三万グラムの憧景
ギャハギャハと下品な笑い声を立てながら、腹を抱えて指を差し、私を笑う五条くんにムカついた。
「ヒー!歯形!歯形女!!」
「うるせー!!!」
反転術式で硝子ちゃんに治して貰おうと思ったら、「可愛いからそのまんまで居なよ」と言われた。
チョロい私は可愛いと言われ、「え~、そうかな~?硝子ちゃんが言うなら、まあ……」と言葉を鵜呑みにしてしまったが、よく考えればあれは、可愛い=面白いってことじゃないだろうか?
ハッ……ではもしかして、今まで私が硝子ちゃんに「可愛い」「可愛い女」「可愛い、最高」などと言われていたのは……「おもしれー女」ってことだったりします?
そんなバナナ……。
「兄貴に歯形まみれにされるってどんな気分?なあ、どんな気分?」
「正直泣きたい」
「灰原呼んでやろうか?嫁に慰めて貰えよ」
「面目丸潰れにしないで…」
私だってなあ、いつの間にか自己紹介で「妻の灰原雄です!」とか言い出しちゃった後輩のことは一応、一応ね、それなりに…可愛がっているんだよ。
ぶっちゃけ「なんなんだコイツ…」とも思ってるけど、でも彼は彼なりに必死に私が死んだり悲しんだり悔しがったりしないように側に居てくれようとしてるので…誰かに献身的なことをされるのは初めてだからどうすべきかイマイチ分からないけど、あんな可愛い子に真正面から頑張られたら無下には出来ませんよ。
灰原くん……恐ろしい子だ……。
なので、私はそれなりに灰原くんに頼ったり寄り掛かったり本音を吐き出したりしながら、上手いこと現実に折り合いを付けつつ頑張っているのだ。
まあ、頑張り過ぎた結果、兄を放置してしまい、そして歯形まみれとなったわけですが。
それはそれとして、歯形まみれで泣く私なんて格好悪すぎて妻(仮)には見せられまい。
なのでこうして任務帰りの五条くんを捕まえて泣きついたのである。
えーん!痛いよお!痛いし恥ずかしいし、よくよく考えたら兄に噛まれるってシチュエーションが可笑しいよお!!
「はー…オモシレ、他には?俺の留守中になんか無かった?」
「一年生の子を泣かせてしまいました」
「は?一年?」
「伊地知くんって子…」
いやあ……私、やっぱり直哉くんの親戚なんだなって思っちゃったよね。
伊地知くん私がちょっと弄るだけで凄く良い反応するから…虐めがいのある子だ、でもちょっとやり過ぎて泣かせてしまったよ、反省反省。
「何したんだよ」
「寝てる間に眼鏡を改造した」
「どんな風に」
「性欲が数値化される仕組みをちょっと…」
五条くんおおはしゃぎ、俺も欲しい!と言い出したので今度サングラスを改造しておくねと言えば、それはやめろと返された。どうして……。
お喋りしながら、噛まれた場所を指でなぞればピリピリした、ああ…せっかくの白い肌が大変なことに……。
「お前反転術式使えたっけ」
「反転術式は使えないよ、でも肉体の成分も細胞も弄れるから」
「ふーん」
でもわりと大変だから、出来れば硝子ちゃんに治して貰いたかったけど。
天才天才言ってますが、私は反転術式は使えない。というか、相性が悪い。
何せ感情にプラスな部分がほぼほぼ無いので、負のエネルギーを正に変換するなど到底無理な話。
呪力というものは、負の感情によって成り立つものだ、私の感情はマイナスに片寄り過ぎている。そのためプラスに変換しようとすると、感情が邪魔をする。毎回チャレンジすると良いとこまでは行くんだけどね。まあ、それが無くとも問題無いように別の方法を模索するのが天才である。だから問題無し!
ピキピキと音を立てて噛まれたことにより陥没した皮膚と肉が新しい柔軟素材によって埋まっていく。
人間は長鎖炭素分子で出来ている、それとあまり違わない、似たような複雑な分子鎖を作る能力があるケイ素……即ちシリコンを元に肉体を形成し直す。
シリカ骨格にシリコンゴム、ケイ素は様々な場面で役立つ優れものである。
だがまあ、当たり前であるが…身体を弄るのはそこそこ呪力を使う。
私は呪力の籠ったストックの鉱物を幾つか取り出し口に放り込み飲み込んだ。
私の一番の強みは、鉱物生命体を産み出すことでも、レアメタルを産出することでも無く、こうして呪力のストックを持ち歩けることだろう。
生身の時は摂取することが中々大変であったが、人間の肉体を捨てた今ならあら不思議、簡単に取り込んで終わりだ。
「便利だよな、それ」
「本当にね」
頬杖をついて私を眺める五条くんに同意すれば、彼は「あとは身体が強けりゃな~」と溜め息混じりに呟いた。
私はそれにも同意する。
その通り、私は人間の肉体を捨てた今でも正直身体はそこまで強くない。
呪力を回しまくればそこそこ肉弾戦も可能だが、直哉くんとじゃれる程度の喧嘩ですら腕を折る始末。
灰原くんより足遅いし、七海くんより腕力無いし、夏油くんと比べた日には月とすっぽん…天と地程の差がある。
改善しようにも今の身体ではこれが限界だ、なので基本私はキックやパンチでは戦わない、戦えない。
私の憧れは言わずもがな五条くんである、いや…あった、と過去形にした方が正しいかもしれない。
この世で一番美しい存在である兄には到底成ることなど出来ない、だから彼の肉体を得ようとしたのだが……。
では、二番目に美しい五条悟はどうか、私は彼に成ることが可能か?
私は一時期本気で彼になりたいと憧れ、願い、その背を追っていた。
だがやめた、これは別に諦めたわけでは無い。
ただ気付いたのだ。
一流を追っていれば、二流で終わる。
この事実に気付いた瞬間、私は彼の背を追い同じ頂点に登り詰めることをやめた。
私は私の道を、私にしか歩めぬ試練を乗り越え、誰も届かぬ物を手にする。
それこそが真の「特別」と言われるものだ。
己の全てを使い、自分が産まれたことの正しさを証明する。
もう誰にも否定などさせない、一切有情に特別であると認めさせたい。
私が認められればきっと、お兄ちゃんも今より少しは生きやすくなるはず。
兄のためにも自分のためにも頑張らねばならないのだ、めちゃめちゃ噛まれたとしても!
「五条くん、期待してくれていいよ」
「何を?」
「私、ビッグなヒューマンになるからね」
「は?もうそれ以上身長伸びるわけねえだろ」
ムカッ!
「お前俺と傑の間で何て呼ばれてるか知ってる?コロポックルだぜコロポックル」
ムカムカッ!
「蕗(フキ)よりちっせえだろ!俺の半分くらいしか無いんじゃね?傑何個分?」
い、言わせておけば……!
そんなに小さく無いよ!平均だよ平均、てか周りが大き過ぎるだけだよ。
お兄ちゃんを筆頭に、五条くんは化物みたいにデカイし、夏油くんも立って話すと首が痛くなるくらいデカイ。七海くんもグングン伸びてくし、灰原くんも七海くんと同じくらいデカイ。何だこれ、は?皆何食べたらそんな身長高く出来るの?原材料の違い?小麦が違うの?
五条くんが私の手を掴む。
「うっわ何この手、ちっさ過ぎ~!赤ちゃん?生まれたてだったりする?」
「赤ちゃんのお手々は可愛いでしょ!」
「は?俺の方が可愛いから」
「え、何処が?」
何言ってんの?生まれたての無垢な存在とクソガキを縦に伸ばしたような五条くんなんて比べ物になんないでしょ。
などと言ったせいで、私は五条くんに羽交い締めにされ靴と靴下を脱がされ足を掴まれた。やめろ!何するの!!
「足ちっさ!小指の爪無いじゃん」
「あるよ!ちゃんと見て!」
「は?ねぇよ、てか小指無いじゃん、小指どこ?」
「あるもん!掴んでるじゃん!」
てかスカートが捲れちゃうからやめてよ!
私が足をジタバタすれば、五条くんは「力弱過ぎ~、はい雑魚~!」と言って両足を掴み抱き込んだ。
腹筋が辛くなり床に寝そべれば、何だか危うい体勢になってしまった気がする。私の両足が五条くんの腹にくっつき、彼の両足は開かれ私を囲っている。何これ…絶対誰にも見られたくない……。
クソッ……私の力が弱いばかりに…やはり力を手に入れ無ければ……でないときっと一生五条くんの玩具コース確定だ!
そんなの嫌過ぎる、私は潰すと音の鳴る玩具じゃないぞ!
私は人知れず覚悟の決意を強くする。
絶対五条くんを片手でポイポイッと出来るくらい強くなってやるのだ!
「ヒー!歯形!歯形女!!」
「うるせー!!!」
反転術式で硝子ちゃんに治して貰おうと思ったら、「可愛いからそのまんまで居なよ」と言われた。
チョロい私は可愛いと言われ、「え~、そうかな~?硝子ちゃんが言うなら、まあ……」と言葉を鵜呑みにしてしまったが、よく考えればあれは、可愛い=面白いってことじゃないだろうか?
ハッ……ではもしかして、今まで私が硝子ちゃんに「可愛い」「可愛い女」「可愛い、最高」などと言われていたのは……「おもしれー女」ってことだったりします?
そんなバナナ……。
「兄貴に歯形まみれにされるってどんな気分?なあ、どんな気分?」
「正直泣きたい」
「灰原呼んでやろうか?嫁に慰めて貰えよ」
「面目丸潰れにしないで…」
私だってなあ、いつの間にか自己紹介で「妻の灰原雄です!」とか言い出しちゃった後輩のことは一応、一応ね、それなりに…可愛がっているんだよ。
ぶっちゃけ「なんなんだコイツ…」とも思ってるけど、でも彼は彼なりに必死に私が死んだり悲しんだり悔しがったりしないように側に居てくれようとしてるので…誰かに献身的なことをされるのは初めてだからどうすべきかイマイチ分からないけど、あんな可愛い子に真正面から頑張られたら無下には出来ませんよ。
灰原くん……恐ろしい子だ……。
なので、私はそれなりに灰原くんに頼ったり寄り掛かったり本音を吐き出したりしながら、上手いこと現実に折り合いを付けつつ頑張っているのだ。
まあ、頑張り過ぎた結果、兄を放置してしまい、そして歯形まみれとなったわけですが。
それはそれとして、歯形まみれで泣く私なんて格好悪すぎて妻(仮)には見せられまい。
なのでこうして任務帰りの五条くんを捕まえて泣きついたのである。
えーん!痛いよお!痛いし恥ずかしいし、よくよく考えたら兄に噛まれるってシチュエーションが可笑しいよお!!
「はー…オモシレ、他には?俺の留守中になんか無かった?」
「一年生の子を泣かせてしまいました」
「は?一年?」
「伊地知くんって子…」
いやあ……私、やっぱり直哉くんの親戚なんだなって思っちゃったよね。
伊地知くん私がちょっと弄るだけで凄く良い反応するから…虐めがいのある子だ、でもちょっとやり過ぎて泣かせてしまったよ、反省反省。
「何したんだよ」
「寝てる間に眼鏡を改造した」
「どんな風に」
「性欲が数値化される仕組みをちょっと…」
五条くんおおはしゃぎ、俺も欲しい!と言い出したので今度サングラスを改造しておくねと言えば、それはやめろと返された。どうして……。
お喋りしながら、噛まれた場所を指でなぞればピリピリした、ああ…せっかくの白い肌が大変なことに……。
「お前反転術式使えたっけ」
「反転術式は使えないよ、でも肉体の成分も細胞も弄れるから」
「ふーん」
でもわりと大変だから、出来れば硝子ちゃんに治して貰いたかったけど。
天才天才言ってますが、私は反転術式は使えない。というか、相性が悪い。
何せ感情にプラスな部分がほぼほぼ無いので、負のエネルギーを正に変換するなど到底無理な話。
呪力というものは、負の感情によって成り立つものだ、私の感情はマイナスに片寄り過ぎている。そのためプラスに変換しようとすると、感情が邪魔をする。毎回チャレンジすると良いとこまでは行くんだけどね。まあ、それが無くとも問題無いように別の方法を模索するのが天才である。だから問題無し!
ピキピキと音を立てて噛まれたことにより陥没した皮膚と肉が新しい柔軟素材によって埋まっていく。
人間は長鎖炭素分子で出来ている、それとあまり違わない、似たような複雑な分子鎖を作る能力があるケイ素……即ちシリコンを元に肉体を形成し直す。
シリカ骨格にシリコンゴム、ケイ素は様々な場面で役立つ優れものである。
だがまあ、当たり前であるが…身体を弄るのはそこそこ呪力を使う。
私は呪力の籠ったストックの鉱物を幾つか取り出し口に放り込み飲み込んだ。
私の一番の強みは、鉱物生命体を産み出すことでも、レアメタルを産出することでも無く、こうして呪力のストックを持ち歩けることだろう。
生身の時は摂取することが中々大変であったが、人間の肉体を捨てた今ならあら不思議、簡単に取り込んで終わりだ。
「便利だよな、それ」
「本当にね」
頬杖をついて私を眺める五条くんに同意すれば、彼は「あとは身体が強けりゃな~」と溜め息混じりに呟いた。
私はそれにも同意する。
その通り、私は人間の肉体を捨てた今でも正直身体はそこまで強くない。
呪力を回しまくればそこそこ肉弾戦も可能だが、直哉くんとじゃれる程度の喧嘩ですら腕を折る始末。
灰原くんより足遅いし、七海くんより腕力無いし、夏油くんと比べた日には月とすっぽん…天と地程の差がある。
改善しようにも今の身体ではこれが限界だ、なので基本私はキックやパンチでは戦わない、戦えない。
私の憧れは言わずもがな五条くんである、いや…あった、と過去形にした方が正しいかもしれない。
この世で一番美しい存在である兄には到底成ることなど出来ない、だから彼の肉体を得ようとしたのだが……。
では、二番目に美しい五条悟はどうか、私は彼に成ることが可能か?
私は一時期本気で彼になりたいと憧れ、願い、その背を追っていた。
だがやめた、これは別に諦めたわけでは無い。
ただ気付いたのだ。
一流を追っていれば、二流で終わる。
この事実に気付いた瞬間、私は彼の背を追い同じ頂点に登り詰めることをやめた。
私は私の道を、私にしか歩めぬ試練を乗り越え、誰も届かぬ物を手にする。
それこそが真の「特別」と言われるものだ。
己の全てを使い、自分が産まれたことの正しさを証明する。
もう誰にも否定などさせない、一切有情に特別であると認めさせたい。
私が認められればきっと、お兄ちゃんも今より少しは生きやすくなるはず。
兄のためにも自分のためにも頑張らねばならないのだ、めちゃめちゃ噛まれたとしても!
「五条くん、期待してくれていいよ」
「何を?」
「私、ビッグなヒューマンになるからね」
「は?もうそれ以上身長伸びるわけねえだろ」
ムカッ!
「お前俺と傑の間で何て呼ばれてるか知ってる?コロポックルだぜコロポックル」
ムカムカッ!
「蕗(フキ)よりちっせえだろ!俺の半分くらいしか無いんじゃね?傑何個分?」
い、言わせておけば……!
そんなに小さく無いよ!平均だよ平均、てか周りが大き過ぎるだけだよ。
お兄ちゃんを筆頭に、五条くんは化物みたいにデカイし、夏油くんも立って話すと首が痛くなるくらいデカイ。七海くんもグングン伸びてくし、灰原くんも七海くんと同じくらいデカイ。何だこれ、は?皆何食べたらそんな身長高く出来るの?原材料の違い?小麦が違うの?
五条くんが私の手を掴む。
「うっわ何この手、ちっさ過ぎ~!赤ちゃん?生まれたてだったりする?」
「赤ちゃんのお手々は可愛いでしょ!」
「は?俺の方が可愛いから」
「え、何処が?」
何言ってんの?生まれたての無垢な存在とクソガキを縦に伸ばしたような五条くんなんて比べ物になんないでしょ。
などと言ったせいで、私は五条くんに羽交い締めにされ靴と靴下を脱がされ足を掴まれた。やめろ!何するの!!
「足ちっさ!小指の爪無いじゃん」
「あるよ!ちゃんと見て!」
「は?ねぇよ、てか小指無いじゃん、小指どこ?」
「あるもん!掴んでるじゃん!」
てかスカートが捲れちゃうからやめてよ!
私が足をジタバタすれば、五条くんは「力弱過ぎ~、はい雑魚~!」と言って両足を掴み抱き込んだ。
腹筋が辛くなり床に寝そべれば、何だか危うい体勢になってしまった気がする。私の両足が五条くんの腹にくっつき、彼の両足は開かれ私を囲っている。何これ…絶対誰にも見られたくない……。
クソッ……私の力が弱いばかりに…やはり力を手に入れ無ければ……でないときっと一生五条くんの玩具コース確定だ!
そんなの嫌過ぎる、私は潰すと音の鳴る玩具じゃないぞ!
私は人知れず覚悟の決意を強くする。
絶対五条くんを片手でポイポイッと出来るくらい強くなってやるのだ!