三万グラムの憧景
久方振りに自分のベッドで寝れる。
やっと寝れる、やっと、肩の力を抜ける。
どうやら人間は限界を迎えると、睡眠欲しか欲することがなくなるようだ。
そんな風に、寝ることだけを考えてボーッと歩いていたからだろうか、私の身体は前方からやって来た何かにぶつかりよろめいた。
フラっと傾いた身体から、そのまま力が抜けていく。
ああ、もう駄目だ。
自室まで辿り着けない。
グラリと重心が前のめりになって、膝から崩れ落ちていく。それを誰かに抱き留められた感覚があったが、瞼の上と下がくっついたまま開かなくなった。
そのまま身体から力が抜けていく。
ああ、そう言えば……あの子に預けておいたナマコを取りに行かなければならないのだった。
比較的どうでも良いことをボンヤリ考えながら、私は夢の静寂(しじま)に落ちて行った。
…
意識の浮上により目を覚ます。
頭の下にある柔らかな布と、優しい香りにまだ寝ていたい気持ちになったが、次いで突然聞こえてきた音に起きざるお得なかった
ギュィィイイイイインンッ
ギュルギュルギュルギュルギュルッ
甲高いドリル音が鼓膜を震わし、私は慌てて目を見開く。
「何だ!?」
「あ、やべっ、起きちゃった」
バッと勢い良く身を起こせば、ギュルギュル回る謎の機械と、注射器を持った同級生の少女が私を見下ろしていた。
…ん?今、「やべっ」って言わなかっただろうか。
聞き間違いか……?いや、そもそも一体それは何だ、私に何をしようとしていたのか。
「夏油くん疲れてるならまだ寝てていいよ」
「…労ってくれるのは嬉しいよ、でもとりあえずその両手にある物、何とかしてくれるかい?」
「仕方無いなあ…」
何やら「計算ではまだ起きないはずなのに」「折角のチャンスを…」などと不穏なことをブツブツ言いながらも、彼女はドリルの回転を止め、注射器をテーブルに戻していた。
そこで気付く、一体ここは?
周りには所狭しと雑多な物が置かれており、何やらよく分からない紙が貼られたりしている。しかしどうやら部屋の作りは自分の寮の自室と変わらない様子。
「もしかして、君の部屋?」
「そだよ」
「……私、記憶が無いんだけど」
一体どうして同級生の…女子の部屋に。
身体に掛かっている布団も、頭の下にあった枕も、ベッドにかかるシーツも、きっと普段彼女が使用している物なのだろう。
意識すると同時に申し訳無さと、ほんの少しの羞恥心が芽生えた。
随分間抜けな所を見せてしまったらしい。
時間を確認するため、私は携帯を見た。
すると、時間は午前9時頃。任務が終わり帰還したのは何時だったか…不味いな、報告書も書いて無ければ次の任務も詰まっているのだ。
お礼はしたいが、もう行かなければ。
私は慌てて立ち上がろうとした、しかし、肩を押されてその場に制止させられる。
微々たる力だ、だがしかし抗う気は不思議と起きなかった。
「すまない、任務があるんだ」
「任務なら終わってるよ」
「……は?」
「というか君ね、一日以上爆睡してたよ」
は?
一日以上、とは。
言葉の意味がよく理解出来ない。
「廊下で私にぶつかってそのまま寝始めて、そっから一日以上」
任務は大丈夫だよ、お兄ちゃんと私の子達がやっといてくれたから。
実にアッサリと語られた内容に、唖然と言葉を失った後、両手で顔を覆って深い溜め息を吐いてしまった。
いつの間にか下ろされていた髪が肩から落ちるのを感じる。
何をやっているんだ、疲れていたのは確かだが、人に仕事を押し付けるようなことを…。
……限界が近かった。
否、とっくの昔に限界は通り越していた。
最早麻痺していたのだ、様々なことに。
肉体的疲労、精神的衰弱、憎しみ、怒り、戸惑い、諦め、それから罪悪感。
色々なことが積み重なり、世界との向き合い方を試されている気がした。
今の自分は果たして正しいのか。
これから先の未来に幸せはあるか。
何も考えない時間など無かった。
戦っている時すらも、頭の片隅で燻る非術師のこと。呪術師の幸福とは。
とっくの昔に限界は通り越していた。
もう余裕なんて何処にも無かった。
けれど、それは私だけでは無い。
彼女も、悟も、皆同じ。
それなのに私は、他人にだって余裕など無いと分かっていながら、寄り掛かろうとしている。
甘えようとしている。
そんな自分が心底嫌になる。
「ほら、水分補給しなよ」
差し出されたペットボトルを受け取る。未開封の天然水へ暗い視線を落とし、私は力無くポツリと呟いた。
「君は…自分だけじゃ無く、他人の面倒まで見て…大丈夫なのか?」
「夏油くん……」
彼女が私の名を呼んで言葉を止めた。
困らせただろうか。止せば良かったかもしれない……言ったことを後悔していれば、彼女は瞳を平べったくさせて、私の前にしゃがみこみ、何処かをジッと見つめた。
……待て、何処を見ているんだ?何をそんな熱心に。
私は振り返る、しかしそこには何も無い。
では一体、彼女は何をそんなに真剣に見て……。
「夏油くん…あの、それさ……」
唐突に口を開いた彼女は、指を差す。私はその指先が示した方へと視線を落とす。
いや、いやいやいやいや、待て、まさか。
「それが朝起ち…ってやつ?凄いね、はじめて見たよ」
「………………………えっち」
「人間のオスの肉体は不思議だね、勝手になるんでしょ?面白いよね」
「………………………面白くないよ」
へーーー、ふーーーん……なるほどねえ……と声を漏らしながら真剣にマジマジと私の陰部を見詰めてくる彼女の目元を手で覆う。
こら、やめなさい、やめるんだ、何を見ているんだ。絶対今の流れでこれは可笑しいだろう、どう考えてもセンチメンタルでジットリした展開が約束されていただろう、そして私と色々難しいことを語り合うフラグが立っていたはずだ。フラグを折るな、やめろ!手を剥がそうとするな!爪を立てないでくれ!
どんだけ私の生理現象が見たいんだ!!
「ちょ、触ろうとしないでくれるかな!?」
「科学の発展には時に犠牲も必要なんだよ」
「私を犠牲にしないでくれ!」
「ハッハッハッ」
笑えばなんとかなると思うなよ。
多分、いや絶対。私の顔は今 真っ赤だろう。
どうしてよりにもよって、こんなことに……。
私は真面目に現状を憂い、真剣に自己嫌悪をし、本気で反省をしていたのに。していたと言うのに!コイツは、この女は!
彼女の視線を塞ぐために覆っている手を離し、変わりに彼女の腕に伸ばす。
このまま引き倒して同じ恥ずかしめを受けさせてやる、そう決意して顔を上げた。
しかし、引き倒すなんてこと出来なかった。
何故なら、彼女がこちらを見て微笑んでいたから。
「良かった、少しは元気になったみたいで」
何の嫌味も無く、本当に心の底から安堵するように微笑む彼女のその笑みを、私は見たことが無かった。
いや、きっと、悟も硝子も、七海も灰原も、もしかしたら……あの忌まわしい兄と呼ばれる男すらも、見たことが無いかもしれない。
嘲るような視線も、ニタニタ歪む口角も、馬鹿みたいな声も無く、ただ綺麗に微笑む彼女に目を奪われる。
私は知らない。
皆も知らない。
この、天才として生きる狂気を孕んだ、人成らざる者の道を行く少女は、普通の女の子のように笑えるのだということを。
誰かを心配して、その誰かの顔から陰りが消えたから、笑う。
人として当たり前に備わる隣人への思い遣りによる喜びを、しかし、私は彼女から初めて受け取った。
何も考えられなくなって、ただ口を無意味に開けて、彼女を見下ろす。
私の手が触れる肉体は冷たい。
だが、彼女の瞳はどこまでも温かかった。
「夏油くんは私と違って人間なんだから、ちゃんと休まないと頭可笑しくなっちゃうよ?」
「………………うん、」
「あと眉間にシワ寄せてるの似合わないよ、それ似合うのは七海くんの専売特許だから」
「…………そうだね」
腕を掴む手を離せば、私の手を追って彼女の指先が伸びてくる。
冷たく、小さな手が私の指先をキュッと握った。
「君はまだ大丈夫だよ、私が大丈夫にしてあげるって約束する」
「…頼むから、改造はやめてくれ」
「ま、それはそのうちね!」
「しないと約束してくれ……」
そっちの約束の方が重要ではないだろうか。
思わず口からは軽い笑い声が零れ落ちた。
ああ、笑うだなんて、幾日振りだろうか。
そうか、私はまだ笑えるのか。
まだ、大丈夫でいられるのか。
大丈夫にしてくれるのか。
私の指先を掴む反対の手で身を引っ張られる。
弱々しい力に抗うことなく共に立ち上がれば、彼女は私の背をグイグイと無遠慮き押した。
「はい、じゃあトイレ行ってー、それ何とかしてー」
「君ね…」
「顔洗ってー、何ならシャワー浴びてー」
「分かった分かった」
で、その後は食事にしよう。
食後の紅茶は任せたまえ。
などと言われてしまえば断ることも出来まい。
だがしかし、やられっぱなしも癪なので、貧相な力と身体付きの少女に思いっきり体重を掛けてやる、潰れるだの重いだのと喚く言葉を無視してさっきのお返しとばかりに笑ってやる。
何となく、悟がこの子を誰の物にもさせないようにしている理由が分かった気がした。
誰の物でも無い存在。
一番好きな兄の唯一無二になりたいけれど、なれない女の子。
絶対的高みに至り、孤高の地を踏みしめ生きる生命。
何処まで行っても呪いしか無い、もう光など一生縁の無い世界だったとしても。
私は君の人生に、朝が来ることを願っている。
やっと寝れる、やっと、肩の力を抜ける。
どうやら人間は限界を迎えると、睡眠欲しか欲することがなくなるようだ。
そんな風に、寝ることだけを考えてボーッと歩いていたからだろうか、私の身体は前方からやって来た何かにぶつかりよろめいた。
フラっと傾いた身体から、そのまま力が抜けていく。
ああ、もう駄目だ。
自室まで辿り着けない。
グラリと重心が前のめりになって、膝から崩れ落ちていく。それを誰かに抱き留められた感覚があったが、瞼の上と下がくっついたまま開かなくなった。
そのまま身体から力が抜けていく。
ああ、そう言えば……あの子に預けておいたナマコを取りに行かなければならないのだった。
比較的どうでも良いことをボンヤリ考えながら、私は夢の静寂(しじま)に落ちて行った。
…
意識の浮上により目を覚ます。
頭の下にある柔らかな布と、優しい香りにまだ寝ていたい気持ちになったが、次いで突然聞こえてきた音に起きざるお得なかった
ギュィィイイイイインンッ
ギュルギュルギュルギュルギュルッ
甲高いドリル音が鼓膜を震わし、私は慌てて目を見開く。
「何だ!?」
「あ、やべっ、起きちゃった」
バッと勢い良く身を起こせば、ギュルギュル回る謎の機械と、注射器を持った同級生の少女が私を見下ろしていた。
…ん?今、「やべっ」って言わなかっただろうか。
聞き間違いか……?いや、そもそも一体それは何だ、私に何をしようとしていたのか。
「夏油くん疲れてるならまだ寝てていいよ」
「…労ってくれるのは嬉しいよ、でもとりあえずその両手にある物、何とかしてくれるかい?」
「仕方無いなあ…」
何やら「計算ではまだ起きないはずなのに」「折角のチャンスを…」などと不穏なことをブツブツ言いながらも、彼女はドリルの回転を止め、注射器をテーブルに戻していた。
そこで気付く、一体ここは?
周りには所狭しと雑多な物が置かれており、何やらよく分からない紙が貼られたりしている。しかしどうやら部屋の作りは自分の寮の自室と変わらない様子。
「もしかして、君の部屋?」
「そだよ」
「……私、記憶が無いんだけど」
一体どうして同級生の…女子の部屋に。
身体に掛かっている布団も、頭の下にあった枕も、ベッドにかかるシーツも、きっと普段彼女が使用している物なのだろう。
意識すると同時に申し訳無さと、ほんの少しの羞恥心が芽生えた。
随分間抜けな所を見せてしまったらしい。
時間を確認するため、私は携帯を見た。
すると、時間は午前9時頃。任務が終わり帰還したのは何時だったか…不味いな、報告書も書いて無ければ次の任務も詰まっているのだ。
お礼はしたいが、もう行かなければ。
私は慌てて立ち上がろうとした、しかし、肩を押されてその場に制止させられる。
微々たる力だ、だがしかし抗う気は不思議と起きなかった。
「すまない、任務があるんだ」
「任務なら終わってるよ」
「……は?」
「というか君ね、一日以上爆睡してたよ」
は?
一日以上、とは。
言葉の意味がよく理解出来ない。
「廊下で私にぶつかってそのまま寝始めて、そっから一日以上」
任務は大丈夫だよ、お兄ちゃんと私の子達がやっといてくれたから。
実にアッサリと語られた内容に、唖然と言葉を失った後、両手で顔を覆って深い溜め息を吐いてしまった。
いつの間にか下ろされていた髪が肩から落ちるのを感じる。
何をやっているんだ、疲れていたのは確かだが、人に仕事を押し付けるようなことを…。
……限界が近かった。
否、とっくの昔に限界は通り越していた。
最早麻痺していたのだ、様々なことに。
肉体的疲労、精神的衰弱、憎しみ、怒り、戸惑い、諦め、それから罪悪感。
色々なことが積み重なり、世界との向き合い方を試されている気がした。
今の自分は果たして正しいのか。
これから先の未来に幸せはあるか。
何も考えない時間など無かった。
戦っている時すらも、頭の片隅で燻る非術師のこと。呪術師の幸福とは。
とっくの昔に限界は通り越していた。
もう余裕なんて何処にも無かった。
けれど、それは私だけでは無い。
彼女も、悟も、皆同じ。
それなのに私は、他人にだって余裕など無いと分かっていながら、寄り掛かろうとしている。
甘えようとしている。
そんな自分が心底嫌になる。
「ほら、水分補給しなよ」
差し出されたペットボトルを受け取る。未開封の天然水へ暗い視線を落とし、私は力無くポツリと呟いた。
「君は…自分だけじゃ無く、他人の面倒まで見て…大丈夫なのか?」
「夏油くん……」
彼女が私の名を呼んで言葉を止めた。
困らせただろうか。止せば良かったかもしれない……言ったことを後悔していれば、彼女は瞳を平べったくさせて、私の前にしゃがみこみ、何処かをジッと見つめた。
……待て、何処を見ているんだ?何をそんな熱心に。
私は振り返る、しかしそこには何も無い。
では一体、彼女は何をそんなに真剣に見て……。
「夏油くん…あの、それさ……」
唐突に口を開いた彼女は、指を差す。私はその指先が示した方へと視線を落とす。
いや、いやいやいやいや、待て、まさか。
「それが朝起ち…ってやつ?凄いね、はじめて見たよ」
「………………………えっち」
「人間のオスの肉体は不思議だね、勝手になるんでしょ?面白いよね」
「………………………面白くないよ」
へーーー、ふーーーん……なるほどねえ……と声を漏らしながら真剣にマジマジと私の陰部を見詰めてくる彼女の目元を手で覆う。
こら、やめなさい、やめるんだ、何を見ているんだ。絶対今の流れでこれは可笑しいだろう、どう考えてもセンチメンタルでジットリした展開が約束されていただろう、そして私と色々難しいことを語り合うフラグが立っていたはずだ。フラグを折るな、やめろ!手を剥がそうとするな!爪を立てないでくれ!
どんだけ私の生理現象が見たいんだ!!
「ちょ、触ろうとしないでくれるかな!?」
「科学の発展には時に犠牲も必要なんだよ」
「私を犠牲にしないでくれ!」
「ハッハッハッ」
笑えばなんとかなると思うなよ。
多分、いや絶対。私の顔は今 真っ赤だろう。
どうしてよりにもよって、こんなことに……。
私は真面目に現状を憂い、真剣に自己嫌悪をし、本気で反省をしていたのに。していたと言うのに!コイツは、この女は!
彼女の視線を塞ぐために覆っている手を離し、変わりに彼女の腕に伸ばす。
このまま引き倒して同じ恥ずかしめを受けさせてやる、そう決意して顔を上げた。
しかし、引き倒すなんてこと出来なかった。
何故なら、彼女がこちらを見て微笑んでいたから。
「良かった、少しは元気になったみたいで」
何の嫌味も無く、本当に心の底から安堵するように微笑む彼女のその笑みを、私は見たことが無かった。
いや、きっと、悟も硝子も、七海も灰原も、もしかしたら……あの忌まわしい兄と呼ばれる男すらも、見たことが無いかもしれない。
嘲るような視線も、ニタニタ歪む口角も、馬鹿みたいな声も無く、ただ綺麗に微笑む彼女に目を奪われる。
私は知らない。
皆も知らない。
この、天才として生きる狂気を孕んだ、人成らざる者の道を行く少女は、普通の女の子のように笑えるのだということを。
誰かを心配して、その誰かの顔から陰りが消えたから、笑う。
人として当たり前に備わる隣人への思い遣りによる喜びを、しかし、私は彼女から初めて受け取った。
何も考えられなくなって、ただ口を無意味に開けて、彼女を見下ろす。
私の手が触れる肉体は冷たい。
だが、彼女の瞳はどこまでも温かかった。
「夏油くんは私と違って人間なんだから、ちゃんと休まないと頭可笑しくなっちゃうよ?」
「………………うん、」
「あと眉間にシワ寄せてるの似合わないよ、それ似合うのは七海くんの専売特許だから」
「…………そうだね」
腕を掴む手を離せば、私の手を追って彼女の指先が伸びてくる。
冷たく、小さな手が私の指先をキュッと握った。
「君はまだ大丈夫だよ、私が大丈夫にしてあげるって約束する」
「…頼むから、改造はやめてくれ」
「ま、それはそのうちね!」
「しないと約束してくれ……」
そっちの約束の方が重要ではないだろうか。
思わず口からは軽い笑い声が零れ落ちた。
ああ、笑うだなんて、幾日振りだろうか。
そうか、私はまだ笑えるのか。
まだ、大丈夫でいられるのか。
大丈夫にしてくれるのか。
私の指先を掴む反対の手で身を引っ張られる。
弱々しい力に抗うことなく共に立ち上がれば、彼女は私の背をグイグイと無遠慮き押した。
「はい、じゃあトイレ行ってー、それ何とかしてー」
「君ね…」
「顔洗ってー、何ならシャワー浴びてー」
「分かった分かった」
で、その後は食事にしよう。
食後の紅茶は任せたまえ。
などと言われてしまえば断ることも出来まい。
だがしかし、やられっぱなしも癪なので、貧相な力と身体付きの少女に思いっきり体重を掛けてやる、潰れるだの重いだのと喚く言葉を無視してさっきのお返しとばかりに笑ってやる。
何となく、悟がこの子を誰の物にもさせないようにしている理由が分かった気がした。
誰の物でも無い存在。
一番好きな兄の唯一無二になりたいけれど、なれない女の子。
絶対的高みに至り、孤高の地を踏みしめ生きる生命。
何処まで行っても呪いしか無い、もう光など一生縁の無い世界だったとしても。
私は君の人生に、朝が来ることを願っている。