二十五万カラットの憎悪
今日の私はちょっぴり気分が良い、何故なら、可愛い下着を身に付けているから!
京都の実家に居た頃は、家の人が用意してくれたシンプルな物ばかりだった。でも、この前硝子ちゃんとショッピングデートに行った時、はじめてランジェリーショップに足を踏み入れて……凄かったの!繊細な刺繍から、ふわふわしたフリル、キラキラした下着ショップの中はまるで宝石箱みたいで、見てるだけで幸せだった。
女に産まれて、ずっとずっと悔しかった。女じゃ評価されないから男になりたくて、でもなれないから、性別を意識の外に追いやって生きていた。
月のものが来る度に、お腹の中をグシャグシャにしてしまいたくて、悲しい気持ちになった。
こんなものが無くても私は子を産み出せるのに、何て無駄な機能なのだろうか。毎月100mlの血を流して、くだらない。全くもって滑稽至極な有り様だ。
女であること、子供であること、全部嫌なこと。鬱陶しくて忌まわしい、性の問題。
でも、硝子ちゃんがデートに誘ってくれて、お洋服にアクセサリー、甘いケーキに宝石みたいなキラキラした下着、これ全部……私も楽しんでいいって言われて、恥ずかしいけれど凄く凄く心から嬉しかった。
本当は全部憧れてたのかもしれない、それが一辺に押し寄せるものだから、その日はハシャぎっぱなしで、帰ってからは足も上がらない程にクタクタだった。
そして、部屋に戻る前に硝子ちゃんからプレゼントとして下着のセットを貰ってしまった。
お、女の子同士って…普通こういうことするの…?私には友達が居ないから分からないけど、都会の女の子って凄いんだなあ。進んでいる。
「今度私だけに着て見せて」だなんて、耳元で秘密の話をするように言われて、ドキドキしちゃった。こういうのを胸キュンって言うのかな?いけない約束をしてしまったようで、部屋に入ってからもソワソワしてしまった。硝子ちゃんは素敵な女の子だなあ、私もいつか硝子ちゃんみたいなスマートで格好いい女の子になりたいな。
てなことで、まさに現在気分は上機嫌!欣喜に飛んだり跳ねたりしたくなっちゃう、ルンルン気分で鼻歌まで唄っちゃうもんね。
誰かに見せびらかしたいけど、硝子ちゃんとの約束だから見せらんない。
下着効果って凄いな、身に付ける物ってやっぱり気分を変えるんだ。オシャレなんて今まで見向きもしなかったけど、ちょっと雑誌とか見てみようかな。
ああ、実家から出て来て本当に良かった!
買って貰った携帯をパカッと開けて、今日の報告を済ますことにする。
毎日禪院に居る兄にメールを送っているのだ、返信来たこと無いけど。何故毎日律儀に送っているかと言えば、私は元気だよというアピールと、携帯機能の練習目的だ。
携帯、というか機械類には全く触れた試しが無かったので、かなり四苦八苦している。
最初の頃は件名に全て書いてしまっていた…今ではちょっと顔文字なんかも覚えたので、そこそこ可愛いメールが打てるようになったかな?お兄ちゃんに今度会うことがあったら聞いてみよう!
…
甚壱は、毎日一通必ず送られてくる身内からの怪文書を見て、最初は『何でこんな奴にあれだけの才能があるのか』と思っていたが、次第に『自分がこれにならなくて本当に良かった』と安堵した。顔が悪いとか何とか色々言われても、妹よりは色々な意味で確実にマシだと思える。
【件名】お兄ちゃん、オハヨだね
【本文】オハヨだね( ゚ー゚)今日の、東京はピカピカの晴れだよ。私は、朝から、元気イッパイ!(⌒∇⌒)
お兄ちゃんは、元気ですか?( ゚ー゚)ところで、今日は可愛い下着を履いています!( ゚ー゚)お兄ちゃんは、可愛い下着履いてますか?たまに履くと、気分が上がってイイヨ!(⌒∇⌒)
じゃあ、また明日!( ゚ー゚)
バイビー\( ゚ー゚)/
甚壱は読み終わったメールを即座に消去した。
( ゚ー゚)が頭から離れない、家から追い出して尚、精神攻撃を仕掛けてくる妹の存在力は確かに並みの呪術師には無いものだった。
ちなみに、電話番号を交換した当主である直毘人の元にも何通か怪文書は送られている。扇宛てには手紙で定期報告として、頭の痛くなる価値の無い意味不明な
手紙が届く。ついでに、いきなり禪院の屋敷宛てに東京からスイーツやコスメが送られて来たりもする。同封されている手紙には「女の子達で分けてね(はぁと)」と書かれているため、大体女中に回される。その気遣いを手紙にも回せ無いのだろうかと、禪院の偉い人は皆思っていた。無理だった。天才と何とかは紙一重、彼女はその紙一重を軽快なステップで飛び越して、現在幾億の彼方へ向けて全力疾走中だ。もう誰にも止めることは出来なかった。
苦言を溢せば、彼女が求めていない方向からスーパーアタックをしてくることは明白である。
そしてスーパーアタックによる災害が起きて、二次災害で謝罪と称したさらなる悲劇を生むまでがセットだ。
だから誰も何も言わないようにしていた、余計な苦労は誰だってしたくない。
禪院では、彼女が覚醒後に産まれた子供達には「あんな風になっちゃいけません!」教育を徹底した。第二のファナティック・クレイジーを生み出すわけにはいかない、あんなのは一人居れば十分だ。なんなら一人もいらない。
いいですか?いきなり庭の鯉を鷲掴みにして「よし、今日はこの子で実験をしよう。ママが立派な陸上生物に生まれ変わらせてあげまちゅからね、チョコちゃん」と部屋に持ち帰ったり二足歩行の魚を産み出してはいけません。
野良犬を拾って持ち帰り、その犬を生きたまま解剖して新生命にしてはいけません。
捕まえたカマキリを繁殖させるために屋敷の中でで孵化させてはいけません。
実験でラドン(放射性の重い気体)を生成してはいけません。
嫌がらせにタリウム(急性毒の元素、即効性のある毒で殺人にも使われる物)を食事に混ぜてはいけません。いいですね?
彼女の使っていた部屋は、一体何が転がっているか分かりゃしないので、今ではベニヤ板を打ち付けられて厳重封鎖されていた。
仕方無い、彼女は普通に燐灰ウラン石といったウランやトリウムなどの放射線保有鉱物を生成出来るのだ、部屋の中にはゴロゴロと目映く煌めく石が転がっているが…どれがただの綺麗な石で、何が有害かなんて分からなかったので封鎖するしか他に無かった。
こうして禪院には開かずの間が出来てしまった。
誰もが願う、誰かアイツを何とかしてくれと。
京都の実家に居た頃は、家の人が用意してくれたシンプルな物ばかりだった。でも、この前硝子ちゃんとショッピングデートに行った時、はじめてランジェリーショップに足を踏み入れて……凄かったの!繊細な刺繍から、ふわふわしたフリル、キラキラした下着ショップの中はまるで宝石箱みたいで、見てるだけで幸せだった。
女に産まれて、ずっとずっと悔しかった。女じゃ評価されないから男になりたくて、でもなれないから、性別を意識の外に追いやって生きていた。
月のものが来る度に、お腹の中をグシャグシャにしてしまいたくて、悲しい気持ちになった。
こんなものが無くても私は子を産み出せるのに、何て無駄な機能なのだろうか。毎月100mlの血を流して、くだらない。全くもって滑稽至極な有り様だ。
女であること、子供であること、全部嫌なこと。鬱陶しくて忌まわしい、性の問題。
でも、硝子ちゃんがデートに誘ってくれて、お洋服にアクセサリー、甘いケーキに宝石みたいなキラキラした下着、これ全部……私も楽しんでいいって言われて、恥ずかしいけれど凄く凄く心から嬉しかった。
本当は全部憧れてたのかもしれない、それが一辺に押し寄せるものだから、その日はハシャぎっぱなしで、帰ってからは足も上がらない程にクタクタだった。
そして、部屋に戻る前に硝子ちゃんからプレゼントとして下着のセットを貰ってしまった。
お、女の子同士って…普通こういうことするの…?私には友達が居ないから分からないけど、都会の女の子って凄いんだなあ。進んでいる。
「今度私だけに着て見せて」だなんて、耳元で秘密の話をするように言われて、ドキドキしちゃった。こういうのを胸キュンって言うのかな?いけない約束をしてしまったようで、部屋に入ってからもソワソワしてしまった。硝子ちゃんは素敵な女の子だなあ、私もいつか硝子ちゃんみたいなスマートで格好いい女の子になりたいな。
てなことで、まさに現在気分は上機嫌!欣喜に飛んだり跳ねたりしたくなっちゃう、ルンルン気分で鼻歌まで唄っちゃうもんね。
誰かに見せびらかしたいけど、硝子ちゃんとの約束だから見せらんない。
下着効果って凄いな、身に付ける物ってやっぱり気分を変えるんだ。オシャレなんて今まで見向きもしなかったけど、ちょっと雑誌とか見てみようかな。
ああ、実家から出て来て本当に良かった!
買って貰った携帯をパカッと開けて、今日の報告を済ますことにする。
毎日禪院に居る兄にメールを送っているのだ、返信来たこと無いけど。何故毎日律儀に送っているかと言えば、私は元気だよというアピールと、携帯機能の練習目的だ。
携帯、というか機械類には全く触れた試しが無かったので、かなり四苦八苦している。
最初の頃は件名に全て書いてしまっていた…今ではちょっと顔文字なんかも覚えたので、そこそこ可愛いメールが打てるようになったかな?お兄ちゃんに今度会うことがあったら聞いてみよう!
…
甚壱は、毎日一通必ず送られてくる身内からの怪文書を見て、最初は『何でこんな奴にあれだけの才能があるのか』と思っていたが、次第に『自分がこれにならなくて本当に良かった』と安堵した。顔が悪いとか何とか色々言われても、妹よりは色々な意味で確実にマシだと思える。
【件名】お兄ちゃん、オハヨだね
【本文】オハヨだね( ゚ー゚)今日の、東京はピカピカの晴れだよ。私は、朝から、元気イッパイ!(⌒∇⌒)
お兄ちゃんは、元気ですか?( ゚ー゚)ところで、今日は可愛い下着を履いています!( ゚ー゚)お兄ちゃんは、可愛い下着履いてますか?たまに履くと、気分が上がってイイヨ!(⌒∇⌒)
じゃあ、また明日!( ゚ー゚)
バイビー\( ゚ー゚)/
甚壱は読み終わったメールを即座に消去した。
( ゚ー゚)が頭から離れない、家から追い出して尚、精神攻撃を仕掛けてくる妹の存在力は確かに並みの呪術師には無いものだった。
ちなみに、電話番号を交換した当主である直毘人の元にも何通か怪文書は送られている。扇宛てには手紙で定期報告として、頭の痛くなる価値の無い意味不明な
手紙が届く。ついでに、いきなり禪院の屋敷宛てに東京からスイーツやコスメが送られて来たりもする。同封されている手紙には「女の子達で分けてね(はぁと)」と書かれているため、大体女中に回される。その気遣いを手紙にも回せ無いのだろうかと、禪院の偉い人は皆思っていた。無理だった。天才と何とかは紙一重、彼女はその紙一重を軽快なステップで飛び越して、現在幾億の彼方へ向けて全力疾走中だ。もう誰にも止めることは出来なかった。
苦言を溢せば、彼女が求めていない方向からスーパーアタックをしてくることは明白である。
そしてスーパーアタックによる災害が起きて、二次災害で謝罪と称したさらなる悲劇を生むまでがセットだ。
だから誰も何も言わないようにしていた、余計な苦労は誰だってしたくない。
禪院では、彼女が覚醒後に産まれた子供達には「あんな風になっちゃいけません!」教育を徹底した。第二のファナティック・クレイジーを生み出すわけにはいかない、あんなのは一人居れば十分だ。なんなら一人もいらない。
いいですか?いきなり庭の鯉を鷲掴みにして「よし、今日はこの子で実験をしよう。ママが立派な陸上生物に生まれ変わらせてあげまちゅからね、チョコちゃん」と部屋に持ち帰ったり二足歩行の魚を産み出してはいけません。
野良犬を拾って持ち帰り、その犬を生きたまま解剖して新生命にしてはいけません。
捕まえたカマキリを繁殖させるために屋敷の中でで孵化させてはいけません。
実験でラドン(放射性の重い気体)を生成してはいけません。
嫌がらせにタリウム(急性毒の元素、即効性のある毒で殺人にも使われる物)を食事に混ぜてはいけません。いいですね?
彼女の使っていた部屋は、一体何が転がっているか分かりゃしないので、今ではベニヤ板を打ち付けられて厳重封鎖されていた。
仕方無い、彼女は普通に燐灰ウラン石といったウランやトリウムなどの放射線保有鉱物を生成出来るのだ、部屋の中にはゴロゴロと目映く煌めく石が転がっているが…どれがただの綺麗な石で、何が有害かなんて分からなかったので封鎖するしか他に無かった。
こうして禪院には開かずの間が出来てしまった。
誰もが願う、誰かアイツを何とかしてくれと。