつもの用に笑って助けを喜ぶ少女は、しかし唐突に「ところでさ、」と最愛の兄に向けて言葉を紡いだ。
「もし自由になれたら、何したい?」
「は?」
兄を見上げて女は問う。
「あと、私のこと好き?」
「……当たり前だろ」
何言ってんだ、急に。
ほら、もう行くぞ。
妹の細い腕を掴み、甚爾は歩き出そうとする。
だがしかし、妹は立ち止まったまま動かず、兄を凪ぎいだ瞳で見つめていた。
「何してんだ、早く逃げるぞ」
「うん、あのね、良かった。お兄ちゃんが来てくれて」
そう言って、また嬉しそうに笑って歩き出す。
いつも通りの笑みに安堵を覚えた甚爾であったが、妹は歩き出してすぐ、また立ち止まり、ハッとしたように言った。
「そうだ、お兄ちゃん…一個言うの忘れてた!」
___
「新しい人生を見つけて」
「おわかれだよ、お達者で。兄さんと一緒に居られて、すっごく幸せだったよ」
___
貴方が私の呪いであるように、私もまた貴方の呪いになりたかった。
でもね、私じゃ兄さんを呪い切れない。
だから、兄さんの呪われた人生はここでおしまい。
兄の目が見開かれる。
私は笑みを作ってその表情に答えた。
素早く伸ばされた逞しい腕が、私の背に回り抱き締めると同時に、私の身は表面の肉や皮膚の変わりをする組織が硬化していく。
ピキリピキリと、内側から割れていく音が鳴り出した。
ああ、終わりだ。
何故終わりかって?どうしてこんな選択をしたかって?
だって私、元々死ぬために生きてたんだから、こうなることは当たり前。
言ったでしょう?兄のために終わると。
兄さんを自由にするために、私は砕けて終わるのだ。
掴まれていない方の手をそっと兄の背に回すが、指先からパキリパキリと砕けていった。
掴めない、触れられない。
「何してんだ、やめろ!今すぐ!!」
兄の焦る声がする、私はそれに笑いながら当たり前の事実を言った。
「やだよ、どうせ処刑されるんだもん、殺されるのも今砕けるのもそんなに変わんないよ」
「逃げればいいだけの話だろ、何やってんだよ、いーから修復しろ!!」
「うーん、無理かなあ」
脚が崩壊した。
高い音が鳴って、バランスが崩れる。
それを抱き留めた兄が、なんでだ、どうしてだと私に尋ねる。
「や、私が砕ければお兄ちゃん、自由になるかなって」
「なるわけ無ぇだろ、いい加減にしろ!お前が砕けたって死んだって、俺は自由にも幸せにもならねえからな」
「なんで?」
「なんでって……」
左肩が完全に砕け散った、顔にヒビが入っていく。
痛みは無いが、視界が歪む。
「私が居る限り何処にも行けないのに?禪院から嫌なことされるのに?」
「だから何だよ……別にいいだろ…」
私は尋ねる。
酷く馬鹿なことを、聞くも愚かなことを。
「それって私が好きだから?」
「それ以外ねぇだろ」
「……妹として?」
当然、兄は口ごもる。
私はその反応に、諦めたように笑って目を閉じた。
パキリパキリと身体の中心からヒビが全身に広がっていく。
「やっぱり、お兄ちゃん殺しとけば良かったかも」
そしたら、悩むことも足掻く必要も無かった。
苦しくならずに済んだ、ああ…いや、そもそも、妹になんて産まれて来なければ良かった。
うん、そうだ。
私が産まれて来なければ、兄は兄にならずに済んだのだ。
そうしたらもしかしたら、互いに自由だったかもしれない。
この身は兄のためにある。
つまりは、この身が存在し続ける限り、兄は一生自由になれない。
だから砕けることが最善だと考えた、兄の不自由と私の不毛な愛を終わらせるために。
そして、誰も辿り着けない頂きに向かうために。
この身体は最早不要の品であった。
兄の手が私の頬に触れる、だがもう摘まめやしないだろう。触れた先から割れていく頬を、それでも兄は優しく触れていてくれた。
いつかのように、愛に満たない温度を私に覚えさせるように、刷り込むように。
「……結論急ぐんじゃねぇよ」
首にヒビが入った。
もう声は発っせない。
次いで右目が砕けた。
最後だと思い、左目を何とか開いて兄を見上げる。
溜め息をついた兄は、困ったような顔をしながら私を見下ろし口を開く。
「…言っておくが、分かってるからな、お前が俺のことどんだけ好きかって」
「その上で言うが……俺はお前と生きて死ぬ以外に、この人生にもう使い道なんてねぇんだよ」
左手が砕けて壊れる。
顔の半分が崩壊した。
私を両手で抱き締めた兄は、小さく呟くように、私を離さないための枷となる言葉を吐いた。
「何してでも俺のとこに戻って来い、次はちゃんと愛してやるから」
……ああ、やっぱり兄さんって呪いだ。
兄さんの口から出る言葉全てが、私を縛り、貴方から離してはくれない。
そこで気付く、自由になりたかったのは…私だと。
兄を自由にしたかったのでは無い、兄から自由になりたかっただけなのだ。
限界を迎えていたのは私。
手に入らない物のために、虚しい無駄な足掻きを続けることに飽きて疲れた。
非生産的な感情にうんざりしていた。
飽きもせず、毎日毎日兄の言葉や態度に一喜一憂して、でもそれら全てに私が求める物が含まれないと知って痛哭する。
仕事と実験に逃げることで楽になろうとした。
戦場に自由を感じて高みを目指すことを決めた。
私は兄が好きだ、唯一至高の尊き存在として愛し 執着している。
だがしかし、私の愛の果てには何も無いことに気付いた瞬間的からきっと、私はこの愛に虚しさを感じていたのだろう。
天才は孤高だ、孤独は気楽だ。
私は、気高き孤独の日々を過ごしていた頃に戻りたかったのだ。
兄の言葉を聞き終えてから、残った身体全てが砕けて終わる。
兄の両手から私が零れ落ちていく。
終わり往く意識の中、私は兄を馬鹿だなあと思った。
私なりに、これが私の執着から逃れる最後のチャンスを与えたつもりだっかのだが、何言ってんだよって感じだ。
それじゃあ期待をしてしまうでは無いか、酷い人だ。
しかも、私が絶対言えない「愛」を口にするとか。
本当、この人の妹になんて産まれて来なければ良かった。
そしたら私も「愛して」って言えたのに。
何処まで私を呪えば気が済むの?
あーもう、私をこんな風にした責任取れ!クソ、カス、アホ!
直哉くんのこと言えない語彙力の罵声しか浴びせられない。
だって好きな人を傷付ける言葉なんて言い難いでしょう、言葉が呪いになると理解したのなら尚更に。
愛も嫌悪も簡単には語れやしないでしょう。
まあ もう、私には語らう口先すら残ってはいないのだが。
重く冷たく、険しい空気が満ちる場にて。
四方を呪符で貼り固められ、鎖で繋がれ逃げ場の無い一室に、少女は静かに目を瞑って閉じ込められていた。
今更嘆きは無い、その感情は無意味だから。
後悔など無い、その感情は必要無いから。
ここに悲観は無い、その感情は殺したから。
先刻、少女に下された判決は、死刑であった。
元々少女の力を恐れていた上層部は、少女の犯した罪をこれ幸いと理由にし、一丸となって追い詰め死刑を命じた。
勿論、これに意を唱えた者達も存在する。
だがしかし、それらの声は一切の余地無く通らず、意見は切り捨てられ、無情にも判決は揺るぎ無く下された。
少女はボンヤリとその結果だけを受け入れた。
何か申し開きがあるかと問われても、いつもの調子で「ないよ~」と言う。
己が死を受け入れる態度にしては、あまりにも不遜で適当な具合に、むしろ周りがそれでいいのかと引いたくらいだ。
相も変わらず、禪院から産まれたサイコパスサイエンティストは最後の最後まで意味不明な理解し難い生命であった。
最後の時が迫るのを、少女は退屈そうに待つ。
暇過ぎて目を瞑って色々なことを考えた。
……つってもなー、さっきは綺麗事並べたけど、やっぱお兄ちゃんがどこぞの知らない女に取られんのムカつくな……や、ちょっと…考えてたら腹立ってきたかも。
直哉くんなら、まあ……100歩譲って許すけど、名前も知らない女に取られるのか…キレそう……私の方が絶対お兄ちゃんのこと好きなんですが?
というか、よく考えたらお兄ちゃんも悪くない?
責任感無さすぎ、私のこともっと大事にしろよ、噛むなよ。
リップサービスでいいから可愛いとか言え、一々愛情表現が分かり辛いんだよ。
はー、絶対五条くん怒るだろうな。最悪絶交とかされるかな、やば…こっちの方が泣きそう……。
そんなことを無駄に考えながら、真正面に向かい口を開く。
「何で来たの?」
「来るだろ、普通」
「来ないよ、普通」
睫毛を震わせ、ゆるりと閉じていた瞳を開く。
顔を上げて視線を合わせる相手は、まごうこと無き兄、甚爾であった。
「どうやって来たの?警備員とかは?」
「まあ、生きてはいるだろ」
「問題はそこじゃないでしょ~?」
「いいだろ別に」
呪具を手にした甚爾が足音を立てながら少女に近付き、鎖を強引に断ち切ってしまう。
両手両足をアッサリ解放された少女は、溜め息混じりにお礼を言って肩を回した。
「はー…ごめんね、こんなことさせて」
「ほんとにな、反省しろよ」
「しまーす!めっちゃしまーす!」
明るい声に答えるように、甚爾は妹の頭に手を乗せ雑に撫でる。
ヘラヘラといつもの用に笑って助けを喜ぶ少女は、しかし唐突に「ところでさ、」と最愛の兄に向けて言葉を紡いだ。
「もし自由になれたら、何したい?」
「は?」
兄を見上げて女は問う。
「あと、私のこと好き?」
「……当たり前だろ」
何言ってんだ、急に。
ほら、もう行くぞ。
妹の細い腕を掴み、甚爾は歩き出そうとする。
だがしかし、妹は立ち止まったまま動かず、兄を凪ぎいだ瞳で見つめていた。
「何してんだ、早く逃げるぞ」
「うん、あのね、良かった。お兄ちゃんが来てくれて」
そう言って、また嬉しそうに笑って歩き出す。
いつも通りの笑みに安堵を覚えた甚爾であったが、妹は歩き出してすぐ、また立ち止まり、ハッとしたように言った。
「そうだ、お兄ちゃん…一個言うの忘れてた!」
___
「新しい人生を見つけて」
「おわかれだよ、お達者で。兄さんと一緒に居られて、すっごく幸せだったよ」
___
貴方が私の呪いであるように、私もまた貴方の呪いになりたかった。
でもね、私じゃ兄さんを呪い切れない。
だから、兄さんの呪われた人生はここでおしまい。
兄の目が見開かれる。
私は笑みを作ってその表情に答えた。
素早く伸ばされた逞しい腕が、私の背に回り抱き締めると同時に、私の身は表面の肉や皮膚の変わりをする組織が硬化していく。
ピキリピキリと、内側から割れていく音が鳴り出した。
ああ、終わりだ。
何故終わりかって?どうしてこんな選択をしたかって?
だって私、元々死ぬために生きてたんだから、こうなることは当たり前。
言ったでしょう?兄のために終わると。
兄さんを自由にするために、私は砕けて終わるのだ。
掴まれていない方の手をそっと兄の背に回すが、指先からパキリパキリと砕けていった。
掴めない、触れられない。
「何してんだ、やめろ!今すぐ!!」
兄の焦る声がする、私はそれに笑いながら当たり前の事実を言った。
「やだよ、どうせ処刑されるんだもん、殺されるのも今砕けるのもそんなに変わんないよ」
「逃げればいいだけの話だろ、何やってんだよ、いーから修復しろ!!」
「うーん、無理かなあ」
脚が崩壊した。
高い音が鳴って、バランスが崩れる。
それを抱き留めた兄が、なんでだ、どうしてだと私に尋ねる。
「や、私が砕ければお兄ちゃん、自由になるかなって」
「なるわけ無ぇだろ、いい加減にしろ!お前が砕けたって死んだって、俺は自由にも幸せにもならねえからな」
「なんで?」
「なんでって……」
左肩が完全に砕け散った、顔にヒビが入っていく。
痛みは無いが、視界が歪む。
「私が居る限り何処にも行けないのに?禪院から嫌なことされるのに?」
「だから何だよ……別にいいだろ…」
私は尋ねる。
酷く馬鹿なことを、聞くも愚かなことを。
「それって私が好きだから?」
「それ以外ねぇだろ」
「……妹として?」
当然、兄は口ごもる。
私はその反応に、諦めたように笑って目を閉じた。
パキリパキリと身体の中心からヒビが全身に広がっていく。
「やっぱり、お兄ちゃん殺しとけば良かったかも」
そしたら、悩むことも足掻く必要も無かった。
苦しくならずに済んだ、ああ…いや、そもそも、妹になんて産まれて来なければ良かった。
うん、そうだ。
私が産まれて来なければ、兄は兄にならずに済んだのだ。
そうしたらもしかしたら、互いに自由だったかもしれない。
この身は兄のためにある。
つまりは、この身が存在し続ける限り、兄は一生自由になれない。
だから砕けることが最善だと考えた、兄の不自由と私の不毛な愛を終わらせるために。
そして、誰も辿り着けない頂きに向かうために。
この身体は最早不要の品であった。
兄の手が私の頬に触れる、だがもう摘まめやしないだろう。触れた先から割れていく頬を、それでも兄は優しく触れていてくれた。
いつかのように、愛に満たない温度を私に覚えさせるように、刷り込むように。
「……結論急ぐんじゃねぇよ」
首にヒビが入った。
もう声は発っせない。
次いで右目が砕けた。
最後だと思い、左目を何とか開いて兄を見上げる。
溜め息をついた兄は、困ったような顔をしながら私を見下ろし口を開く。
「…言っておくが、分かってるからな、お前が俺のことどんだけ好きかって」
「その上で言うが……俺はお前と生きて死ぬ以外に、この人生にもう使い道なんてねぇんだよ」
左手が砕けて壊れる。
顔の半分が崩壊した。
私を両手で抱き締めた兄は、小さく呟くように、私を離さないための枷となる言葉を吐いた。
「何してでも俺のとこに戻って来い、次はちゃんと愛してやるから」
……ああ、やっぱり兄さんって呪いだ。
兄さんの口から出る言葉全てが、私を縛り、貴方から離してはくれない。
そこで気付く、自由になりたかったのは…私だと。
兄を自由にしたかったのでは無い、兄から自由になりたかっただけなのだ。
限界を迎えていたのは私。
手に入らない物のために、虚しい無駄な足掻きを続けることに飽きて疲れた。
非生産的な感情にうんざりしていた。
飽きもせず、毎日毎日兄の言葉や態度に一喜一憂して、でもそれら全てに私が求める物が含まれないと知って痛哭する。
仕事と実験に逃げることで楽になろうとした。
戦場に自由を感じて高みを目指すことを決めた。
私は兄が好きだ、唯一至高の尊き存在として愛し 執着している。
だがしかし、私の愛の果てには何も無いことに気付いた瞬間的からきっと、私はこの愛に虚しさを感じていたのだろう。
天才は孤高だ、孤独は気楽だ。
私は、気高き孤独の日々を過ごしていた頃に戻りたかったのだ。
兄の言葉を聞き終えてから、残った身体全てが砕けて終わる。
兄の両手から私が零れ落ちていく。
終わり往く意識の中、私は兄を馬鹿だなあと思った。
私なりに、これが私の執着から逃れる最後のチャンスを与えたつもりだっかのだが、何言ってんだよって感じだ。
それじゃあ期待をしてしまうでは無いか、酷い人だ。
しかも、私が絶対言えない「愛」を口にするとか。
本当、この人の妹になんて産まれて来なければ良かった。
そしたら私も「愛して」って言えたのに。
何処まで私を呪えば気が済むの?
あーもう、私をこんな風にした責任取れ!クソ、カス、アホ!
直哉くんのこと言えない語彙力の罵声しか浴びせられない。
だって好きな人を傷付ける言葉なんて言い難いでしょう、言葉が呪いになると理解したのなら尚更に。
愛も嫌悪も簡単には語れやしないでしょう。
まあ もう、私には語らう口先すら残ってはいないのだが。